呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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ファントム・バレット
邂逅


都内某所にある喫茶店

そこに白銀大河は足を踏み入れた

カランカラン、と来客を知らせるベルがなり、受付の店員がこちらに向けて礼をしてくる

 

「いらっしゃいませ! おひとり様ですか?」

「待ち合わせです」

 

そう短く返答し店内を見回す

目的の人物は割とすぐに見つけることができた

彼はこちらを見つけるとほかの客に迷惑がかからないように手だけを振って合図する

大河がそちらへ歩いて席に座ると目の前の人物―――鏡祢アラタは口を開いた

 

「とりあえず退院おめでとう。あれから体調面に問題はない?」

「あぁ。普通に身体も動くし、そこそこ走れるようになった」

「それはよかった。藤乃さんにちょくちょく様子を見てあげてくださいってお願いされてるもんで。けど、問題はなさそうだな」

 

彼とは入院している時にアラタが知人の病室と間違えてこちらの病室に入ってきたのが出会いだった

以降はちょくちょく遊びに来てくれ、携帯ゲーム機やカードゲームなどを持ち込んできて幸恵を交えて遊んだものだ

そんな彼に今日はちょっと相談したいことがある、と言われてここで待ち合わせをしていたのだ

 

「急に呼び出すなんて珍しいな。ついにアミュスフィアに手を出す気になったとか?」

「不本意ながら、手を出す…かもしれない」

「…?」

 

彼は水を一口飲んでそれを嚥下させると

 

「とりあえず、一旦俺の話を聞いてくれ。本題はそのあと話す」

「―――わかった」

 

彼の顔はいつになく真剣だ

 

「まず〝GGO〟…ガンゲイル・オンラインってゲームに聞き覚えは?」

「知ってるよ。日本で唯一プロのゲーマーがいるゲームだからね。やったことはないんだが」

「じゃあ次に、MMOストリームって番組は?」

「それも知ってる。たまに幸衣と見てるし。…そういえば、番組中ゲストさんが不意に落ちたって話も聞いたな」

 

その話を聞いたアラタは軽く携帯を操作して情報を確認するような動作を取る

 

「多分それだ。そのMMOストリームって番組の放送中に、ガンゲイルオンラインの中で一人変な行動をしていたってことをブログに書いているユーザーがいたんだ」

「変なこと?」

「そのなんとかストリームって、GGO内部でも中継されているんだよね」

「あぁ。酒場とかで見れると思うけど」

「その世界の首都、SBCグロッケン? っていう街のある酒場でも放映してた。んで、不意にそこで変なことし始めたプレイヤーがいた。さっきのブログのやつだな」

「…それで?」

「そのテレビに映っているゲスト出演者…ゼクシード? ってやつの画面に向かって裁きを受けろだの、死ね、だの叫んで発泡した、とのこと。そいつを見ていたプレイヤーの一人がたまたまログをとっていたらしくて、それを動画サイトにあげたんだ。銃撃時刻が午後11時30分2秒で、撃たれたゼクシードが落ちたのが同時刻同時間の15秒」

「―――偶然じゃないのか?」

「それにしちゃあ出来すぎてる。現に、このゼクシードのプレイヤー…茂村保氏は心不全で本当に亡くなっているんだ」

 

その名前を聞いてふと思い出す

そういえばなんとなく目を通していた新聞でそんなことが取り上げられていた気がする

もっとも、良くある話として本当に小さい箇所だったのだが

 

「これだけなら俺も良くある話として切り捨てたかもしれない。でももう一個」

「まだあるのか?」

「あぁ。今度のは今から大体十日前、そこの某県某所のアパートの一室で死体が発見された。ネームは薄塩たらこ。死亡推定時刻は午後10時4秒前後、その人はその時間帯でギルドの周回に参加してたみたいで、激を飛ばしている最中乱入してきたプレイヤーに銃撃された。ダメージはなかったが詰め寄ろうとしたところで苦しみ出し、そのままアウト。…これもネットの拾い物だから、正確さにはかけるがね」

「…撃ったのはゼクシードの時と同じ人なのか?」

「そう考えるのが妥当だろう。やっぱり裁きとか力とか言ったあとにネームを名乗ってる」

「そういえば、犯人のネーム聞いてなかったな。なんて名前だ?」

「ネームはたしか…」

 

そう聞かれ彼は携帯を見て

 

「シジュウ…そう書いてデスガンって言ってたみたいだな」

「…なるほど。死銃…デスガンね」

 

名前を呟きながら、大河は一度水を飲む

コップに入っている氷がほどよく溶け、冷たい水が喉を通る感覚が心地いい

 

「ここからが本題なんだけど…大河。軽くアミュスフィア? について色々教えてくれないか?」

「…自分で行って調べてくる気か?」

「それ以外ないだろう。正直酔いそうで仕方ないけど、人の命が関わってるならこんな真似辞めさせないと」

「お前のいるところとは無関係なのに?」

「知っちまった以上見過ごせないんだ。…安っぽい善意だって笑われるのはわかるけど」

 

話の流れを聞いて、正直そんなこったろうだとは思っていた

大河は水を飲みながら

 

「…キリトとかには頼まないのか?」

「彼は十分戦っただろう? もう彼には普通にゲームを楽しんでて欲しいんだよ。恋人も帰ってきたんだからさ」

 

そう言って彼も自分の前に置かれていた水を一口のんだ

しかし、キリトにはもうゆっくりしてて欲しいのはこちらも同じだ

僅かに考えて、大河はアラタにこう切り出した

 

「アラタ」

「? なんだ?」

「俺が行く。そいつの調査」

 

一瞬テーブルが静かになる

実際にはほかの客席からは変わらずにしゃべり続けてはいるのだが、ここのテーブルだけかなり静かになった感覚があった

 

「…本音を言うとありがたい、だけれど、死ぬかもしれないんだ。…いいのか?」

「あぁ。簡単に撃たれる気はないし、俺もキリトにはゆっくりしててほしいからね。それに、ゲーム教えるより俺が行ったほうが早いでしょ?」

「…それを言われると痛いけど。わかった、じゃあお言葉に甘えるよ」

 

申し訳なさそうに彼は笑みを浮かべて、席に座った状態で軽く礼をしてきた

 

「…だけど、あんまり期待はしないでくれよ。遭遇できるかはわからないんだから」

「わかってるさ。…だけど、あんまり無理はしないでくれよ」

 

◇◇◇

 

なんて、会話をしたあの時のことを思い出す

現在、白銀大河―――こと、ギンガはとあるオンラインゲームの中にいた

そのゲームの名前は、ガンゲイルオンライン

通称〝GGO〟と称されるそのゲームは、ザ・シードによって誕生したオンラインゲームの一つだ

 

銃撃戦がメインとなり、弾丸やら薬莢やらが飛び交うこの世界にも、ギンガはデータをコンバートして、白外套と引き継いだ魔戒剣一本で戦うスタイルを貫いている

貫いてはいるのだが、正直ハンドガンくらいは欲しいと最近思ってきた今日この頃である

このゲームでは時たま武器をドロップすることがあるのだが、ギンガは基本的に全部売ってしまって資金に変えているので、あまりそういうものに興味がない

 

<ハンドガンか。まぁ悪くはないと思うぜ? 一つくらい持ってても罰は当たらんだろう>

「だよな。案外やってみたら弾丸斬れたから訳ないやって思ったけど…」

 

VSプレイヤーを推奨しているこのゲームにとって、どうあっても銃器は切り離せないものとなっている

もちろんこの世界にも光剣(こうけん)と呼ばれるライトセイバーじみたものや、ナイフなどといった近接武器はないことはない

しかしギンガは某ジェダイよろしく、弾丸斬ってみたいという欲求に駆られてしまったわけである

 

「死銃に関する情報もあまりないし…しばらくはゲームを楽しむことにしようか」

<だな。俺様もこういう世界とやら初めてだ、観光も兼ねようぜ―――む>

 

不意にザルバが声色を変える

何かに気づき、集中するかのように黙りこくってしまった

同時にそれは敵の気配を察知した合図でもある

かなり広範囲に人間の気配を感知できるザルバは、こういうゲームではかなり頼りになっている

むろんギンガ自身もSAO時代に身に着けた感覚である程度の気配は察知できるけども、さすがにザルバには叶わない

 

<…まずいな、狙われているかもしれないぞ>

「位置は」

<おそらく正面。数はおおよそ六人、たぶん一人は狙撃手だ>

<対人スコードロンか? …まぁいいや、じゃあ前衛の人たちは近づいてくるかもしれないから、警戒を強めないとな…」

 

一人が狙撃手、ということはその狙撃が失敗した場合を考えて姿を隠しながら別のメンバーが近づいてきているかもしれない

しかしなんだってこんな一人を五人でボコボコにするような真似を…と考えてそういえば自分について変な噂をされているのを思い出す

 

たしか、その噂は―――

 

 

◇◇◇

 

 

「切り裂きジャック?」

「なんだよダイン、知らねぇのか? 最近噂になってるプレイヤーの噂」

 

少し時間は巻き戻る

ここにはとあるスコードロンがプレイヤー狩りのために潜伏している場所であり、そこには五人のメンバーがいた

その中の一人であり、唯一の女性―――シノンは切り裂きジャック、という単語を聞いた時、わずかに視線をそっちに向ける

 

「俺も噂しか聞いたことないんだけどさ。このガンゲイルオンラインで剣使ってる珍しいプレイヤーなんだよ。その〝切り裂きジャック〟ってやつ」

「おいおい、それ珍しいどころか希少っていうべきなんじゃないのか」

 

シノンもまた、その〝切り裂きジャック〟についての噂は耳にしていた

白いコートに赤い鞘に入った剣一本で瞬く間にほかのプレイヤーに近寄り、一刀のもとに斬り伏せる

しかも―――

 

「そいつはさ、弾丸を斬るって噂まで流れてんだぜ? マジだったらやべーよな!」

「いるわけねぇだろそんな奴。そもそもどうやって弾丸なんて斬るんだよ」

 

ダインがアホらしいと言わんばかりにため息を吐く

そしてダインに同意するわけでもないが、そんなことはどうあっても不可能だとシノンも思う

音速で飛び交う弾丸をどうやって斬り捨てるというのだ

 

「っと、話してるうちに来たぜ」

 

メンバーの一人が双眼鏡を手にしながらそんな言葉を口にした

それを耳にしたダインは来たか、などと小さく口にしながら―――

 

「あれ…?」

 

そのメンバーが首をかしげる

 

「どうした」

「ダイン、こっから来る連中って、確か先週と同じはずだよな?」

「そのはずだぜ? …もしかしてきてないのか?」

「いや…その…とにかく見てくれよ」

 

そう言って彼がダインに向かって双眼鏡を手渡した

少し怪訝な顔をしながらもダインは受け取った双眼鏡をのぞき込む

視線の先には本来ならばPvEスコードロンの連中が歩いてきているはずだ

しかし今視線の先にいるのは、〝妙な恰好をした男〟がたった一人

 

「…おいギンロウ」

「んあ? なんだよダイン」

「さっき言ってた切り裂きジャック…どんな見た目なんだ」

「え? えっと…確か―――」

「白いコートに、赤い鞘の妙な剣…っていうのを聞いたわ」

 

ギンロウの言葉が放たれるより前に、シノンが耳に聞いた知識を吐露する

その言葉を聞いたダインの顔がわずかに曇る

 

「…つまり、今あそこにいるヤツが…今噂の〝切り裂きジャック〟って可能性が高いわけだ」

 

双眼鏡を外してダインがつぶやいたその言葉に、珍しくその場にピリリとした緊張感のようなものが電撃のように走り抜ける

予定とは完全に違う方向になってしまったみたいだが

 

「どうするダイン。相手の実力は未知数だぜ」

「はんっ、噂なんて所詮〝噂〟よ。それに数ではこっちが勝ってる。…相手は違うが、予定通り行くぜ。…シノン、狙撃は任せたぜ」

「わかった。だけど、今回はあまり期待はしないでほしい。外すつもりはないけど、正直当たるとも限らない」

 

先も言った通り外すつもりは全くない

だが噂通りなら弾丸を斬ってくる可能性もなくはない

シノンは愛銃であるヘカートⅡのスコープからターゲットを改めて目視する

言っていたのと、聞いていたのと同じ白いコートの男がゆっくりと歩いてくる姿を視認する

 

「あいよ。最悪外しても、集中砲火で蜂の巣だ。…そんなわけで俺たちは当初の作戦通り進んでビルの影まで行って敵を待つ。シノン、相手が相手だ。狙撃のタイミングは任せるぜ」

「了解」

「よし、行くぞ」

 

そう言ってダインたちはこの場から走っていく

シノンは遠ざかる足音をBGMに何度か息を吐いて己の調子を整える

このスコードロンに入って、初めて相手にするかもしれない〝大物〟に、柄にもなく緊張している

ダインの率いるスコードロンはやることは自分たちより確実に勝てる相手にしか相手にしないスコードロンだったことも相まって、参加したのを後悔したぐらいである

だけど、今スコープの先にいるあの男は…直観だが何かが違う気がする

引き金を引いてヘカートの弾丸で沈んだのなら、それまで

だけどもし、噂通りに弾丸を斬るないし避けたのなら

 

「…ターゲットの距離四百、こちらからは千五百」

<まだ遠いな。…けどま、任せるって言ったからな。頼んだぜ>

「えぇ。それじゃあ…一分後」

<わかった>

 

ダインの通信を終え、再び静寂が支配する

じっとスコープを覗き、確実に頭を潰すように狙いを定める

 

…大丈夫、こんなプレッシャーなんともない

たとえるのなら、丸めた紙をゴミ箱に放り投げるみたいに

 

あの時に比べれば

 

着弾サイクルが収縮を繰り返し、頭を捉えた時―――シノンは引き金を引く

 

◇◇◇

 

少し時間は遡り

 

(―――っ!!)

 

視線の先から明確な殺気と敵意を感じ取ったギンガはスナイパーならここを狙ってくるであろう部分に先んじて魔戒剣を構えることにした

 

鞘から親指で軽く刀身を抜いた状態で構える

スナイパーというのはこういう時頭を狙いがちだと思うからとりあえず眉間辺りに構えてみる

 

そして構えた直後、遠いところでひときわ大きい銃声が聞こえた刹那―――

 

刹那ガイィィィン!! と金属同士が震えるような独特な音を辺りに響かせる

 

間一髪

 

相手の放った弾丸は魔戒剣に突き刺さり、その進行を止めていた

 

「…うげ。対物ライフルの弾丸か。…殺意高いな」

<だがハッキリした。これでスナイパーの弾道予測線を予測できるだろう>

「だな。とりあえず前衛に出てるだろう人らを残らず斬っておくか」

 

ギンガの行動は早かった

恐らく見通しのいい場所で遮蔽物かなんかに身を潜めているだろうから、とっとと行って叩き切る

なんか相手の装備品とかドロップしたら流石にそれは返してあげよう

 

◇◇◇

 

「嘘でしょ…!?」

 

当たったと思った

確実にその頭を捉えたと思った

だが結果はどうだろう

 

まさか弾丸を鞘からわずかに引き抜いた刀身で受け止めるだなんて想像なんてできるものか

すかさずヘカートを担ぎながらその場から走り出して、耳に仕込んだ通信機を使いダインに言葉を告げようとした

 

「…目標失敗(フェイル)、今からそっちに―――」

<あぁ! …ちょ、嘘だろ…!? どうして当たらねぇ!?>

 

通信機の向こうからダインの焦る声が聞こえてくる

通信を切る余裕がないのか、ダインは叫んだ

 

「ダイン…?」

<くっそぉぉぉ! なんなんだよコイツはぁぁぁぁ!>

 

それっきりダインの声は聞こえなくなった

GGO特有の消滅音だけを残し、耳に仕込んでいる通信機は役に立たなくなってしまった

だけど、あのダインの焦りようからでも、シノンははっきりと自覚できた

 

切り裂きジャックは噂ばかりの存在ではないということに

 

(…上等じゃないっ…!)

 

ああいう強敵を、どこか心の中で待っていたのだと思う

あの男は…私が殺すッ…!

自分の中でそう決意してシノンは足で地面を蹴った

 

◇◇◇

 

「…とりあえず前衛にいたさっきので最後かな」

<一人向かっている奴がいる。恐らくスナイパーだな>

 

ザルバの声に耳を傾ける

何本か装備はドロップしてしまったからこれはちゃんと後で返さないとな、なんて思っていると視界に一本の赤い線が見えた

弾道予測線というやつだ

こういうのがあると弾丸は容易に回避できるからありがたいのだが、スナイパーの狙撃は初弾に限りこの予測線が見えないのだ

最も六十秒経過してしまえば認識がリセットされてしまうからまだ初弾状態になってしまうのだが…ザルバによる賜物か

 

こっちに向かってくる…水色の髪の女性

緑色を基調とした服を着こなし、マフラーが棚引いている中々扇情的な恰好をしている

と、警戒しながら剣を構えようとしたとき、ゴゴゴゴゴ、と大きな地鳴りがフィールドを震わせる

視線の先にいる女性も急な出来事に流石に脚を止めてしまった

 

「…なんだ」

<ギンガ、下だ!>

 

ザルバの叫びと〝それ〟が姿を現したのは同時

雄叫びと同時に地面を突き破り、その存在が現れ出でる

同時に近くにいた先ほどの女性プレイヤーが出現に巻き込まれ空高く打ち上げられてしまっているのだがギンガの視線に入ってきた

反射的にギンガは魔戒剣を鞘に納めるとその女性の元へと駆け出して跳躍する

 

投げ出されているその腕をつかみ、少し強引に横向きに抱きかかえると少し離れた位置に着地してそのモンスターを視界に入れる

 

<おいギンガ、あれは地下ダンジョンの最下層クラスにいるようなモンスターだぞ>

「そんなモンスターがどうしてこんなフィールドに?」

<わからん。〝鎧〟が引き寄せたのか、あるいは偶然か>

 

ふぅむ、と考えるギンガの首筋に、ちゃきりと冷たいものが押し当てられる

言わずもがな、今腕の中に横向きに抱きかかえている…いわゆるお姫様だっこ…女性から突き付けられたものであると理解するのはそう時間はかからなかった

 

「…いつまでそうしてる気よ。この変態」

「悪かったよ。性分なんだ」

 

短く謝罪しながらギンガは彼女を地面に下ろすともう一度目の前のモンスターに向き直る

そして女性に向かって

 

「っていうか、今だれと喋ってたわけ? この場に貴方以外の仲間でもいるの?」

「あー…仲間っていうか相棒っていうか…」

<おい、それはそれとして、お前この後リアルでアイツらと約束してるんじゃないのか>

「! え、今どこから…!?」

 

きょろきょろとあたりを見回す女性プレイヤーを尻目にギンガはそういえばと思い出す

そうだ、確かユウキたちのギルドと幸衣…サチと一緒にモンスター狩りに行く約束をしていたのだ

ちらりと画面に表示されている時間を確認すると…いけない、コンバートし直す時間を考えると、そろそろアウトしないと間に合わないかもしれない

 

「なあ、悪いけど俺これから用事があるんだ。だからアンタとの決着はお預けってことにしたいんだけど」

「は、はぁ!? 何よそれ、いきなりそんなこと―――」

「ごめん! 同じゲーム…いや、同じ世界にいる以上、そのうち何処かで会えるだろう。詫びの代わりに、アイツは俺が倒す」

「ちょ、ちょっと! 話聞きなさいよ!」

 

言葉を投げかけてくる彼女の言葉を聞こえないフリしながらギンガは一度魔戒剣を鞘に戻し、軽く意識を集中しながら目を閉じる

おおよそ五秒ほど精神を落ち着けると一気に鞘から魔戒剣を抜いて、自分の頭上に円を描いた

 

◇◇◇

 

勝手な物言いばっかりでシノンは目の前の切り裂きジャックにイライラしていた

確かにモンスターがいきなり湧き出たことで戦いは思いっきりうやむやになってしまったが

とか思ってると不意に前に出た切り裂きジャックが剣を鞘に戻したと思ったらもう一度引き抜いて、今度は頭上に円を描くように剣を動かした

 

光の円がバリンと砕け、そこから黄金の輝きを放つ鎧のような何かが、彼の身体に装着されていく

なんだろう、あの装備は

シノン自身、このガンゲイルオンラインを初めて長くはないけれど、それでもあんな装備があるだなんて話は聞いていないし、噂にもなっていない

 

「…綺麗…」

 

無意識に口にして、シノンはハッとなり口元を手で抑える

だけど、その言葉は紛れもない本心でもあったのも事実だ

悔しいが、あの黄金の輝きに僅かでも見惚れていたのは事実なのだから

 

 

 

これが、〝氷の狙撃手〟シノンこと、朝田詩乃が、〝黄金騎士〟ギンガこと、白銀大河との、ファーストコンタクト―――




誰にだって、知られたくない過去はいくつもある
だが世の中には、そんな過去を暴いて、辱めてくる輩も存在するらしい

お前だったらその時どうする?
耐えるか、報復するか…

次回「記憶」

誰の心にも、闇がある…!

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