とある魔術の黄金錬成   作:翔泳

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その理由は

 

 周囲をパラミラの生み出した人形達が取り囲んで行く。

 感情を詰め込まれた人形は、地面から生えるように上半身だけ作られ、両手は左右の長さが違う。

 出来損ない。

「正確に言うと、ステイル=マグヌス、貴方の推測は正しいわ。見るなのタブー(メルシナ)の魔術は対象者の破壊部分を指定できない。モチーフにしている出来事にいくつもの違った結末があるからね」

 次々と増えていく人形は、二〇体に達する。

「ただ、領域の範囲を指定できない訳じゃないわ」

 人形達はある一定の距離を保って三人を取り囲んでいる。

 パラミラの言う指定された領域の外と言う事なのだろう。

 見るなのタブーの領域内にいる三人はタブーを破る事はできず、その領域の外にいるパラミラと人形達はタブーに縛られない。

「なるほど、便利な魔術だね。自分自身は縛られず、相手の行動を制限する」

 ステイルは、苦笑いをしながら答える。

 こちらは動くこともできず、魔術で生み出したモノでさえも身動きがとれない状態。

 対して、パラミラは自由に動くことができる。もちろん魔術で生み出した人形達も含めてだ。

「その出来損ないの人形が境界線と言うことか」

 ただ、例えその人形達が領域の外で行動できたとしても、攻撃するために領域の中に入ってしまえば、同じくタブーを犯すことはできない。

「分かりやすいでしょ? もちろんその子達に攻撃はさせないわ」

「なら、攻撃の方法は、やはり」

「――三大神秘の一つを展開」

 パラミラが袖に隠れた右腕を振るう。

 同時に三人の頭上一〇メートルほどの辺りに、氷の塊の様な柱が無数に生み出されて行く。

 直径一メートルから三メートル。大きさも疎らな柱。

 白く濁った筒が、三人を踏み砕く為に頭上から落下を開始しようとしている。

「さて、これから殺しちゃうんだけど、んーそうね、最後にもう一つ訂正しといちゃおうかな」

 パラミラは犬歯を覗かせたまま、

「貴方たちは、まず根本的に、私を勘違いしてる」

「まさか、この期に及んで実は僕たちを殺すことが目的ではありませんでした、とか言い出すんじゃないんだろうね」

 ステイルの頬から汗が一滴流れ落ちる。

「それはないわ。私の目的は魔術師ステイル=マグヌスと上条当麻を殺すこと、それ以外にありえない」

「なら何を間違っていると言うんだい」

 覚悟は出来ている。

 例え見るなのタブー(メルシナ)の魔術の領域内と分かっていても、動かなければただ潰されるのを待つだけとなる。

 それであるなら、体を破壊されながらも、行動する。

 それは、パラミラが攻撃を仕掛けたと同時に起こすつもりで構えていた。

「私は、死霊魔術師(ネクロマンサー)ではないわ」

「な、に?」

「貴方たちがどんな推測をしたのかは知らないわ、まぁ、全てを知る頃には潰されているでしょうけど」

 その言葉に一瞬ではあるが、ステイルの行動が遅れた。

 死霊魔術師(ネクロマンサー)でないのだとすれば、一体彼女は何者なのか。

 その思考が、コンマ数秒ではあるが、ステイルの魔術の発動を遅らせる。

「潰れちゃって」

 パラミラの合図と同時に、柱は重力にしたがって落下を開始する。

 さらに、同時で人形たちを一斉に飛びかかって来た。

 上半身だけの体を、腕を地面に叩きつけることによって宙へを舞い上がる。

 領域内に入れば破壊されると分かっていても、そちらにも反応してしまうのは、人間の心理上仕方のないことなのだろう。

魔女狩りの王(イノケンティウス)!」

「今更動けない巨人を出したところで何になるの?」

 ステイルの目の前に具現化した魔女狩りの王。

 轟々と燃えたぎるドロドロとした塊は、それでも動くことはできない。

「所詮は虚仮威しね」

「さて、どうかな?」

 なに? とパラミラが眉を動かすより速く、

「僕が体の破壊を恐れて動かないとでも思ったのか」

 ステイルが深く重心を落とす。

 頭上からは無数の氷の様な柱。周囲からの人形が無視していても破壊されるとしても、上空からの攻撃を全てどうにか出来る訳ではない。

 加え、頭上からの攻撃は動かないことを前提にしているにしては、範囲が広い。

 人形ごと押しつぶす事を想定して生み出されている。

 柱がステイルの炎で焼き尽くすことができない事は、十分承知していた。

 しかし、摂氏三〇〇〇℃を超える魔女狩りの王の炎なら話は別だ。さらに、魔女狩りの王はルーンの刻印を消去しない限り消滅することはない。

 だが、それには問題があった。

「(大きさが足りないのであれば、ルーンの刻印を増やすまで)」

 ただ、刻印を増やすとなれば、動かざるを得ない。

 魔女狩りの王を動かなくても柱を防ぐ事が出来る大きさにするためには、ステイル自身が動いてルーンの刻印を配置しなければならない。

 神父服の下に収めている一〇〇〇枚以上に及ぶカード。

 腕をひと振りだけでいい。

 それだけで、ルーンの刻印を配置することが出来る。

 恐らくは、それだけの動作でタブーを犯す事になるだろう。

 それを覚悟で、腕を懐に動かす。

 それよりも速く。

「は?」

 と、間の抜けた声をあげたのはパラミラだった。

「何、が・・・・・・?」

 視界が一瞬にして変貌した。

 見えるのは周囲を取り囲む人形たちの姿。

 頭上には、氷の様な柱が今まさに降り注ごうとしている。

 加えて、二メートルも離れていない場所に、ステイル=マグヌス、上条当麻の姿が見えたのだ。

 驚いていたのはパラミラだけではなかった。

 突如隣に現れたパラミラに驚愕したのはステイルと上条当麻も一緒だった。

「まずい・・・・・・ッ!」

 見るなタブー(メルシナ)の魔術は、領域内にいる者全てにタブーが適用される。

 それが術者とあっても例外ではない。

 突如として領域内に入ってしまったパラミラも、タブーを犯せば体を破壊されるのだ。

「さ、三大神秘の一つを解除!」

 瞬間、パシュと何かが吹き飛ぶ様な音がした。

 それと同時に、パラミラが横に飛び退く。

「――吸血殺しの紅十字!」

 周囲を囲んでいた人形達が紅蓮の炎に飲み込まれていく。

「クソッ、何が起こったの!?」

 魔女狩りの王が雄叫びに似た轟音を吐き出し、その手に握られた十字架を握り直している。

 続けざまに、パリィィン、と無数の柱が透明な乾いた音をたてて無残に砕け散った。

 その中心に立つのは上条当麻。その右腕が纏めて落下してきた柱を根こそぎ破壊したのだ。

「(見るなのタブー(メルシナ)の魔術を設置しようにも、この状態じゃ・・・・・・)」

 横へと飛んで距離を取ろうとするパラミラだったが、両手に炎剣を掴んだステイルがそれを許さない。

 魔女狩りの王と共にパラミラを追い詰める。

「――三大神秘の一つを展開!」

 パラミラが腕を振るうと、上空に巨大な柱が生み出された。

 数は一つ。

 直径一〇メートルにもなる柱が、ステイルの頭上目掛けて落下を始めた。

 それでも、ステイルはパラミラから目を離さない。

 頭上の柱に気がついていないかの様に、目もくれずパラミラを追い続ける。

「(コイツ何を考えて――)」

 落下を始めた柱がステイルを捉えようとした。

 同時に、

「うぉおおおお」

 雄叫びと共に上条当麻がその柱を粉々に砕いた。

 カラスが割る様に、ガラガラと破片が崩れながら消滅する。

「おいステイル、今のは完全に人任せだっただろ!」

「その右手はそのためにあるんじゃないのかい」

 上条当麻もパラミラとの距離を縮める為に後を追う。

「(ク、私に見るなのタブー(メルシナ)を使わせないつもりね)」

 領域内にいる者に適用させるタブー。

 その最小範囲は、一〇メートル。

 それをステイルと上条当麻が知っていると言う事はないが、恐らくパラミラ自身と接近していれば、術式の効力から逃れられると言う予想は既についているだろう。

「なら意地でも離れてもらうわ」

 一〇メートル以上の距離を空けなければ、タブーを設定することは出来ない。

 正確に言えば、設定は出来る。

 ただ、自分自身もそれを守らなければならない。

「――三大神秘の二つを展開!」

 今度は柱ではなかった。

 ガラスの様に透明ではないが、氷の様な冷気は感じない。

 それでいて、氷の結晶の様に白く濁った人の形をした巨人。

 ネバネバした人形達に似ていた。

 上半身だけと言う訳ではなかったが、足は膝の辺りまでしか見えず、両手も左右で長さが違う。

 その腕を振り上げ、ハンマーでも振り下ろすかの様にステイル達に叩きつける。

 轟! とその腕が炎に包まれた。

 両者同じ様な大きさ、白と赤の巨人がぶつかり合う。

「魔女狩りの王でも燃やし尽くせないのか」

 白の巨人の腕が炎に包まれるがそれまで。燃やし尽くすまでに至らない。

 摂氏三〇〇〇℃の業火を前に、白の巨人は引けを取らない。

「――領域を設定」

 その間にパラミラは十分な距離を取った。

 例え、上条当麻がその右腕を使用し白の巨人を破壊し、距離を詰めようとしたとしても、パラミラは自分自身が領域の外にいた上で見るなのタブー(メルシナ)を発動することが出来る。

「――その領域内では体を動かす・・・・・・」

 そして、視界が変わった。

 今まで視界に入り込んでいた白と赤の巨人はいない。

 しかし、その後方から確かに感じる。魔女狩りの王が生み出しているであろう熱気。

 それを確認しようとパラミラは振り返り、

 ゴン! と鈍い音と振動が頭の中に響いた。

 一秒ほど宙を舞い、地面を転がり止まったところで自分が殴られたのだと気がついた。

「チッ、戦況を変える為とはいえ、そう何度も力を使うんじゃない。お前だけの問題じゃないんだぞ」

 ステイルの罵声にも似た声が飛ぶ。

 揺れる頭の中でパラミラは上条当麻のことかと一瞬思ったが、そうではない。

 彼の力は、異能の力を全て打ち消してしまうモノだ、相手の位置を移動できるような力は持ち合わせていない。

 パリィィンと白い巨人が崩れ去って行く。上条当麻の右腕が触れるだけで、そこには何も無かったかのように跡形も残らない。

「そこまでだ」

 炎の巨人を背にステイルが言う。

 パラミラは周囲を見回した。

 炎の巨人。そして取り囲む炎の壁。その中にはステイル=マグヌスと上条当麻の姿が見える。

 もう一人いたハズであるが、パラミラの視界には入って来ない。

「もう観念するんだね」

 大凡で作った炎の壁なのだろうが、領域内に収まってしまっている。

 この状態では、自分自身に影響が出ないようにタブーをかけることは出来ない。

「なら殺しなさいよ。貴方たちを殺すか、私が殺されるか、どちらか一つしかないわ」

 パラミラは上半身だけを起こす。

「もちろんそうするつもりさ。だが、一つだけ聞いておこうか。どうして僕たちを狙った」

「ふん、愚問ね。でも良いわ、そんなに知りたいなら教えてあげる」

 パラミラは一瞬間を置くと、

「私を認めさせる為よ」


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