今回は日常系に挑戦してみました。(戦闘も一応していますが)
日常系が嫌いな方は速やかに離脱願います。
《日常系がなんだ!俺が読んでやる!》
という方はそのまま匍匐前進でお進み下さい。
それではどうぞ!
幽霊船騒ぎの翌日、トラック泊地技術開発棟ではてんやわんやの騒ぎとなっていた。
なにしろ、大きな仕事が三つも舞い込んで来ているからだ。
一つは新しい格納庫の建築。
もう一つは先ほど編入された揚陸艦の修理。
最後は、格納庫の整理だ。
とにかく技術開発部の妖精や人員をフル稼働させていた。
その様子を提督は窓からぼんやりと眺めていた。そして、チクリと冷たい視線を感じた。
「提督、何しているんですか?早くその書類を片付けてくださいね。」
と大淀は笑っているが目が笑っていない。すると去り際に思い出したかのように報告する。
「今日から新聞記者の方が来るので覚えていてくださいね。」
と伝えて消えた。提督は書類に目を落とす。そこには開発許可証や資材の消費状況を伝える書類ばかりだ。
「はぁ、ほとんど同じ書類だからまとめてくれれば楽になるのにな。」
認可のハンコを押す。ただ適当に押すだげでなく認可出来ないものと分けるため中身を確認する必要がある。すると一つの書類に注目する。
「ん?これは……………」
そこには『視察日程』と書かれていた。そして驚愕の事実が浮かぶ。トラック泊地視察が明後日なのだ。
「嘘だ!」
今の現状でここに来られては困る。恐らくはバザード達を見に 来るだろう。最悪連れて行かれるかもしれない。それに今各所で工事しているし何より応接室と会議室の冷房が故障している。長官をそんな暑い所で過ごさせる訳にはいかない。提督はフラフラとした足取りで布団に篭った。これが夢である事を信じて。
トラック泊地飛行場に一機の輸送機が着陸する。タラップからシャツと黒いスカートを着た少女が降り立つ。腕には『民間報道員』と書かれている腕章をしていた。
「文屋さん、荷物はこれでいいのかい?」
輸送機の搭乗員が荷物を降ろす。新聞記者はにこりと笑う。
「ありがとうございます。」
搭乗員は軽く返すと機内に消える。一人の残された記者を出迎えるのは海風と南国特有の太陽だ。
「出迎えはなしですか。」
ポツリと呟き荷物を持って港へと向かった。
上空では訓練中と思しき戦闘機が通過した。
歩くこと数分で司令部にたどり着いた。司令部に向かうまで誰一人として出会わなかった事に嫌な感じを覚える。司令部の階段を上がり、執務室と書かれた扉をノックする。
「どうぞ。」
中から若い男性の声がする。どんな人物かを想像しながら入った。
「失礼します。
今日からこの鎮守府に取材をします。射命丸 文と申します。」
そこには普通の二十歳後半の男性がいた。顔は普通より上、イケメンより下といったところだ。ちょっぴり残念だが、愛想が良いのは幸いだ。前の陸軍取材は完全にのけ者扱いだったのだ。
「君が記者さんか。最近の新聞社は可愛らしい記者さんも前線に派遣か。」
文は”前線”と言う単語に引っかかる。あくまでも補給連絡線で重要な島の取材だけだ。
「あの、ここは最前線基地ではないと思いますが?」
提督の片眉が吊り上がる。やってしまったと思うが後に引くことはできない。
「最前線はラバウルやポートモレスビーを中心とした南方戦線の筈でこのトラック鎮守府はあくまでも補給基地としての機能が強いのでは?」
提督は席に座り、手を組んで文を見据える。
「確かに最前線は南方戦線だ。しかし、戦争は最前線でドンパチするだけではない。
例えば、良い銃や戦車とかで武装してもそれを動かす燃料や、弾薬が必要だ。
それにここは最前線から一歩下がっただけで奴らに攻撃される可能性は十分にある。今は減ったが時たま空襲もあるしな。”補給の最前線”なんだよ。分かってくれたかな?」
なるほどと納得のいく文。すると、一人見慣れない装備の女性が入室する。
「お呼びですか、提督。」
陸軍よりごつく重たそうな装備をしている。
「ちょうどいいな。妖精さん、こちらの記者さんを部屋に案内してくれ。」
文は目を疑った。この明らかな陸戦装備をした兵士が人間ではないことに驚いた。兵装を動かす妖精はいるとはいえ自ら銃を持って敵を撃ち殺す事をしないのが一般的だ。せいぜいいても陸娘の操る戦車の装填妖精程度で、専門的に行う妖精はいない。
「なぁ、文屋さん。今まで地獄を見てきたかい?」
突然、話しかける妖精に動揺する文。
「へっ?あっ、はい一応は。」
フンと鼻を鳴らし、振り返る。整った顔立ちの妖精は真剣な眼差しで文を見つめる。
「いいか?恐らく、これからはここら辺も地獄と化す。数日だけ取材したら帰った方がいい。」
「なんでそんな確信があるのですか?何か証拠でも?」
不満げに質問する文に肩をすくめる。
「勘、としか言えないな今のところは。」
馬鹿にするような目で妖精を見つめる。
だが、妖精の言った事はあながち嘘でもない。
トラック泊地を囲む状況は良くない。南方戦線の戦闘は陸海空共に日増しに激化している。補給線維持も問題が発生している。陸軍と海軍の対立だ。陸軍は北方戦線を重視している。それに対して海軍は南方戦線を重視している。これによりぎりぎりの国内の輸送船保有量を圧迫していたのだ。
「そうですか。」
しかし、文は国内の報道を信じて疑わない。深海棲艦に対して優位に戦闘していると言う報道を。
部屋に案内された文は荷物を下ろしてベッドに横になる。
「今日は何処を取材しようか………な……………」
そう言って文は意識を手放した。
ドックにはヴァルキリーが改造工事を受けていた。バザードに乗艦していた修理妖精達も手を借りながら作業をしていた。しかし、その船体は軽く空母くらいはある。
そんなてんやわんやの騒ぎとなっているドックの隣に静かに一隻の戦艦が眠っていた。
その名は榛名。
中部海域戦闘終了からドック入りさせて二週間ぶっとうしで修理していたので直ってはいるのだが、肝心の榛名は意識が戻っていない。すぐさま病室に運び込み、手術した。手術は成功したもののずっと病室だ。
そこに金剛と提督が現れる。
「ハルナ、今日も見舞いに来たのデス……… 」
未だ目覚めぬ妹をそっと撫でる。その顔は何処かいつもとは違っていた。提督は花束を机に置いた。
「すまない…………」
提督は意識のない戦艦に謝罪をする。あの時きちんと判断し、撤退命令を出せばあの様な自体にならずに済んだ。窓の外には穏やかな海とドックなどの施設が見えた。すると突然、金剛が提督に抱きついた。驚いて金剛を見るとそこには涙で顔を濡らしていた少女がいた。
「テ、テートク、こ、このままハルナが戻らなかっ………たら…………」
金剛は怯えていたのだ。また妹を失う事に恐怖していたのだ。その感情をせき止めていたが、ここでその限界を迎えたのだ。提督は金剛の気持ちを受け止めた。
「大丈夫だ。ウチの妖精を信じろ。」
泣きじゃくる金剛を部屋に送った。部屋に着く頃には少し落ち着いていたが、まだ涙は止まっていない。金剛は無言で部屋に入っていく。提督は一人、執務室へと戻る。そろそろ作戦開始時間だ。
南方戦線への補給航路に6隻の艦艇が作戦開始を待っていた。今回は偽電文を放ち、寄ってきた潜水艦を殲滅するものだ。最近、活発化しているのが潜水艦による通商破壊行動で提督の頭痛のタネだ。艦隊編成も対潜戦闘を行える駆逐艦と巡洋艦で構成されている。旗艦は天龍、それにシバリーと第六駆逐隊の編成だ。
天龍は隣で待機している灰色の巡洋艦を見つめていた。新しく入って来た時からあまりよく思ってない。今でもあんな軽武装で戦えるのかと疑っている。そんな時、
「てんりゅーさん、提督から入電。”サメ退治開始1335”です。」
天龍は艦隊間通信用短波無線を入れて僚艦に作戦開始を伝えた。
「よっしゃ、お前ら付いて来い!」
各艦のマストに戦闘旗掲げられる。機関部が唸り、25ノットで海原を進む。
海底に黒い鋼鉄のサメが眠っていた。このサメは今日ここを通過する大規模な輸送船団を葬る為の布石だ。。
カ級は艦長席に座り聴音手の報告を待っていた。ここに現れるだろう羊の群れを。すると、
「カ級さん、複数の推進機音接近。」
来たかと思うと鳥肌が立つ。この瞬間を待っていたのだから。
しかし、次の報告でその気持ちに冷水を浴びさせられる。
「数は二軸小型艦、恐らく駆逐艦と思しきものが4、二軸中型艦、巡洋艦級が2。どうします?」
乗組員はカ級に判断を仰ぐ。しばらくの間、重苦しい空気が漂う。
「恐ラク奴ラハ主力ヲ狙ッテイル。ナラバココデ仕留メルシカナイ。主力艦隊ニ連絡、
”敵対潜掃討艦隊ヲ発見ス。速ヤカニ離脱セヨ”
攻撃用意。」
ランプが赤に変わり、各々が戦闘配置につく。
「潜望鏡深度マデ無音浮上、ユックリダ。」
「了解、潜望鏡深度マデ無音浮上。メインバラストタンク排水、2分の1。」
バルブをゆっくりと開ける。聴音手からは敵艦の報告が続く。どうやらまだ気づかれてない。
だが、その動向は空にいる鷹に筒抜けだった。
シバリーCICでは哨戒ヘリの敵潜水艦発見の報が入り、戦闘配置へ移行する。無論、天龍や第六駆逐隊にも伝わる。
「目標アルファ、なおも浮上中の模様。方位250、距離1万。」
シバリーは艦隊通信用無線を繋ぐ。
「シバリーから天龍へ、敵潜水艦への攻撃許可を求む。」
旗艦に判断を仰ぐ。なにしろ本命ではない目標を攻撃するのだ。受話器の向こう側では沈黙が続く。そして、
「わかった、許可するぜ。だが必ず仕留めろよ!」
許可を貰ったシバリーに迷いは無い。
「対潜戦闘用意!目標、敵潜水艦。アスロックで対処する。射撃用意!」
CICとシーホークで敵潜水艦に攻撃を当てるための情報が共有される。
「シーホークからの座標を入力。アスロックの誘導はシーホークに託します。」
「敵潜水艦、浮上を止めました。注水音を確認、攻撃体制に入っています。」
シバリーは攻撃指示を出した。
「先手を取る。アスロック発射始め!」
四角いランチャーから対潜魚雷が射出される。発射された魚雷は空中を飛翔し、射程内に入るとパラシュートで落下を始めた。
それをカ級は潜望鏡で見ていた。
「ナンダ?アレハ……………」
「海面に何かが着水しました。」
ソナー員からも報告が入る。謎の物体について考えていると聴音手が叫ぶ。
「前方突破音!距離至近。これは………魚雷です!」
「急速潜航!深度150!回避行動急ゲ!」
頭の中では撃沈の二文字が浮かぶ。 潜航中の潜水艦は魚雷一発でも撃沈する。そして海中での撃沈は乗組員全員死亡を意味する。
「間に合いません!衝突まであと10秒!う、うわぁぁぁ!」
そして、とてつもない衝撃と海水が襲いかかった。
海上では水柱が立つ。その中には残骸と重油が混じっていた。
「敵潜水艦の撃沈を確認。他の音源ありません。」
シバリーは散っていった敵潜水艦に敬意を評した。主力を逃がす為に自ら囮になったのだ。シバリーは艦隊に戻る。
潜水艦の報告を受けたのか、作戦海域を調べあげても主力の潜水艦隊はいなかった。
《ちっ、トンズラしやがったか……引き上げるぞ。》
天龍の声に悔しさが混じる。その気持ちを抑えて帰投を選んだ天龍をシバリーは評価した。てっきり、燃料ギリギリまで捜索するかと思いきや、理性的な判断を下した驚きもあるのだが。
この作戦は事実上の失敗となった。戦果は潜水艦一隻のみ。
シバリーを除いた艦娘は何処か納得の行かない顔で鎮守府に帰投した。
いかがでしょうか?
もはや何がしたいのかわからないですね。
すみません…………
それとお気に入り登録が30件超えました!
有難うございます!!!
このようなおつまみにもならないような小説を読んでいただけるとは!
これからも頑張って参ります!
それではまた次話でお会いしましょう!