呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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こんなんで大丈夫だろうか


会議 ~出会い~

一ヶ月

たった一ヶ月という時間だけで、このゲームに囚われた人たちのうち、二千人がこの世を去った

ギンガとしては他人だが、それでも本来はこのゲームを楽しむためにプレイしていた人たちが亡くなったと聞くと心が痛む

この感情も、偽善でしかないのだろうけど、それでも構わない

だが、一か月経ってもまだこのゲームは一層も攻略されていない

単純に難易度が高いのか、ベータ版の時はあまり攻略されていなかったとも聞いている

 

<たしか、六層までと俺様は聞いてるぜ?>

 

左手のザルバがそう言ってくる

なるほど、六層、か

ベータでの試用期間はおおよそ二ヶ月

その二ヶ月だけでたったの六層…そしてソードアートオンラインの舞台…アインクラッドは全百層

―――なるほど、難易度が高いわけだ

 

そんな考えを振り払い、ギンガは手に入れた〝鎧〟について改めて思い返す

そういえばこの鎧って名前あるんだろうか

見た感じ狼みたいなものだったのだが…金狼? いや、流石にその名前は安直すぎるか

同時に、いつの間にかストレージにあったアイテムが今着ている白外套である

恐らくこの鎧を入手した際に手に入れたのだろうが、なかなかの性能を持っており、多分今後これを越える装備はないのではないだろうか

同時に手に入れたこの剣…〝魔戒剣〟という名称だったか、これは鎧を装着すると〝牙狼剣〟という名称に変更され、性能が跳ね上がる特殊な剣だ…と、そこまで考えて「あれ、この鎧の名前って〝牙狼〟って言うんじゃないか?」、と一人思った

 

そんな風に考えているとやがて今座っている場所に徐々に少しづつ人が集まってくる

現在いる場所はトールバーナとかいう場所だ

うん、合ってるはずである

時刻は午後の四時、本日はこの場所でいよいよボス攻略会議なるものが開かれるからだ

それに参加する為に、ギンガは少し前にここでずっと待っていたのだ

家なんてないし、ほかにすることなど特になかったし、ここで待つこと以外特になかったからここで待っていただけだ

このゲームでよくできている事といえば、このゲームは現実世界とリンクしており、しっかり四季が変わるということ…つまり春夏秋冬、シーズンがあるのだ

夏になれば暑いし、冬になれば寒い…ゲーム作ったやつってすごいなぁ、なんて他人事ながらに思う

 

やがてポツポツと人が集まっていき、数えるとおおよそ四十五人くらいだろうか

生死がかかったこの状況で、逆によく四十人弱が集まったものだ

その中で一際異彩を放つ人物が一人いた

そこに座っていたのは赤いローブを来た女性のプレイヤーだ

ゲーム世界において女性はなかなかお目にかかれない

おまけに今はデスゲーム、彼女はなかなかに珍しい人と言えるだろう

そんな二人を見て、思わずのほほんとしているとパンパン、と手を叩く音が耳に入ってくる

 

「はーい! じゃあ、少し遅れたけど、これからボス攻略会議を始めまーす!」

 

中央に誰かが出てきた

彼は水色の髪をした男性で、全体に聞こえるように大きな声を発している

彼は笑みを作りながら言った

 

「俺はディアベル! 気持ち的に〝ナイト〟やってますっ!」

 

そんな風におどけてみせるディアベルと名乗った男

このゲームに〝職業〟というものは存在しない

普段からこういったことをしているのか、場慣れしている感じだ

彼はここ一帯を話しやすい空気に変化させたのだ

それぞれ茶化しつつも、ディアベルは笑みを零しながら、一瞬のあと真剣な表情となる

 

「みんなに集まってもらった理由は一つ、俺のパーティは先日、第一層のボス部屋に到着した! 第二層への道を切り開く時が来たんだ!」

 

気合の入った彼の言葉

彼は続ける

 

「俺たちはボスを倒し、第二層へ到達して、〝はじまりの街〟で待っているみんなに、このゲームはいつかクリアできると、伝えなくてはならない!それが、この場にいる俺たちの義務なんだ! そうだろ! みんな!」

 

その言葉に、トールバーナにいる人たちからざわめきが聞こえてくる

殆どは彼に同意するように頷くような声色だ

やがてぽつりと少しづつ拍手が起こっていく

未だ最初の町である〝はじまりの街〟には待っている人が大勢いる

絶望している彼らに、自分たちは希望として光を照らしていかなければならないのだ

 

「オッケー! じゃあまずは、六人のパーティを組んでみてくれ!」

 

「―――マジで」

 

思わず声が漏れた

六人パーティ…そういえばこのゲームはパーティとか組めるんだった

今の今までずっとぼっちだったからそんなことすっかり忘れてた

いや、最悪一人でも雑魚狩りとかそういうので微力ながらも貢献しようそうしよう

ちなみに自分がぼっちと言いましたが現実にはしっかりと友人知人と呼べる存在はいる

たんに〝ゲームはアナログ派〟なだけで、けっして彼はぼっちではない(念のため)

 

<どうする? このままではハブられるぞギンガ>

「ハブとかいうなザルバ。…いいさ、うん、雑魚とか狩って小さいところで貢献しよう」

「な、なぁ?」

「はい?」

 

不意に投げかけられた言葉に固まる

視線を向けると男女一組のパーティがこちらに話しかけてきていた

男性は黒い髪で、中性的な容姿、女性は、先ほど見かけた赤いローブを着込んだ女性だ

彼はこちらに向かって言ってくる

 

「よかったら、俺たちと組まないか? 言ってたとおり、ボスは一人じゃ攻略できない、今回だけの暫定ってことで、この女性も頷いてくれた。アンタはどうだ?」

<ほぉ? こいつは願ってもいない申し出だぞギンガ>

 

不意に聞こえたその言葉に男性は目を丸くする

女性も表情には出さなかったが驚きを隠せないでいた

ギンガは慌てて左手のザルバに言う

 

「ちょ!? いきなり話すなよ、知らない人がびっくりするだろうが!」

<そいつは済まなかったな。俺様の配慮不足だ、悪い>

 

全然悪びれてない感じなんですが

男性は指先を指輪のザルバに向けながら

 

「か、変わったアクセサリだな」

「だ、だろ!? く、く、クエストの報酬でもらったんだ!」

 

言い訳にしては苦しすぎだ

同時にどもってしまっているし、胡散臭さ倍増である

怪しまれたと思うが、男性は察してくれたのか何も聞いては来なかった

目の前に現れるパーティ申請を受諾しますか?の表示にギンガはイエスをタップする

そして自分の視界右上―――自分のやつの下に、二つ、名前とその体力バーが映し出された

キリト、と、アスナ

それが彼らの名前だった

 

やがて集まったプレイヤーたちが個々にパーティを組み終わったと判断したディアベルが再度言葉を発した

 

「そろそろパーティを組み終わったかな。じゃあ―――」

「ちょお待ってんか!」

 

ディアベルの言葉を遮って乱入してきたひとりの男

サボテンのような髪型に、口ぶりからすると関西系の人だろうか

彼は中央に躍り出ると自身を指差し名を名乗った

 

「ワイはキバオウっちゅうもんや。ボスと戦う前に、一つ言っておかなあかんことがある!」

 

その言葉に周囲がざわめき始める

彼は続けた

 

「こんなかに、今まで死んでった奴らに、詫びいれなあかん奴らがおるはずや!」

 

その言葉に、確実にこの場の空気が変わる

詫びを入れなければならない奴ら…それは恐らく、ベータテスターのことを言っているのだろう

確かに、事前にこの世界を知っているというのは大きなアドバンテージの一つだ

だがそのアドバンテージを持ってしても尚、このゲームで二千人という数がこの世界から消え去ったのだ

 

「こんなかにもいるはずや! ベータ上がりどもは、このクソゲー始まった矢先、上手い狩場やらクエストを独り占めして自分らだけポンポン強なって、今でもずーっと知らんぷりや! そいつらに土下座させて、溜め込んだアイテムやら装備やらを吐き出せさてもらわな、命を預けられんし、預かれんッ!」

 

ふと、横に座っているキリトという少年がふるふると震えていた

それだけでなんとなく察する、彼はベータテスターの一人なんだ、と

だが彼を励ますようなうまい言葉など言い出せるはずもなく、ギンガは黙ってしまう

 

「発言いいか」

 

そんな中言葉を発したのは黒人の男性だった

ひくい声色で彼はキバオウの前に歩み寄り、名を名乗る

 

「俺はエギル。キバオウさん、あんたの言いたいことはつまり、ベータテスターたちが面倒を見なかったせいで、亡くなったビギナーたちに、謝罪、賠償しろ、ということか?」

 

エギルと名乗った男性の剣幕に僅かに後ずさりするキバオウ

しかし「そ、そうや」と頷いた

エギルは懐からガイドブックを取り出した

たしか道具屋かどこかで無料配布されてるものだ

 

「あんたもこいつはもってるよな。無料配布されてるやつ」

「も、もっとるけど…それがなんや!」

「こいつを配っていたのは、元ベータテスターたちだ」

 

エギルの言葉に、もう一度トールバーナにいるプレイヤーたちがざわめき始める

彼は本を片手に持ち、周囲のプレイヤーへと視線を向けながら

 

「いいか、情報は誰にでも手に入れられた。なのにたくさんのプレイヤーが死んだんだ。その失敗を踏まえて、俺たちはどうボスに挑むか、それをこの場で論議されるか、俺は思っていたんだがな」

 

彼の言葉に場が静まった

最後にもう一度エギルはキバオウへと視線を向ける

やがてキバオウは潔く席へと戻っていった

 

このガイドブック、ベータテスターが配ってたのか、とギンガもブックを見ながらそんなことを一人思う

 

「よし、じゃあ再開していいかな。実は―――」

 

言いながら彼は懐から一冊のガイドブックを取り出した

 

「先ほど、例のガイドブックの最新版が配布された! コイツによると、ボスの名前は<イルファング・ザ・コボルトロード、武器は斧とバックラーで、HPバーの最後のバーが赤くなると、曲刀カテゴリのタルワールに武器を持ち替え、攻撃パターンも変わるらしい!」

 

その話を皮切りにいろいろと議論が繰り広げられた

どう攻める?だの守りはどうする?だの、そんな話だ

やがて時間も過ぎ、ディアベルは口を開いた

 

「以上で、会議を終了する! それと、アイテム分配についてだけれど、お金は全員で自動均等割、経験値は敵を倒したパーティのもの、アイテムは手に入れたものの物とする。―――異存ないかな?」

 

ディアベルの言葉に集まっているプレイヤーはそれぞれ頷き、肯定の意思を示す

それらを確認したディアベルは、一つまぶたを閉じて、なにやら決心した様子で改めて口を開いた

 

「―――最後に、みんなに、改めて話しておきたいことがあるんだ」

 

落ち着いた声色で、それでいて広く澄み渡る声で彼は言った

 

「…俺は、元ベータテスターだ」

 

ディアベルは唐突にそう告白した

今まさに腰を上げようとしていたプレイヤーが動きを止め、キバオウも目を見開いてディアベルを見る

彼は床に膝まづき、頭を垂れ続けた

 

「言い出すのが怖かった、キバオウさんが言っていたように、糾弾されるのを恐れて言い出せなかったんだ。だけど、待っている人たちに希望を見せようって言ったの言葉は嘘じゃない! 今更言い訳にしか聞こえないかもしれないが、どうか、みんな! 俺に力を貸してくれ!」

 

頭を下げて、彼は言った

そして僅かながらの静寂が流れる

やがて誰かが、パチパチと手をたたくような音がした

それに続けてこの場にいるプレイヤーのみんなが拍手をしだした

ベータテスターという風当たりの強いことを自分から告白した彼の勇気を称えるかのごとく

やがてディアベルは立ち上がり、この場にいるプレイヤーにみんなに視線を向けて、改めて礼をする

 

「―――ありがとう、じゃあ、今日はこれにて解散とする!」

 

彼は笑顔を作りそう言った

 

「あ、出発は明日の十時前後とするから、遅れないでくれ!」

 

その言葉に今度こそこの場は解散となる

ぞろぞろとどこかに戻っていくプレイヤーたちを見ながら、ギンガは未だに座っていた

正直、これからどこに行くかなど考えていなかったからだ

そんななかすたこらとその場を去るアスナという女性をキリトと一緒になんとなく眺めていた

 

「…えと、とりあえず自己紹介します? 知ってはいると思うけど、俺はギンガ。んで、この指輪は―――」

<ザルバだ。お手並み拝見とさせてもらうぜ小僧>

「こ、小僧って…。まぁいいや」

 

ザルバの言葉に苦笑いをしつつ、彼は自分のネームを言った

いつか〝黒の剣士〟と呼ばれ、この世界に名を残す自身の名前を

 

「―――俺はキリトだ。よろしく、ギンガ」

「あぁ。ザルバ共々、よろしく頼むよ、キリト」

 

そうして二人は短い握手をその場で交わす

〝黄金騎士〟と〝黒の剣士〟

いずれそんな異名で呼ばれることとなる、ふたりの出会いだった


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