〜アリスの家〜
僕はアリスの家でまったりと紅茶を飲んでいた。
「あの館に住むことになったのねあなた。」
「えぇそうですよ。いやぁ短い間でしたがお世話になりました。」
「たまにはこっちにも来なさいよ。」
「そうですね、暇があれば遊びにでも来ます。」
そう言いながら僕は紅茶のおかわりをする。注いでくれるのはもちろん人形だ。アリス?そんなわけないだろう。
「それで?次は何処に行く予定なの?」
「うーん正直、お世話になったのアリスさんと幽香さんくらいしか居ないですし……。」
「そう…気をつけなさいよ。」
何故か不機嫌になるアリス。もしかして幽香さんと過去に何かあったのだろうか。
アリスに八つ当たりされるのも嫌なので、僕は紅茶を飲み終えると玄関へ向かった。
「あら、もう行くのかしら?」
「えぇ、人里にも寄りたいですし。」
「気をつけて行きなさいよ。」
見送られながら僕は人里へと歩いていった。
急に前方から何かがやってきた。
黒い服を着ている女の子…この前僕を食べようと襲ってきた妖怪だろう。
しかしその子はフラフラとおぼつかない足取りで歩いており、しまいにはその場に倒れ込んでしまった。
「おーい、大丈夫かい?」
近づくと、その妖怪はこう言った。
「お腹……空いた……。」
どうやらお腹が空いたらしい。
なにか食べ物はないものかとバックパックを漁る。すると先ほどのアリスの家で食べたクッキーが入っていた。恐らくアリスが人形を使ってさり気なく入れておいたのだろう。
僕はそのクッキーを妖怪にあげる。するとその妖怪は美味しそうにムシャムシャとクッキーを頬張っていた。
「美味しかった!ありがとー。」
「それは良かった。ところで君の名前は?」
「私はルーミア!お兄さんは?」
「僕は片倉、元傭兵さ(キリッ」
僕は決め顔でそう言った。別に断じて小さい子が好みとかそんなんじゃない。断じてだ。
「そーなのかー。それじゃ私は行くね。またねーお兄さーん。」
「うん、またね。」
そう言うとルーミアは元気に飛んでいった。飛べるのって本当に便利そうだよな。
僕は気を取直して、人里へと進んでいった。
〜人里〜
今はお昼を少し過ぎた辺りの時間、そろそろお昼でも食べたいところだ。
とりあえず、前に来たお店に行ってみることにする。
しかし相変わらず僕の格好は目立つなぁ。
「おっ!また来てくれたのかい、いらっしゃい!」
相変わらずここの親父は元気そうだ。
メニュー見て気づいたがこのお店、定食とかもあるようだ。
とりあえずお腹が空いていたので、定食を食べようかな。おっこの煮魚定食とかいいな。
「すいません、この煮魚定食を下さい。」
「あいよ!毎度あり!」
そういえば、幽香さんに初めてあったのもこの店の中だったな。もしかしたら来るかも。
そう思った時、入口から誰かが入ってきた。
一瞬、幽香さんかと思ったが、全然違う人だった。
「はいよ、煮魚定食お待ち!」
テーブルの上に大きな煮魚やご飯が置かれる。おぉ美味しそうだ。
何と言ってもこの煮魚の絶妙な味付けがいいね。甘すぎず辛すぎず、しかも身がホロホロしていて美味しい。
ご飯もつやつやで硬さもちょうどいい。この店気に入っちゃったな。
煮魚定食を美味しく頂いた後はデザートを頼むことにした。
「すいません、あんみつ一つ。」
「おっ!毎度あり!」
あんみつとか久々食べるな〜。あっちの世界では甘いものとか、なかなか食べれなかったし。
「あいよ!あんみつお待ち!」
さてさて、ここのあんみつはどうかな。
おぉこれはまた素晴らしい。色のバランスがいい感じに整えてある。食欲がそそられるなぁ。
僕はぺろりとあんみつを食べ終わると、会計をして、店を出る。
店を出る時、さきほど店に入ってきた女の人から声をかけられた。
「あなた、この店は気に入ったかしら?」
「えぇそれはもちろん。」
「それは良かったわ。私はここの常連なのよねぇ。」
やっぱりこの店は人気なのかな。今度アリスにも教えてあげようかな。
「それじゃ失礼しますね。またお会いできたらいいですね。」
「えぇ、そうね。それと異変の解決、流石だったわよ。」
扉を閉める間際、女の人が最後にそう言った。
その時は何も思っていなかったが、歩きながらその言葉の不可解な部分に気づいた。
何故あの人は異変を解決したのが僕だと知っているのか。
不思議に思った。最初は紅魔館の人かと思っていたがあんな人はいなかった。
だが今更そんなことを気にしても遅いので気にしないことにした。
〜紫side〜
紅魔異変を解決したのがまさかあの男だったとは、思いもよらなかった。
幻想郷に何かをもたらすと思っていたが、早くもこんな事をするとは。
「紫様、またあの店に行っていらしたんですか。」
「えぇ、あの店の料理は美味しいわよ〜藍。あなたも一度行ってみなさい。」
「そうですね。」
だけど彼はまだまだ幻想郷に様々なことをもたらすことだろう。私は隙間を見ながらそう思った。
〜片倉side〜
幽香さんの家に着いたが中には幽香さんは居なかった。恐らく花の水やりにでも行っているのだろう。
「あら?帰ってきたのかしら。」
どうやら戻ってきたようだ。後ろを振り向くと案の定、じょうろを持った幽香さんが居た。
「どうやら生きて帰って来たようね。」
「そうですね、“何とか”生きて帰って来ました。」
それは良かったわ、そう言いながら唐突に僕に弾幕を放つ幽香さん。
驚きつつも僕は瞬時にその弾幕を刀で弾いた。
「ちょっ!何してんディスカ幽香さん。オンドゥルギッタンディスカ!」
あまりに焦りすぎて、最後の方は言葉がおかしくなってしまった。オンドゥル語?知らないね。
「少しは成長したようね。」
どうやら、成長したかの確認のようだ。それにしては暴力的な確認の仕方だな。
「それで?何しに来たのかしら。」
「あぁ、ここに来た理由はですねカクカクシカジカ」
「やっぱり負けたのね。」
やっぱりって何ですか幽香さん。もしかして負けるの知ってて解決させようとしたの?もしそうだったら全力で泣きますよ。
「それで、あの館に住むことになったのね。」
「そうです。幽香さんには一応お世話になったんで挨拶しに行こうかなと。」
「ウフフ、律儀な男よねあなたって。」
そうですか?レミリアさんにもおんなじ事言われたけど、そんなことは無いような気が……。
「しかし、すっかり暗くなりましたね。」
「あら、そうね。」
色々と話しているうちに、外はすっかり夕方になっていた。
これじゃあ人里に戻っても、夜になるし危険だな。でもスペルカードとかあるし何とかなるかな。
「今日は人里に行かないで泊まりなさい。」
どうやら泊めてくれるようだ。いやぁありがたいなぁ。
でも何か裏がありそうな気がするのは僕だけかな?
「それじゃ泊まっていきます。」
なんだかんだで幽香さんの家で寝るのは初めてだなぁ。あの時は気絶して、地面で寝てたわけだし。
「なら早速、外に行きましょうか。」
ん?泊めてくれる筈なのに、どうして外に出るんだろう。何か嫌な予感がしてきたぞ。
「泊める代わりに、私と軽く戦いなさい。暇で仕方ないのよ。」
はい、的中しました。この戦闘狂を信用した僕が馬鹿だった。
てか、暇だから戦うとかおかしくないですか?
「いやぁ、どうせこの前と同じですよ?だから止めときませんか?」
むしろこの前よりも恐ろしい目にあいそうな感じがするんだけど……。
「あら、私に隠そうとしても無駄よ?あなた、かなり成長してるわよ。あと義手の力が妖力から魔力に変わってるのわよね?」
うぐっ、バレていたか。何故分かったのだろう。
「さぁ、早くしないと本気でいくわよ。」
「分かりました、だから本気だけは勘弁してください。」
魔力で形成した刀を創り出し、僕は構える。
「なかなか質の高い魔力ね。」
「それじゃ、いきますよ!」
刀にありったけの魔力を注ぎ込み突撃する僕。
その後は、幽香さんにボコボコにされたのは言うまでもない。
てか、幽香さん強すぎ。
朝の眩しい日差しが窓から差し込む。
いやぁ天気がいいと気持ちがイイね。身体中痛いけど。
結局、風刃を使っても幽香さんには全く歯が立たなかった。もしかしたら幽香さんは、幻想郷最強かもしれないな。
「あら、おはよう。」
「おはようございます。」
幽香さんは優雅に朝食を食べていた。ちょっとは僕の体の心配とかしないんですか?今の僕は身体中打撲だらけですよ。
「朝食はいるかしら?」
「いえ、そろそろ紅魔館に戻らないと怒られそうなんで、大丈夫です。」
多分怒られないだろうけど。レミリアさん、意外に優しいし。
「そぅ、それは残念ね。」
「そんな残念がらないで下さいよ。たまにはここに来ますから。」
「また来る時はもっと強くなってから来なさいよ。じゃないと承知しないわ。」
「分かりました、それではお世話になりました。」
うん、来るのは遠慮しておこう。
僕はお礼を言いながら固く決意するのだった。
それじゃ、紅魔館に急いで戻ろうかな。