とある魔術の黄金錬成 作:翔泳
対超能力者用の能力者達。
学園都市に七人しかいない
例えば、対超電磁砲能力者である千賀沙安芸。
彼女の能力である
最大二〇億ボルトの出力を誇る御坂美琴の能力も、無限ではない。
電池切れ。
御坂美琴はそう呼んでいるが、状態は言葉通りである。
そうなってしまえば、いくら超能力者とは言えど下位能力者にさえ苦戦を強いられるであろう。
そして、万々谷旬。
対一方通行用の能力者。
学園都市最強の能力者に致命的なダメージを与えることの出来る能力。
その能力は単純明快。
『人間』と言う根本的な存在に必要不可欠なモノを取り除くだけでいいのだ。
対一方通行と表しているが、それが他の能力者に対象が変われど、同じことと言えよう。
御坂美琴は検知器が鳴動する度に距離を取る。
「検知器一つでここまでオイラの能力が『見える』ようになるなんて、帰って検証が必要っすね」
訓練場のトラックは一周三〇〇メートル。訓練場全体の大きさになればその約二倍。
その範囲を活用しながら、御坂美琴は反撃をする。
「(アイツの能力は有効範囲が限られている? それか、範囲によって発揮できる能力に制限があると見て良さそうね)」
検知器の鳴動が止めば反撃に転じ、鳴動すれば後退に転じる。
ヒット&ウェイの繰り返し。
しかしながら、その攻撃が一度たりともヒットしない。
電撃の槍はいとも簡単に避けられてしまう。
「って、さっきからちょこまかと!」
前髪から火花が散る。
白い閃光が万々谷旬へと一直線に走っていく。
「ほら、オイラってさ」
が、その閃光は万々谷旬の脇腹を掠めるように地面へと突き刺さる。
「対
触れるだけで人の命を簡単に消し去ることが出来る能力者。
そんな相手をするとなれば、触れられる前に行動不能に陥れるしかない。
そのために必要なモノは、俊敏性或いは敏捷性と言ったところか。
動体視力と言ったものも必要なのかもしれない。
抜群の運動能力は、自身の能力だけを過信せず、対象を沈黙させるための力。
一体どれだけの努力をすれば生身でこれだけの動きが出来るようになるのか、想像も出来ない。
御坂美琴自身、
「言っとくっすけど、ドーピングじゃなくて生身っすからね」
ピーピー、と甲高い警報音が鳴り響く。
空気中の物質量が変更された音だ。
御坂美琴は、数発の雷撃を半ドーム状に放ち、一種の壁を作り出す。
自分自身の場所を変えず、相手から離れさせることによって、能力の有効範囲から抜け出す。
「(アイツ自身が離れるだけで能力の有効範囲から抜け出せたと言うことは、範囲の設定はアイツ自身が基準になっている可能性が高いわね)」
特定の空気中に存在する物質量を変化させると言うよりは、自分が触れている空気の物質量を変化させると考えた方がよさそうだ、と御坂美琴は思う。
突発的にではなく、蛇口を捻った水が波紋状に地面に広がっていくようなイメージをすればいいだろう。
となれば、もしも蛇口から出せる水の量が決まっているのであれば、範囲を広げれば広げるほど水嵩は薄くなり、逆に狭めれば水嵩は大きくなる。
「(最大距離は分からないけど、範囲によって変えられる濃度が違うのなら、遠距離からの攻撃が一番の得策)」
しかしながら、直線的な雷撃では避けられてしまう。
「なら!」
御坂美琴が地面に手を翳すと、グラウンドに埋もれていた砂鉄が手中に集まる。
集まった砂鉄は剣の形を成すと、ムチの様に複雑な動きで万々谷旬に襲いかかった。
直線的ではなく、曲線的な動き。
それだけではなく、縦横無尽。
左右に加えて上下の唸りを入れることで、避けられる範囲を極限にまで減らす。
生きた蛇の様に動き回る砂塵の剣。
チェーンソーのように振動する砂鉄の剣は、触れるだけであらゆる物を切り裂く。
それが、人の体となれば、言うまでもない。
しかし、当たらない。
縦横無尽に動き回る砂鉄の剣を、紙一重で避けていく。
「それも、予測ずみだっつーの」
御坂美琴が地面に手をつくと、数本の砂鉄の柱が万々谷旬の周囲から突き出た。
「お?」
驚愕した訳ではなく、どちらかと言えば関心するように万々谷旬は言う。
「まるで動物園に捉えられた動物みたいっすね」
檻の様に砂鉄の柱が行動を抑制する。
触れればその身を引き裂かれる檻。
「大人しくしてれば怪我しないですむわよ」
が、ピーピーピーと警報が鳴り響く。
検知器が空気中の物質量の変化を察知する。
「にゃろ!」
御坂美琴は大きく後ろへ距離を取る。
約二〇メートル。
そこで検知器の鳴動が止む。
「大人しくする気はないみたいね」
「まぁ、ほらオイラ達って誘拐犯っすからね。そもそも大人しくってのが無理な話なんすよ。だから、オイラを大人しくさせるつもりがあるんだったら、
「挑発してんの?」
「察しの通りっす」
御坂美琴は中途しながらも、スカートのポケットからメダルを一枚取り出す。
初速一〇三〇メートル。
人体に接触すれば、簡単に風穴が空いてしまうほどの殺傷能力を持つ御坂美琴の代名詞とも言える技。
御坂美琴が超電磁砲を人に向けて発したことは片手で数えられるほどでしかない。
それも相手は、
どんな異能の力を打ち消してしまう右手を持つ少年や、
学園都市最強の第一位、
或いは、軍事用の特殊アーマーに身を包んだ科学者、
と、どれも特別な相手であった。
しかし目の前にいる少年は、彼らとは違う。
打ち消す能力や、ベクトルを操り反射させる能力もなければ、体を覆う鎧もない。
右手にコインを握り締めたまま考える。
こんな安い挑発にのってしまってよいものか、と。
「あーあ、残念っすね。せっかく
万々谷旬がそう呟いたと同時に、
ゴッッ!!
と、まるで地面に仕掛けられていた地雷が破裂したかのような爆発があった。
「痛ッ」
衝撃で地面を二度三度転がった御坂美琴は、両手足を地面について爆発源を確認する。
地雷などではない。
そもそもあんな場所に地雷なんてものはなかった。
御坂美琴が目線を上げると、
右手をまっすぐ前に上げて、人差し指に引っ掛けていた親指を弾くような形で、万々谷旬が立っていた。
「(
砂鉄の檻はモノの見事に吹き飛ばされていた。
「アンタの能力が空気中の物質量を変化させるものだとすれば、真空砲と言ったとこかしら」
数メートルの真空状態を保った筒を用意する。
入口と出口の両方を塞いだ状態で、入口のみを解放する。
真空状態の筒に空気が流れ込み、爆発的な加速を生み出す。
「
万々谷旬は、説明しながら右手の親指でパチンコの玉を上へと弾く動作を繰り返していた。
重さは御坂美琴が弾丸に使用しているゲームセンターのコインと同様の約五グラム。
同じ重量の弾丸を使用した場合、それが打ち出される速度によって勝敗が決する。
二つの速度では三倍以上もの差が生じている。
「分からないことがあるわ」
スカートについた埃を払い、御坂美琴は立ち上がる。
「アンタの能力が私の想像してる能力そのものなら、その運動能力を活かして私の動きを拘束することなんて簡単だったんじゃないの? アンタがどんな理由で岩見澤さんを狙ったのかは分からないけど、今のアンタはそんなことはどうでもいいって顔にみえるんだけど」
「当初の目的は無事に遂行されてるっすよ。どうでもいいように見えたのは、能力者としての本質の所為じゃないっすかね。ほら、自分の力が一体どこまで通用するのか知りたいって言う欲は誰にでもあるもんすから。まぁ、お前を拘束できたって点については否定せざるを得ないっすね、だってお前が全然本気じゃないっすからね」
この期に及んで相手に傷を追わせずにどう鎮圧させるか、と言うこと考えていた御坂美琴であったが、万々谷旬の言っている事に一部共感できる部分があった。
自分の力がどこまで通用するのか。
それを知りたいと思うのは、当然の話しだろう。
増して、それなりの能力をもっている能力者なら当然。
もし、別の形で交わっていたなら、それはきっと気持ちの良い勝負になったに違いない。
「なら、そろそろ本気でいかせてもらうわ。こっちも早く岩見澤さんを助けなくちゃいけないし、傷なしってのはちょっと無理かもしんないわよ」
御坂美琴がコインを弾くと同時に、万々谷旬もパチンコ玉を弾いた。
ほぼ同時に射出された二種類の砲弾が、空中で重なり合う。
ミサカ一九〇九〇号は、施設の廊下を走りながらつい先ほどのやり取りを思い出していた。
『アンタにお願いがある』
曲がり角で壁に背を当てたミサカは半身で通路の先を見つめた。
『アンタが同じ
通路の先は暗闇に包まれている。
静寂な空気。
それを切り裂くように、一発の銃弾がミサカの頬先を掠めるように後方の壁へと突き刺さる。
『能力以外の点ではきっと私よりもアンタの方が上回っている。だからそれでアイツをどうにかしてほしい』
反撃するように二発、暗闇へ向けて発泡する。
カンカン、と壁に突き刺さる音。
対象への命中は確認できない。
「(まったく、無茶な話しです、とミサカ一九〇九〇号は少々ため息を吐きます)」
「(しかし、電気を吸収する能力者が本当に存在するとは思いもしませんでした、とミサカ一〇〇五〇号は驚愕します)」
「(それより対応策を考えるべきでは、とミサカ一〇八四〇号は指摘します)」
さらに発砲が続く。
暗闇から閃光が瞬いた。
「(こちらが能力を使用しなければ、条件ではこちらが有利なのでは? とミサカ一〇二八三号は推測します)」
能力全てを封じられた
その点で考えれば、
学園都市最強の能力者である
触れるだけで人の命をもぎ取るとこの出来る最悪。
一万と三二回。
その悪魔と戦闘を繰り返した回数。
その全てはミサカネットワークによって共有されている。
「(相手も能力に頼りきりとは限らないのではないでしょうか、とミサカ一五一一〇号は考察します。現にミサカ一九〇九〇号からの情報では、こちらの発砲時の発光でこちらの位置を特定し反撃に転じています、とミサカ一五一一〇号は相手の洞察力に敬意を評します)」
ミサカは改めて自分の装備を確認する。
KP2000R。
四〇口径モデルの戦闘用ピストル。
装弾数は一三発。
従来のシリーズよりもプラスチックを大胆に使用することで二〇〇グラム以上の軽量に成功した自動拳銃だ。
カートリッジの予備は三つ。
既に一つ目の予備を使用している。
そしてもう一つ。
右太ももに固定された小型の拳銃。
本来は手術中に、痛覚のみを遮断し感覚を残す際に使用されたりするが、
痛覚を残し、それ以外の電気信号を遮断することで相手の動きを拘束させる代物。
対能力者用の武器として導入される予定であったが、扱いにくさから使用を断念された。
何せ、最終的な弾丸は〇.一ミリ。
特殊な弾丸を使用しており、発射された弾丸が空気抵抗によって剥がれ落ちていく仕組みになっている。
そのため、風の流れに標準が通常の拳銃よりも左右されやすい。
打ち込まれる標的は、人の上下肢がほとんどであるため、
動き回る相手には不向きと言うことで現在は
その代物をミサカが扱うことが出来る理由は、実験の賜物と言えよう。
二〇〇〇〇に及ぶ
一〇〇三二回に及ぶ戦闘実験。
その全てをミサカネットワークで共有することによって初めて得られる射撃能力。
「(やはり最後は
「(恐らく、
「(それじゃあ、とりあえずこの施設の見取り図なんかが分かった方が色々と作戦を考えやすいかも、ってミサカはミサカは助言してみたり。でもミサカはあの人の看病をしないといけないからあまり手伝うことは出来なさそうかも、ってミサカはミサカは少し残念に思ってみる)」
足音を殺しながらミサカは施設内を移動する。
相手も余程感覚が鋭いのか、ミサカが移動するたびにきっちりとある一定の間隔を保ちながら移動して来ている様だった。
「(・・・・・・第二学区、第三訓練場の見取り図のデータを発見しました、とミサカ一〇〇三二号は報告します)」
どうやら、この建物にはほとんど窓と言う窓が存在しないらしい。
おかげで外の光が入ってこず、建物の中は暗闇に覆われている。
電源をオンにすれば明かりはつくだろうが、今回はこの暗闇を利用する。
「(一〇メートル先にT字路があるようです、とミサカ一〇〇五〇号は指摘します)」
「(この前看病中にこんなのを読んだのだぁ、ってミサカはミサカは情報提供してみたり)」
「(では、その探偵さながらのトリックを使用してみましょう、とミサカ一九〇九〇号は準備周到な女性であることをアピールしましょう)」
ミサカが取り出したのは、携帯用の粘着テープだった。
もちろんただの粘着テープではない。
学園都市性の特殊なテープ。
粘着力は通常の三倍もある代物。
移動しながら、その粘着テープをKP2000Rに貼り付けていく。
加えて、続けて取り出したワイヤーを引き金に固定する。
T字路に来たミサカは一度左へ曲がり、その壁に延着テープを巻きつけておいた自動拳銃を壁に貼り付けると、ワイヤーをさらに後ろのドアノブで固定し、来た道をそのまままっすぐ進んだ所で床に伏せた。
ワイヤーを引けば、ドアノブが支点となり、引き金が引かれる仕組みだ。
電子ゴーグルを着用し、頃合を見計らってワイヤーを引く。
カンッ、と発射された銃弾は壁に跳ね返る。
立て続けにもう一発、ワイヤーを引くと弾丸が飛び出す。
恰も、そっちにミサカがいる事をアピールするかのように、弾丸が壁に弾かれる。
次に、ミサカが取り出したのは
電子ゴーグルを着用し、暗視になったミサカはT字路へ相手が誘い込まれるのをじっと待ち構える。
カツカツ、と小さな足音がT字路の壁に張り付いた。
小型の拳銃を片手に、角からミサカが自動拳銃を壁に貼り付けた方角を半身で覗いている。
千賀沙安芸。
対超電磁砲の能力者。
電子ゴーグル越しに映ったその姿を確認し、ミサカはその手に握られた
標準は、標的の左足。
左足に体重をかけ、半身になっている彼女の軸となる足。
それに標準を合わし、ミサカをその引き金を引く。