とある魔術の黄金錬成   作:翔泳

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お久しぶりです。
パソコンが壊れ、データが全部消えてしまって、宙ぶらりんでほったらかしにしてしまいましたが、記憶を頼りに漸く投稿にこぎつけました。
設定も思い出しながらだったので、あれ?こんなんだっけ?みたいなのもありますが、
それにしても、長い間書いてないと、全然文章が浮かんできませんね、、、


小さな悲鳴

 『あああああああああああああああああああッッッッッ』

 その声は悲鳴だったのか、

 あるいは、悲劇を歌った歌詞だったのか、

 その旋律に合わせるように、

 血で体を染めた獣たちが、今はもう動かない塊を足で踏みつけていた。

 勝利を宣言するかのような雄叫び。

 声にならない声を空へ向かって投げつけ、獣たちは踊る。

 小さな変化だった。

 荒波の中に小石を投げ込み、僅かな波紋を広げたような、その程度のものだった。

 しかし、小さな波紋は、少しずつ荒波へと浸食していく。

 それは、獣が頭を押さえる仕草。

 それは、獣が膝をつく仕草。

 それは、獣の手が以上に広がり、意に反した行動を取る仕草。

 小さな波紋は瞬く間に広がり、赤い瞳の獣は、

 ついに、獣を襲い始めた。

 ある者は、新たな獣を見つけたように怯え。

 ある者は、その凶器によって新たな獣を殺戮していく。

 『ああああああああああああああッッッッッッ』

 その声は悲鳴だったのか、

 悲劇を歌った歌詞なのか、

 旋律に合わせるように、

 獣は死のワルツを踊る。

 視界のすべてが赤に染まる。

 空も、海も、陸も、ただ水分に鉄の混ざったものに変わっていく。

 やがて、辺りは静寂に包まれた。

 獣たちの雄叫びは消え。

 ワルツを踊る影も無くなり。

 血に染まりし大地には、獣たちであったモノが散乱していた。

 ただ一人、小さなその影は、そっと立ち上がりその中を進む。

 声は止んでいた。

 ただ一つ赤い瞳ではなかった、その水晶には何が映っているのか。

『…………』

 足が止まった。

 小さな影は、今は動かないそれにそっと触れた。

 冷たい。

 ただ、冷たい。

 暖かかったそれは、何の言葉も発することなく、地面に伏せている。

『…………じぃ』

 それは悲鳴だった。

 たった一言の悲鳴に応えるものは何もなく、小さく空へと消えていった。

 

 

 

 

 

 その光景を誰が想像していただろうか。

 誰もが解決策を見出していたハズだった。

 誰も傷つかなかった訳ではない。

 だが、到達点が見えていたハズだった。

 それなのに。

「動くんじゃないわよ!」

 パラミラが叫んだ。

 一体何が起きているのか、状況を理解出来ている者はこの場にいるだろうか。

 突き出した両手の中には小さな短剣が握られていた。

「パラミラ何をしている!」

 アウレオルスが叫び駆け寄る。

「兄さん、ごめんなさい。こんな事になるとは思ってもみなかったわ」

 叫んだのはパラミラだった。

 だが、その短剣を握りしめているのはパラミラではなく、

 岩見澤セレナだ。

 彼女は、その白い肌には似合わない銀色の刃を握り締め、それを体の前に突き出している。

「岩見澤さん?」

 御坂美琴も驚きを隠せていない。

「じぃ、を・・・・・・じぃを返して」

 小さな瞳に光はなかった。

 どこか遠く、遥か先を見つめるように、彼女の視線に写すものはここにはない。

「あなたたちが……じぃを……ッ」

「じぃ?」

 パラミラが小さく呟く。

「そう。……私の……大切な人ッ」

 焦点の合わない視線。

 しかし、その言葉ははっきりしていた。

 月明かりの反射し、短剣が不気味な光を放っている。

 今彼女が平常心を失っているのは明らかだった。

 だからこそ、こちらは冷静に、平常に、物事を見定める必要があった。

「あの凶器、どれくらい危険なもの? あんたの慌て様から優しいモノじゃないってのは分かるけど」

 それは外見だけで言えば、どこにでもあるナイフの様に見えた。

「そうね、詳しい説明を今しても仕方がないから貴方に分かりやすく簡単に言うけど、パスワードを知らない子供が核弾頭のスイッチを振り回してるって感じかしら。それも、あと一つでパスワードが解除できるような状態で」

 一見すれば、と言う言葉は相応しくないと御坂美琴は思った。

 学園都市だからこそ、ナイフのように見せかけた兵器を作ることなど容易なのだろう。

「岩見澤さん、落ち着いて」

 御坂美琴はなるべく平然を装った声で問いかける。

「御坂……さん……?」

 少女の小さな瞳に一瞬ではあるが、光が灯った気がした。

 遥か彼方ではなく、今この時を見つめたような気がした。

「いい? そのナイフを地面に置いて、ここにいる人たちはあなたに危害を加えないから」

「私に……危害を……でも」

 しかし、直ぐに光は失われ、その瞳は遥か遠くを見据える。

「……じぃは……殺すんでしょ」

 瞬間、

「ッ!?」

 ゾワゾワゾワ、と得体のしれない何かが御坂美琴の全身を駆け巡った。

「ま、ずい…………!?」

 同じような気配を感じ取ったのか、パラミラが小さく声を漏らす。

 気配は、すぐに症状として現れた。

「あ…………」

 グワン、と視界が揺らぐ。

 回転性のめまいを思わせるような感覚。

 御坂美琴は思わずその場に膝をついた。

「なに、が……」

 御坂美琴だけではなかった。

 その場にいた全員。地面に倒れている万々谷旬までもが手で頭を押さえている。

「く、……シレネの言霊。見かけで油断した、あの子……まさか、同性に対しても、これほどに効力を発揮するなんて……ッ」

 パラミラが苦悶の表情で何かを呟いていた。

 しかし、御坂美琴は理解できない。

「シレネの言霊? ……何なのよ、それ。……あの子の能力だって言いたいの?」

「あんたに言っても……分からないだろうけど、痛ッ……要するに船員達は歌声に魅了されたんじゃなくて、操られたってこと、痛ッ、痛いから省略!」

「ちょっと分かるように、言って」

 しかし、パラミラは表情を歪めるだけで、続きは望めそうにない。

 加えて、痛みに片目を瞑りながら横目をやると、アウレオルスは片膝をついて視線を地面に向け頭を押さえた状態で動かない。万々谷旬は地面に伏せながら両手を頭に当てている。

 どうやら男性陣は自分よりも苦しんでいるように見えた。

「(操られたって単語。……つまり、精神干渉系。そう考えるのが妥当)」

 頭の中に響き渡る妙な音に遮られながらも、御坂美琴は考察を続ける。

「(でも、私がこうして、影響を受けているとなると……精神系能力じゃない……)」

 御坂美琴に対して精神系能力は通用しないと言っていい。なぜなら、超能力者(レベル5)である心理掌握(メンタルアウト)ですら御坂美琴が有する電磁バリアの影響で干渉することができないのである。

 ならば、可能性として残されるのは、

「(振動を使った操作……)」

 真っ先思い浮かんだのは、キャパシティダウン。

 あれは音の振動を使い、能力者の演算を阻害するものであったが、

「(この……頭に流れる妙な音が、それか……)」

 同じものと言う訳ではないだろうが、何かしらの接点があるのではないか、と考えながら御坂美琴は一つに事実に直面する。

「(……私、あの子のこと、何も知らないのね……)」

 仕方のない話なのかもしれない。

 数か月振りに登校してきた生徒。

 クラス内で浮いてしまう状態はいくら学園都市エリート校である常盤台中学であっても回避することは出来なかった。

 様々な推測が飛び交う。

 妙な噂が湧いて出る。

 噂好きの乙女達にとって、恰好の的であった。

 御坂美琴自身、自分が同年代の中でも上の存在であるという認識はない。

 だが、学園都市第三位である、自分が行動を起こせば周りの対応は自ずと変わっていくであろう、と言う考えはあった。

 だからこそ、声をかけたのである。

 しかし、だからこそ、知らない。

 たった数十分話をしただけ。

 それだけの存在なのかもしれない。

「……クッ…………」

 表情を歪めながら、御坂美琴は正面を見据える。

 尚も短剣を突き出し、遥か彼方を見つめる少女。

 その手は小さく震えていた。

 それが、恐怖によるものなのか、それとも、

「(能力が……暴走している?)」

 その考えが頭を過った矢先、

 それは起こった。

「あ、あああ、あああああああああああッッッッッッッッ」

 それは悲鳴なのか、

 それとも、悲劇を歌った歌詞だったか、

 頭を駆け抜ける、数多の振動が、引き起こす現象。

「ッ?!」

 不意に、御坂美琴の腕が独りでに動き始めた。

「なッ!?」

 それはまるでマリオネットの糸で操られているかのように、自然な流れにそって動き、

「なに、を……ッ?」

 御坂美琴はさらに驚愕した。

 その自分の腕が向かった先は、スカートのポケット。

 そこに入っているモノをおもむろに徐に取り出した腕は、

 その発射口を数メートル先のパラミラへ向けたのだ。

「ッッッッッ!?」

 自分の意思に反してその腕は、バチバチと音をたてながらコインを親指と人差し指で挟む。

「(まずい……まずいまずいまずい…………ッ!)」

 間違いなく、右腕は御坂美琴の代名詞である超電磁砲(レールガン)を放とうとしている。

 初速一〇三〇メートル/秒。

 音速の三倍以上もの速度で打ち出された弾丸を、僅か数メートルの距離で受ければどうなるか。

 対象となったパラミラも表情を歪めながら、その目を見開いていた。

 パラミラは御坂美琴の超電磁砲(レールガン)を知らない。しかし御坂美琴の表情やこの場の雰囲気から自分の置かれている状況を把握したのだろう。

 悲鳴が木霊する。

 一つ一つの音と連動するかのように、御坂美琴の腕も着々と砲弾を発射させる準備を整えていく。

「……一つを展開……ッ」

 パラミラが小さく呟くと地面からドロドロとした人形が現れた。

 一度対峙した時に見た能力。それは一時ではあるが御坂美琴の電撃を防いで見せた。

 しかし、今回はその程度の強度では防ぎ様がない。

 悲鳴が強くなる。

 悲劇を歌った歌詞がその強さを増していく。

 バチバチを音をたてる右腕が、

 ついに、引き金を引く。

「……ん、にゃろッ!!」

 瞬間、御坂美琴は、左手に全神経を集中させ、能力を行使する。

 自らの左手を右腕に叩き付け、不可視の砲台の軌道をずらす。

 一度はパラミラを捉えていた超電磁砲(レールガン)は鼻先をかすめ、50メートル先で跡形も無く消え去る。

 衝撃は後から続いた。

 軌道は修正できたものの、初速一〇三〇メートル/秒の弾丸が鼻先をかすめたのだ。その衝撃は計り知れない。

「クッ…………」

 パラミラは小さく吐息を漏らす。

 一〇メートルは地面を転がったが、それでもかなり衝撃を吸収したのだろう。

 覆いかぶさるようにしていたドロドロの人形が銀色の液体となって消滅していく。

「岩見澤さん……もう、止めて……」

 御坂美琴は、頭痛を覚えふらつきながらその二つを足で地面を支えた。

「(私の能力なら……何とかコントロールを確保出来る!)」

身体の電気信号をコントロールし、体の機能を取り戻していく。

「いや…………来ないで……ッ」

 一歩一歩距離を詰めてくる御坂美琴の姿に目を見開き、暗闇に閉ざされたその瞳に恐怖が彩られていく。

 握りしめた短剣は両手の振動が伝わり小刻みに震えている。

 それは、何かを否定するように、拒絶するように、岩見澤セレナはジリと後ずさる。

「岩見澤……さんッ!」

 ビクン、とその小さな肩が跳ね上がる。

「あ……」

 それが合図になった。

 ダムの堤防に亀裂が入り、僅かながら漏れ出ていたものが決壊し、大量の用水が流れ出たように、

「あああ……ああああああああああああッッッッッッッッッッ!」

 一際大きな悲鳴だった。

 両手で握っていた短剣をも放して、その両手で頭を抱える。

 同時に、

「ゲホッゲホッ……ッ!?」

 大きく咽る声。

 その原因となる人物は、今も地面に倒れ、頭痛を軽減しようと両手で頭を押さえていた。

「ま、まずいっス……コント、ロールが……」

 ハズだった。

 少年、万々谷旬は音もなく立ち上がる。

 マリオネットに様に、腕をだらんと下げ、ふらふらと揺れながら、

 その両足で地面を勢いよく蹴り飛ばす。

「ッ?!」

 瞬間、御坂美琴は電気信号を操作し、腕をクロスさせ万々谷旬の蹴りを防いだ。

 対超能力者(レベル5)。その身体能力は生身の体で第1位の攻撃をすり抜けることを想定されている。

 その蹴りをダイレクトに受け止め、ほぼ無傷で済んだことは、恐らく万々谷旬が操作された状態だったからだろう。

「第2ラウンド開幕……って感じかしら。あんたの能力では、あの子の束縛から……逃れられそうにないもんね」

「……オイラの手に……捕まるんじゃないッスよ」

 万々谷旬の足と御坂美琴の腕が交差した状態で、会話がやり取りされる。

「オイラの手に、捕まれば、真空状態の空気を取り込むことになるッス」

「その状態は、勘弁したいわね」

 言葉を交わすと万々谷旬は後方へと距離を取った。

 生身の人間とは思えないほどに跳躍。

 一蹴りで約一五メートルほど飛んだ万々谷旬は、懐からパチンコ玉を取り出す。

 もちろん、全て万々谷旬が行った訳ではない。彼は、頭の中に流れる旋律によって体を動かされている。

「最大効果範囲は……二〇メートルッス。それ以上は砲身が足りない……それ以下なら砲身が短すぎるッス」

 体の制御と意志が比例しれいないという状況になりながらも、万々谷旬は自分自身の能力を暴露していく。

「そんなに喋っちゃっていい訳?」

「……オイラにはゴールが見えていた。互いに傷つけあったけど……終点は見えていたッス。それを掴むためなら……仕方がないッス。早く、オイラをどうにかして……あの子を助けてあげてほしいッス。……でないと……ッ」

 御坂美琴が横目をやると、そこには頭を押さえながらも立ち上がり、ゆらゆらした足取りで短剣を拾いあげるパラミラの姿があった。

 一瞬、御坂美琴は自分のように、自身のコントロールを得たのかと思った。

 が、その考えは僅か1秒で破棄することになる。

 ゴブォ、と妙な吐息が空気を振動させたと思うと、

 そこに現れたのは、身長三メートルほどの真っ白な巨人。

 同時に、

 ガゴンッッッッ、と白濁の巨人に風穴が開く。

 ちょうど胸の辺りを抉られるように、しかしそれは、みるみる内に修復されていく。

 万々谷旬が放った真空砲(バキュームガン)をパラミラが発生させた巨人が庇った形になった。

「二つのうちに、なんとかしなさい……制御できたのはここまで。……三つを展開されると、下手すればこの学区がなくなるわよ」

 声には焦りがあった。

 学区がなくなる。

 それがどの程度のものなのか、御坂美琴には分からなかったが、パラミラの表情から察するに極めて重要なことであることは分かった。

「私のことは、説明しても理解できないだろうから……省略するわ」

 パラミラは糸で操られたような腕で短剣を構えさせられた。

「私たちを……気絶させて」

 マリオネットと化した腕を横に振るうと、地面に凹凸が現れた。

 隆起したそれは、砂色から次第に濁った白へと姿を変えていく。

「そうすれば、あの子は私たちを……操れない。あれは……気絶した人間まで操れるほど、便利な力ではないッ」

 凹んだ地面には、銀色の水滴が密集し、人型の人形を作り上げていく。

 その人形は、悲鳴を上げたような表情をしている。

 まるで、頭の中を流れる旋律をそのまま表したような、悲劇を歌っているようにも見える。

 その光景が何を意味するものなのか、御坂美琴には理解出来なかったが、今までの勘が何かを訴えている。

「早くして……もうすぐ三つが展開される……いえ、それよりも……あの子が『あれ』に手を出す前にッ!」

 少し荒々しい声でパラミラが叫ぶ。

 そこには緊迫した雰囲気が漂っている。

 パラミラが示唆する『あれ』。

 心当たりが無い訳ではなかった。

 むしろ、御坂美琴自身もそれを危惧していた。

「……加減できない……わよ?」

「この、状況下で高望みはしないわ……、早く、貴方の電撃で止めなさいッ」

 地面に生み出された人形の数は10を超えていた。

 隆起した白濁の柱の数もそれに合わせるように数を増やしていく。

 その中で、

 バチバチバチッッッッ、と

 一際大きなうねりが御坂美琴から発せられた。

 まるで大蛇のようなそれは、敷地全体を覆い尽くすほど広がりを見せていく。

「(クッ……やっぱりこの状況じゃ……ッ)」

 頭を流れる悲劇の歌詞に演算を阻害されながら、御坂美琴は自らを起点とした雷撃を繰り出す。

 自らを含め、全員の意識を刈り取るには十分すぎる規模。

「(あの子も……巻き込んじゃう……)」

 ある意味、暴走にも見えるその放電は、

 その瞬間、悲劇の歌詞を通り越え、少女の視線の先を映し出した。

 

「ッッッッッッ?!」

 そこに見えたのは、

 小さな少女が裾を掴む姿。

 そこで聞こえたのは、

 罵声を浴びせる獣の姿。

 そこで聞いたのは、

 青年の最後の言葉。

 そこで感じたものは、

 少女の深い悲鳴。

 そこに映し出されていたのは、

「(あの子の……記憶…………ッ)」

 放電の嵐は拡散していく。

 その場にいた全員を巻き込み、辺りは眩い光に包まれた。


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