呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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本当にお待たせしました(誰も待ってない

今回は自作品のクロス先に出てくる人物の名前や地名などがガッツリ出てます
違和感しかないと思うけどスルーしてください
故にそういうの性に合わないんじゃボケェという方々はバックボタンを押してください
 
こういうのにしょうもない妄想に付き合ってくださる方々はどうぞそのまま
面白いかはわかりませんが頑張って行きたいです

ちなみにパラレルワールド的なイフ、だと思ってください(クロオバ先


兄妹 brother

「うわぁ…!!」

 

目の前に広がる光景をみて、リーファが漏らしたのはそんな言葉だ

なんやかんやあってここまで来るのに果てしない苦労があったが、それもこの目の前の光景を見れば吹っ飛んでしまうだろう

 

そう思えるくらいに目の前の夜景は美しかった

古代遺跡みたいな石造りの建築物

それが縦横にどこまでも連なり、黄色い篝火に青色の魔法光、桃色の鉱物燈が織り成す様は例えるのな星屑、といったところか

その輝きの下を行くプレイヤーのシルエットは統一感がない

九種族が入り乱れているからだ

 

<ゼロ、上を見て>

 

シルヴァに言われてふと顔を真上にあげる

夜空の中に、枝葉の形がはっきりと浮かび上がるのがわかる

間違いない、世界樹だ

横のキリトにレイは視線を移し

 

「見ろよキリト。間違いない、ここがアルンだ。世界最大の都市で、アルブヘイムの中心」

「あぁ…ようやく、着いたな」

 

頷いたキリトの胸ポケットからユイが顔を出し笑みを浮かべて

 

「わぁ…こんなにたくさんの人がいる場所、私初めてです!」

「私も同じだよユイちゃん…! ここが、アルン…!」

 

ユイと二人(?)リーファが答える

もっとも、誰が見ても同じような感想を抱くだろう

種族を捨てて、自由に飛んでいるプレイヤーがこんなにいたとは、全く思いもしなかった

一行はしばし固まりながらすこし自由に飛び回り、動きながら巨大都市の喧噪に体を浸していた

しかし不意にパイプオルガンみたいなサウンドが耳に聞こえてくる

それは現実世界での時間午前四時から定期メンテが行われるというアナウンスだ

というか、もうそんな時間だったのか

 

「…今日はここまで、だね。宿屋で一度ログアウトしよう」

「あぁ。…なぁ、メンテってのは、何時までなんだ?」

「たしか、今日の午後三時まで、だったっけ?」

「うん、間違ってないですよ」

「そっか…」

 

キリトは軽く目を伏せてから空を見上げた

視線の先には世界樹がある

そこでレイとリーファは思い出す

もともと彼は世界樹の上にいるであろう人を探しに来たのだということ

レイは旅立つ前にガダルから見せてもらったあの画像の中にいる鳥かごの女性のことを想像する

 

…今は憶測の域を出ていない、むやみに変なことを言って混乱させる必要もないだろう

 

そう考えたレイは空気を変えるように声を上げた

 

「よっし、宿屋を探そう。ユイちゃん、ここから一番近い宿屋、探せない?」

 

レイの声によって上を眺めていたキリトは視線を戻し、同じように上を見据えていたユイもすぐに表情を切り替えて

 

「お安い御用です。ちょっと待っててください…」

「今日は俺が宿代奢ってやるよ、いい時間だしな」

「え、けどそれは流石に―――」

「いいんだって! 俺が奢りたいの。君ら学生は早く戻って休みなさいっての」

 

言いながらぐわしとリーファとキリトの頭を交互に撫でる

観念したようにリーファがキリトを見て微笑みかけるとキリトも釣られて笑顔を見せた

やがてユイがぱっと顔を上げて

 

「あっちのほうにお手頃価格なのがあります!」

「おっけー! じゃあそこに向かおう、ほらついてこい二人共!」

 

レイがすたこらと歩きだしたのをリーファはキリトと二人で追いかける

夜更かしで結構な時間が経っているのだが、リーファはすこし、胸騒ぎを覚えた

宿屋に入る直前、さっきのキリトのように世界樹を見上げてみた

当然、その先にある世界樹の枝葉以外、特に見つけることはなかった

 

◇◇◇

 

とある病院、結城明日菜が眠っている病室に少年はいた

理由は特に有りはしない

しかし、今もこうして眠っている姿をなんとなく目に焼き付けたくなったのだ

自分と今も眠っている明日菜に対しては何の関係もない

助けたい、という感情はあるにはあるが場所が場所だけにどうしようもないからだ

 

視線を今も明日菜が付けているナーブギアへと落とす

これに埋め込まれた信号素子が脳波とリンクし五感を脳で直接感じ脳から身体に送られる信号を延髄でインタラプトする仕組み…らしいのだが正直全くわからない

とはいえこれが発表された時の賑わいは凄まじいものだった

当時の自分は全く興味なかったのだが、それが幸運だったとも言えるだろうか

 

しかしナーブギアがもたらした悪夢が終わっているにも関わらず、彼女はこうしてまだ眠っている

先ほど支部にいる花飾りの少女からメールが来た

内容は<調べてって言われたその男の人、裏で結構ひどいことしていますよ>、という簡単な報告文だった

相変わらず仕事が早い、と内心で微笑みつつ、その男―――スゴウという男に嫌悪感が沸く

裏で何をしているかはわからないが、褒められたことじゃないのは確かだろう

 

とりあえず調査の方は頼れる後輩に任せるとして…今日は戻ろうかと思った時だ

 

この病室のドアが開いた

 

「―――へぇ、詳しいな。そうだ…な、俺の知る限りだと、アスナだけだったなぁ、本名は…あ」

 

隣にいる女の子と話しながら黒い服を着込んだ少年はこちらを見据える

女の子の方も少年がこちらのほうに気づいたのと同時、その少年の後ろにすこしばかり隠れて、こっちの様子を伺うように視線を移す

 

「やぁ。この病室で会うのは二回目、だね。邪魔しちゃったかな」

「あ、いえ、そんな。…えっと…そういえば、名前言ってませんでしたね。俺、桐ヶ谷和人って言って、こっちは妹の―――」

「す、直葉って言います」

 

そう言って少年―――桐ヶ谷和人の後ろにいた女の子はぺこり、とお辞儀をする

 

(キリガヤカズト…なるほど、だからキリト、ね)

 

向こうから名を名乗ってくれたのだ、こちらも名乗りを返さねばならない

彼は自分ができる最大の友好的な笑みを浮かべながら、和人らへと向き直り、その名を名乗る

 

「―――鏡祢アラタだ」

 

 

「アラタさんは、どうしてアスナの…あ、明日菜さんの病室に?」

「理由は特にないよ。強いて言えば、うちの所長さんが結城夫妻と知り合いでね、その縁でって感じ。それと、敬語はやめてくれていいよ。おんなじくらいだから、気になんてしないさ」

 

一瞬間を置いて、和人は「じゃあ遠慮なく」と言ってくれる

その表情からは、かつて見た絶望の色は消え失せ、何かを決意している表情だ

心配は杞憂に終わったみたいだ

 

「理由もないのに…わざわざお見舞いに?」

「そりゃあ接点そんなにないけど…心配だからね。そんなに会話したことないけど」

 

まだ中学の頃、何気なくあの人についていった時に、結城夫妻と一緒にいた結城明日菜を見た

表面上は笑っていたが、その時はどうにも彼女の笑顔が本心から出てくるものだとは思えなかったのだ

自分はそこから色々あって、彼女のことを考える余裕などなくなっていたのだけれど

ふと携帯の時間に視線を落とす

そろそろ一度戻ったほうが良さそうだ

 

「…さって、それじゃあそろそろ俺は戻るよ。邪魔しちゃあ悪いしね」

「あ…、その、ありがとうございます。アスナを気にかけてくれて」

 

和人のその言葉に微笑みながら手を挙げつつ出入り口へと歩いていく

扉に手をかけながらアラタは和人に向かって小さい音量で言葉を投げかける

自分のいけないところで戦っているであろう彼を激励するように

 

「―――頑張れ」

 

結城明日菜を助けられるのは、君なんだから

 

◇◇◇

 

「…お兄ちゃんは、あの人と会ったことあるの?」

「あぁ。といっても、その時は本当にすれ違ったくらいで、会話なんてなかったけどな」

 

直葉とそんな会話を交わしながら、和人は先ほど部屋を出て行った男性―――鏡祢アラタという人を改めて思い返す

年齢は見た感じなら十六から十七くらい…といった感じだろうか

今時、あんな風に誰かを気にかけてくれる人なんて珍しいと素直に感じた

 

「その、なんていうか、不思議な人…だったな?」

「そうかな…私はそれに加えて、変な人だなって印象もプラスだよ」

「はは、スグは正直だな」

 

直葉の言うこともわからんでもない

でも、どういうわけか彼の言葉には、なんか妙に暖かさと優しさを感じたのだ

理由を聞かれれば上手く説明できないのけれど

 

「―――さて。改めて紹介するよ、彼女はアスナ。…血盟騎士団の副団長、〝閃光〟の異名を持つ副団長アスナだ。速さと正確さじゃあ俺は最後まで叶わなかった」

 

一度思考を切り離し、改めて和人は己の妹へ自身の想い人の紹介を始める

その言葉の節々に、かつて共に戦ったあの日々を思い出すように―――

 

◇◇◇

 

サーバーのメンテが終了して、レイがログインしたときはまだ誰も来ていなかった

どうやら一番乗りだったみたいだ

もう少しで約束の時間ではあるのだが…どうも気が早かったみたいだ

 

「…ちょっと早かったかな」

<時間にゆとりを持って行動できるのは素晴らしいことよ。いつでも五分前行動を心がけたいわね>

「リアル思い出すからやめてくれシルヴァ…」

 

とりあえずすこし時間ができたのでレイは所持している二刀を取り出し、軽く演舞を開始した

空気を切り裂き、虚空を蹴り、眼前を刃が過ぎる

二本の剣を器用に動かし、体を動かす

この動作は主に一人のときとかにしている動きだ

順手の剣をくるくると回しながら逆手に持ち替え、目の前の二本の剣線を描く

ようやくスムーズに持ち帰られるようになってきた

鎧を纏うとどうもスムーズにくるくる回せない、可能なら鎧のまま順手から逆手に持ち替えられるようにすることが今後の課題か

 

と、一人でくるくる回していると効果音と一緒に新たな人影が現れる

シルフ族の少女―――リーファだ

 

彼女はゆっくり体を起こすとベッドの端っこに移動する

―――なんだろう、なんだか様子がおかしい気がする

 

<…リーファ?>

 

シルヴァの問いかけにリーファは何も答えない

レイがどう言葉を切り出そうか迷っているうちにもうひとりここにログインしてくる

誰かはわかっている、キリトだ

彼もまたリーファを見て一瞬驚いた、が彼はすぐに柔らかい声色で、レイに代わり問いかけた

 

「…どうしたんだ? リーファ」

 

その問いかけにリーファは目尻から涙をこぼしつつ、レイとキリト、シルヴァを視界に抑えて精一杯の笑顔を浮かべ言葉を発した

 

「…失恋、しちゃった」

 

恐らく、リアルで何か色々とあったのだろう

何となくではあるが、レイはそう感じた

リーファは涙を拭いつつ

 

「ご、ごめんねキリトくん…。レイさんも、変なこと言ってごめんなさい…リアルのこと持ち出すのは、ルール違反だし…」

 

拭っても、拭っても彼女の涙が止まることはない

懸命に浮かべている笑顔が、余計に辛そうに見える

動いたのはキリトだった

彼は手を伸ばし、それをリーファの頭に乗せる

労わるように頭を撫でて

 

「辛かったら、こっちでも泣いていいんだよ。ゲームだからって感情を抑えないといけない決まりなんてない」

<そうよ。そういう時はね、吐き出しちゃえばいくらか楽になるものよ?>

 

キリトの言葉にシルヴァが続く

こういうときに何か気の利いたことが言えればいいのだが、あいにくそんなものは全くと言っていいほど思いつかなかった

だからレイは短く、それでいて優しく笑んでみることにした

 

 

 

―――しかしキリト、手馴れているな?

 

 

 

内心そんなことを考えながら、レイはキリトに頭を預けたリーファが落ち着くのを待った

 

◇◇◇

 

どれくらいの時間があっただろうか

撫でるキリトと撫でられるリーファ…リーファの涙はいつのまにか止まっており、笑顔も普段の笑顔に戻っていた

 

「ありがとうキリトくん、もう大丈夫。…優しいんだね、キミ」

「反対のことは随分言われたけどね。けどありがとう」

「リーファ、今日はどうする? あとはもう俺とキリトだけでなんとかなると思うが」

「まさか。ここまできたんですもん、行きますよ」

 

リーファは勢いよくベッドから立ち上がる

そして彼女はキリトとレイの前に立って

 

そう言って笑顔を浮かべるリーファにはいつもどおりの元気な雰囲気が戻ってきていた

これなら問題はないだろう

 

「さって…ユイ、いるか?」

 

言葉が言い終わると同時、光が凝縮した後、キリトの肩に見慣れたピクシーの姿が現れた

目元をくしくしとこすりながら大きなあくびをしている

…本当にAIなのか、と疑問に思うくらい自然な動作だ

 

同じようなリーファもなんか言いたいことがあるのか、彼女はレイに視線を向けてくる

しかしここでなんか聞いて答えられてもわからないと思うのでスルーすることに

 

「―――うぉっほん! じゃあキリト、リーファ、ユイちゃん、行くか!」

 

それぞれが各々の得物を携え、連れ立って宿屋を出る

目標は決まっている、世界樹ただ一つ―――

 

◇◇◇

 

行き交う混成パーティをくぐり抜けて進むこと数分

視線の先にはアルン中央へと続くゲートが見える

意を決して門を潜ろうとしたその時だ

不意にキリトの胸ポケットからユイが顔を突き出し、食い入るように上空を見上げている

 

「ど、どうしたんだユイ」

 

周囲の人の目を憚るように小さな声でキリトが問いかける

リーファやレイも首を傾げるようにユイの顔を覗き込む

しかしそれでもなおユイの視線は世界樹の上空を睨み続ける

待つ事数秒―――ついにユイの口から言葉が漏れた

 

「―――ママがいます」

「…え!?」

 

その言葉に今度はキリトが顔を強ばらせる

 

「間違いないです! このIDはママのものです! 座標は真っ直ぐ、この上空です!」

 

それを聞いたキリトは勢いよくユイが見ていた上空へと視線を向ける

ギリギリ、と砕けんばかりに歯を食いしばって睨んでいたかと思うと、彼はその背の翅を大きく広げバゥン! と大きな音がしたかと思ったらその場から姿を消していた

 

「ちょ!? キリトくん!?」

<待ちなさい! 一体どうしたの!?>

 

シルヴァやリーファの静止も聞かずキリトはグングン上空へ飛んでいく

仕方なくリーファとレイも翅を展開し追いかけるべく地を蹴ったが全くもって追いつける気がしない

追いかけながらレイは考える

思い出すのはユイの〝ママ〟という発言だ

例の写真の画像が確かなら、あの先にいるのは独特の髪をした女性だ

それがママのことを指すのかはわからないが、無関係というわけではないだろう

 

そんな己の思考に埋没しているとリーファとだいぶ離れてしまっていた

だいぶ先のキリトは障壁に阻まれ、そこで足止めを食らっているようだった

 

だんだん、と見えない壁を叩きまるで何かに取り付かれたかのような目をしている

そして更に突進を繰り返そうとした

 

「おいキリト! 落ち着けよ!」

 

ようやく追いついたレイはキリトの肩を掴みそんな言葉を発する

だがそれでもなお彼は止まろうとはしてくれない

何がそこまで駆り立てるのだろう

 

「行かないと…行かないといけないんだよ!」

 

その視線の先には世界樹の枝が天を横切っている

恐らくまだまだ距離があるだろうと思えるが…

 

「警告モードの音声なら、届くかもしれません…!」

 

光の粒を撒き散らしながらユイも見えない壁に触れつつ、必死の面持ちで叫んだ

 

「ママ! 私です! ママぁぁぁぁ!!」

 

◇◇◇

 

待ち合わせの場所で、ギンガとサチはお互いに腕を組みながら考えていた

ここ最近、妙な、それでいて心当たりのある噂を何度か耳にしているのである

 

曰く、黒い格好をした異常な強さのプレイヤーがいた、とか

曰く、そいつはシルフの女の子とパーティを組み、世界樹を目指している、とか

曰く、その傍らには〝あの〟蒼炎騎士まで同行している、とか

 

そんな噂だ

 

いや、正直後半の二つは全く意味がわからないが、一番大事なのは最初の噂

 

「…黒い格好のプレイヤー…」

 

種族的な黒、ならスプリガンがそれに該当する

しかしそれでもそっくりそのまま黒いやつなんか見たことないし、仮にそいつが自分の知っているプレイヤーならば鎧とかは装備しない気がする

 

「ギンガ、やっぱりその黒い異常な強さのプレイヤーって…」

「あぁ。多分キリトだ」

 

現在自分たちのいる病院に彼であろう人物はいなかった

なんでもSAOプレイヤーの半分は学園都市(こっち)の病院に搬送されているのだとかなんとか

正直キリトの噂を聞くまでは本当にゆったりとこのゲームをユウキたちと遊べていればいい、それが思い出になってくれればいい、なんて思いながら日々を過ごしていた

 

「けど、〝蒼炎騎士〟ってなんだろ? 聞いたことないよね?」

「もしかしたら、こっちにも俺やサチみたいな鎧装着者がいるのかもしれないな…どうだ、ザルバ」

<まぁ心当たりはあるが…実際会ってみないと何とも言えんな>

<左様…。十中八九間違いないとは思うがのぉ>

 

そんなザルバとゴルバの会話を耳にして、これからどうするか、と思考する

世界樹を目指している、と噂にあるがこれはどういう意味なのだろうか

確かにアルブヘイムにて世界樹を目指すのは最終目的ではあると思うのではあるが、そう一気に目指すものではないと思うのだ

と、なると何か理由があって向かっているのだろう

その理由が何か…だが

 

<―――考えてもわからんな>

「あぁ。だから、とりあえず聞き込みでもしてアイツの足取りを追ってみよう」

「そうだね。世界樹を目標にしてるってことだから、純粋にそこを目指せばとりあえず会えるんじゃない?」

「―――それしかないか。よし、最短ルートをアルゴから聞いて、今から行こう」

 

満場一致、向かうは世界樹

とりあえずユウキらには軽くメッセージでも飛ばして…と、思っていた矢先だ

 

「おまたせー、師匠ー!」

 

手を振りながら駆けつけてきたのはユウキである

 

「…あんまり、なんだ。その師匠って呼ぶのやめてくれ。恥ずかしい」

「えー、そんなことないよ! ボクにこの戦い方教えてくれたのはギンガなんだし、紛れもなくシショーだよ!」

 

そう言って満面の笑顔を向けてくる

―――元気な子だ、と毎度思う

孕んでいる病など、微塵も気にしないほどに

 

「さて、来て早々で悪いけど、俺とサチはこれからちょっと出かけなきゃならない用事ができた」

「用事? っていうと、今日は稽古なし…なのかな?」

「残念だけど…そういうことになるな。それとも、一緒に来るか?」

「え? いいの? ボクがついていっても」

「お前にとってはつまらない冒険になるかもしれない。だけど、先々で起こる戦闘が稽古にもなると思ってね」

<ついでに、間近でギンガの戦いも見れる、見取り稽古も可能になるだろう。…まぁ、シウネーたちとは今日は遊べなくなってしまうが…それでも行くか?>

 

その問い掛けにユウキは変わらない笑みを浮かべる

迷いない声色で彼女は言った

 

「行くよ! 今日遊べないのはちょこっと寂しいけど、また〝明日〟があるし、ギンガとサチとの冒険は今日しかできないんだ。だから、行くよ! ギンガ!」

「―――おしわかった。けど無茶すんなよ。それと、メンバーにもメッセ飛ばしておくこと」

「おっけぇい! ちょっと待ってて、いろいろ準備してくる!」

 

そう言って彼女は一度走り出していった

回復アイテムとかを買ってくるのだろう

 

「ギンガ」

 

そしてこちらを呼びかけてくる声、もちろんサチだ

 

「アルゴさんとの連絡、取れたよ。最短ルート教えてくれるって」

「わかった。情報料とかは会って渡せば問題ない、よな」

「それでいいって。…相変わらずレア素材とか売っちゃってるもんね、私たち」

「回復アイテムを買う以外では特に金の使い道、ないからな」

「それで、ユウキが来たら向かう感じで大丈夫?」

「あぁ、アイツの身に何が起こってるかわからないけど、久しぶりに、会って話したいからな。アスナとはどうなっているのか、とか」

「あ、それわかる。仲睦まじいよ、きっと」

 

サチが笑いながらそう言った

―――実際彼らに何が起きているのかを知るのは、少し、先―――

 

◇◇◇

 

「おい、なんだあれ」

 

レイが指さしたその先―――そこに妙な小さな光があった

 

「…あれは…?」

 

その光はこっちに向かってゆっくり近づいていき、やがてその光はキリトの手の中にすっぽりと収まった

それはカードのような形状をしていた

 

「…おいリーファ、これ、なんだと思う?」

「私に振られてもわかりませんよ…シルヴァさんは、わかります?」

<私も見たことがないわ…。見たところアイテムって感じじゃあなさそうだし…>

 

みんなして唸っているとユイが身を乗り出し、そのカードの縁に触れながら叫んだ

 

「…これ、システム管理用のアクセスコードです!」

「!?」

 

キリトは息を飲んだように、手に持つカードを凝視した

 

「つまり、これがあればGM権限を使えるのか?」

「いいえ、ゲーム内からシステムにアクセスするには専用のコンソールが要るんです…私でも、システムメニューは呼び出せません…」

「だけど、こんなのが理由なく落ちてくるハズもない…よな」

「はい。多分、ママが私たちに気づいて落としたんだと思います」

 

ユイの言葉を聞いて、キリトはそのカードを抱きしめた

愛おしい恋人を抱きしめるように

大切な家族をその腕に抱くように

 

キリトはリーファとレイに向き直ってこう問いかけてきた

 

「教えてくれ、二人共。世界樹の中に通じてるゲートってのは、どこだ?」

「それは木の根元にあるドームなんだが…」

 

おずおずとした様子でレイがその場所を指差す

 

「で、でも無理だよ! あそこはガーディアンに守られてて、今までどんなに大勢でパーティ組んでも突破できなかったんだよ!?」

「それでも行くしかないんだ。いいや、行かなきゃならないんだ」

 

カードを胸ポケットに収めて、優しくリーファの手を取った

その手つきは、とても優しく、暖かな仕草だ

 

「…今まで本当にありがとう。リーファやレイ…シルヴァがいなかったら、きっとここまで来れなかった」

<キリト、あなた…>

「ここからは俺一人でいくよ。…感謝してもしきれない…もう一度言うけど、本当にありがとう」

「キリトくん…!」

 

今にも泣いてしまいそうなリーファの手をきゅ、と握り返し、その手を離す

ユイを肩に乗せた彼は後退して距離を取っていく

最後にもう一度こっちを見ると彼は深々と頭を下げ、その場を去っていった

 

その場にはリーファとレイが残される

 

どれだけの時間が経っただろうか、不意にレイが口を開いた

 

「…どうすんだ?」

「ど、うするって…」

 

両手を口に当てたまま、リーファがこちらを向きながら言いかけた

 

<このままいそいそと戻っていいの?>

「そ、そんなこと、ない…! わ、たし、キリトくんを…助けたい…!」

 

シルヴァの問いに涙を拭うように手でこすり

 

「ここまで来て…戻れなんて言われて、黙って戻れるわけない…!」

「―――おっけー、じゃあやることは決まってるな」

「はい。…レイさんはどうするんです?」

「バカヤロー、俺も行くに決まってんだろ? ここに来て俺だけ帰るなんて言ったら、絶狼の名が泣いちまうよ」

<どのみち、帰るなんて選択肢はなかったでしょう?>

「当然。…ほら、早く行くぜ、流石にあいつでも、あのガーディアン相手じゃ負ける可能性が高い。下手したらリメインライトになってる可能性もある。急ぐぞ」

「はい!」

 

レイの言葉にリーファは頷き、背の羽を羽ばたかせる

キリトが行った道を追うように、進んでいき、先へと走る

すると遠くの方で剣戟の音が耳に聞こえてきた

まだやられてはいない…? いや、それでも時間の問題だ

リーファとレイは頷きあって、更に速度をあげようとして―――不意に剣戟の金属音がなくなったことに気づく

もしかして―――と、頷きあってドームへ入る

 

「案の定だ、リーファ!」

 

レイの視線の先―――そこにはぼうぼうと燃えているリメインライトが見えた

恐らく、キリトだ

そして周囲には、夥しいほどの数を揃えた守護騎士たち

レイは迷うことなく二刀を引き抜き、目の前に二つの円を描き、絶狼の鎧を纏う

リーファを守るように絶狼は前に出て、持ってる剣を交差させ守護騎士からの攻撃を捌き、切り捨てていく

 

「急げリーファ! 流石にこの数はキツすぎる!」

「わかってます!」

 

リーファが両手を伸ばしキリトのリメインライトを優しく抱きしめたのを確認すると、今度は一直線に出口へと向かう

守護騎士らは徒党を組みスペル魔法を一斉に吐いてきた

降り注ぐのは光の矢

絶狼を纏っている状態ならそこまで多いダメージではない、だからこの全身を盾にしてリーファらの逃亡を手助けする

そして彼女がドームの外へと飛び出した瞬間に、自分も着地と同時に鎧を解除し自身も同じように外へと脱出した

 

◇  

 

「はぁ…はぁ…!」

 

大きく息をするリーファとレイ

絶狼の鎧があったといえど、あの数は流石に多すぎやしないだろうか

 

<…けど、いくらなんでも多すぎやしないかしら…>

 

不意にポツリ、とシルヴァが呟く

それを言われてそういえば、とレイは考えた

 

(…言われてみれば、確かに数が多すぎる…。運営はクリアさせる気あんのか…?)

 

と、思考に耽る暇ではないことを思い出す

しかし蘇生の準備を考えるレイを尻目にリーファはしていたようで、〝世界樹の雫〟という蘇生アイテムをキリトのリメインライトへとふりかけていた

するとその場に魔法陣が現れ、キリトの姿が戻ってくる

 

「キリトくん…」

 

座ったままで、リーファはその名を呼んだ

彼も哀切な笑みを浮かべながら、その場に片膝をついて

 

「…ありがとう、リーファ、レイ。…もう二人してあんな無茶しないでくれ、これ以上迷惑をかけたくない」

「お前…」

 

その言い方に少しムッと来た―――が、レイが口を挟む前にキリトが立ち上がる

彼はもう一度世界樹内部へと繋がる扉の前に立ったのだ

 

<―――あなた、もう一度挑む気!? さっきの結果を忘れたの!?>

「忘れてないよ。だけど、行かなきゃ」

 

シルヴァの声に、キリトは背を向けたままで返答する

リーファは涙を流し、彼の体に触れ、ぎゅっと抱く

 

「…もうやめて。いつものキリトくんに戻って…! 私…キリトくんが…」

「―――リーファ…。ごめん、けど、あそこに行かないと、終われないし、始まらないんだ。会わなきゃならないんだ―――」

 

 

 

「―――もう一度、アスナに」

 

 

 

時間が止まる

―――何を、言ったんだろうか

空気が凍る

―――なんて、言ったのだろうか

思考が、固まる

―――目の前の人は、なんて名前を?

 

「…いま、なんて言ったの…?」

 

様子のおかしいリーファにレイは怪訝な顔をする

リーファは震えた声色で、言葉を必死に絞り出す

震えるリーファの問いかけにキリトは少し首をかしげ、追い打ちし(こたえ)

 

「あぁ。アスナ。俺の探してる人の名前だよ」

 

―――そんなハズない

だって、その人は―――

 

リーファはキリトの体から離れ、その両の手を自分の口元に当てている

体が震えている

目は大きく見開き、キリトを信じられないといった様子で見据えている

 

「…リーファ?」

 

レイの呼びかけにも応じない

数十秒経って、震える声でリーファがキリトに向けて言葉を発した

 

「―――お兄ちゃん、なの…―――?」

「――――――え?」

 

その単語を聞いたとき、一瞬キリトは訝しんだような表情を見せる

やがて彼は、言った

 

「…スグ…直葉…?」

 

目の前の黒い剣士は名前を呼んだ

まるで何かが壊れていくような錯覚を覚えながら、リーファは後ずさる

 

彼と旅した数日感

本当に…心の底から楽しかった

そして同時に、〝キリト〟という目の前の人物に惹かれていた

 

シミュレーターの延長なんかじゃない、この世界も、もうひとつの現実なのだと教えてくれた彼に

だからこそ、この世界で〝キリト〟を思う気持ちも決して嘘なんかじゃないと気づかせてくれた君に

それなのに…それなのに―――

 

…あぁ―――なんて…現実…

 

こんなことになるのなら…知りたくなんてなかった

 

「ヒドイよ…こんなの…あんまりだよ…!」

 

うわごとのように呟いた彼女の声は涙を孕んでいた

キリトから顔を背け、レイの声を無視し、彼女は左手を動かす

一直線に触れるのは、ログアウトのボタン

浮かんだ確認メッセージなど見る気しないままに感覚だけでイエスのボタンを叩き、ログアウトしていく

ぎゅっと閉じたそのまぶたから溢れる雫

 

虹色の光を放ちながらこの世界から帰りゆく彼女を見ながら、レイは佇んでいることしかできなかった

 




知らないほうがいい、なんて言葉もあっけど、知っておくと便利なことだって世の中にはたくさんある
もっとも、それらをどう聞いて、活かすかは当人しだいでもあるんだけどよ

nextZERO 突入 attack

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