呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

4 / 29
サチ生存ルート



月夜 ~くろねこ~

そのギルドを助けたのは単なる気まぐれか、偶然だったのだろう

 

それはたまたま受けたクエストに必要なアイテムがそこでしか取れないからだ

武器は魔戒剣一本あれば事足りるし、防具に関しても着ている白外套があれば大丈夫なので、素材という素材は何もかも売り払っていたことがアダとなった結果だ

とりあえず一通り素材を回収し、戻ろうと思った矢先、彼らを発見した

素人目のギンガから見ても、そのパーティはあからさまにバランスが悪いことが見て取れた

パーティプレイは一瞬考えたし、実際ディアベルたちが作り上げたギルドにも勧誘されたが、自分にギルドは似合わないとやんわりと断っている

もちろんギルドにいた方がいろいろとありがたいのかもしれないが、ギンガとしては一人の方が気楽でそっちのほうが良かったのだ

 

話を戻す

 

そこで遭遇した五人のパーティは前衛は盾となんか鈍器みたいなものを持った男性一人、あとは短剣一本のシーフに、棒みたいな棍みたいなのを装備している人に、槍を使っている人が二人

体力バーを見てみると出口まで行けるかは微妙なラインだ

ここで会ったのも何かの縁と考え、リーダー格であろう男性にギンガは言った

 

「よろしかったら、援護しましょうか」

 

男性は目を見開いて驚いた

彼は一瞬迷ったように、しかしすぐに頷いた

 

「お願いします、危なくなったら、逃げていただいて結構ですから」

 

それにギンガは了承するとギンガは魔戒剣を抜き放ち、半ば強引にモンスターの前に立つ

そこでふと、指輪のザルバが言ってきた

 

<ギンガ、いいのか?>

「え? 何が?」

 

傍から見れば何をしているのかわからないだろう

ギンガは返答しながら的であるゴブリンの攻撃を回避し、首に該当する部分を切り落とす

 

<ここの敵は明らかにお前よりレベルは下だ、基本的に、弱らすだけに留めて経験値は奴らに上げたほうがいいんじゃないか?>

 

そう言われて考える

一般的にレベルの高いプレイヤーが下の階の狩場を荒らし回るのはとてもじゃないが褒められたものじゃない

どうしたものかと考えて、ギンガはゴブリンの体力を減らすだけに努め、経験値は全て彼らに上げることにした

一度スイッチで後方に下がると一旦魔戒剣の装備を解除し、適当に初期のあたりに入手できるアニールなんちゃらという剣を装備する

一層付近のどこかのクエストをこなすことで貰えるやつだが、鎧を手に入れて以降は全く使っていなかったので売却も考えていたものだ

攻撃力としてははっきり言って力不足だが、現在の自分のレベルは四十付近、ここの階層の敵にはステータス分プラスすれば問題ないだろう

 

そんなわけで数回スイッチを繰り返して、ゴブリンたちを全滅させた時、パーティはびっくりするぐらいの歓声を上げた

次々と仲間内でハイタッチを交わし、勝利を喜び合っている

いや、仲間内というのは語弊だ

彼らはこちらにもその手を差し伸べてきたのだ

ぎこちない笑みを浮かべつつも、出されたその手を握り返す

一番最後に両手でギンガの手を取ったこのパーティでも紅一点であろう彼女は涙を滲ませつつなんどもそれを繰り返す

 

「ありがとう、本当に…ありがとう。とても、怖かったから…助けに来てくれたとき、本当に嬉しかった。…本当にありがとう」

 

そんな大げさな、と最初は思ったがよくよく考えればこれは命をかけたデスゲーム

そう思うと助けられてよかったと思う

ここにいる彼らは唯一度の戦闘に勝利した気持ちを分かち合い、全員で喜んでいる

なんだろう、良くはわからないが、彼らは生き生きしているのだ

その後一度ギンガを交えその迷宮区から脱出すると、酒場で一杯やりましょう、という誘いに乗りそこで軽く自己紹介を交わした後、ギンガは彼らについていった

 

 

「我ら、〝月夜の黒猫団〟に、乾杯!」

『乾杯!』

 

で、開口一番のその声についていけず、ギンガはポカンとする

イキイキしているというかなんというか、きっと彼らは現実世界でも仲はいいのだろう

 

「でもって、命の恩人であるギンガさんに、乾杯!」

『乾杯!』

「…乾杯」

 

基本的にギンガはひとりで行動している

いや、別に友達がいないとかそういうのではなく、別段言って一人のほうが気楽だからだ

もちろん、誘われた時にはパーティとかも組んだりするが、誘われるのは共通の知人が多い

現実とかでもそういった宴会とかは友人同士の集まりでしか参加しない

口々に乾杯と言ったあと、彼らは今度はギンガに向かって感謝の言葉を口にしてくれる

その中でサチという女の子が、改めてこちらに向かって言葉を発した

 

「その、改めて言わせてギンガさん。貴方が来てくれなかったら、今頃…」

「ギンガでいいよ。ぱっと見同い年みたいな感じだし、堅苦しいのはこの際なしで、ね?」

「…うん、ありがとうギンガ」

 

そう言って小さい笑みを浮かべるサチ

そんな中、声を低めにこちらに言葉をかけてくる―――ケイタという男性

 

「あの、大変失礼なことかと思うのですが、レベルっていくつくらいなんですか?」

「え? レベル? 39くらいかな」

「マジですか!? ははっ、道理で強いわけだよ」

 

そう言ってあはは、と笑い飛ばすケイタ

そんな彼に向かってギンガは苦笑いを浮かべつつ

 

「元々ここに来たのはクエストの材料がここで取れるのしかなくってさ。それで、帰るときに君たちを見つけたってわけ」

「はは、じゃあ今日はラッキーだったな、僕たち。それでさ、ものは相談なんだけど、よかったら、うちのギルドに入ってくれないか?」

「え?」

 

いいのだろうか、とギンガは考える

正直ここらの敵でははっきり言って経験値はタカが知れてる

それでもせっかく誘ってくれたのだから断るのも気が引ける

うーん、と唸っているとケイタが言葉を続けた

 

「うちのギルド、前衛ができるのがメイス使いのテツオだけでさ。近々サチを盾持ち片手剣士に転向させようと思ってるんだ。それで、同じ片手剣を使ってるギンガにコーチしてもらいたいんだ」

「なによ、人をみそっかすみたいに」

 

ケイタに頭をぺちぺち叩かれていたサチはぷぅ、と頬を膨らませ

 

「今まで後ろから槍でチクチク突っつく役だったのに、いきなり前に出て戦えって、おっかないよ」

「盾の後ろにいればいいんだって。まったく、お前は昔っから怖がりだなぁ」

 

そう言って笑い合うケイタとその仲間たち

そんな空気に戸惑っているギンガを見て、ケイタが悪いと言ってきながら

 

「俺たち、現実だと同じ高校のパソコン部なんだよ。あ、でもすぐギンガも仲良くなれるよ、絶対」

 

そんな雰囲気なのは、道中でなんとなくわかっていた

ここまで来たら断るのも申し訳ないし、全員のレベルが上がるまでは一緒にいていいかなと思った

ギンガは軽く笑顔を作って

 

「…じゃあ、ちょっとだけお邪魔するよ」

 

ギンガがそう返事すると黒猫団のみんなが笑顔を作って、暖かく自分を迎え入れてくれた

 

 

前衛が増えたおかげで黒猫団のバランスは一気に改善された

戦闘中、ギンガは基本的に弱い武器で攻撃し体力を減らし、止めは全部黒猫団のメンバーに与え続けた

彼らのレベルはグングン上がり、ギンガが入って一週間もたったその日、狩場のフロアを一つ上げるほどだった

ダンジョンにある安全エリアで休みをとりつつ、入手した新聞(でいいのだろうか)に目を向けながらケイタは呟いた

 

「攻略組二十八層突破、かぁ。すげぇなぁ」

 

二十八まで進んでいたのか、と他人事ながらにギンガは思う

ディアベルたちはうまくやっているだろうか、聖龍連合というギルドを作ったらしいが、どうなんだろうか

まぁ彼がリーダーならそこそこいいギルドなのだろうが

 

「なぁ、ギンガ」

「うん?」

「攻略組と僕たちは何が違うんだろうね?」

「…さぁ、あんまり考えた事ないからなぁ、そんなこと」

 

ケイタは空を見上げながら、己の考えを語り始める

 

「僕はね、意志力だと思うんだ」

「意志力?」

「そう。仲間を、そして全プレイヤーを守ろうっていう意志の強さかな。今はまだ僕らは守ってもらう側だけど、気持ちじゃ負けてないっていうかさ。もちろん、仲間の安全は第一だけど、いつか僕らも、攻略組の仲間入りしたいって思ってるんだ」

「…そっか」

 

ギンガは小さく笑みを浮かべながら頷いた

意思の力、か

実際はそんな簡単なものではないのだろうが、そんなことをいう気分にはなれなかった

目標レベルとしてケイタが提示したのは三十前後、その近辺になったらこのギルドを抜けようとギンガは考えている

もう少しでギルドホームを買えるまでに貯金も溜まったし、今の彼らなら、自分がいなくても少しづつ上に来ると思ったのだ

抜けることをケイタに相談すると、少し悩みながらもわかったと頷いてくれた

 

そんなある日の事だった

その日はケイタたちに少し体を動かしてくる、と告げた後少し上のフロアで牙狼の鎧の熟練度(?)をせっせと上げていた時だ

フロアに戻ってきたとき、メールが届いた

それはケイタからだった

内容は単純、サチの姿がいなくなった、自分たちは迷宮区に行くから、何かわかったら知らせて欲しい、という文だった

 

「サチが…?」

<みたいだな。まぁ、あの小娘には少々前衛は荷が重いと思っていたが、そこんところはどうだギンガ>

 

ザルバの言葉に耳を傾ける

黒猫団にはザルバのことは言っていない(言い忘れていたのもあるが)

 

「…確かに、彼女は前衛向きではないと初めて会った時からそれは思っていた。怖がりな性格っぽくて、武器持って戦うのには不得手すぎる」

<だな。…それでどうする? あの小娘がどこにいるか検討は付いてるか?>

「ついてない。だから足で探す」

<…わかりやすいな。だが嫌いじゃないぜ>

 

ザルバにそう告げて、ギンガはこの町のどこにいるかもわからないサチの居場所を探すために走り回った

彼女は思いのほか主街区にいた

正確にそのハズレにある水路近辺に彼女はいた

暗闇の片隅で隠蔽効果のついてあるマントを羽織っている彼女を見つけたギンガは駆け寄って言葉を投げかける

 

「こんなところにいたのか、サチ」

 

彼女としてはいきなり聞こえてきたその言葉にびくりと体を震わせた

彼女は一度こちらに視線を向けた後、もう一度その顔を自分の膝へと埋めた

長い沈黙が場を支配する

やがて彼女が呟いた

 

「…ねぇ、ギンガ」

「うん?」

「…このまま、一緒にどこかに逃げよう?」

「どこからだ? 逃げたところで、何も変わらない」

「…わかってる、逃げたって何も変わらないんだってことぐらいわかってる…けどね、最近、眠れてないの。…やっぱり、死ぬのが怖くって…」

 

彼女のつぶやきを、ギンガは黙って聞いていた

返す言葉など思いつかないからだ

下手に慰めの言葉をかけてもいいのだが、そんなくさいセリフなど自分には吐けなかった

 

「なんで、こんなことになっちゃったのかな。なんでゲームから出られないの? なんでこっちで死んだら現実でも死んじゃうの? あの茅場って人はこんなことして何になるの? 何か…意味なんかあるの…?」

「…さぁな。そんなのは、茅場にしかわかんないさ。それでも、俺たちは明日を見なきゃいけないんだよ。こんなくそったれな世界だから」

「…なんでギンガはそんなに冷静なの? ギンガは、死ぬのが怖くないの?」

「怖いさ。けど、だからって逃げるわけにもいかない。明日が欲しいからさ」

 

死ぬのが怖くないか、と聞かれれば当然怖いと答えるだろう

明日が欲しい、などとほざいているが、結局は自分も〝明日〟に逃げているのだ

クリアされる保証などなくても、平等に〝明日〟は来てくれるから

 

「…怖いよギンガ。私、死にたくない」

 

ふと発した彼女の慟哭にギンガは答えなかった

否、答えることができなかった

 

「みんなといれば、少なくとも死ぬことはないさ」

 

ひねり出したのが、その程度の言葉

本当なら、ここで守ってあげるとか、そんなかっこいい言葉を吐くのだろうけど

少なくとも今の自分にそんな言葉を投げかけることはできなかった

 

「だから、前を向きな。雨は止むものなんだから」

 

説得力の薄い言葉だが、そんな言葉でもサチは微笑んでくれた

 

「それとさ、慣れないなら槍に戻してもいいんじゃないか?」

「え? け、けど…ギンガに迷惑が…」

「あんなの迷惑のうちに入るもんか。こういうので、やりやすい武器使った方が生存率上がるぜ?」

 

サチは少し悩んだ様子だったが、やがてギンガの言葉を了承した

それからしばらく待って、ケイタにメールを飛ばし先ほどのサチの武器の件を相談する

提案は快く了承してくれたものの、その時に何が起こったのか茶化すように聞いてきた(彼らに悪気は無いのだろうが)

ギンガはそれに対してなんにもないよ、と苦笑いを浮かべながら返すくらいにとどめておいた

 

 

あくる日、ようやく目標金額にたどり着いたケイタはギルド資産の金額を持ち、ギルドハウス向けの小さい一軒家を売りに出していた不動産仲介プレイヤーのもとへと出かけていた

残ったギルドメンバーは宿屋で談笑でもしながら彼の帰りを待っていたが、メイス使いのテツオの

 

「アイツが帰ってくるまでに、ちょっと稼ごうよ」

 

という言葉にサチが聞き返す

 

「あ、家具を買うの?」

「それなら、ちょっと上の迷宮に行くか?」

 

その言葉にギンガは一つむ、と思った

確かに今の黒猫団なら問題はないだろう、これがデスゲームでなければ挑戦の意味を込めて何も言わなかった

しかしこれは一瞬の油断が命取りとなるデスゲーム

だからギンガはそれに意見した

 

「いや、家具なんていつでも買えるから、今日のところはいつもの場所でいいんじゃないか?」

「上なら、短時間で稼げるよ」

「俺たちのレベルなら安全だって」

 

結局二人に押し切られ、ギンガはため息混じりに彼らについてくことになった

最も、レベルも確かに問題はないし、ここで生還できたならこれ以上自分の助けなど必要ないだろう

稼ぎ場として入ったのは最前線から三つ下の迷宮区

レベル的には安全圏内ということもあり、狩りは順調だった

一時間前後で目標金額に届き、一旦戻ろう、というところで、シーフのメンバーが隠し扉を見つけた

そこを開けると意味ありげにポツンとおいてある宝箱がひとつ

あからさまに怪しい、しかしギンガの静止の言葉より先にサチとギンガ以外のメンバーが宝箱に行ってしまって、開けてしまっていた

瞬間、けたたましくアラーム音が鳴り響いた

 

扉が閉まり、完全に部屋に閉じ込められる

瞬間、別の入口が開きそこから滝のようにエネミーが流れ出てくる

これはいけないと思ったギンガはすぐさまに転移クリスタルを使うことを勧める

 

「転移! タフト!」

 

しかし叫んど叫んどもクリスタルは使用できない

そこで悟る、このエリアはクリスタル無効化エリアに指定されていたのだ

このまま戦っていては全滅は必至だ、適当に魔戒剣で蹴散らし、ギンガは叫んだ

 

「全員あの隅に移動しろ! サチ、盾はまだ持ってるか!?」

「え? う、うん、持ってるけど…」

「じゃあ装備して防御だけに専念、テツオ、お前もだ!」

「け、けど―――」

「早くしろ! 死にたいのか!」

 

見せたことのない剣幕に驚きつつ、ギンガは群がってくるモンスターたちを斬り捨て、道を確保する

幸いにもここは四角い部屋になっており、どこかの隅っこに集まれば守りやすくなる

問題はこの敵の軍勢がどこまで続くかだ

最悪、鎧を纏うこともためらわない

 

大体五分くらい切り続けていると、ヘイトがギンガに向きつつあった

問題ない、これで狙われるのは自分だけになり、他の連中がやられる可能性も少なくなる

しかし、いつまで続くんだこのモンスターたちは

 

<ギンガ、あの箱だ!>

 

ザルバに指摘され、箱? と思いながらも今もなおやかましくなるあの宝箱を見る

視線を移した先にあるその箱は、止むことなく鬱陶しく音を響かせ続けている

まるで何かを知らせるように

 

「そうか、あれが源か。…っと!」

 

跳躍して攻撃してきたモンスターの攻撃を剣で受け止め、カウンターで切り伏せる

際限なくわらわら湧き出てくる敵をまともに相手していては、正直言ってキリがない

その考えはザルバにも伝わったのか、ザルバがつぶやく

 

<ギンガ、こうなっては一点突破だ>

「あぁ、俺も同じこと考えていた」

 

こちらに群がってくる敵を蹴っ飛ばし、ギンガは剣先を仰ぎ、自分の上に円を描いた

描かれる円形、そこからバキンと空間が割れ、金色の何かがギンガ周辺を飛び交い、それらがギンガにまとわれていく

刹那、そこにいたのは黄金の鎧を纏った騎士だった

その神々しさに、いつしかケイタたちも見惚れていた

 

「気を抜くな! まだ終わっていない!」

「お、おう!」

 

こちらを見てたサチらを一喝し、牙狼となったギンガは牙狼剣を構え、今もやかましく鳴り響く宝箱へと歩き始めた

当然、道中では湧き出てくる雑魚もいたが、牙狼となった状態で障害ですらなく、一刀のもとに切り捨てられていく

そして目の前に置かれてあるその宝箱に向かって牙狼は持っている剣を突き刺して破壊しようと試みる

意外な程にあっさりと宝箱は壊れ、それまでやかましく鳴り響いていたアラームはようやく静かになった

そこでようやく切り捨てても新たな敵は出てこなくなり、今ある敵で最後となったようだ

牙狼剣の一撃が最後に残ったゴーレム的なモンスターは倒し、ポリゴン状となり消えていった

ギンガは大きく息を吐きながら鎧を解除する

 

「…お、終わったの?」

 

サチの言葉にあぁ、と頷く

今まで怯えていたケイタやほかのメンバーもホッと息をなで下ろす

そこで宝箱を開けたシーフ役の男性にザルバが言葉を発した

 

<おい小僧、己の実力を弁えろ。お前の軽率な行動のおかげでチーム全体がエライ目にあったぞ>

「ご、ごめんなさい。…ってか、なんか指輪喋ってるっ!?」

「黙ってて悪かった。いや、言い出すの忘れてた俺も俺なんだけど」

「喋るアクセサリなんて、その、珍しいね…?」

「最初は俺も思ったよ。…さて、今度は真っ直ぐ帰るぞ。こんなトラップもう二度とかかりたくないからな」

 

ギンガの言葉に全員が頷き、今度こそ無事に脱出することに成功した

途中、あからさまな宝箱にまたつられそうになったが、今度ははっきりギンガが止めてトラップにかかることはなかった

ふと気になったのがサチの様子だ

あのトラップ部屋を抜けたあとから、どうにも彼女が何かを考えている様子なのだ

なんだろう、と気にはなったが別段聞く必要もないかな、と思い聞かないでおくことにした

 

 

翌日

何はともあれ、目標レベルへと到達した彼らにはもう自分はいなくても大丈夫だろう、と判断したギンガはついに〝月夜の黒猫団〟から離脱を決意した

見送りに来たメンバーを代表して、ケイタが前に出る

 

「じゃあ、俺は上に行くよ」

「あぁ。今までありがとうギンガ。今度は僕たちだけの力で、君に追いつくように努力するから」

「うん。期待しないで待ってるよ」

「はは! 言ったな。絶対に追いついてみせるから」

 

そう言って笑うケイタは、こちらに向かって拳を突き出す

ギンガもそれを見て自身も拳を握り、軽くそれに向かってこつん、と当てた

ふと、左手のザルバが言った

 

<慢心するなよ小僧。もうあんな経験はごめんだろう?>

 

それはシーフ役の男性に向けての言葉だった

彼はザルバの言葉を聞いて頭をかきつつ

 

「…肝に銘じておくっす」

 

苦笑いを浮かべる彼の顔を見ながら、さてとギンガは背を伸ばす

意味のない行動かもしれないが、こういうのは気分である

そこで改めてギンガは黒猫団へと向き直り

 

「じゃあ、また」

「あぁ! また!」

 

そう言って歩き出した

上に行く、とは言ったがどこに行こうか

階層にアルゴがいたらキリトの場所でも聞いてみようか、と思った時だった

自分の後ろから、自分を呼ぶ声がした

 

「ギンガ!」

「? サチ?」

 

彼女はこちらに向かってかけてきており、ギンガの前に立つと改めて彼に視線を合わせる

サチの表情からは、いつか見た怯えの感情がなくなっていたように見えた

 

「私、頑張るから!」

「頑張る、って?」

「いつか、ギンガの隣に立てるように頑張るから!」

 

そう叫ぶ彼女の顔は、死に怯えているいつかの彼女ではなくなっていた

あの時考え込んでいたのかこのためだったのだろうか、なんにせよ―――前を向いてくれたの嬉しいことだ

ギンガはサチに向かって笑みを浮かべて、彼女の頭にポンと手を乗せる

 

「―――あぁ、立てるといいね」

「む。…今はわからないけど、いつか立ってみせるから!」

 

初めて会った時と比べると、だいぶ前向きになったと言えるだろう

小さく笑みを浮かべてギンガはサチから手を離し、今度こそ歩き出す

なんでだろうか、ふと彼女が、自分の隣で戦う姿が想像できてしまった

それを口に出すことは―――ないのだけれど




誰にだって、心に支えは必要だ
それがあるかないかでは、だいぶ余裕が違うからな

次回 妖獣 ~シリカ~

闇夜にきらめく、金と黒―――!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。