とある魔術の黄金錬成   作:翔泳

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少女を狙う者達

 

 時間は少し前に遡る。

 場所は、第二学区第三訓練場の建物内。

 暗闇に覆われた通路を一筋の光が照らしていた。

「始まったわね」

 建物外に位置する訓練場から爆発音が鳴り響いている。

「However、対超能力者用の能力者となれば、御坂美琴であっても苦戦を強いられそうね」

 ミサカ一九〇九〇号が開いていた小型無線の会話から大方状況は把握出来ていた。

 訓練場にいた岩見澤セレナは偽物で、本物の彼女はおそらくこの施設にいる。

「Therefore、早くあの子を見つけなければ」

 不老の能力。

 岩見澤セレナの能力を知った上で誘拐を行なったことは間違いない。

 しかし、その理由が分からなかった。

 対超能力者用の能力者。

 彼らが彼女を狙いう理由。

「上層部からの依頼か、but、元々上層部からの指示で彼女の研究をしているのに、その可能性はありえないわね」

 ならば、彼ら自身の独断と言うことだろうか。

 まだ学生の身ながら不老を可能にする少女を狙う。

 そこにどんな理由が存在するのか。

 布束砥信は右のポケットにしまい込んである小型の拡張器の感触を確かめる。

「対超能力者用の能力者と言うことは、最高で七人」

 その内、現在時点で姿を現しているのは御坂美琴とミサカ一九〇九〇号が敵対している二人だけ。

 残るは五人。

「Or、五人を相手にすることも考慮しないとダメということね。意外にこちらのが重労働だったりする?」

 キャパシティダウンの効力を備え付けてある拡声器は相手の演算を一時的に阻害し、能力の発動や照準を狂わせる程度の威力しかない。

 それも御坂美琴との交戦で見せたように、能力発動の際に発生する『タメ』の部分を狙い打つことによって最大の効果を発生させる。

 複数の能力者相手では効力は激減する。

 明らかに岩見澤セレナを救出すには力が足りなさすぎる。

 相手がそれほどの能力者達と言うことが分かっていれば、もう少しまともな準備が出来たかもしれないが。

「元はといえば、私が甘かったからか」

 そう。元はと言えば布束砥信が岩見澤セレナを外出させたことから始まった今回の事件。

 常盤台中学に在学中であるが、登校日数はわずか数日。

 在籍しているだけの状態。

 布束砥信が岩見澤セレナの研究を担当することになったのが、数週間前。

 それまでは、別の研究員がこの研究を担当していた。

 その当時は外部との接触を極限にまで避けるため研究施設からの外出は禁止されていたと言う。

 しかし、布束砥信はそれまでの方法を撤廃し岩見澤セレナの外出を認める手続きを取った。

 上層部はあまり良い顔をしてはいなかったみたいだが、幽閉が続けば研究に支障が生まれると言うレポート付きで、渋々上層部は頷いたのだった。

 結果、この状態である。

 上層部が懸念していたのは、外部への情報の流出だった。

 研究者の間で小さく噂されている『非科学』と言う分野。

 科学を突き詰めた際にどうしても生じる科学では証明出来ない部分。

 或いは、学園都市の対抗組織。

 一体どのようにして岩見澤セレナの情報が流出したのかは分からないが、

 『不老の可能性を秘めた少女』

 と言う存在を欲しようとする組織はごまんといるだろう。

 加えて、学園都市内部からも同じように彼女を狙う勢力が現れた。

 いずれ外部からの侵入者も彼女の居場所を突き止めてやってくるに違いない。

「腹を括りなさい布束砥信」

 自分に言い聞かせ、布束砥信は通路を照らしていたライトを消した。

 壁に背をつけて通路の角までゆっくり進むとゆっくりと通路の先を覗き込む。

 誰もいないハズの部屋からうっすらと明かりが漏れていた。

「アタリのようね」

 処置室と札には書かれてある。

 その名の通り、風紀委員(ジャッジメント)警備員(アンチスキル)が訓練で負傷した場合に処置を行う場所だ。

 日中には医師が在中しているため、ある程度の資材が取り揃えられてある。

 岩見澤セレナの体質を知る者ならば、ここの資材を使うのではないか、と言う予測だったがものの見事に当てはまったようだった。

 扉には隙間があった。

 引きドアではなくスライド式だった。

 布束砥信は、半身になって中の様子を探る。

 施設の中では数少ない窓から月の光が差し込んでいた。

 人の気配はない。

 さらに中を様子を伺っていると、室内に設置されているベッドの上に誰かが寝ているようであった。

「(あの子か)」

 他に誰もいないことを確認しながら、スライドドアをゆっくりと開けていく。

 三〇センチほど開けた所で布束砥信は体を滑り込ませて行く。

 静かにベッドへ近づくと、その正体が明らかになる。

 白髪の少女がベッドで寝息を立てていた。

 布束砥信は拡声器を握り締めたまま再度周囲の様子を確かめる。

 物音はない。

 聞こえてくるのは、訓練場からの僅かな爆発音と、建物内から響いてくる銃声。

「一九〇九〇号が施設内で戦闘中みたいね。Therefore、早くここから移動した方がよさそうか」

 拡張器をポケットにしまうと、布束砥信は少女を起き上がらせた。

 途端、強烈は違和感を覚えた。

 その体はあまりにも小さ過ぎた。

 加えて、パサ、と白い髪がベッドの上へと落ちる音。

「クッ、また同じ手ッ!」

 しかし遅かった。

 バチンッ!、と体が一瞬跳ねた。

 糸の切れた人形のように床へと崩れていく。

「同じ手引っかかる、お前たち、バカ」

「おや。僕がトイレに行ってる間にこんな感じになっていた? って言うか入るところ見えてたん感じなんだけどね」

 床にうつ伏せの布束砥信からは声しか聞こえない。

「見た感じ、研究員って感じですけど、あぁこれの研究してた人って感じですか?」

 そう呟いた少年は、ベッドから白髪のカツラをかぶっていた少女が降りると同時に、そのベッドを蹴り上げた。

 ベッドにかけられていたシーツも同時にめくれ上がり、今まで隠れていたモノが姿を現す。

 九〇度回転したベッドの下から出てきたのは、

 紛れもない、岩見澤セレナだった。

 白い髪も、常盤台中学の服装も、その容姿も間違いない。

「探しているのはこれな感じですか? でもダメですね、僕たちにはこの子が必要な感じなんですよね」

 布束砥信は震える体を上体だけ起こす。

 目に入ったのは、小柄な少年だった。

 うす暗い部屋の中に佇む少年は幼く見えた。

 体格的には小学生と言った所。

(かける)。それ、どうする?」

 声は岩見澤セレナに変装していた少女だった。

 こちらも同じように小柄な女の子だ。

「どうにもしない感じですよ楓花(ふうか)。取りあえず眠ってもらうだけです」

 少年が手を前に出すと、少女は自分が手に持っていたモノを差し出す。

 大きさ的には懐中電灯くらいのモノだが、布束砥信にはその正体が分かっていた。

 バチバチ、と少年が手にとったそれの先端で電流が流れる。

「ク、貴方たち・・・・・・」

 スタンガン。

 一般的に市販されているモノで一〇〇万ボルトの電圧があるが、電流は数ミリアンペアしかないため殺傷能力はなく、気絶することもない。

 恐らく今使用されているモノも改造は施されていないのだろう。

 しかし、たった一発では気絶はしないものの、それが数発となれば話は変わってくる。

 少年は、スタンガンを掴んだまましゃがみこむとそれを布束砥信の胸元へと当てる。

「と言う感じなんで、しばらく夢の世界で楽しんで下さい。大丈夫です、知ってる感じだと思いますが、こんなものに殺傷能力なんてないです。もちろん初めから殺す感じなんてないですよ。誰かが死ぬなんて嫌な感じですからね」

 ビクッ!! と体が跳ね上がると布束砥信の体は床へと崩れ落ちた。

「・・・・・・翔、死んでない?」

「大丈夫な感じです。呼吸も脈もあります」 

 少年は布束砥信の手首と背中に触れてそう答える。

「ならいい」

「言ったように気絶させるだけな感じですから。それとも、・・・・・・やですか」

 実際には、布束砥信は気絶していなかった。

 しかし、意識は朦朧の放心状態。

 全身の筋肉は硬直し動かず、少しすれば意識も遠のいていくだろう。

 聞こえてくる会話も少しずつ途切れとぎれになっていく。

「が・・・・・・ばる」

「なら・・・・・・しかない感じ・・・・・・です。僕たちに・・・・・・子しかいない・・・・・・」

 視界に映る映像もぼんやりとしたモノでしかない。

 が、光だけは判別出来る。

 パッ! と、

 真っ暗のハズの部屋が光に包まれた。

 正確には、電気が付けられたのだろう。

 ガヤガラ、とした声が聞こえる。

 だが、言葉ははハッキリとは聞き取れない。

 しかし、先程までとは明らかに場の雰囲気が変わったことは確かだった。

 ぼんやりと聞こえてくる会話の中に聞き覚えのない声が混ざっている。

 少年たちの仲間ではなさそうだった。

 新たな敵なのか、或いは味方か。

 今の布束砥信に、それを判断することは出来なかった。

 が、

 薄れいく意識の中で、はっきりと聞こえた一言があった。

 聞き覚えのない声のたった一つの言葉を耳にして、布束砥信の意識を途切れていく。

 その声はこう言っていた。

 たった一言、

 『眠れ』

 と。

 

 

 

 

 ミサカ一九〇九〇号は天井を見上げていた。

 「何が、起こったのでしょうか、とミサカはミサカネットワークを使用し、視覚の情報を取り出します」

 粘着テープとワイヤーを使用し、相手を惑わすトラップを仕掛けたまではよかった。

 しかし、半身になり仕掛けた亡霊の発砲にまんまと掛かった千賀沙安芸は、ミサカ一九〇九〇号が感覚遮断銃(パラリシスのはり)を打ち込んだ直後、暗闇に潜んでいたミサカ一九〇九〇号に位置を見つけ出し、その顔をゴーグルごと蹴り飛ばしたのだ。

「実は、ワイヤーって意外に見えてしまうもんなんやで? 学習装置(テスタメント)で学習せんかったんか?」

 ミサカが下目で見ると、千賀沙安芸が左手を腰に当ててた状態で見下ろしていた。

 千賀沙安芸は、ミサカの近くまで来ると右手の傍で片膝を付く。

「はい、銃は没収させてもらうで。お、これ、麻酔銃ちゃう? 手術とかで使う麻酔を逆に応用したっちゅうヤツ」

 一瞬、能力を使用し、相手の行動を封じようかと考えたミサカだったが、一瞬でその考えを破棄した。

 それを見透かしたように

「止めときや。うちに電撃は通用せんで」

 対超電磁砲能力者。

 大きく言えば、対電撃使い(エレクトロマスター)用の能力者と言っても過言ではない。

 千賀沙安芸は感覚遮断銃(パラリシスのはり)を手に取りながら、

「つっても、どないしよ。さっきから銃でバカスカやってたけど、別にアンタ等をどうにかしようって気は無いんや。ちょっと大人しくしてもろとったらいいっちゅう話しやねん。これで動かれんようにするってのも手やねんけど、確か空気摩擦で麻酔針の周りが剥がれて行く仕組みやったっけ」

 残弾を確認する。

「一発かぁ、これやったらアンタを拘束するのにはちと厳しいな」

 相手の動きを拘束させようと思えば、最低二発は必要だ。

 あえて必要最低限の弾数を装弾していないのは、ミサカ自身にも相手を完全に拘束させようとする考えがなかったからだ。

 しかしながら、所持していた武器が全て手元から離れ劣勢となった今、考えを変えなかればならない。

 このまま自分が敗れ、千賀沙安芸がお姉様(オリジナル)の所へ行くことだけは避けなければならない。

学習装置(テスタメント)による学習だけなら終了していますが」

「ん?」

「それでも、ミサカは新たな境地を改革してみせます」

 飛び上がる。

 頭の横に両手を付き足を顔を上まで来るように体を丸めると、その反動で一気に跳ね起き、片膝を付いてしゃがんでいる千賀沙安芸を左足の裏で蹴り飛ばす。

 手応えはあった。が、千賀沙安芸は蹴りがヒットする前に両手をクロスさせそれを防ぐ。

 直ぐにミサカは次の行動に出る。

 防がれた左足をさらに蹴り込み、その反動で体を回転させ逆方向への回し蹴り。

 今度は肘を地面に付ける形で重心を下げ、蹴りを避けた千賀沙安芸が水面蹴りを放つ。

 それを、ミサカは蹴りの勢いを殺さずにそのまま振り抜くことで体を傾かせ地面を踏み切る。宙で体を反転させ受身を取って着地すると千賀沙安芸へ正対する。

 一〇〇〇〇回に及ぶ戦闘。

 その過程において、接近戦で格闘を用いる事はなかった。

 何せ、触れるだけで人を殺せてしまう相手にこちらから触れようとする行為など無意味である。

 しかし、学習装置(テスタメント)によって知識は入力されている。

 さらに加えて言えば、実験は結局一〇〇〇〇と数回で終わってしまったが、最終段階の実験では格闘を用いれた想定実験も予定されていたらしい。

 内容は明らかにされることはなかったが、様々なパターンの戦闘を二〇〇〇〇回行う中、その最終局面で接近戦が用いられることには恐らく何かしらの目的があったに違いないが、

 今となってはその理由を知る手段はない。

 が、その知識を屈して目の前の相手を拘束させることが出来れば、この入力されてた知識は意味を持つに違いない。

「へぇ、そないなことも出来るんや。ちと予想外。でも」

 今度は千賀沙安芸が仕掛ける。

 体を回転させ右足での回し蹴り。

 ミサカの腹部に狙いを定めた攻撃。

 それをミサカは体を丸めて腹部を前屈させて避ける。

 さらに続けて上、下、或いは側面からの蹴り。

 連続した攻撃が続く。それをミサカは後ろに後退しながら避ける、捌く。

 一際大きいモーションだった。

 千賀沙安芸が右足を大きく縦に蹴り上げる。

 ミサカの顔を狙った攻撃。

 予備の動作が大きいほど行動は読みやすいモノだ。

 ミサカは余裕を持って上半身を後退させかわして見せた。

 しかし、瞬間体が宙に浮いていた。

 自分の体が傾いた瞬間、足を取られたと言う事実に気がつくまでに時間は掛からなかった。

 大きなモーションはその為だった。

 重心のズレた人の体ほど倒れやすいモノはない。

 ほんの少し、膝に足をかけられただけでモノの見事に人はバランスを失う。

 背中を床に打ち付けたミサカの肺から大量の空気が吐き出された。

 その顔のすぐ傍を千賀沙安芸の右足が踏みつける。

「ほら、うちらって超能力者(レベル5)を相手にする訳やからな、これくらい出来ちゃうって話しや」

 踏みつけた右足の膝に右手を肘を乗せ、千賀沙安芸はミサカを見下ろす。

 ショートパンツの下から水色の下着が露になっていようが気にはしていない様子だった。

 ミサカは自分の手足を動かそうとしたが、うまくいかない。

 ただ単純に馬乗りになったのではなかった。

 ちょうど右足が左足の上に九〇度膝を折った状態で乗っている下半身は、左足が。

 右手は、左手が。

 左手は腹部の上にあるが、それは千賀沙安芸上から馬乗りになることで下敷きになっている。

「何か打開策はないのでしょうか。とミサカは」

「そんなモンはない。普通能力者やったら能力でなんとかしぃ、って言ってやりたいんやけどな、その能力も使いモンにならん。おまけにその他の分野でもどうやらうちが上回ってるみたいやからな」

 千賀沙安芸は口を細めて笑うと、

「ってな訳やから、アンタはあの子を諦めて大人しゅうしとけってことや」

 手と足にさらに力が加えられた。

「(一体、この体のどこにこんな力があると言うのでしょうか、とミサカは疑問を抱きます)」

 対峙して改めて分かったことだが、千賀沙安芸はミサカ一九〇九〇号より一〇センチ以上も小柄であった。

 体の線も太いわけではない。

 どちらかといえば細い部類に入るだろう。

 加えて、能力を使用して肉体を強化している訳ではない。

 彼女の能力は、電力を吸収すること。

 電池切れ、と呼ばれる状態に持って行かれた訳ではない。

 そもそも、千賀沙安芸は能力を一度も使用していないのだ。

 自分自身の力のみで、一〇センチ以上もの体格差があるミサカを圧倒している。

「なぁ」

 小さく、千賀沙安芸が呟く。

「いとも簡単に人間の意識を刈り取る方法って知ってるか?」

 ゆっくりと千賀沙安芸は右手を動かし、ミサカの目の前で親指を立てる。

「答えは簡単、首の両側に通る頚動脈を圧迫してまえば、ほんの十数秒で相手は気持ちい夢ん中って話しや」

 人差し指と親指で直角の形を作ると、千賀沙安芸はそれをミサカの首へそっと当てる。

 少しの力を加えられただけでその指は頚動脈を圧迫し、脳への酸素を遮断する。

 ミサカは懸命に首を左右に揺るが、それだけでは圧迫を逃れきれない。

 次第に意識が遠のく。

 フワフワと床に仰向けでいることすら分からなくなる。

 瞼が重かった。

 自然とそれが重力に引っ張られるかのように閉じていく。

「(あ・・・・・・ミサカは・・・・・・)」

 そして、目の前は真っ暗になる。

 

 

 

 千賀沙安芸はゆっくりと訊ねる。

「そろそろ気持ちようなってきたんとちゃう?」

 既に二〇秒。

 ミサカの頚動脈を圧迫してからそれだけの時間が経過した。

 現に、ミサカの意識無いに等しい。

「もう喋れんか」

 ピクピク、とミサカの体が痙攣した。

 頚動脈の圧迫によって落ちた。

 それを確認すると、千賀沙安芸はミサカから降りてその顔を横に向けた。

 意識消失した人間でもっとも恐ろしい事は、舌根沈下による気道閉塞だ。

 それさえ回避することが出来れば、死には至らない。

 千賀沙安芸は眠るように落ちたミサカの髪をそっと撫でながら、

「大丈夫や、死にはせん。死ぬなんてことは嫌やろ」

 もちろん、意識の無いミサカから返事はなかった。

 その代わりに、パチッ、と一瞬にして周りを光が包み込んだ。

「なんや!?」

 本来なら驚くことではなかった。単に廊下の電気がついただけの話しだ。

 しかし、建物内の電気をつけると言う計画はなかった。

 そして、声がする。

 千賀沙安芸の独り言に答えるように、どこからともなく高く刺のある声。

「だからこそ、あの人魚を狙ったってことね」

「ッ・・・・・・誰や!!」

 パチン、と指を鳴らす音が廊下に響いた。

 ドロドロと得体の知れないスライム状の物体四体が千賀沙安芸の周りを囲っていく。

「なんやこれは? 床面の表層でも溶かして操っとんのか」

 カツン、とさらに音が続く。

「正確には水銀なんだけど、そっち側の人間に説明しても時間の無駄か」

 現れたのは、自分と同じくらいの背丈の少女だった。

 科学者のような白衣を身にまとっているモノの、裾は一〇センチ以上も余っており、おまけに純白だった白衣には、青や緑、黄色と言った色で模様が描かれている。

「アンタもこいつらの仲間か」

「敵の敵は味方って言うし、少なくともあの人魚を狙っているって点ではそうなるか」

 まぁそんなことどうでもいいか、と少女は吐き捨て、

「良かったわね貴方、最近兄さんに考え方を変えろって言われたばかりなの。だから貴方は死なないわ。良かったわね、死ぬの嫌なんでしょ?」

 少女が右手を横に振ると、ドロドロとした物体が千賀沙安芸に襲いかかる。


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