とある魔術の黄金錬成 作:翔泳
久々に書いたので、文が大変な事になってる気がします。
「遅いな」
ベンチへと腰を下ろしている上条当麻が呟いた。
彼のいる場所は公園の入口に近い場所だった。
レンガが敷かれた道が入口から続いており、左右には街灯とベンチが置かれている。公園の中央は噴水が置かれてありその周りにもベンチが並べられ、それを囲うように砂の広場が広がっていた。
ちょうど、噴水の部分が片側に寄っているので、普段であるなら子供達で賑わっているのだろうが、今日はその姿は見えない。
「確かに遅いな」
公園へとやって来てからカップラーメンを作っていたなら一〇は作れているだろう。
「アイツ一体何本吸ってやがんだ? 今日吸えなかった分ですとか言って五本も六本も吸ってんじゃねえだろうな」
上条当麻曰く、ステイル=マグヌスと言う魔術師は根っからのヘビースモカーらしい。
時間の経過具合から一本では足りず、座り込んで新しいタバコに火をつけ続けている可能性も無きにしもあらずだ。
だが、すでにアウレオルス=イザードが生きていると言う情報が魔術側にも知られてしまった以上、これからどうして行くか決めなければならない。
そんな状況の中で、態々科学側の本拠地である学園都市までその事態を伝えに来た魔術師が、無駄に時間を潰すとも考えづらい。
「上条はステイルと言う魔術師のことをよく知っているか?」
「何でも知ってるって言う仲じゃねぇけど、インデックスの為なら何でもするってことは確かだな」
「インデックス? では彼も」
「今のパートナーが俺、その前がステイル、んでもってその前がアウレオルス、お前って訳」
公園のベンチに腰を下ろし、頭の後ろに両手を回して空を眺める様な姿勢で上条当麻は言う。
「救えなかった者と救えた者か」
「おいおい、前にも言っただろ」
上条当麻はベンチから立ち上がり、アウレオルスに面と向かって、
「俺もお前も、インデックスを助けたいって気持ちは同じだって。ステイルだってそうだ。結果が違っただけ」
その結果が大きな差なのだろ、とアウレオルスは思ったが、実際に記憶の無い事柄について、深く考えようとしても、答えにたどり着くのにいったいどれだけの時間がかかるか分からない。
「君が言うのなら、そうなのだろうな」
素直に上条当麻の言葉を受け入れ、そしてふと思う。
ステイル=マグヌスの遅れている理由。
「なら、インデックスに何らかの危険が迫っているのではないか?」
「インデックスに?」
「彼は、彼女の為なら何だってするのだろう?」
土御門元春は世界を敵に回し組織を裏切ったアウレオルス=イザードと言う魔術師が生きていると言う情報が出回れば、ローマ正教が必ず何かしらの行動を起こしてくるだろうと考えていた。
そして、ステイル=マグヌスはその情報が魔術側に伝わってしまっている、と学園都市に足を運んだ。
その状態を差し置いて優先すべきことと言えば、インデックスの身の危険、と言うキーワード以外に考えられない。
と言うより、持っている情報からはそれくらいしか考えられないと言う方が正しいが。
上条当麻は携帯電話を取り出し、メモリに登録してある番号へ直ぐに連絡を入れる。
「・・・・・・くそ、繋がらない」
インデックスは機械音痴なところがあるので、携帯電話を充電し忘れていると言う可能性も十分にあったが、
「ここは、最悪を想定した方がいいだろうな」
「ああ」
携帯電話を閉じると、それを強く握りしめる。
「とにかく、ステイルと合流しよう」
上条当麻の言葉にアウレオルスも頷く。
「しかし、どうやって?」
「とりあえず、さっきの場所に戻るのが一番いいと思う。ステイルが態々俺達を遠ざけたってことから考えると、あの近くにインデックスを狙っているヤツがいるって考えた方が筋が通るしな」
ステイルがベンチへと座り込んだ場所と、この公園との距離は二キロ程度しか離れていないため、走れば一〇分も掛からずに元の場所へと戻れるだろう。
「走るぞ」
「あぁ、ただ少しペースを落としてもらえると助かる。あのビリビリ少女の時の様な速度では行った頃にヘトヘトになってしまうのでな」
「まぁ、確かについた時にはもうヘトヘトでしたってのは、さすがにキツイな」
互いの口に笑みがこぼれる。
「なら、この場で戦ってみる?」
その笑みをかき消す様に声が聞こえた。
「誰だ!?」
広場を見回してもそこには誰もいない。
「上条当麻、上だ!」
街灯に一つの影があった。
赤い髪が特徴的な少女だった。
白衣なのだろうか、サイズ違いにも限度があると言いたくなるほどその袖は余っており、様々な色で模様が描かれていることから、浴衣に見えなくもない。
「お前、魔術師か」
「お前ではないわ。私はパラミラ」
幼さが残っているも、刺のある声だった。
顔立ちもそうだ。
歳は一四程度だろうが、それとなく大人びた風格も感じる。
「あんたが現在の禁書目録のパートナー
「やっぱりインデックスが狙いか、インデックスをどうするつもりだ」
「は? 禁書目録? なんで私がそんなもの狙わなくちゃいけないのよ。まぁ、目的はそっちでも達成できなくはないけどね」
え? と呆気にとられたのは上条当麻だった。
「インデックスが狙いじゃない?」
それこそ、こちらが勝手に想像を膨らませただけだった。
最悪の状況を想定し、出た結論がインデックスに危険が迫っていると言うものであって、結論付けるものは何一つなかった。
それを、単に相手側から禁書目録と言う言葉が出たからといって決めつけただけの話なのだ。
「だったら、お前は何が目的で学園都市に来た? ならステイルはなんで?」
「ステイル=マグヌスねぇ。それはこれのことかしら?」
パラミラが長い袖の中から指先を出すと、そこにはラミネート加工された一枚のカードが挟まっていた。
「そのカードは・・・・・・」
アウレオルスにとって、そのカードは初めてみるモノだったが、上条当麻の反応からそのカードがステイル=マグヌスのモノで間違いないと確信する。
「以前の禁書目録のパートナーって言うからどんなものかと思ったけど、意外と呆気なかったわ」
パラミラが指を弾くと、カードがひらりと宙を舞い落ちてくる。
「まぁ、パートナーの選出方法が強さでないことくらいは分かっちゃいたけど、正直拍子抜けよ」
と、右手の手の平を上に向けて言う。
相手の狙いがインデックスではないと言うことから、やはり自分が狙いかとアウレオルスは薄々ではあるが思い始めた。
決して自惚れている訳ではない。
今持ち合わせている情報から考えた結果、そう言う考えに行き着くのは当然であり、ただ一つ、気になる事があると言えばあった。
「アルス、お前は余計な事するんじゃねぇぞ」
上条当麻も相手の目的を察しているらしく、アウレオルスではなく、インデックスに紹介した時の偽名で呼んだ。
「あぁ、分かっているが、しかし」
バサァと、パラミラが動きにくい袖を振り払う仕草をする。
何か仕掛けてくると踏んだアウレオルスと上条当麻が足を広げて重心を落として構えると、
「この場で殺ってあげたいのは山々だけど、やっぱり同時じゃないと、失礼よね?」
刺のある声を出していた口元が不気味に笑い、同時に、
ゴボゴボと、沸き上がる様な音が耳に入り、二人は後方へ振り向いた。
「取りあえず、私の可愛い子達にあいさつでもしといちゃえば?」
二人の視界に入ってきたのは、得体の知れないネバネバとしたモノだった。
銀色で、人の形をした人形に見えなくもないが、そうであるならば、出来損ないとしか言いようがないだろう。
形は完成しておらず、上半身に見える高さ一メートル程の塊に、腕に見える先端が二本左右から生えている。
シュコシュコ音が聞こえるのは、人の呼気を連想させるためだろうか。下半身は地面に埋もれてしまった様に見えない。
と言うよりも、形成されていないのかもしれない。
蠢く塊は三つ。
少しずつ近づいて様子を伺っている。
と、思った矢先、
その内の一つが左右から生える腕で地面を叩きつけ、その勢いを使い、それこそ弾ける様に飛びかかってきた。
「クッ」
アウレオルスはさらに重心を落とし、言葉を紡ごうとして、
「アルス!」
その声が聞こえると同時に左に転がった。
グチャ、と蠢くそれが地面に激突し、弾けては元に戻ろうともがいている。
「魔術で作ったものなら!」
上条当麻が、蠢くそれ目掛けてアッパーの要領で右手をぶち当てた。
元の姿に戻ろうともがいていたそれは、右手が当たると同時に吹き飛び、地面に飛び散った。
「あははッ、それが噂の
パラミラが面白おかしく笑う中、リミットが外れたかの様に襲いかかってきた残りのそれを幻想殺しで破壊した上条当麻がパラミラを見上げた。
「これで終わりか、パラミラ」
破壊したそれらは再生することなく沈黙している。
周囲に気を配るが、新たにそれらが生み出されて行く様子も見受けられない。
上条当麻の問いかけに対し、パラミラが尖った笑みを見せる。
と、
「がぁああッ!」
皮膚が張り裂けた。
外から切り刻まれたのではないく、内から溢れてきた何かに耐え切れず弾けたと言う方が正しいだろう。
アウレオルスの右腕が赤に染められ、夥しい数の傷が一瞬にして現れた。
「何が・・・・・・ッ」
パラミラは街灯の上から動いていない。
かと言って、パラミラの生み出した蠢くそれらの攻撃を受けた訳でもない。
アウレオルスは地面を転がり、三つのそれらは上条当麻によって破壊された。
ただそれだけのハズ。
「うーん、右手か。まぁ、それに対しての効力をもう少し確かめたいって気もするけど、噂通りに魔術を打ち消すってとこを見れただけでよしとしなきゃね」
「これは貴様が、やったのか」
腕を抑えながら、アウレオルスは訊ねる。
「貴方も不運ね。あいさつはちゃんとしなくちゃダメってことよ」
パラミラは視線を上条当麻に変え、
「ところで上条当麻。ステイル=マグヌスを返してほしかったりしちゃう?」
「ステイルは無事なのか!?」
「さぁ? それを知りたければそのカードが指す場所にまで来ることね」
そう言い残し、パラミラが二人に背を向ける。
「クソ、待てッ・・・・・・ッ!?」
上条当麻が叫んだと同時に、急に周囲が暗くなった。
影に覆われたのだと気がつくのに、それほど時間を有しなかった。
「上か!」
ガラスにしては少々濁りすぎている。氷の様にも見えるが、そんな事を考えている暇などない。
直径一〇メートルにも及ぶであろう、巨大な円柱が、今まさに頭上から落下しようとしているのだ。
飛び退けばなんとか大丈夫だろうが、位置的に腕の痛みで反応の遅れたアウレオルスの真上だったため、逃げるには時間が足りない。
一瞬、言葉を紡ごうとしたアウレオルスであったが、その声を上条当麻の突き上げた右腕がかき消した。
威力や大きさは関係ない。
それが異能であるならば、上条当麻の右腕が全てを打ち消す。
氷の様な円柱がガラスの様に粉々に散っていく。その向こうに、パラミラの姿は無い。
地面に突き刺さったカードが一枚、風に舞って二人の近くに向かって来た。
そこに書き記されてあったのは――