呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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いざ書いてみたら案外短くなってしまったので結局一つにしました

鎧をまとってはいないですが、頑張った戦闘(色々ガバガバ)をお楽しみください

そして安定のシロディール

※地の文「見つかるか知らないけど」までは以前のとほぼ同じです


舞闘 ~らんぶ~

あれから早いもので、もう二年の時間が過ぎようとしていた

生存者六千人、残るフロアは二十六

つまり自分たちは七十四層まで攻略できたのだ

ギンガもなるべくボス攻略には参加しているが、危ないと判断した時以外鎧の装着は控えている

 

そんな鎧も、つい最近制限時間が九十九点九秒と、だいぶ伸ばすことができている

そしてソードスキルを一切使わないこの戦闘スタイルも続けていたら、ついにソードスキルを使用することは完全になくなってしまった

この鎧を入手した時に経験したあのダンジョンがだいぶ影響しているといっていいだろう

 

そして今現在、ギンガは七十四層の迷宮区にいる

目的は特にない

鎧もだいぶ体に馴染んだし、いつのまにか噂になってた〝黄金騎士〟云々も苦笑いでスルーできるようになった

…正直大勢の前で〝黄金騎士〟って言われるのは恥ずかしかったのだ

鎧が馴染むのは早くても、異名みたいなのに慣れるのは時間がかかった

 

「…そろそろ戻ろう」

 

赤い鞘に魔戒剣を収め、ギンガはポツリとつぶやく

そもそもこの層に来た目的は探索以外特にないし、もっと言えば手に入れた素材やアイテムを全部お金に換金するためだ

鍛冶屋とか防具屋とかもこの世界には存在しているが、どちらも利用する必要がないギンガは基本的に全部売っ払っているのだ

武器は魔戒剣一本で事足りるし、防具もこの白外套だけで問題ない

一応体術も頑張って取ろうかとは思ったが自分の拳打は牽制の域を出ていないので、取得は取りやめた

 

<まぁ十分な成果だな。戻ったらどうする?>

「知ってるだろ。全部エギルの店に売るよ。んで、そのお金で軽く回復アイテムを買う」

<いつも通りというわけだな>

 

ザルバとのやり取りの後、ギンガは懐から青い結晶を取り出しながら言葉を発した

 

「転移。アルゲード」

 

鈴を鳴らすような音とともに結晶は砕け、ギンガの体が青い光に包まれる

そしてその光が消え去った頃には、転移は終わっていた

いまギンガがいるのは、アルゲードの中央にある転移門だ

このアルゲードの町並みを簡潔に表現するなら、猥雑、だろうか

巨大な施設はなく、広大な面積に無数の隘路がめぐらされており、その隘路の中には怪しい店や見た目がヤバげな宿屋とかがある

ギンガもここの宿屋に通いつめて一年近いが道の半分も覚えてない

 

「ギーンガ」

 

ふと自分の背後からかけられた言葉が一つ

ギンガが振り向いた視線の先には、白い装備を着込み、背中に棍のような、槍のような獲物を携えている一人の女性がいた

彼女は顔の近くで手を軽く振って

 

「や。今戻ってきたの?」

「そんなところ。今アイテムを売りに行こうとしてるところなんだけど、一緒に行くか? 〝サチ〟」

「いいの? じゃあご一緒しようかな」

 

サチ

彼女はかつてギンガが交流を持ったギルド〝月夜の黒猫団〟のメンバーだ

ギンガと分かれて以降、着々と経験を積み今や黒猫団も立派な攻略組の仲間である

彼らと組んだメンバーは、必ず生き残るとも言われている程だ

そして今ギンガと行動を共にしているサチはその黒猫団の紅一点で、槍使いだ

そこにはかつて怯えていた頃の面影はなく、モンスターとの戦闘の時は率先して前に出るようになっている

はっきり言って再会した時一番驚いたのはほかならないギンガ自身だった

新調したのか青メインだった装備は血盟騎士団みたいな白ベースになっているし、ザルバを真似たのか変な顔したブレスレットをしているし、槍は棍にも切り替えられるようなハイテクな装備になっているし、そしてなにより明るくなった

そして変わったのは見た目や性格だけでなく、戦闘スタイルも変わっていた

久しぶりに彼女とパーティを組んで、戦った時があるのだが、その時に見た彼女の戦い方が、〝ギンガと同じ〟になっていたのだ

そのときはもしかしたら、と思っていたがそのときは考えるのを放棄した

 

「エギルさん」

 

自分が厄介となっている店の扉を軽くノックし、ギンガは店に入っていく

その背中にサチも続き、彼の背中からひょっこりと顔を出した

 

「お、ギンガじゃねぇか。また売却か? …っと、お宅は確か…」

「どうも、サチです。いつも黒猫団のみんながお世話になってます」

「ってぇと、君が黒猫団の紅一点って噂のサチさんか、おうよ、黒猫団のみんなにゃ、俺も世話になってるぜ」

「ふふ、どうもです」

 

朗らかな笑みを浮かべるサチに、彼女に答える店主のエギル

エギルはキリトに紹介されギンガも頻繁に利用しているお店の店主だ

見た目は現実で龍が如くしそうな作品に登場しそうな強面の男性だが、話してみると意外にノリがよく、仲良くなるのに時間はかからなかった

 

「とりあえず、また買取をお願いできます? そしてそのお金で回復アイテム適当にください」

「おうよ。ったく、お前はレアアイテムとかすぐ売るんだからよ」

「仕方ないじゃないですか。使い道ないですし」

 

そんなことを言い合いながら、ギンガは持っているアイテム欄の中から適当に素材を羅列していくと、また後ろから扉が開けられる

 

「エギル―――と、ギンガに、サチ」

「ん? あぁ、キリトじゃないか」

「こんにちわ、キリト」

 

扉を開けて入ってきたのは、同じように最前線で剣を振るっている〝黒の剣士〟ことキリトだ

彼も何かを売りに来たらしいようだ

ギンガは手早く売却を済ませるとキリトにカウンターを譲る

エギルの前に表示されたアイテムの羅列を見て、その一つに視線が釘付けとなる

 

「お、おい、これ、S級のレアアイテムじゃねぇか…! ラグーラビットの肉って…!?」

「ら、ラグーラビット!? それほんとなのキリト!?」

 

エギルとサチがキリトに詰め寄る

その中でただひとり、ギンガが頭にはてなマークを浮かべている

 

「…ラグーラビット? なにそれ」

「ギンガ知らないの!? プレイヤー間の取引じゃ十万近い取引金額が出る食材なんだよ!」

「マジか」

 

サチの気迫に押されギンガは若干後ずさった

確かにこの世界における唯一の娯楽が食だ

それにしても十万か、最高額のオーダーメイド武器を注文しても釣りがくるじゃないか

 

「き、キリト、それ売っていいの? 食べようっては…」

「もちろん思ったさ。けど俺の料理スキルじゃあ焦がしちゃうのが落ちさ。それとも、サチが作ってくれるのか?」

「そ、それは…! うぅ、この世界が現実だったら作るのにぃ…」

 

結構本気で落ち込んでいるサチにギンガが思わず笑いをこぼす

サチはくるりとこちらに視線を向けて、「なによ」と短い講義の言葉を発した

ギンガは思った言葉をそのままぶつける

 

「いや、前よりホント明るくなったなって。以前の君を知らないけど、なんかそっちのほうが…なんだろ、可愛いなって」

「にゃ! な、何言ってるの人前で!」

<ははは! もう小娘とは呼べないな>

「ざ、ザルバまで!」

 

顔を赤くしてこちらにポカポカやってくるサチに店内の空気が和む

そこでふと、キリトの肩をぽん、と叩く誰かがいた

 

「キリトくん」

 

女性の声

その聞こえた声の方にみんなが視線を移した

オレンジっぽい髪をした彼女を、ギンガは知っていた

そして同様に知っているキリトは彼女の手を掴みこう言った

 

「シェフ捕獲…」

「? シェフ?」

 

言葉の意味がわからずオレンジの髪の女性はきょとんとした様子で首をかしげた

名前はアスナ

かつて第一層のボス戦の時出会ったばかりのキリトとともに暫定パーティを組んでいたものだ

この世界には圧倒的に女性が少ない

ギンガ的にはサチも負けてはいないと思うのだが、それでもアスナの美しさには右に出るものがいないだろう

そしてもう一つ、彼女を有名にしている要因がある

それは白と紅に彩られた〝血盟騎士団〟のユニフォームだ

アインクラッドに数多あるギルドの中でもこのギルドは誰もが認める最強プレイヤーギルドだ

構成されているメンツは三十人弱と中規模であるが、そのプレイヤーのどれもがハイレベルプレイヤーに名を連ねているのだ

その中でアスナは副団長を努めており、尚且つ〝閃光〟という異名まで持っている

 

<(…何も知らなかった小娘がここまで成長するとはな)>

「(…本人の前で言うなよそれ)」

 

もっともそれは自分も思ったのだが

しかし彼女の方もいろいろあるのか、随伴に二人の護衛のようなプレイヤーを連れている

特に先程からキリトを睨んでいる青年なんかめんどくさそうだ(いろいろと)

 

「め、珍しいな、こんな場所に顔を出すなんて」

「もうすぐボス攻略だから、生存確認に来たんでしょ?」

「フレンドリストに入ってるんだから、それくらいわかるじゃないか」

 

そう言い返すと彼女はぷいとそっぽを向ける

彼女は両手を腰に当てるとふぅ、と一つ息を吐きながら

 

「それで、シェフってなによ?」

「あ、そうだった。アスナ、今料理スキルって、どんな感じだ?」

 

そうキリトが聞くとアスナはふふん、と口元に笑みを浮かばせた

そして若干のドヤ顔とともに彼女は言い放った

 

「先週にコンプリートしたわ」

「なっ!?」

「ほ、ホント!?」

 

サチとキリトの声が重なる

このSAOには戦闘以外にも料理や釣りなどといったいわゆる娯楽的なスキルもある

しかし如何せんそれらは趣味の範疇に過ぎず、極めようなどとという物好きなどいないだろう、とギンガも思っていた

もっとも、今の前のアスナはそんなスキルの一つ、料理をコンプしたのだというのだが

 

「…その腕を見込んで、頼みたいことがあるんだ」

 

彼はウィンドウを他人にも見える可視モードに切り替えると、例の食材をアスナに見せる

そのアイテムを見たアスナは表示されてるアイテムを見て驚きの声を上げた

 

「うえ!? え、S級食材!?」

「取引だ。料理してくれたら半分食わせてやる」

「―――いいわ。腕がなるわね、あのS級を相手に料理だなんて」

 

そう言って拳を握るアスナ

キリトはウィンドウを消去するとエギルに向かって

 

「悪いな、そういうことで取引中止だ」

「い、いや。それはいいけどよ、なぁ、俺たちダチだよな、せめて、味見くらいは―――」

「見苦しいぜ、エギルさん」

「そうですよ。本音を言うと私も食べたいけど、あれは二人のものですし」

「く! だよなぁ!」

 

この世の終わりみたいにオーバーアクションするエギル

そんな時ふとアスナは声を開いた

 

「そういえばどこで料理するの?」

「…あ」

「どうせキリトくんの部屋にはろくな道具ないんでしょ? 今回だけ、食材に免じて私の部屋を提供してあげる」

 

さらっととんでもないことをさらりと言ってのける彼女

理解が追いつかずフリーズしているキリトをよそにアスナは護衛役であろうギルドメンバー二人に向き直って声をかける

 

「今日はこのまま〝セルムブルグ〟まで戻るので、護衛は大丈夫です、お疲れ様」

「アスナさん! こんなわけわかんないの家に誘うとか、とんでもねーっすよ!」

 

その言葉に我慢できないといった感じで声を発したのは護衛役の一人の短髪の青年だ

彼の隣で長髪の男性は一つため息を吐いた

 

「この人は素性は兎も角、腕だけは確かだわ。少なくとも、君よりは十は上じゃないかしら? ナーガ」

「な!? いくらなんでも、俺がこんな奴に劣ってるわけが…!!」

「ストップだ、ナーガ。ここで変に喚き散らして、副団長に迷惑をかける気か」

 

彼を止めに入った長髪の男

男は毅然とした態度でアスナに向かって

 

「彼は私が連れて行きます、団長には私が報告しておきましょう」

「…いいの? クラディール」

「構いませんよ。あんな張り詰めたギルド内部より、友人とご一緒の方が貴女もリラックスできるでしょうからね」

 

彼は短くそう言うとナーガと呼ばれた青年を引っ張ってすたこらと歩いていく

ナーガは未だにキリトの方を睨んできていたが、やがて引っ張られて、人ごみの中に消えていった

 

「…じゃあ、行きましょうか?」

「え! あ、お、おう」

 

こほん、と短く咳をするとアスナはエギルにおじゃましました、と挨拶する

 

「アスナ、後で感想聞かせてね」

「OKよサチ。ただ、あんまり期待しないでね」

 

そう言って軽くハイタッチをする女性戦士二名

出て行ったふたりを意味なく見送ると、今エギルの店には途端に虚無感が襲う

 

「…ねぇギンガ。このあとって暇?」

「え? 暇といえば暇だけど」

「ちょっとお買い物付き合ってくれないかな? 大した用じゃないんだけど」

「問題ない。…そんなわけで、俺らも出るよ、エギルさん」

「お、おう。またのご来店頼むぜ」

 

そうエギルに言い残し、ギンガは先を歩くサチの後ろをついていった

そんな後ろを歩きながら、ひとりギンガは考える

 

(…ラグーラビットか。…見かけたら狩ろう)

 

見つかるか知らないけど

 

 

数日後

ギンガはキリトに誘われ七十四層の主街区ゲートに足を運んでいた

道中サチと事情を話すと自分も行きたい、と提案してきたのでギンガはそれを承諾、キリトへの説明はついてからでいいか、なんて考えながらアルゲードの転移門を潜る

正直マイホームを持っていないギンガはどこの宿屋で止まっても問題はないのだが、知人が多い、というしょうもない理由で拠点を五十層に定めている

ぶっちゃけ、今となってはマイホームなんぞの一つや二つ買えるぐらい金はあるのだが、大体全部回復アイテムに消えていく

必要性も感じないし

 

ふと左手のザルバに視線が行く

何やらサチと再会した時に妙な視線を彼は感じたというのだ

気になったギンガは率直に聞いてみた

 

「ザルバ。聞いていいか」

 

ギンガは隣を歩いているサチに聞こえないような声量で左手を顔に近づけてザルバに問いかけた

 

<視線の話だな?>

「あぁ。お前が気になったっていうから、俺も気になってさ」

<いや、大したものじゃないんだ。しかし、正直どう言葉にしていいかわからん>

「?」

「なーにこそこそ話してるの?」

 

不意にずい、と顔を覗き込まれた

そこには天真爛漫な笑顔を向けてくるサチの姿がある

…改めて彼女を見ると本当に以前会った人物と同一人物なのか? と疑いたくなるくらい前向きになっている

なんでもケイタたちが言うにはギンガと別れてから積極的になった、とは言っていたのだが

―――人間変われるものだなぁ、と脳天気にギンガは思った

 

もう二人いるのかと思いきや、いざ待ち合わせ場所に到着してみるとそこにはまだキリト一人しかいなかった

話を聞いてみるとキリトも待っているのだがまだ来ない、というのだ

それはともかくサチのことを話したらキリトは快く受け入れていくれたので、あとはアスナを待つだけだ

 

「…しかし、こう待つだけだと暇だね」

「せめて携帯ゲーム機でもあればなぁ…」

「ゲームの中でゲームって言うのもなぁ…」

 

そんな他愛ないことを話していると、転移門内部に青いテレポートの光が発生した

 

「きゃああぁぁあ!? よ、避けてぇぇ!」

「え? て、うわぁぁあ!?」

 

本来ならゲート内で地面に着地するのだが、地上一メートル付近の空中に具現化し、そのままキリトに向かって吹っ飛んできた

危険を察したギンガとサチはそれぞれつい突発的に左右に避けてしまい、被害を受けたのはキリトのみだ

ごめん、と頭の中で謝りながらもキリトにぶつかってきた人影は誰かと視線を向ける

 

「い、いやぁぁぁぁぁ!」

 

なんかキリトが吹っ飛んだ

声からして女性だから、うっかりキリトがなんか失礼なことをしたのだろう

っていうかよく見たら吹っ飛んできたプレイヤーは待ってたアスナその人だ

 

「や、やぁ、おはようアスナ」

 

引きつった笑顔とともにキリトがそう挨拶した

一瞬ぞわっとアスナから殺気が浮き出た気がするが、再度転移門が光ったと同時に思い出したように振り向いてその光を確認するとキリトの後ろに回り込んだ

ギンガとサチは意味がわからずお互い顔を見合わせ、首をかしげる

キリトも戸惑った様子で転移門からまた人が出てくるのを待った

そこに出てきたのは昨日アスナの護衛をしていた青年だ

名前はたしかナーガといったか

ゲートから出た彼はキリトと一緒にいるアスナを視線にやると一層不機嫌そうに眉をしかめた

 

「…勝手なことしないでくださいアスナさん。本部まで戻りましょうよ」

「嫌よ! っていうか今日は休日よ! そもそもなんで私の家の前に朝から張り込んでんのよ!!」

 

え、とギンガの顔が固まった

ストーカーじゃんかまるで

 

<あれが世にいうヤンデレってやつか>

「絶対違う」

 

ザルバの悪ふざけにギンガが答える

 

「俺の任務はアスナさんの護衛。それはつまり自宅の監視も含まれてるのは当然じゃないっすか」

「含まれるかバカぁぁぁ!!」

 

その言葉を聞くとナーガははぁ、とため息をついてつかつかと歩いてくる

アスナの付近まで行くとキリトを押しのけて強引にアスナの二の腕を掴んだ

そのまま連れ戻されそうとしたとき、ナーガの腕を誰かが掴んだ

 

「悪いな。今日一日、副団長は俺の貸切なんだ」

 

我が友ながらクサイセリフである

うっかりクスリとサチが笑みを吹き出した程だ

先日までキリトの存在をスルーしていたナーガはめんどくさそうにキリトに視線を向ける

 

「…んだよお前」

「アスナの安全は俺…っていうか、俺と俺の友達で責任を持つよ。別に今日ボス戦を挑むわけじゃないしね。だから本部にはアンタ一人で行ってくれ」

「あいにくだけどアンタらみたいなのに務まると思わないんでご遠慮願いたいんですけど」

 

その言葉にムッと来たのはサチだった

彼女はズカズカとキリトの隣に歩いていく

心配になったギンガは彼女の隣まで小走りで追っかけた

 

「あら。貴方よりはマトモに務まると思いますけど?」

 

若干不敵な笑みを浮かべサチはそう言った

その言葉に青あざが浮き出るくらいナーガは顔を歪める

 

「―――じゃあ証明してもらおうじゃないか。お前達みたいなのに務まるかをよぉ!」

 

怒りを孕ませながらナーガはウィンドウを呼び出した

手早く操作するとサチの視界に半透明のウィンドウが現れた

それはデュエル申請のウィンドウだ

 

「まずはテメェからだ女。身の程ってのを教えてやるよ」

 

しかしサチはそれを受けようか迷っていた

無論サチには普通に勝てるという自信もあるが、下手に受けて血盟騎士団の迷惑にならないのだろうか

そう思ってちらりとサチはアスナの顔を伺うように見た

止められる、と思ってたが意外な事にアスナは表情を固くして頷いてくれた

 

「いいのか?」

「うん。団長には私が報告するから」

 

キリトの言葉にアスナがそう言った

そういうことなら、とサチはYesのボタンを押し、そこから初撃決着モードというのを選択した

これは文字通り、先に相手に一撃を与えた方の勝利、というシンプルなモードだ

〝デュエルを受諾しました〟の文字のあと、六十秒のカウントが始まる

 

「サチ」

 

獲物を構えるサチに向かってギンガが言葉を投げかける

棍モードのまま獲物を構えたサチは言葉の方に視線を向けてくれた

 

「心配ないだろうけど、無茶すんなよ」

「―――うん、わかってるよギンガ」

 

彼女は笑顔を向けてそのまま棍を振り回し、自然な動作で右手に持ち替える

下手に構えず、動きやすさを重視したその構え

 

「泣いて謝るんなら、許してやってもいいぜ? アンタ結構好みだよ?」

 

下卑た笑いで片手剣を構えるナーガに一切答えることなく、サチは表情も変えない

それが面白くなかったのか、ナーガはちっ、と舌を打った

互いに距離を取り、カウントが減っていく傍ら、面白がって集まってきた見物人が増えてきた

まぁ無理もない、往来のど真ん中、おまけに結構二人共そこそこなの通ったプレイヤーだからだ

口笛を吹くわ、野次飛ばすわと大騒ぎだ

やがてカウントが一桁になる

残り三…二…一…ゼロ

 

デュエルの文字が弾け、先に動いたのはナーガだ

刀身が輝き、一直線に突進してくる

繰り出される剣速はさすが血盟騎士団所属とあってなかなか早い

これが―――一般のプレイヤーであったならその一撃でデュエルは終わっていただろう

だがサチは最低限の動きで、容易くその攻撃を回避し、ナーガの背後に回った

相手が使ったのはソードスキル、簡易な技や、大技の終了後は僅かではあるが硬直がある

加えてナーガが使用してきたのは、序盤でも容易に習得可能なソードスキル、硬直もそれほど長くなく、本来のプレイヤーならこういった硬直は大した隙にはならないはずだ

しかし〝ソードスキルを多用しない者〟にとって、ソレは大きな隙となる

サチはガラ空きな後ろから、ナーガの脇腹に該当する部分に、己の獲物を全力で叩きつけた

 

現実ならメキリとでも聞こえてきそうである

がはっ、と息を吐き出すような声色とともに、ナーガは横に吹っ飛んだ

しばらくのあいだ、沈黙が場を支配する

だがサチがくるりと棍モードの獲物を振り回し、背に収めたとき、わっと一気に歓声が上がった

 

「まだするの? もっとも、みんなの中で一番弱い私に勝てないようじゃ―――何度やっても無駄だと思うけど」

 

無慈悲とも思えるサチの言葉

ゆっくりとうずくまるナーガは小さい声で「リザイン」と呟いた

そんな時だ、転移門が光輝き、そこから誰かが現れた―――クラディールだ

彼は軽く周囲を見渡しアスナを発見すると一直線に駆けてきた

 

「副団長、休日中に申し訳ありません、ナーガをご存知ないでしょうか?」

「な、ナーガなら…」

 

ちらりとアスナが指を向ける

クラディールが一度視線を向けたあと、もう一度アスナに視線が向けられた

 

「…失礼、副団長。説明を要求しても?」

 

 

「本当に申し訳ございません。あまつさえそのような行動に出ていたとは…!」

「い、いいって。クラディールの責任じゃないし…」

 

ことのあらましをアスナから聞いたクラディールは何回もアスナに向かって頭を下げた

ひとしきりアスナに謝ると、今度はこちらに向かって歩いてくる

 

「君たちにも迷惑をかけた。本当にすまない」

「い、いいって。迷惑だなんて思ってないし。なぁ、ギンガ」

「あ、あぁ。な、サチ」

「うえ!? う、うん! デュエル吹っかけたのは私だし…」

 

うずくまるナーガを引き連れて、クラディールは結晶を用意した

クラディールは視線をアスナへと移し

 

「このことは自分が団長に報告しておきます。副団長は休日を楽しんできてください。―――そんなわけで、キリトくん…だったかな。副団長のことは任せたよ」

「あぁ。安全は保証していい。なんたって、こっちには〝黄金騎士〟がいるんだから」

「バッ、やめろよ! 知人に言われるとむず痒いんだ!」

「はははっ、なら心配いらないな、では。―――転移、グランザム」

 

クラディールがそうつぶやくと青い光に包まれて、二人は消えていった

消滅する最後の瞬間まで、ナーガはこちらに対して恨みのこもった視線を向けていた

その場には野次馬と、ポカンとしていたメンバー四人がいた

何か気の利いたことでも吐ければいいが、あいにくとそんなのを言える器用な人間ではなかった

 

「ごめんね、サチ。ヘンなことに巻き込んじゃって」

「ううん、私は問題ないけど…アスナは大丈夫なの?」

「えぇ。今のギルドの空気は、攻略を最優先にしてきたメンバーに、規律を押し付けた私にも責任あると思うから…」

「い、いや、それは仕方ないっていうか…アスナがいなかったら攻略もずっと遅れてたと思うし…」

 

言葉の途中でキリトは声を詰まらせる

どうやら彼も同じタイプの人間のようだ

 

「その、さ。たまにはアンタも、俺たちみたいなイイカゲンなのとパーティ組んで、息抜きくらいしても、誰にもなんにも言われないよ」

「ちょっと!? イイカゲンのカテゴリにどうして私も入ってるの!?」

「…イイカゲンなのかな、俺のスタイル」

<知らんな。人によってはイイカゲンなのかもしれないな」

 

すぐ近くでうがーとしてるサチや苦笑いで切り抜けようとしてるキリト、何やらザルバと真剣に悩んでいるギンガ

彼らのような友人を見ていると、血盟騎士団で悩んでいた自分が少しバカバカしく見えてくる

アスナは彼らの間に入り

 

「…ありがとう。それじゃあ、お言葉に甘えて息抜きさせてもらおうかな。ギンガくん、キリトくん、前衛よろしく。サチ、私たちは後衛でガールズトークでもしましょうか」

「賛成!」

「ちょっと!? せめてローテーションで行こうぜ! 前衛って交代制だろう」

 

わいわいと騒ぎ始めた三人の少し離れた場所で、ギンガは小さく笑みを作る

その喧騒を聞きながら、ザルバは呟いた

 

<賑やかになったな>

「あぁ。―――だけど、嫌いじゃない」




それぞれがそれぞれの目的を持ってこの激動の世界を生きている
そして、少女の想いも形になる―――

次回 打無 ~びゃくや~

黄金の隣に携う、白夜(びゃくや)の閃光―――

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