傭兵幻想体験記   作:pokotan

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そうだ紅魔館に行こう 第7話

「ところでフランちゃん、弾幕ごっこって具体的に何するの?」

 

「えーと、相手をキュッとしてドカーンとさせるの!」

 

フランちゃんの「キュッとしてドカーン」が何を意味するのかは考えたく無いが、とりあえずは死なない程度で頑張ろう。

しかし、あんなに可愛らしい少女がする弾幕ごっこは、それほど危険じゃ無いはずだ。

 

「それじゃあいくよお兄ちゃん!」

 

そう叫ぶと、フランちゃんは見かけによらず大量の弾幕を放ってきた。

さてさて、どの程度の威力かな〜。

ベキベキッ、弾幕が当たったベッドや椅子が跡形もなく粉砕される。―――は?

何だその威力はぁぁぁぁ!?

はっ!忘れていた。こんなにも可愛らしい少女だが、実際はあのレミリアさんの妹なのだ。これくらいあって当然だろう。

しまった……ついうっかりその大事な事を見逃していた。

自分の愚かさに落ち込んでいると、目の前にあの恐ろしい弾幕が迫っていた。

 

「うぉっ、あぶね!」

 

ギリギリ横に飛ぶことで回避する。

 

「アハハハ楽しいなぁ!」

 

こっちは楽しくねぇよ!命懸けだよ!

しかしこのままだと、いずれやられてしまう。

とりあえず反撃に出てみる。

弾幕の間をギリギリで避けながら、フランちゃんに近づいて行く。

もちろんあの『魔力鎧』の展開は忘れない。当たったら重症確定だからな。

なんとかフランちゃんの元へと近付いた僕は、力を纏った左腕で思いっきり胴体を殴る。……少女を殴るのはどうかと思うが、今は気にしないでおこう。気にしたらこっちがやられてしまう。

だがその渾身の拳は、片腕で止められてしまった。

にっこりとフランちゃんが満面の笑みを浮かべる。

―――ニコッ、笑顔を返す。

瞬間、視界がぶれ物凄い勢いで体が吹き飛び壁に叩きつけられた。肺の中にある空気を全て吐き出す。

一瞬何が起こったか分からなかった。どうやらぶん投げられたようだ。……どんだけ力強いんだよ。流石は吸血鬼様だ。

ええぇぇぇぇい!こうなったら、出し惜しみは無しだ!スペルカード使ってやる!

 

〈飛刃 スキップ・ザ・リッパー〉

 

毎度の如く大量のナイフがフランちゃんへと飛んでいく。―――この技も見飽きたな……今度改良しようかな。

 

「アハハ凄い凄い!」

 

笑いながらナイフを避けたりたたき落としたりするフランちゃん。

こちらも負けじとナイフを飛ばすのだが、ことごとく弾かれてしまう。

……改良するか。この戦いから生きて帰れたら。

 

「次は私の番だよ!」

 

手元に1枚のカードがある。どうやらスペルカードを宣言するようだ。

凄い楽しそうにしてるけど、僕はもう満身創痍だよ……。

 

〈禁忌 クランベリートラップ〉

 

突如周りが弾幕によって囲まれた。

その弾幕は、僕を目掛けて飛んでくる。

飛んできた弾幕を拳で弾く、弾く、弾く―――くらう、くらう、くらう、吹き飛ぶ。

ふぅ……鎧が無ければ即死だった。もう嫌だ!逃げよう!ヘタレでも構わない!

その時、フランちゃんの変化に気づいた。

 

「私…ずっとこの地下に閉じ込められてたの」

 

閉じ込められてた?どういう事だ……?

 

「だからずっと退屈だったの……」

 

気のせいか周りの空気が重くなっていく気がする。

……いったいフランちゃんはどうしたのだろうか。

 

「ずっとずっとずっとズットズットズットズット!」

 

その声は次第に少女の声から悪魔のような声へと変貌していく。

 

「だからワタシ……遊ぶ……」

 

俯きながら悲しい声を出す。

逃げたいけど、こんな悲しそうだと逃げれないよな。

不意に顔を上げるフランちゃん。その顔は―――

 

「カタクラトズットアソブ!」

 

狂気の笑みを浮かべていた。

遊ぶことは遊ぶけど、ずっと遊ぶのはちょっと……。

―――やっぱり逃げてもいいすかね?

 

〈禁忌 カゴメカゴメ〉

 

唐突のスペルカード宣言。

まるで檻のような弾幕に囲まれる。

しかしそれは一瞬だけ。

檻が崩れた瞬間、大量の弾幕が現れ襲いかかる。

さっきのスペルカード並―――いやそれ以上の弾幕が飛んでくる。

避ける、弾く、弾く―――くらう、くらう、吹き飛ばされる。

……さっきよりも攻略しづらい。

とうとう鎧が砕けてしまった。こんな大切な時に……困ったな。

まだまだ弾幕は止む気配がない。大量の弾幕が迫ってくる。

あれを使うか。

 

〈光符 メテオールスパーク〉

 

流星のような光線が弾幕を打ち消しながら、フランちゃんめがけて一直線に流れていく。

美鈴を一撃でノックアウトするスペルカードだ。簡単には弾かれないはず―――

 

〈禁忌 レーヴァテイン〉

 

大きな炎が剣のような形へと姿を変える。

大きく振りかぶり、迫り来る光線に対して振り下ろす。

炎と光が拮抗する。

最初は互角かと思われたが、次第に光は炎に押されていき、最後には飲まれて消えた。

冗談だろ……?あの技を力押しで跳ね除けるとは。

そんなことをする人は、幽香さんくらいかと思ってたよ。……世界は広いな。

ケタケタと笑うフランちゃん。その姿はもはや最初の可愛らしい少女の面影は無かった。

例えるとしたら、まさに悪魔と呼ぶのが相応しいだろう。

―――もしかしてフランちゃんも、戦闘狂だったりする?

突然フランちゃんがレーヴァテインを持って切り込みにかかって来た。

弾幕を放つが、全て弾かれてゆく。剣が相手ならこちらも剣で応戦だ。

 

〈閃刀 神速之風刃〉

 

振り下ろされるレーヴァテインを風刃で受け止める。

一瞬の睨み合い。その時見た目は―――悪魔だった。

横に振り払う攻撃、後方に飛ぶことで回避する。

後方に下がりつつ、高速の遠距離斬撃を飛ばす。

肩の辺りをえぐった。しかしその傷はすぐに治ってしまう。……治癒力が高すぎるだろ。

急に後方へ下がりだすフランちゃん。その手にはスペルカード。―――また来るのか。そろそろ限界なんだが……。

 

〈禁忌 フォーオブアカインド〉

 

フランちゃんの姿がぶれ始める。2人……4人と分身する。―――はっ?目の錯覚か?

こんな戦闘力が高いのが、4人に増えるとは……あぁ死んだわこれ。

2人がこちらへ向かってくる。もちろん右手にレーヴァテインを持って。……せめてその剣は無しにしては貰えませんかね?

1人は肩を、もう1人は足を狙って斬りかかる。ちょ危なっ!

当たれば即死確定コースだなこれ。

後ろに待機している2人は弾幕を放ってくる。―――何と言うか、とてもウザイ連携攻撃だ。

扉を蹴破りさらに後ろへと下がる。追いかけてくるフランちゃん4人組。鬼ごっこみたいだな、まぁ鬼ではなくて吸血鬼なのだが……。

とうとう行き止まりに当たってしまった。もう下がる事は出来ない。

強行突破しかない。だが弾幕は全て弾かれる。どうしたものか……。

 

「アハハハハ、ツカマエタ!」

 

もうすぐそこまで近付いてきた。

こうなったら使いたくなかったが、最後の手段を使う事にする。

最後の手段は簡単に言うと、道がないなら作ればいいじゃない、ということだ。

 

〈光符 メテオールスパーク〉

 

光線をフランちゃんに向けて、ではなく真上に向けて放った。

ズドォン、と大きな音を立て天井に大きな穴があく。その穴からは光がさしていた。紅魔館の天井に穴をあけたのだ。―――後でレミリアさんに怒られるよな。

脚に力を纏い、空へ向けて飛ぶ。どうやら外は曇りのようだ。

チラリと下を見る。フランちゃんも飛んで追いかけてきていた。

紅魔館の屋根の上で、4人の吸血鬼と睨み対峙し合う。ここまでくると、もはや逃げ場などはない。大きく深呼吸をし、覚悟を決める。―――よし、行くぞ!

一気に駆け寄ろうと駆け出したと同時に、分身2人もこちらへ向かって来た。どうやら先ほど同様、弾幕2人と接近戦2人で分ける戦法でいくのだろう。

足を狙った的確な斬撃を回避しつつ飛んできた弾幕を弾く。後ろに回り込んできた、もう1人の分身を蹴りとばす。

こうした一進一退の攻防を続けていたが、次第に押され始める。鎧が使えない今、少しのミスが命取りだ。改めて気合を入れ直し集中する。

 

「!?」

 

しかし足場が不安定だったせいで、足を滑らせバランスを崩してしまった。

その隙を逃すまいと、分身1人がレーヴァテインを振り下ろす。それを何とか風刃で凌ぐ。だが不意に飛んできた弾幕をもろにくらってしまう。

「グハッ!」と血反吐を吐きながら吹き飛び転がる。物凄い苦痛が身体を支配する。立ち上がろうとするが、体がそれを拒否する。

早く起き上がらなければ、殺されてしまう。今のフランちゃんは容赦を知らない。それでも体が動かない。

「アハハハハ」と悪魔のような笑いをしながら、レーヴァテインを振り上げる。

まずい……早く避けないと……死ぬ!死の予感が体を巡る。

レーヴァテインが振り下ろされる。死を確信し諦めたように目をつむる。炎の熱さが皮膚を焦がす。そしてそのまま―――

 

〈神槍 スピア・ザ・グングニル〉

 

神々しく輝く槍が、レーヴァテインを振り下ろそうとした分身の身体を貫く。

貫かれた瞬間、分身が霧のようになってが消滅した。このスペルカードは間違いない、あの人だ。

 

「大丈夫か」

 

「レミリアさん!」

 

この紅魔館の主であり圧倒的カリスマの持ち主、レミリア・スカーレットだ。

 

「片倉よ、お前を使用人にした時、なぜ使用人にしたのかを覚えているか?」

 

「えぇ……たしか、紅魔館がいずれ直面する問題を僕が解決するからでしたよね」

 

「そうだ、その問題を解決する時が今だ」

 

「今?もしかしてフランちゃんの事ですか?」

 

「そうだ」

 

「でもどうして……」

 

「詳しいことは後々話す。今はフランを何とかするぞ。分身は私に任せろ」

 

大きな翼を羽ばたかせ、レミリアさんは分身の方へと突っ込んでいった。入れ違いに分身ではなく本物であろうフランちゃんがやって来た。相変わらず正気を失っているのか、悪魔のような狂気に満ちている。

お互いに相手に向かって走り出す。脳天めがけて振り下ろされるレーヴァテインを凌ぎ、回し蹴り。くらってはいるものの、はたしてダメージがあるのかは分からないくらい平然としている。

体術は効果が薄いと判断し、弾幕を飛ばす。ついでに風刃の斬撃も飛ばす。だが全て弾かれてゆく。

するとレミリアさんの方から、分身が1人こちらに突撃してきた。急に来られたもんだから反応が遅れてしまった。だが時すでに遅し、既に攻撃体制に分身は入っている。

今度こそ死ぬのか……諦めたその時、またしても奇跡が起こった。

分身が蹴り飛ばされ、とてつもない勢いで正門方面の壁まで吹き飛ばされる。そしてそのままぶつかり、修理したばかりの壁がまたしても壊れた。―――あぁなんてことを。僕の努力が……

こんなに吹き飛ばす蹴りをするのは、吸血鬼とあの人くらいだろう。

 

「美鈴!」

 

「片倉さん!大丈夫ですか!」

 

紅魔館の門番、美鈴だ。この時ばかりは、居眠りばかりしている美鈴がとても頼もしく見えた。

 

「あの分身は私に任せてください!」

 

「すまん、助かる!」

 

さて、この一騎打ちの状況をどうやって打破したものか。改めてフランちゃんの方を向きなおす。

どうにかして、フランちゃんを気絶させるなり何なりしなければ……。

ふと1つの考えが頭の中に閃く―――だがいけるのか?失敗は許されないぞ。

だが考える時間はそう長くない。この作戦に全てをかけることにする。

 

「さぁフランちゃん、本気でかかって来い!」

 

前にレミリアさんから聞いたことがある。吸血鬼は傷を瞬時に治すことが出来るが、体力をかなり削られると。

つまりここを狙えば、フランちゃんはいずれスタミナ切れでこの弾幕ごっこが終わるはず。しかし自分が先にやられる可能性だってある。これはある意味で賭けだ。

フランちゃんが距離を詰めて、レーヴァテインで斬りかかる。それを凌ぎつつ膝蹴りをくらわせる。

ふらりとバランスを崩す、その隙を逃さず風刃で右腕を切り落とす。だが切り落とした右腕はすぐに再生する。

後ろに下がり斬撃を飛ばす。かなり防がれはしたものの、脇腹を切り裂くことはできた。間違いない、やはり再生には体力を消費しているようだ。

弾幕を放たれる。しかしそれらを全て回避し懐に潜り込む。そのまま力を纏い拳を叩き込むが―――

ドゴォ、と腹部に強烈な膝蹴りをくらう。どうやら読まれていたようだ。膝蹴りから右フックを繰り出される。

何とか右腕でガードするが、ミシミシと骨が嫌な音をたて悲鳴をあげる。そのまま吹き飛ばされるが、どうにか受身を取って体制を立て直す。

まだだ、まだ終わるわけにはいかない。苦痛に苛む体に一喝し再び駆け出した。

 

 

 

 

 

 

そんな戦いをどれほど続けただろうか。

体はもうボロボロだ。右腕は上手く動かず、身体全体にレーヴァテインによる火傷をおっている。こんな体でよく戦えるなぁと思うよ。

フランちゃんは目立った怪我こそは無いものの、息は絶え絶えで辛そうな表情を浮かべている。

お互いに手に持つ武器を構える。恐らくこれが最後の打ち合いになるだろう。言葉に表さずとも、それは周りの人達にも分かっているようだ。既に分身を倒した2人は固唾をのんで見守っている。―――助けてくれても良くない?こっちもうボロボロだよ?

レーヴァテインの炎が唸りをあげる。僕も風刃に残った力を注ぎ込む。

お互いが同時に駆け出す。そして炎と風が一閃する。

ドサリ、とフランちゃんが倒れ込む。その顔に悪魔の表情は無く、元の純粋な少女の表情を取り戻していた。

フランちゃんの元へ近づいてみると、とても満足気な表情で笑っていた。

 

「フラン疲れちゃった〜。でも凄く楽しかったよ!また遊ぼうねお兄ちゃん!」

 

あ〜もう弾幕ごっこは2度と遊ばないかなぁ……。苦笑いしながらお互い笑い合う。―――ようやく終わったな。正直、死ぬかと思ったよ。

ふと脇腹辺りに違和感を感じた。左腕で脇腹辺りを触れ、手のひらを見る。

血だ。血がついていた。脇腹を見ると、火傷と深い切り傷を負っており、ゾッとする程の血が流れ始めていた。―――くらってたのか。

意識が朦朧となり、その場に倒れ込む。

 

「お兄ちゃん?」

 

フランちゃんの一言で、何かを察したのか2人が駆け寄ってきた。2人の顔は焦ったような表情だった。

美鈴が何か大声で叫んでいるが、意識がはっきりとせず聞き取れなかった。フランちゃんは大声で泣いているようだった。

落ち着かせようと腕を伸ばそうとするが、もはや腕を動かすほどの力は残されていなかった。

美鈴が呼んだのかパチュリーさんが来た。いつにもまして焦っている様子だった。―――珍しいな。あのパチュリーさんが。

声を出そうとするが、うめき声しか出ない。

「喋らないで」と美鈴に言われる。

意識が遠のいてきた。皆の声が頭の中で木霊する。あぁ死ぬのかなぁここで。

すると、一言も喋らなかったレミリアさんが言葉を発した。

 

「大丈夫だ、片倉は死なない。運命がそう言っている」

 

何処か力強いその言葉を最後に、僕は意識を失った。


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