とある魔術の黄金錬成   作:翔泳

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今回はうまく書けた気がしない、
と言うか、いつもうまくは書けていないが・・・・・・


不老の術《すべ》

 土御門元春と合流したアウレオルス達は、学園都市に捕らえられている少女についての詳細な情報を得ることとなった。

「さて、時間が惜しいから移動しながら話そうか」

 急ぎ足でアウレオルス達は移動する。

 先頭に土御門元春。

 それに続くように、神裂火織とアウレオルス。

 最後尾をパラミラと言った感じで、ヒシ形となって移動する。

「ねーちんからある程度の事は訊いたって話しだが」

 岩見澤セレナと言う人物は、他人の寿命を引き伸ばす力があると言う。

 その力を手に入れるために、魔術師が学園都市内に侵入して来ていると言う話だった。

「加えて言うなら、どうやら敵は魔術師だけじゃなさそうですたい」

「どう言うことだ?」

「要するに、学園都市側にも同じように彼女を狙っている集団がいるってことだ」

「・・・・・・厄介な話しね」

 パラミラが最後尾でぼそりと呟く。

「どちらにとってもそれなりの理由はあるようだが、まずは彼女が何なのかを知るべきだな」

 土御門は少し間を空けると、徐に口を開く。

「彼女は、人魚だ」

「・・・・・・人魚だと?」 

「なるほど、だから他人の寿命を伸ばす力を備えていると言う訳ですか」

「どう言うことだ?」

「人魚の伝説ですよ。そのモノの血肉を啜ればその肉体は不老の力を得る。特に『東洋』ではその様な伝承が強く残っています」

 一番有名な話しとなれば『八百比丘尼』であろうか。

 人魚の血肉を口にしてしまった少女は、八〇〇という年月を生き、自らの命を絶つまでその容貌は変わることがなかったと言う。

 不老と不死身は別者。

 だからこそ、少女は最後に自分で命を絶った。

「寿命を伸ばすと言う考えより、老いないと考えた方が良さそうね。『八百比丘尼』では少女は八〇〇年もの間、一五歳程度の容姿を保っていたって話だし」

「しかしそうなってくると。魔術側が岩見澤セレナを狙う理由は分かるが、学園都市が彼女を捕らえて研究を進めるのはどう言う理由がある?」

「寿命の延命、でしょうか。古来より人類の最大目標の一つに『不老』と言う希望があるのは間違いありませんし、或いは学園都市ならではの理由が存在するのかもしれません」

 学園都市の目的も『不老』であるなら、彼女の身がどうなっているのかが心配だった。

 話し通りであるなら、岩見澤セレナの血肉を口にすることで『不老』の存在になれると言うこと。

 つまり最悪な話し、人が人の肉を口にすると言う現代ではあまり想像をしたくない光景が映し出される事になる。

 背を向けたままであるにも拘わらず、アウレオルスの考えを予想した土御門元春は、

「なぁに、学園都市もそう簡単に岩見澤セレナを傷つける様なことはしない。何せ彼女は貴重な『原石』って事になっているからな」

 『原石』と言う言葉は知識として残っていた。

 学園都市のような人工的な手段に依らず、超能力を発現させた天然の異能者の事を言う。

 学園都市の開発によって作られる異能者を人工ダイヤモンドとするならば、天然のダイヤモンドにあたる存在。

「確か、世界に五〇人といない能力者であったか」

 かつて、アウレオルスはインデックスを救うために一人の原石の少女と手を組み、吸血鬼を呼び出そうとした。

 知識はあっても記憶は無く、アウレオルスはその事を覚えていない。

「そう言うことだ。が、その状態も危ういと考えていいだろう」

「どう言う意味だ?」

「学園都市は今の今まで彼女の存在を明らかにしなかった。そして魔術側はどのようにしてか分からないが、彼女の存在を突き止めた。人魚と言う存在は言わばオカルトの領域だ。そんな存在を学園都市が捕獲していたとなれば、魔術側は黙っていはいない。現に今も既に俺達以外の魔術師も動き始めている」

 彼女がオカルトの存在であるなら、魔術側はいくらでも口実を作ることが出来る。

 しかし、学園都市側では彼女を原石であると主張している。オカルトの異能使いではなく、学園都市側の能力者であると。

「そして敵は魔術側だけではなく、学園都市側にまで広がっている。今まで無事で済んでいたとしても、もし他の集団や機関に捕まりでもすれば、彼女が安全と言う保証はない」

 中には、強引にその能力を利用しようと考える輩も存在するだろう。

「魔術側に彼女を強奪されても、学園都市の他勢力に奪われても、彼女が良いようにされる保証はない。寧ろ、彼女にとってそれはきっとプラスには働かない」

 だからこそ、自分たちで保護しないといけない訳だ、と土御門は付け加える。

 他者から考えれば、イギリス精教に捕まった場合の保証も正直言って無いのではないか、と思いたくもなるが、現在の選択肢にはイギリス精教に保護してもらうと言う方法が一番の打開策のようだった。

 第七学区の西端にまで移動したアウレオルスであったが、土御門について行くがままの状態であったために正確な目的地が分からない。

 と言うより、岩見澤セレナがどこにいるかも分かっていない。

 さて、と一度足を止めた土御門は振り返り、

「実はここから二手に別れないといけないって話しぜよ」

「魔術側の勢力と止める側と学園都市の勢力を止める側と言うことか」

「ご丁寧に正解をありがとう。ちなみに、アウレオルスの担当は学園都市側と決まっている。あとは残りの三人を何の基準に沿って分けるかって話なんだが」

 自分が学園都市の勢力を止める側と言われ、理由を考えたが、その答えは直ぐに分かった。

「無論、私は兄さん以外と行動するつもりはないわ。寧ろ、そうしないと兄さんが自由に魔術を使うことが出来ないって言うことで、決定ぇ」

 パラミラはそう言いながらアウレオルスの腕に両手を巻き込む。

 アウレオルスが学園都市側の勢力ではないとダメな理由は簡単。

 魔術師相手では黄金錬成(アルス=マグナ)を使用することが出来ない。

 例えそれで岩見澤セレナを救えたとしても、アウレオルスの存在が魔術側にバレてしまう。

「まぁ、最初からそうなると分かっていたんだがにゃー。俺が魔術をろくに使えないからねーちんには頑張ってもらわないとって事ですたい」

 ほら、と会話が終わるなり土御門はアウレオルスへ携帯の端末を放り投げる。

「これは?」

「相手の現在地だ」

 画面の中心で赤いランプが点滅している。

「情報では彼女は今学園都市のとある勢力に捕まっている。やつらはどう言う理由かは分からないが第二学区を目指している。学舎の園を横断出来れば先回り出来るんだが、それは向こうも同じだ。だからお前たちはこのまま第一五学区を横断し第二学区を目指せ」

 画面の表示は現在第一五学区を指しているが、赤い点滅もそれほど速い速度で移動していない。

 恐らく、移動手段は車ではなく徒歩の可能が高い。

「俺とねーちんはこのまま魔術師側へと向かう。うまく彼女と合流し救い出す事が出来たらその端末の中に登録してある番号に連絡しろ」

 アウレオルスが登録番号を確認すると、電話帳にたった一件番号が登録されていた。

「ウム。分かった」

 アウレオルスが返事をすると、土御門と神裂火織はアウレオルス達とは逆方向へと姿を消していった。

「・・・・・・兄さん、私たちも」

「あぁ」

 かつてとある塾だった建物を背にアウレオルスは走り出す。

 多少の疑問を抱きながら。

 

 

 

 

 第一五学区の一角を御坂美琴と布束砥信は走っていた。

「で、まだ詳しい説明をうけてないんだけど?」

「そうだったかしら?」

 車ではなく走って追跡するのは、繁華街に多い路地裏へ逃げ込まれた時に対する対処と言う事らしい。

 御坂美琴が知りたい事は山ほどあった。

 布束砥信がまたおかしな研究に携わっている件。

 数ヶ月ぶりに登校してきた岩見澤セレナが事件に巻き込まれている件。

 妹達(シスターズ)が関わっている件。

「そもそも、あんたは一体何の研究をしてるのよ」

 何の、と言うより岩見澤セレナをどうするつもりなのか、と言う方が正しい。

「あなたに納得してもらえるだけの理由があると言ったけど?」

「だからそれを訊いてる」

 相手の居場所を聞き出して能力を使い最短ルートを通った方が速いのでは? と思いつつ、御坂美琴は布束砥信の言葉に耳を傾ける。

「一体何の研究をしているか、と言う質問に答える前にこちからもいいかしら?」 

「何よ」

「もし自分が犯した罪を償えるチャンスがあるのなら、貴方はどうする?」

 「罪」と言う言葉に御坂美琴は少し反応する。

 自分に対するそれ、と言うなれば、一万人に及ぶ『人間』の命。

 かつて自分がDNAマップを提供したことから始まった、一連の事件。

 御坂美琴の罪が何なのか、と聞かれれば間違いなくそれを指すだろう。

 そして、それを償えるチャンスがあるのなら、

「私の罪は、多分あの子達」

「その、あの子達を救える方法があるなら、貴方はどうする?」

「え?」

 と御坂美琴が疑問に思うのは無理ない。

 妹達(シスターズ)は既にとある少年の活躍によって救われている。

 一万人にも及ぶ犠牲が出てしまったが、残りの約一万もの妹達(シスターズ)は殺されることもなく、自分たちを実験動物などと思うこともなく、生活をしているハズだ。

「とある少年の活躍によってあの子達が事件から開放された事は、暗部に落ちた私の耳にも入ってきているわ。However、それで全て解決した訳ではない」

「どう言うことよ」

「あの子達は生まれてから一体何日であの姿になっているか知っているわよね?」

 たったの一四日。

 妹達は生まれて二週間で現在の御坂美琴と同じ年齢にまで成長する。

「Moreover、成長促進薬の投与、ホルモンバランスの欠落、大凡の寿命は調整を加えて約半年。単細胞クローンは只でさえ寿命が短い。いくらホルモンバランスを調節し、細胞核の分裂速度を調節したところで限界があるわ」

 妹達(シスターズは)は実験直後、そう言った体の調節を行うために一時的に施設に分散された。

 その調整を経て、妹達(シスターズ)の寿命はある程度回復している。

 が、ある程度止まりである。

「要するに、それをどうにかする方法があるってこと?」

 疑問を口に出してから、御坂美琴は気がついた。

 布束砥信の行動には、自分が納得できるだけの理由がある、と言うことだった。

 そして話しの流れからすれば、それは妹達(シスターズ)に関係していること。

「あの子には、他人の寿命を伸ばす力がある」

 衝撃の一言だった。

「ち、ちょっと待って。そんな都市伝説みたいな能力が本当にある訳!?」

「能力と言うより、『性質』と言うべきかしら。because、その力に彼女の意思は関係ないの」

 AIM拡散力場みたいなモノか、と御坂美琴は思ったが、どうやらそうではないらしい。

 布束砥信が言うには、

 個体の老化は染色体の末端にあるテロメアと呼ばれる末端粒子が大きく関与していると言う。

 細胞が分裂するたびにテロメアが短くなり、ある一定の回数を超えるとテロメアが短くなってしまい細胞の分裂が出来なくなる。

 しかし、体を司る六〇兆の細胞全てがそうなるわけではない。

 御年一〇〇を迎える老人であっても、細胞の分裂が無くなる訳ではなく、

 例えば抹消リンパ球のテロメアは、六〇歳を過ぎる頃から短縮するため、一部のリンパ球が増殖不全に陥り、免疫機能の低下や異常が起こる。また、損傷と修復を繰り返す部位の血管内皮細胞では、分裂が進みテロメアが健常な部分よりも短縮し、修復不全により動脈硬化などを起こしてしまうのだ。

「そのテロメアを修復させる酵素としてテロメラーゼと言うものがあるわ」

 細胞の分裂によって短縮していくテロメアをテロメラーゼが修復し伸長していく。

 一つの例として、がん細胞が挙げられる。

 突然変異によってがん細胞化した細胞には分裂の限界がない。

 その背景には、テロメラーゼの活性化と言う秘密が隠されている。

「つまり、そのテロメラーゼって言う酵素を操れば、テロメアの短縮を食い止められるって事――」

 そこまで言って御坂美琴は気がついた。

 寿命を伸ばす能力。

「(つまりは、そのテロメア或いはテロメラーゼをコントロールする能力者って事!?)」

 それも、無意識下でそれをやってのけてしまうと言うことになる。

「ちょっと待って、でもそれだったら能力を使わなくたって、学園都市の科学でどうにかなるんじゃないの?」

「確かに学園都市の技術なら、酵素の一つを操るくらいどうってことないでしょうね。However、それによって薬漬けになることを『上層部』は望んでいないのよ」

 例えば、六〇兆の細胞の中にたった一つでもガン化した細胞があったとして、

 ただでさえ、テロメラーゼが活性化している細胞に、さらに活性化させる処置を行ったら、まさに油に水を注ぐようなものである。

「RPA13、LBH589、抗がん剤なんてものはいくらでも存在する。Or、新しい体を汚したくないってことらしいわ」

 『新しい体』と言う言葉に疑問を覚えたが、それに変わり新たに浮上した疑問。

「全体図が少しずつ分かってきたけど、そもそもアンタの専門は生物学的神経医学じゃ?」

「上層部が掲げる目標と私の目的に違いがあると言うだけ。私はその余波を受け取るだけでいいのだから」

「言ってることがよく分かんない」

「クローン体の延命が可能になり、妹達(シスターズ)の寿命を改善することが可能になれば私はそれでいいの。その上に成り立つ上層部の目標に到達することで私の目的が達成出来れば」

「だから質問と答えの趣旨が違うって」

「例えば、上層部の目的が自らのクローンを作り出し、それに乗り移ることだったら?」

 『新しい体』。つまりは自分のクローン体。

 自分と同じ遺伝子を持つクローンに記憶を移し替え、新しい自分として生きていく。

 だからこその、布束砥信なのだ。

「まさか、学習装置(テスタメント)を応用して、自分の記憶をクローンに植え付けるってこと?」

「正確には、記憶装置(メモリスト)で視覚、聴覚、味覚、嗅覚、触覚の五感全てに対して電気的に情報をアウトストールし、学習装置(テスタメント)でクローン個体へとインストール。これが学園都市の上層部が考えた『不老』。But、これは学生向きではないわ。クローン個体では能力に差がでるから二五〇年法も利用出来ない」

 人間はさまざまな不老不死を研究してきたが、一つの到達点がここにあるのかもしれない。

 自分自身を『不老』にするのではなく、クローン個体へ自分を『移動』させる。

 つまり、布束砥信はそう言う研究をやらされているのだ。

 学習装置(テスタメント)を開発し、妹達(シスターズ)の研究にも参加していた布束砥信に、まさに最適な研究と言えよう。

 元々クローン個体は、テロメアの長さが通常の個体より短い。

 その長さは、半分にも満たされていない。

 つまり、クローンに自分の記憶を移したところで、寿命は通常の半分以下であればマシな方である。

 正直なところ、様々な『薬』を投入すればいくらか寿命を伸ばすことは可能である。

 が、それこそ薬漬けの日々である。

 上層部は、それを望んではいない。

 メリットは高く、コストとリスクは低く。

 それを可能にするのが、岩見澤セレナと言う訳だ。

「彼女の体内でつくられる酵素が他人の体内へと侵入すれば、特殊なテロメラーゼとなってテロメアを修復する事が分かっている」

 クローン個体の単価は、約一八万。

 ホルモンバランスの調節や、成長促進剤の投与。

 などの、ある程度の薬の投与はさけることは出来ないが、岩見澤セレナの性質があれば、その程度のコストで済む。

「私はその性質を利用して、あの子達の寿命を伸ばしてあげたいだけ」

 学園都市の上層部は、自らの不老を、

 布束砥信は、その過程である特殊なテロメラーゼを、

 御坂美琴に納得させるだけの理由と言うのは、

 つまり、妹達(シスターズ)のために、岩見澤セレナを研究していると言うこと。

「(なるほどね。それが私を納得させることができる理由ってことね)」

 確かに、御坂美琴にとって、妹達《シスターズ》と言うフレーズは敏感にならざるを得ないものである。

 妹達(シスターズ)の寿命が普通の人間よりも短い事実は既に知っている。

 だからこそ、寿命を伸ばせる可能性があるのなら、魅力的な話しである。

 しかし、御坂美琴にとっては魅力的な話しでも、岩見澤セレナにとってはどうなのだろうか。

 御坂美琴は考えてしまう。

「(あの子達の未来が変わるって言うだけの話しなら、私は納得してしまう。でも、その所為で岩見澤さんが傷ついたり苦しんでいるって言うのなら、私は納得しちゃいけない)」

 と、思考している御坂美琴の視界からあるモノが消えた。

「あれ?」

 話しをしている最中、ずっと『走っていた』御坂美琴は立ち止まって後ろを振り返る。

 先ほどまで隣りを走っていた布束砥信は、両手を両膝に付き、

「さすがに、説明しながら走るのは、キツかったわ」

「ってやっぱりキツかったんかいッ!」

 ったく、と頭を掻く御坂美琴。

「で、貴方は納得してくれるの?」

「・・・・・・・・・・・・」

 御坂美琴は少し間を開けると、

「・・・・・・納得はしない。いいえ、私が納得して済む問題じゃない」

 そもそも、御坂美琴自身が納得すればOKと言う話ではない。

 問題は、岩見澤セレナがどうなのか、と言う一点だ。

 自分自身が納得するのは当たり前だった。

 ただでさえ寿命が短いとされている妹達(シスターズ)の問題が解決する可能性がある、と言うのであれば否定する必要はない。

 しかし、その中に他人が巻き込まれているとなれば話しは別だ。

「岩見澤さんが嫌がっているのなら、いくらあの子達のためと言っても私は、ううん、私『も』多分納得出来ない。だから、早く岩見澤さんを助けるわよ。あの子がどうなのかを聞くために」

 話しを聞きながら、布束砥信は小さく微笑むと、

「と言う訳わけだから、ミサカ一九〇九〇号、そろそろ合流しましょうか。貴方のお姉さんもこう言ってる訳だし」


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