アリス宅にて
アリスの家に着いた。
道中に妖怪に襲われたけど、フランちゃんが弾幕ごっこ(一方的な暴力)によって、何事もなくあっさりと撃退(殺害)した。
何と言うか、こんなことじゃあんまり動じなくなってきたあたり、ちょっと自分でもどうかと思った。―――あの妖怪、スゲェ喚きながら逃げてたもんな……。逃げ切れなかったけど。
コンコン、とドアをノックする。……反応がない。もしや留守か?
もう一度ノックする。……反応無し。
…………ドンドンドンドンドンドンドンドン、ガチャリ。
「もう!うるさいわね!って……片倉じゃない。」
いやぁ、粘り強くノックして正解だったなぁ。この人、忙しい時はよく居留守使うからな。全くけしからん。
「どうも、アリスさん!突然ですが、家に上がらせて下さい!」
「嫌よ。私は忙しいの。だから帰りなさい」
ぐおぉぉぉ、人がせっかくお願い(土下座)してるのに、即答でNOと言いよった。
だが僕はめげない。
まだ僕のバトルフェイズは終了してないぜ!
「はい!フランちゃん、この人に挨拶しましょうね〜」
「こ、こんにちは。フランドール・スカーレットです」
恥ずかしながらも自己紹介をするフランちゃん。
「スカーレット……。なるほど、あの館の主の妹かしら?まぁいいわ。私はアリス・マーガトロイドよ、宜しくね」
これでフランちゃんにも、新しい友達が出来た……多分。
そんなことよりも、早く家に上がりたいんですけど。
「自己紹介はもういいから、早く帰りなさい」
「そこをなんとかお願いしますよ〜」
「駄目」
クソぉぉぉ!だがまだだ…まだ終わらんよ!
「ちょっといいかなフランちゃん。あのね…ゴニョゴニョ」
「うん!分かったー!」
「よし!さぁフランちゃん頼んだ!」
この作戦ならば、あの憎きアリスを一発で倒せる(精神的に)はずだ。
「ねえねぇアリス!」
「なに?早く帰ってくれないと私困るんだけど……」
「お願い!家に上がらせて!」
まるで、何処ぞの錬金術師のようにパンッ、と音を立てながら両手を合わせてお願いするフランちゃん。
「駄目よ。私は忙しいの」
しかし、あっさりと断られる。
「どうしても……?」
泣きそうな目でアリスに訴えかけるフランちゃん。これには、さすがのアリスも断るのが辛そうだ。
「だ、駄目なものは駄目なの!」
「ウーー」
「そ、そんな上目遣いで見ても、だ…駄目よ!」
「ウーーーー」
「だ、だから……」
「ウーーーーーーーー!」
「はぁ……、分かったわ……。上がっていいわよ」
「わーーーい!」
フランちゃん必殺の上目遣いが効いたようだ。この技を受け流すのはかなりの至難の技だろう。アリスにとっては。いやまぁ、僕もなんですけどねアハハ……。
「あなた、外道よね」
はいはい、聞こえなーい聞こえなーい。
アリスの言葉は無視しつつ、僕とフランちゃんはアリスの家にお邪魔した。
アリスの家にお邪魔した後、僕は紅茶を飲みながらアリスと話していた。フランちゃんは、そこら辺にある人形をまじまじと見ている。
一通り最近の出来事を話終え、ゆっくりとクッキーを頬張りながら紅茶を味わっていると、急にアリスが僕がこの世界に来る前の話を聞きたいと言ってきた。
「あなた、この世界に来る前、いったいどんな事をしてたのかしら?」
「傭兵で各地の戦場で戦ってました」
「傭兵?」
「傭兵と言うのは、戦ってお金を稼ぐような仕事のことです」
「ふーん、それでどうして傭兵にあなたは、なったのかしら?」
「僕が昔、両親を亡くした時に、僕を拾ってくれた人がいたんですよね。その人、僕が20歳になった時に失踪したんです。一通の手紙を残して」
「手紙?内容とか覚えてるかしら?」
「えぇ、今でもはっきり覚えてますよ。ていうか、この手紙が僕が傭兵になった大きな原因なんですけどね」
「そうなの……。それで内容は?」
「内容は、『あなたはもう立派に成長したわ。だから私はあなたの知らない所へ旅に出ます。もしもまた、私に会いたいのなら、探しなさい。この世界中を。PSそこのテーブルの上にパスポートと結構なお金があるわよ。上手に使ってねキラッ☆あなたのお母さんより』と書いてありました。それで、傭兵として世界中を巡っていた訳です」
「なるほどね。なかなか茶目っ気のある人じゃない。その人の名前は?」
「名前は確か……えっと……、あれ?」
「どうしたの?忘れたのかしら?実の親よりも長いこと暮らしてたのに、思い出せないの?」
「……はい。何故か、名前が思い出せなくて……。というか、この世界に来てから、その人の顔さえも思い出せないんですよ」
この世界に来る前は、当たり前のように思い出せたのだが……。どうして忘れてしまったのだろうか。
「そう……。ならいいわ」
「すいません……」
なんとなく場の雰囲気が居た堪れない空気になってしまった。どうにかせねば。
どうにか話題を振らねば、と模索していた時、急に1人の来訪者が現れた。
「オイーース、アリス元気かー?って、ん?」
やって来たのは、いかにも魔女らしい格好をした、白黒帽子をかぶった金髪の女の子。―――アリスの友達か?
ふとアリスを見てみると、とても嫌そうな顔で、その来訪者を見ていた。
「なんで来るのよ魔理沙」
どうやら、この魔女っぼい人は魔理沙と言うようだ。
その魔理沙と言う人は、嫌がられているのを全く気にも止めず、ゲラゲラと笑っていた。
「いいじゃないか別に、どうせ暇だろ?ところでそこにいる義手の奴と、小さい羽の生えた女の子はどちら様だ?」
「僕は片倉と言います。あなたは……?」
「私は霧雨魔理沙だぜ。よろしくな片倉!」
「私はフランドール・スカーレット!」
「おぅ!宜しくなフラン!」
何と言うか、この人の印象は活発的な人だと感じる。そして何よりも、人と馴染むのが早い。とてもいい性格をしている人ようだ。なのに何故アリスはこの人を嫌がるのだろうか?
「ところで魔理沙、この前盗んだ本を返しなさいよ」
ん?本を盗んだ?どゆこと?
「……あの、魔理沙さん?本を盗んだって本当ですか?」
聞き間違いかもしれないし、一応聞いてみた。
「あー、私の事は魔理沙でいいぜ。あと本は盗んでないぜ!」
だよなー。こんな性格良さそうな人が、人の本を盗むなんてありえないよな〜。
「あれは盗んだんじゃなくて、死ぬまで借りただけなんだぜ☆」
……前言撤回。この人、見た目に反して意外と手癖が悪いわ。
てか、死ぬまで借りるも盗むもどちらも同じだろ。意味合い的に。―――まぁどうでもいいや。僕が被害にあってる訳じゃないし。
しかし、盗まれた当の本人は相当お怒りのようで、見たこともないくらいに顔を真っ赤っかにして怒っていた。……うわぁ、超怖い。
だが、盗んだ本人は、あっけらかんな態度でアリスを無視していた。
そんな魔理沙を見て、アリスは怒るのが馬鹿馬鹿しくなったのか、はたまた諦めたのか分からないが、とりあえず怒りを抑え引っ込めた。
「ところでよー、片倉って外の世界の人間だよな?」
魔理沙が急に僕が外の世界の人間だと見破ってきた。
「そうですが、どうして分かったんですか?」
「だって、そんな義手はめた奴なんか、この幻想郷で見たことねえからな」
なるほど義手か。
最近、自分が義手着けてることよく忘れちゃうな〜。
「1つ聞いていいか?」
「何ですか?外の世界についての質問ですか?」
「いや、外の世界はあんまり興味はないぜ」
あっ、興味無いんですか。じゃあ他に何が聞きたいのだろうか。
「お前、外の世界に戻ろうとは思わないのか?」
「えっ……、戻れるんですか?」
「うん」
「まじで?」
「まじだぜ」
ええぇぇぇ……それは知らなかった。てか聞いたこともなかった。まさかこの世界から出られるとは。
出られるなら今すぐでも出ていきたいものだ。正直、この世界は危険度が高すぎる。今でも服の下は包帯だらけな訳だし……。
でもなんか大事な事を忘れてる気がするんだよなぁ……。気のせいかなぁ……。
「えっ、お兄ちゃん……、この世界から出ていくの……?」
あー、気のせいじゃ無かったわぁ……。ここに居ましたわ、大事な事が。
フランちゃんが涙目でこちらを見つめている。
「出ていくの……?」
とうとう、泣きだした。……これはきつい、精神的な意味で。
「出ていかないから!ね?だから、泣くのは止めようね?」
あぁ……我ながら情けない。小さい子にあっさりと負けるなんて。
「あなた、ロリコンよね」
グハッ!アリスの鋭い言葉が僕の心を貫く。
返す言葉が見つからないよ……。
まぁでも、外の世界には戻らないとしてもだ、一応どうやって外の世界に戻れるのかくらいは聞いておこう。
「外の世界に戻りはしませんが、一応どうやったら戻れるかだけ教えて貰えませんか?」
「外の世界に戻るときは、霊夢に頼めばいいぜ」
「霊夢?」
「博麗神社に居る巫女の事よ」
どうやらアリスもその霊夢と言う人を知っているらしい。
というか、この世界にも神社あったんだ。知らなかった。
「そういえば私、霊夢の所に行く予定だった事、すっかり忘れてたぜ」
「霊夢の所に行く予定だったのに、どうして私の家に来たのよ、あんたは」
「いやぁ、なんとなくだぜ」
「次来たら吹き飛ばすわよあなた」
「ひー、怖い怖い。それじゃ、このくらいでお暇することにするぜ」
扉の近くに立て掛けてあった箒を手に取り、外に出ようとする魔理沙。―――もしかして、箒で飛ぶのか?
そうだ、折角だから僕も博麗神社に行こうかな。一度、その霊夢と言う人に会いたいし。
「ちょっと待って魔理沙!」
「ん?どうした片倉?」
「僕もついてっていいかな?」
「いいぜ。でもここから神社まで結構距離あるぜ?」
「えっ……遠いの?」
「そうかー、片倉は普通の人間だから飛べないもんな。仕方ない、私の箒に乗って行くか」
「ありがとう魔理沙」
「ちなみに、結構速く飛ぶから気をつけろよ?」
「あぁ大丈夫大丈夫。多分」
「はいはい、玄関で話されると迷惑だから早く行ってよね、全く……」
まるで邪魔者扱いのように追い出そうとするアリス。
見た感じちょっと不機嫌なのだが……。早く神社に行ったほうがいいなこれ。
「それじゃ、またなアリス」
「お邪魔しました〜」
「バイバイ!アリス!」
「はいはい、またね」
何だかんだ言って、ちゃんとお見送りするアリス。本当、あの人ツンデレだよな……、あっ睨まれたゴメンナサイ。
「それじゃ行くぜ。落ちるなよ」
「うん、フランちゃんは大丈夫?」
「大丈夫!私は飛ぶから!」
いや、日光が大丈夫かということなのだが……。でもまぁ幸い、天気が曇って太陽の光がないから大丈夫だろう。
「んじゃ行くぜ」
はっきり言うとそこからの記憶は無い。
発進の合図と共に、僕と魔理沙を乗せた箒は急加速した。その速さは鍛えられた人間の体でさえも、意識をブラックアウトさせる程だ。―――いや、速いと言われたけどさ、その速さは普通ありえないでしょ……。
意識を失う際、今度にとりに空を飛べれるようになる機械を作ってもらおう、と思ったのは言うまでもない。