傭兵幻想体験記   作:pokotan

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そうだ紅魔館に行こう 第8話

目の前に母が倒れている。向こうには父も。2人とも血まみれで一目で死んでいると分かる。

傷口は鋭利な何かで切られている感じだった。誰がこんな事を……。

視線を先のほうへ向ける。そこには何かが居た。その何かはゆっくりとこちらを振り向き、鋭い刃物をこちらへ向ける。

恐怖が身体を支配し、硬直して動けなくなる。

何かが素早い動きで近づいてくる。刃物は鎌の様な形をしていた。

来るな……来るんじゃない……。心の中で必死に叫ぶ。だがその何かは目の前にやって来た。目は鋭く、人の形をしている。一体何なんだ、こいつは。

刃物がギラりと輝き、次の瞬間には僕の体は―――

 

 

 

 

 

「うわぁぁぁ!」

 

目を開く。そこには刃物を持った何かではなく、見慣れた紅い天井だけが広がっていた。どうやら先程のあれは夢だったようだ。

体に嫌な汗がベッタリとまとわりつく。―――昔の夢なんて久しぶりに見たな。気分が悪い。

部屋を見渡す。どうやら自分の部屋のようだ。何も変わった様子は無い、いつもの自分に与えれた部屋だ。―――1つだけ除いて。

 

「あっ!目が覚めたんだね!」

 

はて何故ここにフランちゃんがいるのだろう?てか抱きつくの止めて!怪我してるから!……ん?

ふと体が包帯でぐるぐる巻にされている事に気付く。適切な処置で全て施されてある。恐らく咲夜さんがしてくれたのだろう。あの人何でも出来る万能型メイドだもん。

コンコン、急にドアがノックされる。「どうぞ」と言うと入ってきたのは、さっきまでの心の中の話題の人物、咲夜さんだった。まさに噂をすれば何とやらだな。

 

「お目覚めになられたのですね」

 

「えぇ、ところでどうしてフランちゃんがここに?」

 

さっきからずっと抱きついてくるフランちゃんの事について質問する。―――僕は抱き枕とかじゃないから、そろそろ離してくれ……。

 

「一週間前に意識を失って以来、妹様はずっとあなたの傍におられたのですよ」

 

「へぇ……って一週間!?」

 

「はい、ですが本来ならこの程度の怪我なら一週間以上は意識が回復しないと思っていましたが……」

 

驚いた、まさかそんなにも寝ていたとは。

 

「それでは私は失礼致します。何かお困りでしたら、近くのメイドにお申し付けください」

 

そう言うと、咲夜さんは仕事へと戻っていった。あの人も大変だなぁ。

すると次はパチュリーさんがやって来た。珍しいな、普段から図書館に引き篭ってるのに……あっ睨まれた。

 

「結構早いお目覚めね」

 

「そうですか?」

 

するとパチュリーさんは、やれやれといった表情をした。

 

「はぁ……。あなたね、自分の体をよく見て見なさいよ」

 

「包帯だらけですが」

 

「そうよ。今のあなたは重傷患者と同じよ。怪我してない部位が殆ど無いくらい怪我してたわよ」

 

「そんなに酷かったんですね……」

 

「全く……いったいどんな無茶をしたのやら。私が魔法を使わなかったら、あなたとっくに死んでたわね」

 

うわぁ……なんかこの感じ、何処かの人形使いの魔法使いさんの時にもあったな。もしかしてパチュリーさんもアリスと同じタイプかな?

 

「とにかく、これからその怪我が完治するまでは無茶はしない事ね」

 

「分かりました」

 

忠告したあと、パチュリーさんは部屋から出ようとする。だが去り際に何故かこちらを振り向いた。

 

「それと、あなた結構フランに懐かれてるわね。レミィに嫉妬されない様に気をつけなさいね」

 

意味の分からない言葉を残し、図書館へと戻って行ったパチュリーさん。

フランちゃんを見てみる。フランちゃんは何か面白い物があったのか、楽しそうに窓の外の景色を眺めていた。僕には特に興味は無さそうだ。―――これは懐いたと言えるのだろうか……。てかレミリアさんが嫉妬って……?

 

「フランちゃんって、ずっと地下に居たんだよね?」

 

1つの疑問を投げかける。何故あんな地下に居たのだろうか気になるところである。

 

「うん、そうだよ……」

 

相変わらず窓を眺めているものの、心なしかその声には元気がなくなっていた。何か嫌なことでもあったのだろうか。

 

「どうして地下に?」

 

「…………」

 

急に黙り込んでしまった。やはり嫌なことがあったのだろう。これ以上聞くのは酷だ。

フランちゃんの眺めている窓を僕も眺める。外では美鈴がナイフまみれになっていた。

…………パチュリーさん呼ぶか。

 

 

 

 

 

夕方、レミリアさんの急な呼び出しにより、レミリアさん、パチュリーさん、咲夜さん、美鈴、僕、そしてフランちゃんの6人が集まった。どうやらレミリアさん曰く、皆に伝えたいことがあるそうだ。―――美鈴、包帯まみれだけど大丈夫か?まぁ僕も包帯まみれだけどさ……。

 

「皆集まったな」

 

「急にどうしたのよレミィ。メンバー全員揃えて」

 

「ふむ、それでは早速本題に入ろう」

 

紅魔館の主が話をしようとしているのに、興味がないのか本を読み出したパチュリーさん。フランちゃんと美鈴は眠そうに欠伸をしている。―――あっ美鈴の頭にナイフ刺さった。

果たしてこれでいいのだろうか、一応あなた達の主人ですよね?

ほら見てよ、皆あまりにも興味無さそうだからレミリアさん、涙目になってるよ……。咲夜さんはそれを見て、鼻血出してるけど。

 

「とりあえずレミリアさん、本題に入ってください」

 

「グスッ、そ、そうだな」

 

すぐさま立ち直り、カリスマ全開で話始めるレミリアさん。ホントこの人の切り替え力凄いわぁ。

 

「今日はフランと片倉の事について話がある」

 

「僕とフランちゃんですか?」

 

「そうだ」

 

どうやら、フランちゃんと僕の事についてらしいが、いったいどうしたのだろうか。……もしかして天井壊したことか?

 

「皆も知ってるとおり、私の妹であるフランは、長年地下に居たため常識的な事をあまり知らない」

 

「そうね。でもそれがどうしたのレミィ」

 

「つまりフランには、世間の常識とやらを教育する者が必要だと私は思ったのだ」

 

ん?なんだろう、凄い嫌な予感がしてきたぞ。このままだと、取り返しのつかない大変な事になる気がする。

 

「そこでだ、フランに懐かれている者にその教育係を任せよう、と考えたのだ」

 

「なるほどね。でもそんな係りをいったい誰がするのよ」

 

「もう決めているさパチェ。片倉よ、お前は今日からフランの教育係に任命する!」

 

ほうほう、僕がフランちゃんの教育係ですか、なるほどなるほど……って

 

「「ええええええ!?」」

 

「「………………」」

 

「わ〜い!」

 

ちなみに驚いているのは、僕と美鈴で、黙っているのは、咲夜さんとパチュリーさん、最後に喜んでいるのは、フランちゃんだ。

いやいやそれはさておき、どうして僕になるんだろうか。僕はフツーーーの人間ですよ?

 

「どうして僕なんですか?僕は至って普通の人間ですよ?」

 

「大丈夫だ。問題無い」

 

何処ぞのフラグ臭漂うセリフを放つレミリアさん。いったい何が大丈夫だというのか……。

 

「話はそれだけ?それなら私は図書館に戻るわ」

 

「それでは私も仕事に戻ります」

 

パチュリーさんと咲夜さんは、自分の場所へと戻っていき、美鈴も門番の仕事に戻った。

いや、正確に言うなら咲夜さんに引きずられながら、正門に連れていかれたと言った方が正しいな。―――咲夜さんって、美鈴の扱いだけやたらと雑だよな……。

こうして残された僕は、どうしたものかと考えていた。

このまま自室に戻るのがいいんだろうけど、如何せんレミリアさんが……またしても涙目になっていて、とっても戻りづらい。てか誰か相手してあげようよ、一応あなた達の主だよ!?

余りにも重い空気が、場を包み込む。息苦しさを感じる。

 

「あの〜レミリアさん?」

 

「グスッ、何だ?」

 

「それじゃあ、僕も自分の部屋に戻りますね……」

 

まるで泥棒のように、足音をたてずに立ち去ろうとする。そのまま廊下に出ようとした時「ちょっと待て」とレミリアさんに止められた。

 

「な、何ですか……」

 

ぎこちない動きで振り向く。

 

「まさかと思うが、私を1人にする気か?」

 

半泣き状態で、こちらにジリジリと近づいてくるレミリアさん。その姿はさながら高潔な吸血鬼の欠片が微塵も無かった。―――いつものカリスマ性は何処にいった!?

 

「し、失礼しまーーーす!」

 

「あっ!待て!」

 

大広間の扉を蹴破り、廊下へと逃げ出す。

後ろからはレミリアさんが、必死に追いかけてくる。―――ちょっ、ついて来るのかよ!?いつものカリス(ry

しかし、やはり人間と吸血鬼の身体能力は雲泥の差があったようで、あっという間に追いつかれた。

 

「いいから待たんか!片倉!」

 

ええぇぇぇぇい、こうなればこれだ!

 

〈閃刀 神速之風刃〉

 

風刃の能力による圧倒的な機動力で、一気に距離を引き離し、正門へと逃げる。―――意外に便利だよな、このスペル。

なんとかレミリアさんを撒いた僕は、ホッとしながら正門へと歩く。今のあの人に捕まったら、多分1日中お話が続くだろうな。嫌だなぁそれ……。

正門では相変わらず、美鈴が居眠りをしていた。

ナイフで刺そうかと思ったけど、包帯まみれで可哀想だったから止めておいた。

うーん……、唯一の話相手が寝てるとなるとどうしたものか。図書館は紅魔館にまた戻らないといけないしなぁ。そうなると絶対にあの人……レミリアさんに捕まるし……。

 

「暇なら、外へお出かけしようよお兄ちゃん!」

 

お出かけかぁ……。それはいい考えかも。となると人里かアリスの家に行くことになるな……、あれ?なんか後ろから、美鈴じゃない声が……。

 

「アイェェェエエエ!?フランちゃんがいるぅぅぅう!?」

 

振り向くと何故かフランちゃんがいました。―――まさか付いてきたの!?あの速さを!?

 

「なんでフランちゃんが居るの!?」

 

「お姉さまに、片倉について行け!って言われたの!」

 

あのカリスマ吸血鬼め……。まるで妹をファンネルのように扱いやがって……。

 

「そうそう、お姉さまから伝言があるよ!」

 

「伝言?どんな?」

 

「フランの教育係として、フランを外の色んな場所へ連れていけ!だって。あと片倉のバカ一!だって。お兄ちゃんなんかしたの?」

 

「んっ……?な、何もしてないよ……ハハ、ハ」

 

レミリアさんの暴言は置いといて、色んな場所へ連れていけは困ったなぁ……。でも連れていかないと、レミリアさんにどんな目に遭わされるかは、目に見えている。

仕方ない……、失礼がられるかもだけど、アリスの家に行くか。

 

「それじゃぁ行こうか」

 

「わーい!」

 

吸血鬼は太陽の日が苦手な為、フランちゃんは傘をさしている。

傍から見ると、なんだか幼女の誘拐犯みたいだなこれ……。

この世界にも警察がいませんように、と思いながら僕達は、アリスの家に向かう事にした。


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