やはり俺のE組生活はまちがっている。   作:狂笑

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なんか、久し振りに書いた気がする。


第八話

時は流れ、修学旅行の日がやってきた。

あのときの班決めジャンケンの結果は速水がパー、神崎がチョキで神崎の勝ち。

よって班は神崎と同じで新幹線及びバスの席は速水と隣同士になった。

正直言って、俺にとってはこの方がありがたい。

何故なら、神崎との接点は停学明けのときにたまたま居眠り運転のトラックから助けた事くらいしかないからだ。

まあ一応他にもあるっちゃあるんだが……それが何かは今は言わずにいよう。

修学旅行等における集団行動の場合、勝手に決められた班の後方でただ黙ってついていくスタイルが多かったため、班行動では知り合い皆無の状態でもなんの問題もない。

小中学校時代の修学旅行や校外学習じゃ基本、班の連中は俺の目の前で俺の意見など何も反映されない計画を立て、俺をいないように扱っていたからな。こういったもので今までに意見が通ったことがあるのは五回だけだな。因みに内三回は速水と同じ班になった時だ。

因みに、今回は要望が一つ通った。珍しい……

まあそれは横に置いておくとして、結局何が言いたいかと言うと、班のメンバーが誰であったとしても(極力関わらない方針で)上手くできる、ということだ。

だがこれが新幹線及びバスの席の場合、少々異なる。

今まで通りなら席決めの際にあぶれ、一人で二席分独占か俺同様にあぶれた奴と一緒になるかのどちらかだった。お互い干渉などせずにただ黙ってバス(または電車)の窓から景色を眺めるか、それとも寝るかの二択だった。

だが、今回もし神崎が隣になった場合、それは出来そうにないと思う。

理由は、俺と神崎が関わりのないクラスメイト状態ではなく、中途半端に知り合ってしまっているせいだ。

路線バスでもなんでもいい。そういったもので赤の他人と隣同士になり、沈黙が発生したとしても、それについて何か思うことはないだろう。

だが隣同士になった相手が、共通の話題などほとんどない、だけど赤の他人ではなくお互い面識のある中途半端な知り合いだったとしたら、沈黙が発生した場合どう思うだろうか。

多くの人は気まずいと思うのではないだろうか。

では、ある程度気心の知れた人との間で生じる沈黙は?

心地よい、まではいかなくとも苦にはならない、又は気にならないのどちらかではないだろうか。

少なくとも俺の場合、速水との沈黙は気にならないし、寧ろ心地よかったりする。

そんなわけで、修学旅行の班は神崎と、新幹線等では速水と、といった組み合わせは俺の精神衛生上ではありがたいのだ。

このことを速水本人に言ったらなんとも言えないような複雑な表情をされたのだが。

何かおかしなこといったかね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「八幡、おはよう。東京まで一緒に行かない?」

 

朝、家を出るといつかのときのように、既に速水がいた。

 

「おはよう、別に構わんぞ。目的地同じだし」

 

俺がそう言って歩き出すと、少し遅れて速水もついてくる。

今はまだ朝の六時前。もう五月の下旬とは言えどもこの時間帯はまだ少し肌寒かったりする。

無言のまま、俺と速水は椚ヶ丘の駅へと向かう。

聞こえてくるのは雀の鳴き声とスーツケースの音だけ。

それでいても、速水がそこにいるということは気配で分かる。

やはりそれは苦に感じることなどなく、何となく心地いいような、でも何か物足りないような、そんな空間が出来上がる。

 

 

駅に近づくとともに、駅周辺の騒音が聞こえてくる。そしてそれと同時に、俺の少し後ろを歩いていた速水が俺の隣に並ぶ。

 

「なんか、懐かしいね」

 

「何がだ?」

 

「八幡と一緒に、しかも二人っきりで学校以外の所に行くの」

 

「そう言えば……そうだな。一昨年の冬以来か」

 

「うん」

 

俺と速水は幼なじみであったことから、昔からよく一緒にどこかに出かけたりすることが多かった。

どちらかの親、または両方の親が同伴だったり、純粋に二人だけだったりと色々と。

だけど中学に上がってからはそれは減少した。勉強が難しくなったり、部活があったりと色々と忙しくなり、お互いの予定が合わなくなったからだ。

一昨年の十二月二十五日、これが俺と速水が一緒に出掛けた最後の日だ。

そこまで考えて、ふと思う。

今回の班決めの時、速水はいつも以上に積極的じゃなかったかと。

クラスが同じだった時、班決めの際に誘われることは珍しくなかった。

だけど、それはまだ班の決まっていない俺を見かねたから、が主な理由だった気がする。

例えそれが建前であったとしても、俺の右腕を掴んでまでもして引き入れようとする姿を見たことはなかった。

そもそも速水以外に誘われたこと自体ほとんどないのだが。

そしてまた、ふと思い出す。

今回の修学旅行は普通の修学旅行ではないと。

狙撃手を配置した暗殺旅行。勿論標的は殺せんせー。

殺せんせーを三月までに殺せなければ地球は終わりを迎える。

つまり場合によっては今回の修学旅行が人生最後の修学旅行になるかもしれないのだ。

もし、人生最後の修学旅行なのだとしたら、普通はあまり知らない人と回るよりも仲のいい人や気になる人と回りたいと考えるのが普通だろう。

もしかすると、速水はこの事実にあの時から気付いてのかもしれない。

きっとそうだ。でなければそこまでして俺を誘う理由がない。

そう考えると、あの時速水と同じ班になるという選択をすぐに選ばなかったことに罪悪感を覚える。

 

「なあ、速水。修学旅行から帰ってきたらさ、一緒にどっか行かねえか?」

 

俺がそう言うと、速水は驚いたような表情になる。

 

「八幡、大丈夫?もしかして熱あるの?」

 

ヒドイ言い草だなオイ。まあ言いたいことはわかるけどさ。

 

「ああ、そうだな。熱あるかもな。三十六度くらいの」

 

「それってただの平熱……でも、ありがと。私も一緒に行きたい」

 

速水はそう言うと俺の前に出て、左手で俺の右手を握り、極上の笑顔を見せながら言った。

 

「八幡、速く行こ。電車着ちゃうよ」

 

「あ、おいちょっと」

 

そうして俺は引き摺られるようにして駅へ連れて行かれた。

 

 

 

家に帰るまでが修学旅行と言うのであれば、家を出る時が修学旅行の始まりなのだろう。

こんな序盤に、速水の笑顔という珍しいモノが見れたんだ。

この笑顔を、少しでも長く見ていたい。

だから、このまま何事も無く、修学旅行が終わってほしいと思った。

あと数時間で、大変なことが起きるとは知らずに――

 


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