とある魔術の黄金錬成 作:翔泳
上条当麻は不幸な人間だ。
一緒に歩いていればブレーキの効かなくなった自転車が突っ込んで来るわ、公園で遊んでいる子供達が打った球が彼目掛けて飛んで来たり、取り出そうとした携帯電話が地面に落ちて外れたバッテリーが偶々通りかかった掃除ロボットに吸い込まれたり、(本体が無事なだけでもラッキーだったらしい)
ただ歩いているだけで最早ヘトヘトになっていた。
「何と言うか、君の不幸は筋金入りと言うべきか」
「欲しいなら分けてやってもいいぞ」
いや、結構。とアウレオルスは首を横に振る。
彼、上条当麻の右腕には
ただその代わり、神様の加護、つまり運と言われる様なモノまで片っ端から打ち消してしまっているらしく、そんな上条当麻には不幸ばかりが訪れると言う訳だ。
「つぅか、まさかお前が隣の部屋に住み始めるとは思いもしなかったな」
あの夜、土御門と一時間後にこの場所で会う、と言う約束をし上条当麻とアウレオルスは銭湯へと向かった。案の定インデックスは先に行っていたのは良いものの、お金を持っておらず銭湯内に入ることが出来ない為、外で待ちぼうけをくらっていた。
そして銭湯の帰り、デザートを買うと言う名目でコンビニに立ち寄った際、外で土御門元春と合流。
そこに彼が持って来たのは一つの鍵だった。
その鍵こそが上条当麻の隣部屋の鍵であり、土御門元春が言うには
『近くに住んでいた方がこちらとしても監視が利くし、いざと言う時に行動が早くできるってもんだ。カミやんが面倒を見るって事もあるが、まぁ手続き等はこちらで済ませてあるから心配するなって事ですたい』
だそうだ。
簡単に言えば監視しやすいと言う事で上条当麻の隣部屋に移住させられたと言う訳で、どうやって学生でもないアウレオルスに学生寮が貸し出されたのは不明だが、土御門曰く自分にある特権みたいなモノを使っただけらしい。
「まぁこっちとしてはインデックスの面倒を見てくれる人が増えたのはありがたいこった」
「面倒を見ると言うより、あれは単なる食事係みたいなものだろう」
アウレオルスは学園都市の学生ではない。その為上条当麻が学校(夏休みの補修)へといっている間インデックスの面倒を見ていると言う訳なのだが、アウレオルスの言うようにそれは食事係に近い物がある。
常に口から出るのは『お腹が減った』と言う決まり言葉。その都度何かを作っては与えている訳だが
「ああアウレオルス、前にも言ったけど我慢させる事も大切だぞ。じゃないとインデックスは我慢の出来ない子になっちまう」
「それもそうなのだが」
(あんな今にも空腹で死んでしまいそう、みたいな顔をされてしまうと何かを作ってあげたくなってしまうだろ)
ちなみにインデックスが言うには、料理に味はとうま以上まいか以下との評価。まいか、と言うのは土御門の義妹の事らしく、アウレオルスの反対隣に住む土御門に部屋によく訪れているそうだ。
「てか、アウレオルスは普段なにをしてる訳? ずっとインデックスの面倒って訳じゃないだろうし」
「あぁ、とりあえず辺りの探索と言ったところか。知識としては残っているみたいなのだが、一度自分の目で見ておいた方がいいと思ってな」
なるほど、と上条当麻は軽く頷く。
上条当麻も記憶喪失だからその気持ちは良く分かる。現に今も夏休みの補修のお陰で学校までの道のりや学校の見取り図も一通りのチェックは完了している。下駄箱の位置もバッチリ。残る問題は自分の座席位置だけとなっているのだが、それだけは新学期になってみないと確認の仕様が無い。
補修のお陰などと言っているが、本来補修は七月の段階で終わっているハズだったのだが、記憶を失う前の上条当麻はどうやらその補修に出席していなかったらしく、八月になってもただ一人補修を受けさせられている。
「なんて言うか、不幸だ」
ぼそっと呟かれた言葉にアウレオルスが首を傾げていると、
「見つけたわよ!」
後方より声が聞こえた。
アウレオルスが振り返ると、そこには茶色の短髪に半袖の白いブラウスにサマーセーター、灰色のプリーツスカートの少女が何やら険しい表情でこちらを、正確には上条当麻を睨みつけていた。
上条当麻はその声を聞くが否や、片手で頭を掻きながらハァと深くため息をつく。
「で、何の用なんだ? ビリビリ」
「わったっしっには、御坂美琴って名前があるって言ってんでしょうが!」
御坂が怒鳴った瞬間、その茶色い髪の先端から青白い火花が散った。
「おまえっ、またこんなとこで!」
上条当麻が右手を突き出した瞬間、青白い雷撃の槍が上条当麻の右手を避雷針にするかのように襲い掛かった。その雷撃は上条当麻の右手に触れた瞬間弾けるように消滅する。
「あぶねぇだろ! 殺す気か!」
「あんたにしたらこれくらいどうって事ないんでしょ」
「お姉様、どうなされたんですの?」
「黒子、邪魔しないでね」
御坂美琴は前を向いたままそう答えた。
白井黒子はその目線を追うように視線を移すと、そこにはツンツン頭の少年が立っており、その隣には染めた様に真っ黒なショートヘアーの男が一緒にいた。
「(そう言えば、こんな噂を耳にしたことがありますの。つい最近、お姉様が負けた。正確には勝てなかった能力者がいると。まさか、この男性のどちらかが?)」
「つか、毎度毎度町のど真ん中で電撃をぶっ放しやがって、もっと時と場所を考えろよ!」
「場所を移したらちゃんと勝負してくれるのかしら」
御坂美琴の軽く上げた手の指先からはバチバチと青白い火花が絶え間なく血走っている。
「(やっぱりそうですの。あのツンツン頭がお姉様が勝てなかった能力者ですのね)」
「悪いけど、ただいまこの上条当麻さんは色々と不幸なことの連続でお疲れモードなんです。現在もその不幸は継続中なんだけど」
今にも襲い掛かってきそうな御坂美琴とは逆に、ため息をついて一気にローテンションになる上条当麻。
「上条当麻。あれは一体何なのだ?」
一部始終を観覧していたアウレオルスは呆れたように上条当麻に訊ねる。
「ん? ああ、まぁストーカーみたいなモノかな?」
「だっれが、ストーカーよ!」
額から火花が散ると同時に、上条当麻目掛けて電撃の槍が放たれる。
しかしそれは上条当麻の右手に当たると弾け飛ぶ様に消滅した。
「ハァ、不幸だ」
そう呟いて、頭を掻きながら上条当麻は数秒考えると
「アウレオルス……走れ!」
一八〇度方向転換して走り出した。隣にいたアウレオルスも二秒ほど遅れて上条当麻の後へと続く。
「ちょっと! 待ちなさいよ!」
御坂美琴もすぐさま反応して追いかける。
上条当麻との距離は一〇メートルも無いが、一向にその距離が縮まる気配が無い。上条当麻は意外とタフだ。例えこのまま追い続けても捕まえることは難しい。過去に一晩中追い掛け回した揚句逃げ切られてしまった経験のある御坂美琴にはよく分かっていた。
「(仮に電撃を放っても防がれちゃったら意味無いし、でも前に出れれば――)」
「お姉様!」
御坂美琴がチラッと後ろに目線をやると同じようして白井黒子も御坂美琴のすぐ後ろを走っていた。
「お姉様、理由はよく分かりませんが。お姉様が良いと言うのであればこの白井黒子、手をお貸しいたしますわ」
そうね、と御坂美琴は細く笑うと
「じゃあお願い。私をあいつらの前に出して」
「――まだ追ってきているようだが?」
後ろを振り返ったアウレオルスが上条当麻へ問いかける。
「くそぉ、本当にしつこい」
「相手をしてあげれば良いのではないのか?」
それはムリだ、と上条当麻はきっぱりと答えた。
「あいつの相手をしてたら今日の残り時間全てがそれだけで終わっちまう。あいつは毎度一日中追い掛け回されるこっちの身にもなれってんだ」
確かにそれは大変だとアウレオルスは思う。ただ後ろを見ていれば分かるように、向こうはこちらを捕まえるまで追ってきそうな雰囲気である。それに正直な所、このまま走り続けたら上条当麻より先に自分がへばってしまうだろうとアウレオルスは考えていた。
「なるほど、なら向こうが止まってくれれば話しは早いと言う訳だな?」
「アウレオルス、お前まさか――」
「逃がさないわよ!」
上条当麻が何かを言おうとした瞬間、前方一〇メートルの辺りに突然と御坂美琴が現れた。
「のわっ」
急に現れた御坂美琴に反応して止まろうとした上条当麻であったが、ここでも不幸ぶりを発揮。地面に転がっていた小さな石ころに躓き、地面にヘッドスライディングをぶちかます。
「痛~。くそ、
「そう言う事ですの」
ジャリっと地面を踏みしめながら、満更でもない表情で白井黒子は言う。
「残念だったわね、今回は私一人じゃないの。そう簡単に逃げ切れると思わないで」
ったく、と腰に手を当てながら、御坂美琴は地面に座る上条当麻を見下ろす形で見つめる。
前後を挟まれて逃げ場を失った上条当麻とアウレオルス。
そんな状況を見てアウレオルスは一歩前へと踏み出した。
「アウレオルス、お前」
「分かっている。人を傷つける事に使わないと約束したであろう。今回もじっとしてもらうだけだ」
『も』と言う言葉の意味が今一上条当麻には分からなかったが、そんな上条当麻の疑問を知る由もなくアウレオルスは数歩前へ出る。
「何よあんた。私が用があるのはそこのツンツン頭だけなんだけど?」
「私も別に君に用はないんだが、このままだと私も上条当麻も埒が明かないのでな。君達にはここで諦めてもらう事にしよう」
「何を言ってんのよ。巻き込まれたくなかったらそこを退いた方がいいわよ」
バチン、と髪の先から火花が飛び散る。
やれやれ、とアウレオルスは息を吐くと後方にいるもう一人の位置を確かめるように一瞬振り返ると、再び前を向き、
「双方――その場から動くな」
たった一言そう言い放っただけで変化は現れた。
「「な!?」」
御坂美琴と白井黒子は驚愕した。
「(そんな。足が……)」
「(体が動きませんわ……っ)」
まるで金縛りにあったように二人はその場所に固定されたまま動けなくなってしまった。
「心配する事はない、直に動けるようになるだろう」
御坂美琴は幾度も足を動かそうと試みるが、地面と接着剤で固定されているかのようにビクともしない。
「(ちょっとどうなってるのよ!? これがあいつの能力?? でも動けないなら)、こいつでどうよ!」
バチン、と額から青白い電撃が飛び出した。槍となって放たれた電撃はアウレオルスへと向かい、しかしその直前に何かに当たり弾ける様に消滅する。
「悪いなビリビリ」
そこには上条当麻が右腕を突き出して立ちふさがっていた。
「今日はこっちも一人じゃねぇんだ」