やはり俺のE組生活はまちがっている。   作:狂笑

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第七話

修学旅行。

それは、社会生活の模倣である。

行きたくもない出張に行き、会いたくもない上司と旅先でも顔を合わせなくてはならない。

泊まる場所も晩飯のメニューすら自分で選べない。

果てには、見学コースも誰かとすり合わせて自分の意見を押し殺して調整アンド調整。

所持金の中でやり繰りしつつ、どの相手にどのレベルのお土産をわたすかなどを考える。

こういった類のものを学ぶためのものだ。

つまりこれは、世の中自分の思う通りにはいかないが、妥協してもそれなりに楽しいと自分を騙す訓練なのだ。

だから、他人の仲良し子よしグループに数合わせのために入れられ、事実上強制連行状態になったとしても異議を唱えず、ただ黙って集団のうしろについて歩くスタイルは間違っていない。

故に、今回もこのスタイルを使用する、はずだったのだが……

 

「比企谷君、一緒の班になりませんか?」

そう言って、俺の左腕を引っ張る神崎と

「八幡、私と一緒に……」

上目づかいになりながら俺の右腕を引っ張る速水。

そして――

「お、面白そうなことになってるね~。じゃあ俺は神崎さんに一票。俺同じ班だし、その方が面白そうだしね」

「じゃあ私は速水ちゃんに一票」

こっちを見て二ヨニヨしながら投票し始めた外野……もとい赤羽と中村。

 

 

問題です

二人の子が一つのものを取り合っています。さあ、どう解決しましょう。

平和的な答え:半分こにして仲良く使いましょう。

ただし俺は人間です。半分に千切ったら死ぬ。

 

さて、どうしてこうなった。

 

 

 

 

時は遡り昼休み、殺せんせーから

「これ、クラス全員の顔写真を載せた簡単な名簿帳です。これでクラスメイトのことを覚えて下さい」

と渡された冊子を読みながら、校庭の木陰で前日にコンビニで買ったパン類を食べていた時のことだった。

 

「隣、座ってもいいい?」

弁当片手に持った速水が現れた。

珍しい。

俺は率直にそう思った。

俺と速水は幼なじみではあるものの、中学にあがってから、昼を一緒に食べることは数える程しかなかったからだ。

別に構わない、そう言おうとしたのだが――

 

「あの、私もご一緒していいですか?」

言う前に、神崎が速水の後ろからひょっこりと現れた。

「お、おう。別に構わん……」

驚きのあまり勢いで返事をしてしまったが……まあいいか。

……速水が一瞬、顔を顰めたのはみなかったことにしておこう。

 

 

 

心地よくも気まずい、相反した沈黙と頬を撫でる冷たい風が俺たちの間を流れる。

昼食を食べ終わった俺は、このよく分からない空間から抜け出すべく、腰をあげようとした時だった。

 

「そう言えば、修学旅行の班どうする?」

ふと思い出したように、速水が話しかけてきた。

ああ、そう言えばもうそんな時期か。停学長かったから忘れてたな。

そんな事を考えつつ答えた。

「まあ、例年通り数合わせでどこかの班にぶち込まれるんじゃないか?」

修学旅行が毎年あるわけではないが、遠足や校外学習などを入れると毎年になるから、この使い方も間違ってはいないだろう。

さてと、今年はどうなるやら?

何となく速水の方を向くと、何かを決意した表情をしていた。

また、神崎も同様の表情をしていた。

「だったら、その――」

「あの、私と一緒になりませんか?」

発言に成功したのは神崎が僅かに早かった。

ん?

神崎の発言は、修学旅行の班で俺と一緒の班になりたいという解釈でおk?

俺と神崎の接点は今日交差点でトラックから助けた事しかないと思うのだが……

今日始めて会った人間を班に誘う。そんな事がありえるのはただ一つ。

罰ゲームだ。

もしそうだとしたなら、これにホイホイ乗ろうものなら……

いや、これ以上考えるのはやめておこう。

どう答えるのが正しいのか。

それを考えているうちに神崎は行ってしまった。

 

「……八幡は、どうするの」

最後まで言えなかったせいか、不機嫌気味な速水が訊ねてくる。

「罰ゲームだったら断る」

そう言いつつ、右手を速水の頭に置く。

何と言うか、つい置きたくなる位置にあるんだよな。速水といい小町といい。

「んっ……罰ゲームじゃなかったら?」

罰ゲームじゃなくて、接点のない、または薄い俺を誘おうとする奴なんているのか?

まあ皆無ではないけどさ。あぶれている奴を見つければ自分の所に組み入れる委員長タイプの奴とかさ。

だが、神崎は全くもってそのタイプに見えない。

「まあ、そん時に考えるわ」

今すぐ決めなきゃならんわけでもないからな。

「じゃあ、私と組むことも考えておいて」

「了解」

 

 

この時は思ってもみなかった。

まさか、今日の午後に決めることになるとは。

そして冒頭に戻る

 

 

 

 

 

で、本気でどうしようか。

速水は2班、神崎は4班

一緒に回ることは俺が分裂でもしない限り不可能だ。

あの後、神崎の件は罰ゲームではないと分かった。

だから神崎の班でも問題はない。

だが、何かが俺に待ったをかける。

何故だか、嫌な予感がするのだ。

あと、杉野とか言うヤツの目線が少々怖い。

 

「じゃあ、半分にしたらどう?」

 

見かねたのか、学級委員の片岡が介入してくる。

俺を右半分と左半分に分けて持ち運べと?死ぬわ!

 

……冗談はさておき、どう半分にするつもりだろう。

椚ヶ丘中学の修学旅行は京都に一泊二日と、他の中学より一日少ない。

しかも自由行動は初日だけだ。

つまり、班行動が出来るのは初日だけ。

一日目と二日目で分けた場合それは平等とは言い難いのだ。

いやまあ俺が即決出来ればよかっただけの話なんですけどね。

 

「二人でじゃんけんして勝った方が同じ班になって初日の自由行動を共にして、負けた方は新幹線の往復と二日目のバスの席が隣、でどうかな」

 

なんかすいません、ホント。

 

二人も納得したらしく、じゃんけんを始めた。

 

その結果、勝ったのは――

 




さあ、一体どちらが勝ったのか。

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