いつかまた平和な海へ   作:VI号鷲型

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どうも、戦闘描写を書くと何故か戦記物になってしまうストライクイーグルです。
今回は久しぶりの戦闘回です。それからいつもと同じ文章です。
「ヒヤッホォォォウ!最高だぜぇぇぇぇ!!」
と言って読んでくださる方はお進み下さい。


第四十三話 鼠の巣

太平洋上

 

最上とシバリー、ツァネフの三隻を先頭に三列複縦陣で進むトラック第三艦隊は潜水艦秘密基地”鼠の巣”があると思しき島に向かう。

途中、はぐれと言われるイ級駆逐艦と遭遇するが大した問題にはならなず、航空戦力の優位を活かして殲滅していた。

 

「今のところは順調だね。」

「はい!しゅーいにてきえいはありません!」

 

艤装の一部にある羅針盤が狂うこと無く進んでいる事に安心する最上。

これは極々最近の事だが、羅針盤が狂うという現象が少なくなってきたのだ。

深海棲艦の研究で一部の棲姫クラス等から特殊な電磁波が放出されるのが確認された。それにより羅針盤があらぬ方向を示すと具合だ。

羅針盤の改良により、艦隊は迷子になること無く目的地につけるという訳だ。

その時、シバリーの対水上レーダーに小さな影が無数に現れた。

 

《最上!敵だ!右舷3時方向から数15接近!距離1万!》

「応戦して!」

 

最上の20.3cm連装砲が旋回して照準を合わせる。榴弾が装填され、砲栓が閉まる。あとは射撃命令を待つのみ。

だが、魚雷艇が次々とバラバラになり沈んでいく。ツァネフから発艦したSu-33とSu-25Kが手当り次第に狩っているのだ。

特にSu-25Kの30mm機関砲が絶大な威力を発揮した。戦車の装甲すら貫通する威力だ。薄ベニヤ板を貫通させる事は造作もない。

あるものは粉々にされ、あるものは魚雷が誘爆したのか爆沈していく。

結局、一隻も艦隊に近付く事が出来ずに沈んでいった。

 

《シバリーから最上へ。

敵性勢力の排除を確認。周囲に敵影は認められない。》

「わかった。戦闘配置から第二種警戒配置へ。」

 

最上は緊張と共に大きく息を吐いた。見張り妖精が気を利かせて水の入ったコップを運んでくる。最上はコップに口を付けると一気に飲み干した。

すると、提督から通信が入るがノイズが多く聞き取りにくい。

 

《もが…………きこ………か?》

「通信妖精、無線の故障かな?」

「わかりません。調べてみます。」

 

妖精は何人か引き連れて無線室へと消えた。しばらくすると無線からノイズが消え、提督の声がはっきりと聞こえるようになる。

 

《最上、聞こえるか?》

「聞こえるよ、提督。どうかしたのかい?」

《敵戦力に変化が見られた。

付近を航行していた陸軍機からの情報によると近くに軽空母とその護衛艦艇からなる軽攻撃任務部隊がそちらへ向かっているそうだ。》

 

陽動が早速功を奏したのか小さいながらも敵部隊を釣り上げる事に成功した。最上は直ぐにそれを攻撃しようと考えた。

 

「提督、交戦許可は?」

《お前らを送り出してる時点で許可は下りている。ただ、もしもの場合は撤退しろ。》

「わかったよ提督。でも大丈夫、ボクは必ず皆と帰ってくるから。」

 

それを聞いたのか無線から安堵のため息が聞こえ無線が切られた。

ツァネフもこれを傍受していたのか飛行甲板上では妖精達が慌しく作業していた。

 

ツァネフ艦上

 

ツァネフは最上と提督のやり取りを聞き取るやいなや、直ぐに発艦命令を飛ばす。エレベーターからは格納庫で再武装した艦載機が上がる。妖精達は自分の機に向かって全力で走る。

その様子を文がカメラで捉えていた。それに気付いた妖精はコックピットからピースサイトを作る。

 

「文屋さんよ、ちゃんと撮ってよ。

これっきり帰って来られないかもしれないんだ。」

「その時はあなたのベッドに張っておきますよ。」

 

そう言うとキャノピーが閉じ、発艦位置まで誘導される。翼の下にミサイルをぶら下げた鋼鉄の鳥達が次々と空へと舞い上がる。

 

《こちらクワント1

全機発艦完了。これより予定空域へ向かう。》

「ツァネフ了解。無事を祈る。」

 

飛び立つ鋼の鶴達を甲板で見送る文とツァネフ。艦隊は複縦陣からツァネフを中心とした防空輪形陣に変化する。対空砲群も敵機の来るであろう方角に砲身が向く。

 

「文さん、そろそろ艦内にお入り下さい。敵機が来ます。艦橋に場所を設けておきますので。」

「わかりました。」

 

ツァネフは文を連れて艦橋まで向かう。

ツァネフから攻撃隊が発艦した時と同時刻、軽攻撃任務部隊からも魚雷艇秘密基地から連絡を受けて攻撃隊が飛び立つ。

 

<紫1からヌ級へ

これよりターゲットへ向かう。>

<了解ダ。必ズ仕留メロ。>

 

攻撃隊と共に魚雷艇母艦と秘密基地からも魚雷艇が発進する。彼らの何隻かは対戦艦用の長射程大型魚雷が装備されていた。重量の増加で速力が幾らか落ちているが、戦隊運動をするのには何ら問題無かった。

この動きはツァネフに配備されているE-2Cが逐一報告していた。

 

「ツァネフさん、AWACSからの報告で敵水雷艇がこっちに来ているそうです。」

「わかった、モガミに至急伝えて……………」

「最上さんもこれを傍受しています。」

「そ、そうか。」

 

ツァネフはとにかく攻撃隊の全機帰還をただ願っていた。しかし、そんな余裕を与えてくれるほど深海棲艦もやさしくはない。対空レーダーが捉えた敵機の群れを見つけるやいなや、警報が鳴り響き対空砲が敵機を見据える。文も臆することなくカメラを構える。ツァネフは深呼吸して下命した。

 

「対空戦闘始め!!」

 

ツァネフとシバリーからSAMを放ち先制攻撃をかける。そのあいだに最上と吹雪、秋月、響が高射砲弾幕を張る。深海棲艦の雷撃機と急降下爆撃機は小隊づつで散開、同時攻撃を試みる。しかし、その企みも秋月の防空能力の前に打ち砕かれる。

 

「左舷に弾幕を集中して!連装砲くんの砲身交換も急いで!」

 

猛烈なる機銃弾シャワーの前になす術なく落ちていく深海棲機。ツァネフも空母(分類上は巡洋艦だが)とは思えない弾幕を放つ。

しかしそれにも限界はあり、少なからず至近弾が着弾する。

 

「やはり私を狙っているか…………ならば存分に相手するまで!!」

 

回避運動をしながらも猛烈な弾幕で迎え撃つ。攻撃隊もその数を減らし、全滅を避ける為に母艦へと針路を取った。

 

「残存脅威の撤退を確認。やりました!」

「ふぅ………………」

 

最上は汗を拭うと他艦へと目をやる。機銃弾が命中しているだけで何ら問題ない。あとはツァネフからの攻撃隊の報告を待つのみだ。

最上は見張り台に上がると大きく息を吸い込み、息を吐き出した。

 

「どうかみんな無事で。」

 

一方、ツァネフ攻撃隊は既に深海棲艦と交戦を開始していた。

Su-33が対空砲火を引き付け、Su-25が突入して荒しまわっていた。

 

《こちらグラーチュ1、誰かあの護衛のホ級を黙らせてくれ。ヌ級に近付けん。》

《了解だ。クワント隊、行くぞ!》

 

Su-33は滑らかな機体を見せつけるかのように艦隊に接近、挑発する。ヌ級とホ級は見事にその挑発に乗り、軽やかに舞うSu-33に弾幕を展開する。機体を滑らせ、ロールを打って旋回する。その動きを追いきれずに置いていかれる対空砲火。

そして、真打ち登場と言わんばかりにSu-25Kが突入する。何機かの対空砲はそれに気付き、目越し射撃を行う。

しかし12.7mm機銃で真っ直ぐ突っ込んでくるフロッグフットに致命傷を負わせる事が出来ない。カンカンと金属の擦れる音を聞きながらフロッグフット妖精は照準器にヌ級を入れる。

 

「貰った!!!」

 

妖精はトリガーを引くと翼下のロケットポッドからロケット弾が吐き出される。回避運動をしていたヌ級とホ級に何発かが着弾する。

が、格納庫内で爆発するも轟沈には至らない。ホ級もロケット弾を弾いていた。

 

「ちっ………こちらグラーチュ1、燃料と武装がない、帰投する。」

《こちらクワント1、こっちも燃料が危ない、引き上げる。あとはツァネフ殿に任せよう。》

 

名残惜しそうにクワント隊隊長妖精は艦隊を見つめながら編隊を組む。この攻撃で沈んだのはロ級駆逐艦一隻のみだ。残りは中破か大破だ。

ヌ級は帰っていく敵機を睨みつけ、ある決断を下した。

 

「奴ラヲ仕留メル!!全艦突撃!」

 

トラック艦隊はAWACS経由で攻撃隊の戦果を耳にしていた。ツァネフはこの結果に顔をしかめる。それを察したのか最上から通信が入る。

 

「ツァネフさん、妖精達も頑張ったんだ。ちょっと敵が手強かっただけだよ。」

「分かってる。頭ごなしに怒鳴り散らす訳ではない。」

 

やれやれといった様子で通信を切る。するとレーダーには帰還する攻撃隊が映っていた。

飛行甲板も慌ただしくなり、艦隊も輪形陣からツァネフを分離させて単縦陣に移行する。

最上が戦闘を務め、殿にはシバリーを、その間に駆逐艦が入るといった形だ。砲術妖精達も自然と肩に力が入る。

 

「最上…………………後は頼んだぞ。」

 

艦隊から砲雷撃戦に巻き込まれぬ様に離脱するツァネフがそっと呟く。文も艦隊の勇姿をカメラに収める。

シバリーの対水上レーダーに5つの艦影が現れる。

 

「最上!来たぞ!」

「分かってる。全艦、左砲雷撃戦用意!」

 

各艦の砲塔が回り、敵を捉える。火力では勝るトラック艦隊は慎重に照準する。深海棲艦側も砲をトラック艦隊に向ける。

互いに向け合ったまま同航戦になる。

先に射撃したのは先頭にいるホ級だ。6inch砲弾が最上を捉えて山なりに飛翔し着弾する。全て最上から遠い位置に水柱が立つ。

 

「主砲砲撃戦、始め!」

「てぇ!!」

 

20.3cm砲が炎を吐き、敵を葬り去らんと砲弾が飛翔する。しかしその弾は夾叉せずに手前に弾着する。

 

「夾叉はできないか…………まだまだ訓練不足かな?」

 

最上は自身とその場には居ない砲術妖精にそっと呟く。その時ホ級から発砲炎が瞬く。

 

「敵弾来ます!!」

 

見張り妖精が叫ぶと同時に水しぶきが艦橋を覆った。それと同時に最上にも痛みが走る。どうやら後部飛行甲板に命中したようだ。

 

「撃ち続けて!」

 

双方の後続艦も砲撃を開始し、その激しさを増していく。だが、どちらもまだ落伍艦はいない。

先に脱落したのは2番艦のロ級駆逐艦だ。シバリーと吹雪で落伍したロ級を優先的に砲撃する。必死に逃走するも遂にロ級の行き足が止まった。

 

「あのロ級に火力を集中しろ。冷静にやれ。」

 

シバリーの砲身がほんの少しだけ下がる。ロ級は生き残った機銃で抵抗する。

 

「眠れ…………」

 

高初速の5inch硬芯徹甲弾がロ級の喫水線に命中する。ロ級は少し傾いたと思った頃には転覆していた。

 

「敵殿艦沈没!やりました!」

 

見張り妖精は跳ねて喜ぶ。しかし戦闘は終わってはいない。両艦隊共に距離を置き、雷撃戦に持ち込む。

その時、深海棲艦隊とは別方向から魚雷が走ってくる。それにいち早く秋月が警告した。

 

「右舷3時から雷跡確認!数3!」

「全艦、回避運動始め!!」

 

雷跡を辿ると遠方に複数の豆粒が離脱行動に入っていた。発射された魚雷はいずれも命中はしなかったが回避運動を余儀なくされた。

 

「敵艦隊、そのまま離脱するようです!最上さん、追いますか!?」

 

興奮気味の妖精の意見は戦術的には正しい。軍隊の基本に置いて、まず優先目標を順につけて確実に撃破するのが常識だ。

しかし、最上は違っていた。

 

「ボク達も離脱するよ。」

「えっ!?」

 

その場が驚き、静まり返る。その場の半分の者は未だに理解できていない様子で、残る半分は信じられないといった感じだ。

数秒の間が空き、妖精の一人が最上に詰め寄る。

 

「も、最上さん!?今なら、敵を!」

 

その時、最上の手元にはある一通の電文が握られていた。妖精がその電文を手に取り読み上げる。

 

「えーと、

”天岩戸開ク、社ニ戻ラレタシ”

なるほど、そう言う事ですか。分かりました。」

 

その電文は無事に遣日艦隊がトラック島に着いた事を知らせていた。

トラック艦隊は命令通りに一斉右回頭を行い、トラック島に針路を取った。

だが、復讐に燃えるヌ級の予備艦載機達が超低空で静かに刃を突き立てんと接近していた。

さらに運の悪い事に先ほどの魚雷艇の数隻が艦隊に肉迫、撹乱していた為反応が遅れた。

 

「敵機だ!真っ直ぐシバリーに突っ込んで行きます!!!」

「シバリー!!!」

 

最上と見張り妖精が叫ぶと同時にシバリー中央部に”敵機”が命中した。その爆発は確実にシバリーに致命傷を与えていた。残る敵機その他の艦にも体当たりを試みたが、ツァネフから緊急発艦したSu-33が全滅させた。

一方、直撃したシバリーはさながら地獄の様な有様だ。

 

「ぅ………………ぁぁ…………………」

「シバリーさん!シバリーさん!しっかりして下さい!!だ、誰か!!」

 

意識のないシバリーの艤装と制服はボロボロになり、身体の至る所から出血していた。速力は低下しているが機関部への打撃が少なかったのが不幸中の幸いだ。

大破した箇所では応急修理と火災への対応に追われていた。

 

「弾薬庫への注水急げ!!火災はなんとしても食い止めろ!!」

「「はい!!」」

 

応急修理妖精達も必死に作業する。シバリーの方も止血等の応急処置が行われていた。

外では吹雪と秋月が曳航準備にかかり、最上とツァネフが警戒にあたる。吹雪と秋月は魚雷艇からの機銃掃射を受けていたが、魚雷艇は既にツァネフ艦載機により海の藻屑と消え去った。

艦隊は通常の半分以下の速力で潜水艦と空を警戒しながらトラック島に帰投した。

 

トラック島執務室

 

シバリー大破の報は提督にも衝撃を与えていた。何せ低脅威目標しかいない作戦だ。こればかりは予測出来なくても仕方ないだろう。

それでも提督は血眼になって作戦に関する書類を片っ端から読み進め、作戦に粗がないか探していた。その様子は傍から見れば狂気じみていた。

 

「くそっ、くそっ…………………」

 

提督は手を止め、手に血が滲む程握るとその拳を机に叩きつけた。

 

「すまん……………………」

 

提督の頬を一筋の涙が伝う。提督の脳裏にはかつて、榛名が沈んだ場面が浮かぶ。

今回は帰って来れたとはいえ、もしもと考えると寒気と罪悪感がこみ上げる。

するとその思考を中断させるかの様にノックさせる。提督は思考回路を別の方に接続し直す。

扉の向こうから大淀が伝言を伝えて来た。

 

「提督、翌0900から遣日艦隊司令官と会談の予定です。その打ち合わせの為、速やかに応接室へおいでください。」

「分かった。直ぐに向かう。」

 

提督は顔を洗い、身だしなみを整えてドアノブを捻った。




いかがでしょうか?
やはり一話に纏めるのは難しいですね。
さてさて、次回は遂にアメリカ艦とご対面でございます。どのような展開が待っているのかはお楽しみに…………
それではまた次回、お会いしましょう!




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