呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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だいたい原作通りなところは端折ってます
正直ぐだぐだ感すごいですが、楽しんでいただけたらきっと幸いです

第一期はこれにて閉幕

いつになるかはわかりませんが、続くならガンゲイルオンライン<ファントムバレット>編です


種子 ~ザ・シード~

先導するキリトたちについていくようにギンガたちもついて行く

やがてたどり着いたのは石扉の前だった

そこから妙な妖気が溢れてきているような感覚がする

この先に目的地があるのだろうか

まぁ何が待っていようとも関係ない、自分は友の道を切り開くだけだ

 

<…ギンガ、この中からかなりの邪気を感じるぞ>

「…なるほど、ザルバが言うなら間違いないんだろうな」

 

小さく呟いたザルバの声に、ギンガも小さい声で呟き返す

ちらり、と右横にいるキリトとリーファ、レコンとレイの四人を視線を移す

それぞれがギンガの視線に頷くと己の得物を抜き構えた

同様に今度は左横のサチ、ユウキへと視線を見やる

彼女たちも同じように頷くと、二人も得物を構えた

最後に自分も赤鞘から魔戒剣を引き抜き、キリトへと視線を向け、いつでもいい、という旨を伝える

 

「―――行くぞ!」

 

叫ばれたキリトの声を合図に一斉に皆が地を蹴りドーム内部へと突入する

リーファとレコン、ユウキの三人はサポートとして底面付近にとどまり、ヒールスペルの詠唱やアイテムでの支援に入り、そしてサチはサポート役のメンバーにタゲが行かないように護衛に付く

そしてキリトとギンガ、レイの三人が各々の武器を振り回し、天涯中央のゲート目指して一気に突き進んでいく

天涯の発光部分から滴るように次々に白いガーディアンが生み出されているのが見える

わらわらと蠢いている奴らがこちらに向かって殺到するが、数が多いだけで大した驚異にはならないだろう

キリトの剣が、レイの双剣が、ギンガの魔戒剣がガーディアンを切り裂いていく

 

<…流石に数が多すぎる>

 

ザルバのつぶやきに、ギンガは唇を噛み締める

いくら多いといっても多すぎる

わずかに減った体力を回復するように、底面のメンバーからヒールスペルが届き、HPが回復していく

 

「…!」

 

護衛についていたサチが目を見開く

ユウキたちと遊んでいて気がついたのだが、このゲームのモンスターは基本的にモンスターは反応圏内に入るか、弓、遠距離スペルで攻撃する以外ではこちらに攻撃してくることはないからである

しかしここのガーディアンはそれらとは違うAIを与えられているようで、補助スペルにも反応するようだ

昔の私なら、怖気づいていたかもしれない

だが、今は違う

 

三人を守るように前に出て、サチは得物を槍モードに切り替えてガーディアンを切り捨てる

 

「サチさん!」

「大丈夫、リーファさんたちはスペルを止めないで!」

 

槍というリーチをフルに用いて振り回す

幸いにも一撃でそれらは倒せるには倒せるが、やはり少々数が多い

このまま数で押し切られれば…鎧を出すほかない

 

「リーファちゃん」

 

ここで不意にレコンがリーファの右手を掴んだ

振り向くと震えながらも真剣な表情をしたレコンの顔が目に入ってくる

 

「…よくわかんないけど、これ、とても大事なことなんだよね」

「―――えぇ、少なくとも、今だけはゲームじゃないわ」

「…あのスプリガンの人や、ギンガ、サチさんには敵いそうにないけど、ガーディアンは僕がなんとかしてみせる」

「…レコンさん?」

 

横でアイテムを構えていたユウキが怪訝な声を出す

怪訝な表情をしているのはリーファも同じだ

しかし言葉を待たずしてレコンがコントローラーを握ると一気に翅を羽ばたかせる

 

「ば、馬鹿っ…!」

 

彼は飛行しながら詠唱し、その手から風のカッターを生み出しガーディアンを切り裂いていく

同時にタゲがレコンに向き、レコンに向かってガーディアンが移動し始めた

リーファの詠唱が終わり、ヒールがキリトへと届く

そして今度はユウキの用いら範囲回復のアイテムの光が全員を包む

 

いつしかレコンを追い回していたガーディアンの数も群体となりついにガーディアンの剣がレコンに一撃与えた

雨のように降り注ぐ剣尖が注ぎ、彼の体を大きく跳ね飛ばした

 

「レコン! これ以上はヤバイ、一旦外に逃げろ! っと!!」

 

同じように戦闘していたレイがガーディアンの攻撃を回避しつつ、レコンに向かってそう声を飛ばす

レイの声に反応してこちらを向いたレコンの表情は、ある種の〝決意〟を秘めた表情をしていた

 

「…レコン?」

 

バッと手を突き出し、彼はまた詠唱を始める

彼を包んでいる紫色のエフェクトは、それが闇属性だという証拠だ

闇属性? ここでどんなスペルを使おうとしているのだろうか…と考え始めたとき、ふとレイは思い出した

一つだけ、広範囲へと放てる高威力のやつがあった

しかしそれは通常の数倍のデスペナルティが課せられるという―――

 

「まさか!?」

 

そう思い立った時には、レコンの体を中心として放たれた閃光が視界に入ってくる

先ほどまでうじゃうじゃといたガーディアンの大群に大穴を開けるようにぽっかりと開いた穴の中心に、ポツンとリメインライトがある

 

<…少し、驚かされたわ>

「―――あぁ、俺もだよ!」

 

こんなガッツがある、ということに驚かされた

ここでみすみす死亡させる訳にはいかない

レイは己の持つ二振りの魔戒剣を自分の前で回転させ円を作り、銀色の鎧を纏う

絶狼となったレイは銀狼剣を振るいレコンのリメインライトへと接近する

また、その光景を遠目から見ていたのかユウキもタイミングを合わせて蘇生アイテムをレコンに向けて使用した

 

「ナイスタイミング!」

 

絶狼は一度その場で停滞し、レコンが蘇生されるのをガーディアンを蹴散らしながらしばし待機する

もちろんその間もガーディアンからの襲撃は絶えなかったが、凌げないほどでもない

復活が完了しレコンがその形を取り戻す

絶狼は鎧を解除し、レコンの手を掴むとそのまま一直線に底面でサポートしているリーファとユウキの元へと突っ込んでいった

 

「レコン!」

 

真っ先に駆けつけたのはリーファだ

レコンはははは、と短く笑いながら

 

「少しは、役に立った、かな?」

「…本当に…無茶して…!」

<だけど、あの魔法を使ったおかげであなたには通常の数倍のデスペナルティが課せられてしまったわ。残念だけど、もうここを離脱した方がいいかもしれないわね>

 

あの闇魔法は絶大な威力を誇る自爆魔法ではあるが、その代わり死んだ時点でデスペナが確定してしまう、という大きすぎるデメリットが存在している

故に習得するプレイヤーなど誰もいないと思っていたのだが

ふと、レコンが大きく目を見開いた

 

「…なんだ、あれ…」

 

見開いた視線の先を、全員が追う

その光景は、はっきり言って〝異常〟としか思えないほどのものだった

天涯を覆い尽くす、ガーディアンの群れ

先ほどレコンが決死の覚悟で繰り出した自爆魔法で空いた大穴もあっさりと塞がれてしまっている

甘いものに群がるアリを彷彿とさせるその光景は、今日までアルブヘイムをプレイしてきたプレイヤーたちを戦慄させるほどだ

 

<…いくらなんでもおかしいわ、製作者はクリアさせる気があるのかしら…!>

 

シルヴァの呟きにリーファはだらん、と手を力なく垂らした

彼女の目尻には―――うっすらと涙もある

心が折れかかっているのだ、無理もない

こんな無限湧きなどを目の当たりにしたらやる気も削がれてしまう

 

「ぐっ!」

「キリト!」

 

上空から聞こえるのはギンガとキリトの声だ

二人共まだHPには余裕があるが、それもどこまで持ってくれるかが勝負となるだろう

 

「はぁっ!」

 

すぐ近くではタゲを自分に集めるために槍を振るっている女性―――サチだ

まだ笑みを浮かべてはいるが、それが気休めだということは誰の目にも明らかだった

 

少しづつではあるが、限界が、近づいている

 

このメンツなら、行けるだろうとはレイも、リーファも、レコンもみんな思っていた

だが、目の前に立ちふさがるのは明確な〝悪意〟

諦めかけたその時だ

 

背後から津波のような声のうねりが、背中の翅をなでたのは

 

慌ててリーファとレコン、レイとユウキは振り向いた

開け放たれた扉から陣形を取り突入してくる部隊が見える

それは五十人くらいのエンシェントウエポン級の装備に身を包んだシルフ族の戦士たちだ

顔に装備されたバイザーで顔はわからないが名前を見るとシルフ領の中ではみんな名の知れたプレイヤーばかりだ

彼らの叫びがキリトやギンガを狙っていたガーディアンが詠唱を中断し、移動を開始する

 

しかし援軍はこれらだけではなかった

突入してきた新たな一団はシルフ領よりは少なかった、が、一騎ずつがとてつもなく巨大だったのだ

 

「あれは、飛龍…!?」

 

レコンの叫びが耳に聞こえてきた

プレイヤーの数倍はあろうかという鉄灰色のウロコを持つドラゴンの集団

野生ではない証として金属のアーマーが装着されており、背中に鞍にはケットシーのプレイヤーがまたがっている

彼らがケットシー族の切り札、ドラグーン隊であることには間違いないだろう

スクショでも流通したことのない伝説が、今眼前に並んでいるのだ

 

「済まない、リーファ、レイ。遅くなった」

 

背後から聞こえた声に振り返るとシルフ領主、サクヤがそこにいた

そして隣に寄り添うのはケットシー領主、アリシャ・ルーも一緒だ

レイは思わず喜びと驚きが混じった声色で

 

「サクヤ…! それにアリシャまで! 来てくれたのか!」

「ごめんネー、人数分の装備と竜鎧鍛えるのにさっきまでかかっちゃったんだヨー。キリトくんから預かった分も合わせてすっからかんダ!」

「つまり、ここで全滅したら破産ということだな」

「そうだヨー? つまりレイがサクヤを養ったげないとネー」

「―――いいさ、上等だ!」

「…からかうなアリシャ。無論、破産するつもりなどないのだからな」

 

そんなやりとりをしながら、サクヤは僅かに頬を染めながら、腕を組み涼しい顔でそう言った

あらゆるリスクを顧みず、この二人は来てくれた…

それだけでリーファは心の底から何か湧き上がるものを感じるのがわかる

 

「…ありがとう…ありがとう、二人共…!」

 

震える声で小さくリーファは呟いた

この世界にも、常識やマナーよりも大事なものがあったんだ―――

 

「―――あれが、この世界のお前の友達か?」

 

襲い来るガーディアンを切り裂き、ギンガがキリトに向かってそう問いかけた

同じようにガーディアンの攻撃を避けながらその問いかけに頷く

 

「…あぁ。けど、友達っていうのかな…」

「それでいて綺麗な女性だ、アスナって人がいながらねぇ」

「ちょ!? 誤解されるような言い方はよしてくれ!」

「わかってるって。…よし、じゃあお前を一気に送り届ける、この戦力なら行けるはずだ。キリト、一度下がるぞ」

「―――あぁ、わかった!」

 

先を行くギンガを追いかけるようにキリトは翅を動かした

ギンガはサクヤとアリシャの近くで止まると二人を一度見据え

 

「貴方たちが、この援軍のリーダー格か?」

 

サクヤは始めて見るその白外套の男性に視線を返すと頷く

それをギンガが確認すると

 

「今から俺は、キリトをあの天涯? まで送り届ける。貴方たちにはそいつを援護して欲しい」

「援護?」

「あぁ。援護っていうか、暴れてくれればそれでいい。ここまで数が増えたんだ、ちまちましてたらそれこそ時間がなくなっちまうからね」

「ふむ…それもそうだな。しかし、勝算はあるのか? 援護するとはいえ、あの量だ」

「大丈夫だ。…一点突破だけなら―――! サチ!」

 

ギンガが彼女の名を呼んだ

サチと呼ばれた女の子は一度こちらを見て小さく笑みを浮かべつつ周囲のガーディアンを切り捨てながら、彼の隣へと飛んでくる

 

「まだ行けるか?」

「もちろん。ギンガとなら!」

「ならオッケーだ、キリト、俺たちに続け!」

「あぁ、頼んだ、二人共!」

 

キリトの声の耳に、ギンガとサチは己の眼前に円を描いてそれを通り過ぎる

瞬間、サチの体には白銀の鎧、そしてギンガの体には黄金の鎧が装着される

その召還の余波だけで周囲のガーディアンが吹っ飛ぶほどだ

牙狼剣と魔戒槍を駆使し、接近してくるガーディアンを切り捨てて一気に進んでいく

 

<レイ!>

「ま、マジかよ!?」

「まさか、鎧を出せる者がまだ他にもいたというのか…!?」

「て、っていうか、あ、アレっテ!?」

「う、噂の黄金騎士!?」

 

同行していたメンバーが一様に驚く声が聞こえてくる

しかしそれに負けじとサクヤがシルフプレイヤーに対して号令を飛ばした

 

「―――遅れるな! あの三人に続けっ!」

「こっちも! ドラグーン隊、ブレス攻撃用ー意っ!」

 

号令とともにシルフのプレイヤーたちは各々の得物を構え、ドラグーン隊が口から微かな光を作り出す

 

「フェンリルストーム、放てぇっ!!」

「ブレス、()ぇぇぇぇぇ!!」

 

一糸乱れぬシルフ部隊の斬撃、放たれるドラグーンの紅蓮の炎

間髪入れず放たれる、サクヤの更なる号令が響き渡る

 

「―――全員、突撃ぃぃぃぃぃっ!!」

 

 

黄金の輝きを、ボクは遠目から眺めていた

始めてあの輝きを見たとき、思わず見惚れてしまった、あの光を

どこまでボクは生きれるのか、正直わからない

それでも、生きている限りは、あの輝きを追いかけたい

 

だからボクは剣を取る

いい加減アイテムでのサポートもちょっぴり飽きてしまってきたのだ

ここからは、ボクも暴れるかんねっ!

 

 

「シショー!」

 

牙狼の後ろでユウキの声が聞こえる

振り向くとガーディアンを切りつけながらユウキがこちらに向かってくるのが見えた

器用に攻撃を避けながらこっちに飛んでくるユウキを、仕損じたガーディアンがユウキを追いかけてくる

追いかけてきたそのガーディアンを牙狼剣で突き倒しつつ、ユウキが牙狼の隣で剣を構える

またその隣では打無も槍を構えて、彼女もユウキを視界に捉えている

 

「…全く。相変わらずの行動力だな」

<それが長所、なのかねぇ>

「ふふ、無茶しちゃダメだよ、ユウキ」

<目的地までもうすぐじゃからな>

「―――うんっ!」

 

次々と溶かされるガーディアンの軍勢

無限湧きとも言える連中にも、ついに僅かな隙が現れる

一瞬ではあったが、ドームの天頂が見えたのだ

 

「キリト!!」

「あぁ!」

 

その場を打無とユウキに任せ、一気に天頂部へと目掛けて加速する

牙狼剣の範囲を活かし、キリトの前に楯突くガーディアンを切り裂いていく

そして牙狼は一度手首の部分だけ鎧を解除し、キリトに対して手を伸ばす

キリトはそれをしっかりと握った

 

「一気に飛ばすぞぉ!」

「わかった、やってくれ!」

「あぁ、行ってこいやぁぁぁ!!」

 

手を掴んだキリトを投げ飛ばす勢いで、天頂目掛けて思いっきりぶん投げた

それを起爆剤とし、キリトは背の翅を羽ばたかせ真っ直ぐ向かっていった

すぐガーディアンが湧き出てキリトの姿は見えなくなったが、何、大丈夫だろう

役目は終わった

 

牙狼は鎧を解除して、一目散に撤退する

道中打無とユウキにも声を掛けつつ、出入り口へと戻っていく

それらを確認したサクヤも叫んだ

 

「全員反転、後退!!」

 

それを皮切りにシルフ隊と合流、ドラグーン隊の援護を受けながら降下していった

 

◇◇◇

 

<ひと段落だな>

「あぁ、あとはアイツに任せとけば、大丈夫だろう」

 

無事脱出し、落ち着いたところでギンガは魔戒剣を赤鞘に収め、ザルバの問いに答えた

どう転がるかはわからないが、少なくとも悪い方には転がらないだろう

周辺にはシルフ領の大勢のプレイヤーが肩で息をしつつ、地面にへたりと座っているのを確認した

ギンガの横には同じように地面にぺたりと座りながらはふぅ、と大きく息をしている

 

「なかなか大変な戦いだったねシショー…」

 

大きく背伸びをしながらユウキがこちらに向かって歩いてくる

ギンガはユウキの頭を軽く撫でながら

 

「ユウキもお疲れ様」

「えへへー…」

 

にぱー、とユウキは笑顔になる

ユウキの言う通り、今回は割とシンドイ戦闘だった

あとはキリトの無事を祈るしかない

 

「…サチ、ユウキ。俺たちも一度ログアウトして休もう」

「そーする。うえぇギンガぁ、宿屋まで運んでぇ…」

 

よほど神経を使ったのかサチはぐったりしている

仕方ないなぁとボヤキながらサチをおんぶしつつ、ユウキと一緒にその場を後にした

 

◇◇◇

 

結果だけを言うならば、須郷伸之は敗北した

死んだ茅場に邪魔されて、須郷は負けを喫した

刻まれた体がひどく疼く

とりあえずその痛覚には須郷曰く〝いい薬〟があるのだから、大した問題ではない

怨敵桐ヶ谷和人、彼だけは殺さなくてはこちらの気がすまない

幸いにも自分を欲しがっている企業等いくらでもある

だが、しかしだ

 

「―――とりあえず、君は殺すよキリトくん…!」

 

吐くように呟きながら机に仕込んでいたサバイバルナイフを取り出し、それを懐に忍ばせる

痛み止めの代わりとして〝いい薬〟をありったけポケットに突っ込み先ほどまでいた自分の研究室を飛び出した

体を無理やり動かし出口へと突き進み―――外に出た直後、不意に誰かが目の前に立っているのを確認した

 

「…須郷さんじゃあありませんか。こんな時間にどこに行くんです?」

 

テクテクとこちらに向けて歩いてくる一人の男

年齢は桐ヶ谷和人と同じような感じだろうか、いや、自分はどこかで会ったことはあったはずだ

確か、社長である結城彰三と明日菜を見舞いに行った時にいたガキじゃなかったか?

 

「まぁ、俺はアンタに用があって来たんだよ。…スゴウさん」

 

そう言って彼は目の前にいくつかの紙を放り投げた

目の前に落ちた紙を拾って見てみる

それは今自分が実行している〝実験〟についてだ

しかし、どこから? 漏れるハズが―――

 

「俺の後輩はコンピュータに強くてね。少し時間かかったけど、アンタの違法な研究は全部保存、コピー済みだ」

 

…何を言っている

目の前の男は一体何を言っている

 

「そんなわけで須郷伸之さん、アンタはもう終わりだ。いずれアンタの部下も捕まえる。逃げようとしてもいいぜ、どっちみち、逃がす気なんてないからな」

「クソガキがぁぁぁぁぁ!! 僕の邪魔をするなぁぁぁぁぁっ!!」

 

激高し、須郷は持っているサバイバルナイフを突き刺そうと突進してくる、が、相手から放たれた鋭い蹴りが顎へとクリーンヒットし須郷は意識をあっけなく刈り取られた

 

 

「終わったか? アラタ」

「橙子」

 

向こうからカツカツと橙子が歩いてきた

タバコを吸いながら気怠そうにポケットに手を突っ込みながら近づいてくる

 

「あぁ、とりあえず拘束して警察に突き出してきてくれ。俺はこのままこいつの部下をとっ捕まえてくる」

「随分働くな。桐ヶ谷少年にそんなことしてやる義理なんてないだろう?」

「和人に、というよりは明日菜さんに対して、かな。本人の承諾を得ない結婚とかフザケてるだろう? 理由なんてそれだけだよ」

 

そう言って小さく笑うアラタに橙子はふっ、と同じように小さく笑み返し

 

「とりあえずコイツをしっかり拘束してくれ。車に乗せて走ってる間に気がついて暴れられたら叶わん」

「もちろん」

 

◇◇◇

 

後日譚―――というかエピローグ

あのあとキリトから聞いたことではあるのだが、須郷伸之を倒すことには成功したらしい

しかし簡単ではなかったようで、危うく負けてしまうところだった

その危機を救ってくれたのが、残留思念(?)となった茅場だったそうな

 

キリトはその場で、世界の種子(ザ・シード)と呼ばれるVR制御システムを手渡された

そもそもVRゲームというのはSAOのデスゲームと、須郷のしでかした実験により、衰退は免れない自体となったのだ

そこに出てきたのが、権利フリーをうたうVR制御システムだ

キリトはそれをエギルにあずけ、彼は自分のコネクションを駆使して安全性を徹底的に調べあげ、ありとあらゆる危険がないことを証明した

このプログラムにあらゆる危険性はないといえど、これを解き放つことでどうなっていくのか、正直それは茅場本人にしかわからないだろう

だが、真なる異世界を求め続ける彼の夢想は、尊敬の念を感じ得ない

もっとも、自分はゲームの開発などできないから、作ろうという気はないのだが

キリトはそのままエギルに依頼して、世界の種子(ザ・シード)を色々なサーバにアップし、個人、企業関わらず、誰でもダウンロードできるようにして、完全に解放したのだ

 

そして衰退するハズだったアルブヘイムを救ったのはALOのプレイヤーでもあったいくつかのベンチャー企業の関係者だった

彼らは共同で出資し、新しい会社を立ち上げてレクトからほぼ無料に近い低額でALOの全データを譲り受けた

アルブヘイムの大地は新しいゆりかごの中で再構成され、プレイヤーのデータも完全に引き継がれた

生まれ落ちたのはアルブヘイムだけでなく、資金力のなかった企業や個人に至るまで数百前後の運営者が名乗りを上げて、次々にVRゲームが稼働していった

有料、無料、とそれは様々だが、自然な流れでそれらのゲームは相互に接続されるようになり、一つのゲームで作ったキャラを他のゲームへとコンバート出来る準備も整いつつある

他にもザ・シードの利用法はあるみたいだが、それは自分の知るところではないだろう

 

◇◇◇

 

アルブヘイムの、月がよおく見える、そんな場所

月の眺めがとてもいいこの場所に、ギンガはいた

 

その知らせを受けたのはキリトからのメール

メールの文面には今日の日付の今頃に、俺たちが途中で終わった、馴染み深いものが現れる―――

端的に訳すとこんな感じだ

 

途中で終わった馴染み深いもの、という言葉に一瞬混乱したが、よーく考えるとそれが何なのかを思い出すことができた

そういえば…〝あのダンジョン〟は四分の三くらいで終わってしまったな

 

<―――思い出すなギンガ。覚えているか? 俺様と始めて会った時のこと>

「覚えてるよ。…あの時はがむしゃらだったなぁ、俺。あの時もこんな感じの夜…だったかな」

<かもしれん。あいにく、天気は俺様も覚えてないぜ>

 

ザルバと取り留めのない話を繰り広げる

会話をしながら、ちらりと月を見た

まだ変化はなく、美しくキラキラと輝いているだけだ

そんなギンガの耳に、また一人別の声が聞こえてきた

聞き慣れた女の子の声

 

「ギンガー」

 

振り向くと自由に飛び回って接近してくるサチの姿があった

時間制限が廃止され翅を休ませる必要がなくなり、何十分でも飛べるようになったことがよほど嬉しいのか、とても楽しそうに飛んでいる

少し速度を上げて彼女は真っ直ぐギンガへと突っ込んできた

ギンガは迷うことなく両手を広げ彼女を受け止めると、その場で少し回転し威力を殺す

 

「間に合ったかな?」

「あぁ。多分もうすぐ…お、出てきたぞ」

 

不意に月が影に侵食された

その影はどんどん大きく影を増やして行き、いつか〝あの世界〟での形を形成していく

目を見張るような大きな建物―――何階分もの窓が並んだ巨大な建造物がいくつも密集している、その建物の名前を自分たちは知っている

 

<浮遊城アインクラッド。―――まさかアルブヘイムの世界で見るとはな>

 

ザルバの言葉にギンガは小さく口元を綻ばす

SAOの時は、確か七十五層まで行けたのだ

だから、今度は

 

「あ、ギンガ、見てみて、あっちにたくさんのプレイヤーがいる」

「お、ホントだ。…先頭にいるのはキリト…かな?」

「シショー! サチさんっ!」

 

大勢のプレイヤーが新生アインクラッドへと向けて翅を羽ばたかせている

その光景をじっと眺めていると、またも二人の背後から声がかけられた

背を向くとユウキと、その仲間たちである〝スリーピングナイツ〟のメンバーが勢ぞろいしている

 

「ボクたちを忘れてもらっちゃあ困るよシショー! 行くんでしょ? あのおっきい建物に!」

「…あぁ、そういうことだ。行くか? ユウキ」

「もちろん! ボクたちの全力を、アレにぶつけるんだ! ね、みんな!」

 

ユウキの言葉にメンバーが頷き、声を上げ応答する

ギンガとサチはお互いに顔を見合わせながら笑みを作る

 

「じゃあ行くか、俺たちもあそこに」

「うん! 今度こそクリアしよう、あの浮遊城を!」

 

そう言って彼らは大勢のプレイヤーのいる方へと翅を羽ばたかせている方へ飛んでいく

不意にサチがギンガの手をきゅ、と握ってきた

それにギンガは驚いたが、小さく笑みを作ってサチの手を握り返す

 

宵闇の中の光に照らされたその影は、最後まで繋がったままだった

 


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