呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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BOB

「あ」

「…、」

 

ある日ガンゲイルオンラインにインしたその日、ギンガはいつしか戦った水色の髪の女の子とエンカウントした

向こうはあからさまにこちらの顔を見るなり黙り込んで不機嫌な顔をしている

 

「ちょうどよかった。なぁなぁ、この辺でお勧めのガンショップとかない?」

「よくそんなのを堂々と聞く気になったわね。フィールドならもう撃ってるわよ」

 

そう、現在ギンガと水色の女性がいる場所はフィールドではない

SBCグロッケンと呼ばれる、わかりやすく言うと街のエリアにいるのだ

 

「けど、貴方も銃なんて買うのね。剣だけじゃないんだ」

「もっぱらメインはこれ一本で十分なんだけどね。せっかくなら銃とか持ちたいなって思って」

「…アンタみたいなプレイヤー、そうそういないわよ。…けど、一応アンタには助けられた借りもあるし、いいわよ」

「マジで? 言ってみるもんだな」

「…アンタ絶対にBOBで撃ち殺すからね」

 

不意に女性が呟いたBOB、という単語に、ギンガは疑問符を抱いた

びーおーびー…そういえばSNSとか掲示板とかで時たまそんな単語を見かけるがそれが何なのか興味もないから調べることをしなかった

せっかくだから思い切って聞いてしまおう

 

「なぁ」

「何よ。当然貴方も参加するんでしょ? BOBに」

「そのBOBってなに?」

「―――は?」

 

水色の髪の女性プレイヤーは〝何を言っているんだ〟というような表情を浮かべる

BOB…バレットオブバレッツを知らないと言ってるのか、この目の前の男は

 

「噓でしょ…?」

「何が?」

「―――えっ、本当に知らないの!? BOBを!?」

「お、おう」

「―――(絶句)」

「そんな顔しないでよ…。始めてまだそんな経ってないんだから」

「そ、そんな経ってないって…」

「…確か、まだ三週間くらいだっけかな」

「嘘!?」

 

ひと月も経っていないではないか

同時に何となく水色の女の子―――シノンは彼のプレイングを思い返した

基本的に彼は一本の剣でのみ戦っている

この世界においてそんな意味不明な戦い方をしているのだから、そりゃあ噂も爆速で流れていくのだろう

 

「…っていうか、貴方なんでこのゲーム始めたのよ…」

「あー、まぁ色々あって」

 

ははは、と苦い笑いをする彼にはぁ、とため息を零しつつガンショップへと向かうのだった

 

◇◇◇

 

案内された店は結構広大なお店だった

NPCの店員は露出多めの服を着込み、スマイルを振りまきながら、手にごつい銃を持っているのだ

 

「ホントはこういう初心者向きの大衆ショップより、専門店の方が掘り出し物あったりするんだけど」

「なるほど。見た感じの客層もビギナーっぽいな」

 

彼女の言葉の通り、この店に来ているプレイヤーは派手目なコーディネートの服装をしてる人が多めであり、水色の女の子よりはビギナー感がある

 

「貴方、どんな銃がいいの?」

「とりあえずハンドガン。サブだからね」

「ふーん。それじゃあ現実世界でもよく使われるグロックの系列とかいいんじゃないかしら」

「悪くはないけど…どうせならロマンを求めたいな…おっ」

 

そう言ってギンガが手に取ったのは一丁の〝S&W M19〟と呼ばれるマグナムリボルバーだ

全体的なカラーリングとしては黒ベースで、持ち手グリップなどは木のような素材っぽい

〝ぽい〟というのはギンガが銃に対する知識がふわっとしかないからだ

だがそんなギンガでもこの銃がどれほど有名なのかは一応の知識と知って知っている

 

そう、ルパン三世で有名な、あの次元大介の使用しているマグナムと同じタイプだ

 

「マグナム? …牽制目的のハンドガンにしては少し持ちにくくないかしら」

「問題ない。こういう時は実用性よりロマンが勝る」

「…男ってたまにそういうの重視するわよね」

 

やれやれ、といった呆れ顔で水色の髪の女の子は両手を広げる

 

「試し撃ちとかは大丈夫?」

「大丈夫。ぶっつけ本番でいけるいける」

 

そう、あくまでもこのマグナムはサブアーム

ギンガのメインウェポンはいつでもこの魔戒剣だ

あくまでもけん制目的、剣は抜き身のまま持てるしこのけん制のマグナムで相手が倒せたらそれで御の字なのだ

 

「…そういえばさ」

「なによ」

「俺はギンガ」

「はぁ? 何よいきなり」

「いやさ、冷静に考えてお互いに名前知らなかったからさ。敵対する相手の名前くらい覚えときたいじゃん?」

 

そういえばそうだったと水色の女の子は顎に手を抑えて押し黙る

唐突とはいえ一応向こうから名乗ってきているわけではあるし、と少々無理やり自分を納得させて

 

「シノン」

 

短く自分のネームをギンガへと伝える

彼はその名を刻むように一度繰り返したあと

 

「シノン、ね。了解」

 

そう言って笑みを浮かべるのだった

 

「せいぜい最後まで勝ち残って見せてよね。私が貴方に教えてあげる」

「? 何を」

「敗北を告げる弾丸の味」

 

そう言ってシノンはまっすぐギンガの目を見据えた

氷のような鋭い視線を受けてもなお、ギンガはふっ、と短く笑い

 

「オッケー、楽しみにさせてもらうぜ」

「ふん。後悔させてあげるんだから」

 

ずい、と突き出してきた拳に、シノンも拳を突き出してこつんとぶつけ合う

彼の笑みにつられ、いつの間にかシノンの方も笑みを作っていた

軽く親睦も深まったところで、ギンガは気になっていた方を指さし

 

「ところで、あれって何? 馬?」

「え? …あぁ、ロボットホース」

 

ギンガが指差したのは馬の姿をしたロボットがあった

メカメカしい外見がなんともな雰囲気を纏っている

 

「見ての通りよ。馬のロボット。あんまり使われないけどね。乗馬の経験ないと使いこなせないし」

「あんなんあるんだ。…買っとこ」

「…乗れるの?」

「乗馬の経験はそんなにないけど、まぁなんとか行けるよきっと」

「行き当たりばったりねぇ」

 

呆れ顔で言ってくるシノンはふと時計を確認した

そこであっと思い出したかのように声を出し

 

「いけない、三時でエントリー締め切りだった…」

「え、マジで?」

 

不意に告げられた制限時間にギンガは驚いた

 

「…総督府まで全力で走っても間に合わないかも…」

 

ガンゲイルオンラインにソードアートオンラインのような便利な転移結晶じみたアイテムは存在しない

この世界における空間転移はHPが全損し死亡して蘇生ポイントに戻るときのみ

グロッケンでは一応蘇生ポイントはその総督府近くに設定自体はされてはいるが街中じゃあ基本的にHPは減らないからその手は使えない

 

「エントリーに五分かかるから、あと三分で総督府に到着しないと…!」

 

言うや否やシノンとギンガは店を飛び出し突っ走る

しかし地図で確認したところここから総督府まではおおよそ三キロ

一分一キロで走るのはゲーム内といえど厳しいものはある

彼女の後を追いながら周囲に視線を見やる

視線の先に三台の小型車両が見えた

レンタルバギーってやつだ

そしてそのすぐ近くには車道もある

こうなれば一か八かだ

ロボットホースが車に分類されるかは知らないが、そんなもんはもう知ったこっちゃない

 

「シノン、こっちだ!」

「え? わぁっ!?」

 

彼女の手を掴み、ギンガは目の前のウィンドウを操作し先ほど購入したロボットホースを出現させる

そのまま鞍のような部分に跨り、自分の後ろに彼女を乗せた

 

「わりぃザルバ、フォローいけるか!」

<問題ない、それより急げよギンガ、このままでは間に合わないかもだ>

「わかってる!」

 

手綱を掴み、足で胴体を軽く蹴って走るのを促す

合ってるかはわかんないが、ロボットホースは動いてくれた

何キロ出てるかわからないけど、それでもぐんぐん速度を出し、車を追い抜いていく

 

「な、なんで…!? ロボットホースなんて扱いが難しいから、並のプレイヤーはろくに乗りこなせないのに!」

 

自分の身体にしがみつきながら、シノンがそんなことを言っていた

むろん自分一人だけならこうもうまく乗りこなせないだろう

恐らくはザルバのサポートのたまものだ

風が思いのほか気持ちがいい

今度リアルでもバイクとか買ってみようか、と走りながらそんなことを考える

 

「―――ふふ、案外風を受けるのって、気持ちがいいわね! ねえ! もっと飛ばせる!?」

 

不意に後ろにいたシノンからそんな笑み交じりの声を聞いた

そんな笑顔もできるんだ、と言いたい気持ちを抑えて彼女のリクエストに応えるべくギンガはロボットホースの速度を上げていく

そういえばこのロボットホース名前とかあるのかな、と不意にそんなどうでもいいことを思い浮かべた

車を避けながら加速していく最中、唐突に一つ、名前を思いつく

 

「ゴウテン…、よし、お前の名前は〝ゴウテン〟だ」

 

軽く首のあたりをポンポンと撫でるとそれに呼応するかのようにロボットホース―――改めゴウテンが嘶きを上げる

同時にさらに速度が上がった気がした

 

<すごいな、二百キロに到達だ、これなら間に合うぞギンガ!>

「ようし、飛ばすぜぇ!」

 

時速二百キロに到達したゴウテンにとって、三キロなどものの数秒だ

そのまま速度を上げたロボットホース改めゴウテンは道路の上を走り抜けた

 

◇◇◇

 

総督府へとつながる階段付近にゴウテンを止めると時間を確認する

三時までまだ五分少々の猶予がある

 

「これなら間に合う! ついてきて!」

 

シノンはそう言ってゴウテンから飛び降りると走り出した

ギンガもゴウテンから降りると彼女の後を追いかける

ゴウテンって勝手にストレージに戻るのかな、とかそんなどうでもいいことを一瞬考えてしまったがそもそもパクられる心配もないと判断して改めてシノンの後ろを追いかけた

 

彼女の後ろを追いかけるまま、円形のホールへ入り右奥の一角へと向かっていく

道中色々なプレイヤーを横目にしながら考える

 

この中の誰かが、デスガンなのだろうか

 

可能性はあるかもしれないし、ないのかもしれない

正直ないに越したことはないのだが、いつどこで何が起こるか分からない

警戒は怠らない方がいいだろう

 

「ここよ」

 

シノンが止まった

その場所には縦型のマルチ端末がずらりと並んでいる

 

「これでエントリーをするの。よくあるタッチパネルタイプの奴だけど、説明はいるかしら」

「いや、たぶん大丈夫だ。分からないのがあったら遠慮なく聞くよ」

「そう? それじゃあ私も隣でエントリーしてるから」

 

そう言ってシノンも端末を操作し始めた

ギンガも彼女に倣いエントリーを試みる

ホーム画面には〝SBCグロッケン総督府〟の文字、言語は日本語だ

このゲームにインする前に確認したGGOのホームページは全部英語で意味が分からなかったがゲームの中だと多少ローカライズされているのだろう

とりあえず指先でなぞりBOB予選エントリーの項目を見つけたからそれを押す

フォームを見ていくと、一番上にこんな表記があった

 

〝以下のフォームには現実世界におけるプレイヤーの氏名や住所などを入力してください。空欄や虚偽のデータでもイベントへの参加は可能ですが、上位に入賞した際のプライズなどは受け取れません〟

 

「…現実世界に賞品とか届くんだ」

 

とはいえ自分の今回の目的はデスガンをエンカウントし、彼を止めること

賞品は確かに魅力的だが先も言ったがどんな危険性があるかもわからない

ここのフォームには何も入力しない方がいいだろう

そのまま他のフォームに必要事項を入力し終え、一番最後の決定ボタンを押す

 

再度画面が切り替わり、エントリーを受け付けた旨の文と予選トーナメント一回戦の時間が表示された

日付は今日の、今から三十分後だ

 

「終わった?」

「あぁ。君も終わったみたいだね」

 

シノンが一つ問いかけてくる

彼女もエントリーが無事終わったみたいだ

 

「いやー、なんだかんだ悪かったよ。銃だけで済ますつもりが、エントリーまで手伝ってもらってさ」

「いいよ。あのロボットホースで走るのちょっと楽しかったし。そういえば予選のブロックはどこだったの?」

「んーと。…F、だな。Fブロックの三十七」

「同時に申し込んだからかしら。私もFよ。十二番だから…当たるとしても、予選の決勝ね」

「へぇ? ってことは、決勝で負けたら本戦には出れないかんじ?」

「いいえ、勝ち負けに関わらず、予選の決勝まで行けば本戦のバトルロイヤルには出られるの。私たち二人が本戦に出場できる可能性はゼロじゃないってわけ。だけど、もし決勝で当たったら、予選だからって手は抜かないわ。―――全力で貴方を撃ち抜いてあげる」

 

そう言うシノンの瞳は鋭さを増す

それにギンガは答え

 

「あぁ。そん時は、全力で殺し合おう」

 

そう言ってギンガは拳を作るとシノンの前に突き出した

シノンは笑みを浮かべると以前したのと同じように拳を作るとギンガの拳にこつんと合わせたのだった




一時はどうなることかと思ったが,無事に間に合って何よりだったな
もうじき予選が始まるな、しかしシノンとかいう小娘以外は、ギンガの敵にはならなそうだな

…ん? おい、ギンガ、目の前に現れたコイツは、お前のことを知っているのか?

次回〝因縁〟

過去からは逃れられない…!

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