呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

7 / 29
こんな話で大丈夫か?
そしてしれっと生存するコーバッツ
けどたぶん今後出てこない(確信

あと誤字脱字見かけたら報告お願いします


打無 ~びゃくや~

そのまま会話も適当にしつつ、一行はとある扉の前に来ていた

正直言って、その扉から〝いかにも〟なオーラが漂っているのだ

ギンガたちは扉の前で立ち止まると、一度顔を見合わせる

 

「たぶん、ここボス部屋だね」

「そうだろうね。…どうする、様子だけ見ていくか?」

 

ギンガはサチを頷き合いつつ、キリトへと視線を向ける

アスナは彼のコートの袖をきゅっと掴んでおり、可愛らしい感じだ

 

「ボスモンスターは自分が守護する部屋から出ることはない…。だから、大丈夫だと思う。たぶん、きっと」

「…言い切ってくれよキリト」

 

若干自信なさげに言葉を吐き出すキリトにギンガは苦笑いで答える

 

「一応、転移アイテム用意しておくね」

「お願いね、アスナ」

 

とほほ、といった様子でアスナが用意しつつ、サチが扉のドアへと手をかける

反対の扉にはギンガが手をかけて、ゆっくりと一緒に扉を開けていく

開ききった扉の先は完全な暗闇だ、もっともまだ入口付近にいるので、中に入ると明かりが付くというパターンなのかもしれないが

しかし今の段階では部屋の奥を見ることが出来なさそうだ

と、そこで入口から離れた床の両側から音を立てて青白い火が灯された

そこから連続的にボボボ、と炎が上がり徐々に道が照らされる

その炎の向こう側―――そこに大きな影が見えた

 

見上げるような体躯―――山羊のようなその風貌…そうだ、あからさまにボスモンスターなのだ

その名称はグリームアイズ…直訳すると、輝く目、だろうか

あまり英語には詳しくないが、解釈はあっているはずだ

周辺に取り巻きであろうモンスターを従えて―――グリームアイズは剣を携えて吠え、まっすぐこっちに向かって走ってきた

 

これはアカン

 

咄嗟に一行は判断した

 

『うわぁぁぁぁぁぁ!?(きゃあぁぁぁぁぁぁ!?)』

 

ギンガは驚きつつ、他三人は同時に悲鳴をあげながらターンすると全力でダッシュする

ボスは部屋から出ない追ってくることはないはずだが、それでも怖いものは怖いのだ

道中、何度か雑魚モンスターに狙われたが構っている暇はないので適当に切り捨てて逃げ切った

安全エリアとして指定されている部屋へと飛び込み、最後にサチが飛び込む、が、足がもつれて転びそうになってしまった

そんなサチをギンガが抱き止め、サチが赤くなる

 

「…大丈夫?」

「う、うん。ありがとうギンガ」

 

サチを離すと彼女は軽く服装を整えるような仕草をして、一つ息を吐く

改めて逃げ切って顔を見合わすと、不意に笑みがこぼれた

システム上あのボスが追ってくることはないにしても、止まれなかったのだ

 

「―――ふふ、あー、逃げた逃げた!」

 

アスナは床にぺたりと座り込み、愉快そうに

 

「こんなに一生懸命走ったの久しぶりだよ! けど、私よりキリトくんの方がすごかったけどね」

「…」

 

アスナの指摘にキリトが苦笑いする

ギンガは背後の方にいたので彼の表情はわからないが、アスナがいうのだ、きっとすごかったのだろう

ん、んっ、とキリトが息を整えるとアスナは表情を引き締める

 

「…苦労しそうだね」

「そうだな。ぱっと見た感じでの武器は大剣一つだけど…」

「特殊攻撃があるだろうね、盾役は十人位必要かな」

「だな、前衛に硬い人を集めてガンガンスイッチしていこう」

 

四人でそんなことを会話する

そこでふと思い出したようにアスナが口を開いた

 

「盾装備、といえば。キリトくん、君、何か隠してるでしょ」

「え? い、いきなり何を…?」

「おかしいじゃない。普通に考えて片手剣のメリットは盾を持てることでしょう? だけどキリトくんが盾持ってるのみたことないわ。私は細剣の速度が落ちるからあれだし、ギンガくんは黄金の鎧。スタイル重視って人もいるけど、キリトくんはそうじゃなさそうだし」

 

目に見えて狼狽えている

あれは図星だ、彼は何か理由があって盾を装備していない

しかしアスナはにこっと笑って

 

「けどいいわ。スキルの詮索はマナー違反だものね」

 

そう言って彼女は笑った

うん、やはり彼女は笑顔が似合う、第一層で暫定パーティを組んでいた時からそれだけは言える

不意にギュムっと自分の脇腹がつままれた

つまんだのはサチである

 

「…どうしたの?」

「…なんでもないですよーだ」

<ギンガ、機嫌を損ねたな>

 

身に覚えがないのだが

 

「わ、もう三時…。遅いけど、お昼にしましょうか」

「あ、賛成! ふふ、不謹慎だけど、なんだかピクニックみたいだね」

 

そう言ってアスナはメニューを操作し小さめなバスケットを出現させた

 

「あ、私も作ってきたよ。…アスナには及ばないかもだけど…」

「そんなことないよ。サチもあと少しでカンストじゃない」

 

そんな会話をしながら二人はそれぞれバスケットから小包を取り出し、ギンガとキリトに差し出した

包を開けるとそれはサンドイッチだった

 

「アスナに協力してもらったんだ。味付けとか、調味料の部分はアスナから借りたやつだけど、一応、作ったのは私だからね」

 

サチはギンガを見据え、表情を赤くする

ギンガはキリトと視線を見合わせ、勢いよくそのサンドイッチにかぶりつく

美味しい

いままでいろいろな仮想料理を食べてきたがいままで食べた中で一番かもしれない

隣のキリトも一度かじりついて、一瞬フリーズしたかと思ったら一気に食べ始めた

 

しかしこの味はなんだろう…味的にはホットドッグに近い感じだろうか

極めればこんな味も出せるんだ、この世界

 

「…この味、どうやって?」

「ホントだよ。本当に美味しい、気になるな」

 

二人の言葉にアスナはふふん、と笑みを浮かべ

 

「一年間の研鑽と修行の成果よ。アインクラッドで手に入るおよそ百種類の調味料の味覚エンジンに与えるパラを全部解析して、これを作ったの。たまにサチに手伝ったりしてもらったけどね」

「だけど、ほとんどアスナだよ。私だったら途中で挫折してるもん」

 

そう言いながらサチは自分のバスケットから小瓶を二つほど取り出す

 

「これ、アスナが作ったんだけどね? すごいんだよ」

 

片っぽをアスナに渡し、もう一方はサチが開けた

二人はそれぞれ所持してるビンの中身を指先に付着させた

 

「二人共、口開けて」

 

一瞬キリトと見合わせたが、二人は静かに従い口を開ける

アスナはキリトの口に、サチはギンガの口へとそれぞれ付着した液体を入れてきた

味わって、二人はまたも顔を見合わせた

 

「マヨネーズだ!」

「こっちは醤油だ、懐かしいって思ったよ!」

 

二人して驚愕する

マヨネーズや醤油などもうかれこれ何ヶ月も味わってない

売れば確実に儲かるだろう

ちなみにあとで原材料を聞いたのだが…聞かなきゃ良かったと思った

 

と、そこで不意に下層側の入口からプレイヤーの一団ががしゃんがしゃんと鎧を言わせて入ってきた

瞬間的にキリトとアスナはパッと離れて座り直し、ギンガとサチも少しだけ距離を取った

しかし現れたパーティはキリトもギンガもよく知っている一団だった

 

「おお、キリトにギンガじゃねぇか」

 

こちらを知人だと知って笑みを浮かべて駆けてきた長身の男

名前はクライン、ボス攻略の際にキリトに紹介され、そこで交流を持った

時たま、パーティに呼ばれている程度の仲なのだが、気さくでとてもいい人だ、というのがギンガの印象だ

 

「お、なんだ、ツレがいる、の、か…」

 

クラインは言いながらバンダナの下の目を丸くさせる

荷物を手早く片付けてアスナとサチも立ち上がった

 

「ボス戦で顔は合わせてるかもだけど、念の為紹介するよ。こいつは〝風林火山〟のクライン。で、こっちは〝血盟騎士団〟のアスナ、そして―――」

「〝月夜の黒猫団〟サチです。よろしくお願いしますね、クラインさん」

 

ちょこんと頭を下げたアスナに倣いサチも短い言葉と一緒に頭を下げた

しかし当のクラインは口を開けたままフリーズでもしたのかと思うほど固まっていた

…どうしたんだろう、と思った次の瞬間

 

「こ! こんにちわクラインというものです! に、二十四歳、花の独身」

 

クラインのセリフが終わらないうちにキリトが彼の脇腹を小突いた

しかし終わらないうちに彼のギルドメンバーであろう人たちがこちらにかけてきて我先に我先にと自己紹介を初めて行った

 

このギルド〝風林火山〟はクラインの知り合いで、みんなSAO以前の仲間らしいのだ

彼は一人も仲間を欠くことなく守りきり、今や攻略組に名を馳せるほどのギルドへと育て上げたのだ

彼の人柄は、ギンガも憧れるものがある

 

「て、てかキリト、それとギンガ! どういうこったよ!?」

「…どういうことって言われても」

 

返答に困る

キリトはわからないが、ギンガは誘われたから組んでいるくらいなんだけど

そんな困っているキリトのとなりでアスナがずいと足を前にだし

 

「こんにちわ、しばらくの間彼らとパーティを組むので、よろしく」

 

そんな凛とした声で言った

…っていうか自分も入ってなかったか?

クラインを含めたメンバーが嫉妬とかいろいろ表情を変化させる

 

「お、おんまえら…!」

 

歯ぎしりとともにクラインが睨んでくる

と、その時だ

さっきクラインたちがやってきたところから別の足音が聞こえてくる

やけに規律の取れた足音だ

 

「みんな、〝軍〟だよ!」

 

サチの声に全員がはっとした様子で入口を注視する

そこから現れたのは二列体制でこちらに歩いてくる〝軍〟と呼ばれる一団だ

その集団の足取りは重く、見るからに疲弊している

 

安全エリアの、自分たちがいる反対側にその部隊は停止し、先頭にいたリーダー格の男が休め、と指示した

その途端残った十一人が一斉に崩れるように座り込む

リーダー格は仲間には目もくれずまっすぐこちらに向かってきた

そいつはギンガたちの前で止まるとメットを外す

 

「私はアインクラッド解放軍所属、コーバッツ中佐だ」

 

中佐て、と思わず呟きそうになったがこらえる

メンバーを代表してキリトが前に出て軽く自己紹介をする

 

「君らはこの先をもう攻略しているのか」

「…あぁ、一応ボスの前まではマッピングしてある」

「うむ。では、そのマップデータを提供してほしい」

 

当然、といった態度でコーバッツはほざいた

何を言っているんだこの男は

 

「て、提供しろ、だとぉ!? テメェマッピングの苦労わかって言ってんのか!?」

 

クラインの言葉

まだ攻略していない区域のマップデータは貴重な情報だ

トレジャーボックスを狙っている鍵開け士の間では工学で取引されている

 

「我々は一般プレイヤーの解放の為に戦っている! 諸君らが協力するのは、当然の義務である!」

「―――よく言うよ。今の今まで攻略会議になんて出てないくせに」

 

ぼそりとサチが呟いた

サチの言うとおりここ最近彼ら軍がフロア攻略に乗り出してきたことなどなかったのだ

二十五層の攻略の時に多大な被害を被ってから前線に出てこなくなった、というのがギンガの知りうる情報だ

 

「いいさ。別にマップデータで商売する気はないし」

 

言いながらキリトはウィンドウを操作し、目の前の中佐にマップデータを送信する

中佐は感謝する、と全然気持ちのこもってない言葉とともに後ろを向いた

 

<いいのかキリト>

「構わないさ。いくら連中でも、真っ向からボスに挑むほどバカじゃないだろう」

<―――だといいのだが>

 

しかしそんなキリトの想像とは裏腹にコーバッツは座っている仲間であろう人たちに「キサマらさっさと立て!」だの「早くしろ!」だのと怒鳴り散らしており、再度進軍を開始した

体力バーはマックスといえど、この世界での戦闘は精神的に疲労がたまる

そういったものは休息、睡眠で休まないと取れないのだ

あの軍のプレイヤーたちは慣れない最前線での戦いで消耗しているようにも見える

 

「…一応、様子だけでも見に行くか?」

「―――そうだな」

 

ギンガの言葉にキリトが頷く

確認を取るようにギンガは周囲に視線を向けるとサチやアスナ、クラインたちがみんな肯定するように頷いてくれた

 

 

道中リザードマンの大群に遭遇してしまい、最上部の階層に到着したのは安全エリアを出て二十分以上経ってしまっていた

もしかしたら〝軍〟の連中と途中でエンカウントするかもと思っていたが、ついに会うことはなかった

 

「ひょっとしたら、もう帰っちまったんじゃねぇか?」

「だといいんですけど」

 

ギンガの言葉にほかの人たちもそれに同意する

だけどあの男の様子を見ると帰るなんて行動を取ることはなさそうだ

そんな予感がよぎってからか、みんなの歩く速度が速くなっている気もする

半ばまで進んだとき、それは聞こえた

 

―――ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――

 

明らかに悲鳴だ、モンスターのではなく、間違いなく人間の声だった

キリトとギンガ、サチとアスナはそれぞれ四人顔を見合わせて一気に駆け出した

ステータス的にクラインたちを引き剥がしてしまう形になったがそんなことを言っている場合ではない

通路を駆け抜け扉を前に一度止まり、キリトが叫びながら半身を乗り入れた

 

「おい! 大丈夫か―――っ!?」

 

扉の中は地獄絵図だった

部屋の中央にはグリームアイズ、そして傍らにそいつを一回り小さくしたような取り巻きのモンスター

視線をグリームアイズに向け体力バーを確認してみると三割も減っておらず、取り巻きのモンスターに至っては半分も減ってない

統制など既になく、そこにいるのはもはや烏合の衆に過ぎなかった

人数を確認すると、二人欠けていた

…逃げたのならそれでいいのだが

 

「おい、早く転移するんだ!」

 

ギンガの言葉に一人の男がこちらを向いた

しかし返ってきた返答は無情な現実

 

「ダメだ、クリスタルが使えない!」

「なんだと!?」

「ギンガ、それって…」

「あぁ…クリスタル無効化エリア…!」

 

ギンガとサチは以前経験したことのある、そのエリア

文字通り結晶が使用できないエリアのことだ

しかし今までボスの部屋でそんなエリアはなかったのだが

以前は雑魚しかいなかったから半ばゴリ押しで突破できたが―――

 

「我々解放軍に撤退の文字はない! 怯むな、戦え、戦うんだ!」

 

コーバッツの怒号とも言える絶叫

周囲にいた仲間を従え、彼は無謀にも攻撃を続行しようとする

その時クラインたちがこちらに追いついてきた

事態の理解が追いつかないクラインらに、キリトが手早く説明している間にもコーバッツは行動をやめなかった

 

「突撃ィィィ!!」

「馬鹿野郎ォ!」

 

判断は一瞬

咆哮を上げ、コーバッツ率いる軍勢の戦意を削ぐと、グリームアイズは斬馬刀を振り上げる

振り下ろす前にギンガが魔戒剣でグリームアイズの背中に何発か斬撃を叩き込んだ

相手のタゲを取れればいい、こちらに注意を向けれれば

その一撃に邪魔をされて憤ったのか、グリームアイズはこちらに視線を向けてきた

 

「貴様! よくも邪魔を―――」

「うっせぇんだよこのバカタレ!」

「なっ―――」

 

話しかけてきたコーバッツに向かってギンガが一喝する

意識がコーバッツに向いていた、そんな一瞬の隙を突かれ今度は取り巻きである剣の攻撃がこちらに迫ってきていた

マズイ―――そう判断したときギンガの前に白い人影が割り込むように入ってくる

サチだ

 

「ひとりで無茶しようとしないでギンガ!」

 

槍モードに変化させた獲物を振るいながら、サチはギンガにそう言った

彼女の近くには剣を構えたキリトとアスナ、そして腰を抜かしている解放軍のメンバーを助け起こしているクラインたちの姿が見えた

ギンガは軽く息を吐いて調子を整えると

 

「悪い―――手伝ってくれるか?」

 

苦い笑いとともにギンガはそう言った

 

「当たり前さ。ただ問題は―――」

 

接近してくるモンスターを切りつけつつ、キリトはちらりと視線を移す

彼の視線の先にいるのは、こちらを見下ろすグリームアイズ

 

「この局面をどう切り抜けるか、だな。キリト、何かある?」

「…あるにはある、けど…それを使うならちょっとばかし時間を稼いで欲しい」

「じゃあ時間稼ぎは俺たちが努めよう。出し惜しみしない、鎧も纏う」

 

ギンガがそう言ったとき、声が聞こえた

ザルバ、ではないまた別の声

 

<黄金騎士の言うとおりだ、サチよ>

「! …ゴルバ」

 

聞きなれないその声に、一同は一瞬驚く

ゴルバと、サチは言った

 

<出し惜しむ必要はない、―――全力でいけ>

「―――うん」

「サチ、やっぱり―――」

「ごめんねギンガ。…あとで話すから」

 

サチが笑みを浮かべて改めて槍を構える

その隣で細剣を抜き放ち、その場で身構えた

 

「ふふ、なんだかすごい人と友達になったかしら」

 

小さく笑みを浮かべながらサチに向かって微笑みかけた

そんなアスナの隣にギンガが並びたる

ちょうど二人でアスナを挟む形になった

サチは槍を両手で構え、ギンガは赤い鞘から魔戒剣を抜き放ち互が頭上に円を描いた

 

円が砕かれ、そこから来るは己が鎧の白と金

白き鎧はサチの周囲を飛び交って、彼女の体に装着される

権限するは白き槍狼―――白夜騎士〝打無(ダン)

 

同じ時金の鎧を纏って白い双眸からグリームアイズを見据える黄金の騎士

牙狼剣となった剣を構え、その刀身に自分の左手の甲を這わせる

牙狼が言った

 

「行くぞ」

 

その言葉を引き金として、アスナと牙狼、そして打無の三人は一斉に駆け出した

時間を稼げばいい、とキリトに言われたが何秒稼げとは言われてない

時間稼ぎのうちに倒せればそれでいいかもしれないが、そんなんで倒されちゃこいつはボスと名乗れないだろう

先に動いたのは打無

形状を変化させた自身の槍を一度グリームアイズにつき立てた

当然僅かではあるが出来た隙を逃さんと取り巻きが再度剣を振り上げてくる

しかしそれより先に〝閃光〟の剣技が敵を貫く

一撃、二撃、三撃と繰り出されるその速さはさすがと言える名妓である

そして牙狼は突き立てたその槍を一度足場にして、胸部を一度斬り付けた

しかし牙狼剣といえど、そのダメージは少なく、グリームアイズは咆哮をあげながら剣を振り上げた

振り下ろす直前、牙狼は上、打無は槍を抜きアスナと共に後方へ飛んだ

地面に叩きつけて、グリームアイズはわずかな硬直を晒す

 

「ハァァァァァッ!」

 

そのまま上空から牙狼剣で斬りつけ、そこに更に後方からアスナと打無の連撃がグリームアイズへとヒットする

左右から湧いてきたモンスターが襲撃してくるが、右に牙狼、左に打無が立ち、それぞれの獲物で蹴散らした

そんな時だ

 

「よし、いいぞ!」

 

キリトの声だ

恐らく準備が出来たのだろう

牙狼と打無が組めばグリームアイズに打倒しうるかもしれないが、如何せんこれの装着には時間制限が掛かっている

このまま鎧熟練度的なものを上げていけば時間制限もなくなるかもしれないが、今はそんなことを言ってる場合ではない

キリトが大声で「スイッチ!!」と叫ぶ

 

叫びとともに場を入れ替えたキリトが相手の攻撃を剣で受け止めながらもう片方の手は、己の後ろへ

そこに現れる〝もうひと振りの剣〟

キリトはそれを掴み、振り抜いた

見たこともないそのスタイルは―――二刀流

 

そこからは流れるような連撃がグリームアイズへと襲いかかった

時折グリームアイズから反撃をもらいながらもキリトはふた振りの剣での攻撃をやめようとはしなかった

斬り付けた光は星くずの光のように輝き、瞬く間にグリームアイズの体力を削っていく

事前に三人が多少ながらダメージを与えていた甲斐もあったか、一番最後のキリトの攻撃がグリームアイズを貫いた時、ついに悪魔の体力がゼロとなり、そのまま四散した

 

一瞬の静寂

 

肩で息をするキリトの体力バーなんとなしに確認してみると、レッドゾーンにまで落ちている

ギンガたちが若干減らしてくれたおかげか、はたまた運が良かったのか

そのままキリトはぷつりと糸の切れた人形のようにぱたりと倒れてしまった

 

「キリトくん!?」

 

倒れた彼を案ずるようにアスナが駆け出した

ギンガとサチは鎧を解除し、改めて状況を確認する

クラインたちも駆けつけてきた

 

「クラインさん、被害状況聞いてもいいですか?」

「…二人、だ。他はなんとか、俺たちの回復ポーションでなんとか持ち直してる」

「そう、か。二人で済んで幸運だった、て言うべきなんですかね」

「馬鹿言うな。死んじゃ意味ねぇだろうが。…こんなのが攻略とか、ふざけてるぜ」

「―――ですよね」

 

吐き捨てるようにクラインが言った

―――そうだ、こんなの攻略なんかじゃない

ギンガは改めてコーバッツに視線を向けた

 

「一通り部隊が回復したら、とりあえずアンタは仲間と一緒に戻るんだ。先に行こうなんて考えるな、いいな。それとここで起きたことを全部報告すること。もう二度とこんな無謀なことはするな」

「―――」

 

コーバッツは苦い顔で頷いた

するとギンガの隣でふぅ、と息を吐いたサチがつぶやく

 

「とりあえず、一件落着、かな」

「だな。…それと、お疲れ様」

「うん。…ホントはね、まだ黙っておきたかったんだ。鎧のこと」

「戦い方がソードスキルに頼ったものじゃなくなったときから、何となく予想はしてたけどね」

 

そう言うとははは…、とサチは苦笑いした

 

「ばかっ! …無茶して…!」

 

不意にアスナのそんな声が聞こえてきた

どうやらキリトが意識を戻したらしく、アスナはひと目も憚らずキリトに抱きついている

血盟騎士団でアスナに心酔している連中がこれを見たら激昂不可避だろう

そうだ、と空気を変えるようにクラインがキリトに向かって言葉を発した

 

「そりゃそうと、おめぇなんだあのスキルは!?」

「…言わなきゃダメ…だよな」

「ったりめぇだろ! 見たこともないぜあんなん!」

「―――エクストラスキルだよ。〝二刀流〟」

 

おぉ、というどよめきが軍やクラインの仲間たちから聞こえてくる

 

「…条件は?」

「わかってりゃ言ってるって」

「情報屋のスキルリストにも載ってねぇってことは…さっきのサチさんのも含めて、〝ユニークスキル〟じゃねぇか。ったく水臭いぜキリト。こんなスゲェの黙ってたなんてよ」

「こんなレアスキル持ってるなんて知られたら…その、いろいろあるだろ」

「…ネットゲーマーって、嫉妬深いもんね」

 

サチがつぶやく

確かに、こういった限定的なものは一部の人間から妬みなどを貰いやすい

知人とかなら知られても問題ないだろうが、名も知れぬ一般人ならなおさらだ

 

「―――まぁとりあえず、一件落着ってことでいいかな? キリト、俺はこれから転移門をアクティベートしてくるけど、お前はどうする?」

「あぁ、任せるよ。俺はもうへとへとだ」

「わかった。それとクラインさん。念のため、軍に一度張り付いててもらえます?」

「? それは構わねぇけど、どうしてだよ」

「〝信用〟できないんです、コーバッツが。だからしっかりと彼の報告を聞いてきてください」

「そういうことならおうともよ。あとは、若い二人に任せようぜ」

 

にしし、とクラインはキリトとアスナの方へと視線を向ける

おっさんか、と短くギンガは思ったが、確かに二人の邪魔をするのもなんとなく気が引けるので、苦笑いと一緒に扉へと向かっていく

自然と彼の後ろにサチがついていった

 

「私も行くよ、ギンガ」

「わかった、さっさとアクティベートして、俺たちも休もうぜ」

 

クラインたちは軍についていき、アクティベートするためにギンガとサチは扉へと歩いていく

部屋の中央にはぐったりしているキリトと彼に抱きついてるアスナが残された

これをきっかけに、少しは進展してくれればいいんだけどな、と他人事みたいに考えながら、ギンガは扉の門を開ける

 

図らずも、七十五層への道は切り開かれた―――




女をめぐって、二人の男が剣を取る
一人は己のために、そしてもう一人は―――組織のために

次回 神聖 ~ヒースクリフ~

その剣は、盾を砕くか、あるいは―――

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。