呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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長くなった
いつもどおりの出来

生暖かい目線でお楽しみください
誤字脱字等ございましたら報告をば

ではどうぞ




遭遇 encounter

レイ

シルフ領にて彼を知らない者はいない、はずである

種族はスプリガンであり、なぜ彼がシルフ領にいるかは他の連中は知らないことだ

様々な憶測が行われ、サクヤに雇われた、だの実はスプリガン領のスパイだなどと言われているが、本人としては気にしていない

サクヤとはリアルで知り合いでもあるのだし、前者の理由はらしくはあるのだが

世間一般ではレイのことは基本的にレネゲイドとして扱われている

そもそもレネゲイドとは自身が所属する種族の領地を捨てたプレイヤーを指す総称であり、領地追放された者、また自発的に領地を捨てたもののことで、蔑称でもある

レイは後者だが、中には犯罪等を犯して領主に追放されてレネゲイドになるものも少なくないらしい

一通りの基礎を学んでスプリガン領を出てどこに行くか彷徨っていたところ、偶然シルフ領にいたレイはそのままサクヤに拾われて、今に至る、というわけなのだ

 

<レイ>

「うん? なんだ、シルヴァ」

<付近で戦闘が起こっているわ。シルフ領の子達ね>

「わかった。行ってみようぜ」

 

そうシルヴァに返答したあと、レイは黒い翅を展開させる

スプリガンではあるが、今の自分はシルフ領の住人

襲われてるのは誰かはわからないが、偵察も兼ねて行ってみようかと思い、レイは翅を動かして飛び出した

アルブヘイムには大きく分けて飛行には補助飛行と随意飛行というものがある

補助飛行とは左手に小さい補助コントローラーを用いて飛行するもので、少々簡単に飛べるが、メニューが開けない、速度が出ないなどのデメリットがある

しかし優れたプレイヤーなら補助なしで飛翔が可能となる随意飛行と呼ばれるものが可能になり、空中での戦闘も有利になれるのだ

 

「しかし、飛べるってのは気分がいいな。現実じゃ味わえない感覚だよ」

<それがALOの醍醐味だものね、貴方も随意飛行をマスターしてるじゃない>

「そりゃあね。俺の剣は二刀流だから、片手が塞がってちゃ扱えないぜ」

 

そんな会話をシルヴァとしながらレイは羽根を動かして飛行する

遠目から赤い閃光が見えた、恐らくあの近辺で戦闘が起こっているのだろう

しかしこちらが連続で飛べる時間は十分前後、最悪木を足場にして飛んで向かうという手段も考えなければいけないかな、なんて事を考えながら、飛行速度を速くする

 

◇◇◇

 

目の前で何が起こっているのか、リーファという女の子はイマイチ理解していなかった

否、出来なかったと言ってもいいかもしれない

友人であるレコンというプレイヤーを含めて気心知れた四人を含め合計五人で待ち合わせしシルフ領の北東、中立域のダンジョンで狩りをしていた

幸運にも他のパーティと鉢合わせになることもなく、一通り稼いだところでさぁ帰ろう、という時にサラマンダーの八人パーティに待ち伏せされていたのだ

異種族戦闘なら可能なこのALOで、追い剥ぎ目的で戦闘をけしかけるプレイヤーは少数派だろう

今回の冒険は平日の午後、大人数の襲撃はないだろうと高をくくっていたが、見事に虚をつかれてしまった

逃亡しつつ、二度の空中戦闘で敵味方共に三人ずつ減らし、残ったリーファとレコンは速度で勝るアドバンテージで追撃を振り切り、もう少しでシルフ領に到着する、というところまできていた

しかし相手の追撃はしつこく、今しがたレコンも倒されてしまい、自分も不覚を取って一撃をもらってしまいすぐ下の森の中で木を背中にして自分の獲物を構えていた

数は圧倒的に不利、オマケにもう翅が限界を迎えており、状況も絶望的

それでも金を渡して命乞いするなんて真似だけは絶対にしたくない、だからあと一人だけでも確実に道連れにする覚悟で剣を構えていたら―――唐突に地面に激突して現れた黒い人影

顔面から落ちてきた、ということはきっと彼はスプリガンの初心者プレイヤーなのだろう―――と、最初は思っていた

しかしその後の行動は想像をはるかに超えていた

必殺の一撃を孕んだランスの突進を普通に掴んで放り投げるし、剣を抜いて一歩足を踏み出せば速すぎてリーファの目でも追えないくらいだ

瞬く間にサラマンダー二人を切り倒し、最後に残ったプレイヤー―――カゲムネに対し言った

 

「どうする? アンタも戦う?」

「いや、やめておくよ。もう少しで魔法スキルが900なんだ。デスペナが惜しい」

「正直だな。お姉さんはどうする?」

「―――いいわ、今度はきっちり勝つわよ。サラマンダーの人」

「…君ともタイマンで勝てる気はしないけど」

 

そう言い残しサラマンダーのプレイヤーは翅を広げ飛び立った

残ったのはリーファと、そのスプリガンのプレイヤーだけだ

先程残っていたりメインライトも一分時間が経過して自然に消える

 

「で、私はどうすればいいの? お礼を言えばいいの? 逃げればいいの? それとも―――」

 

ちゃきんと手に持つ剣を男性に向けて構えて憮然と言い放つ

 

「戦う?」

 

少年は剣を背中の鞘に仕舞いながら

 

「…俺的には、騎士が悪漢からお姫様を助けた、みたいな場面なんだけど」

「…?」

「感激した姫様が泣きながら抱きついてくるとか」

「バッ! バッカじゃないの!? なら戦ったほうがマシだわ!」

 

思わず叫ぶ

顔がかぁっと赤くなっていた

 

「はは、冗談冗談」

 

如何にも楽しそうに笑う少年の顔を見ながらギリギリ歯を軋ませる

なんて言い返してやろうと考えていると不意にどこからともなく声が聞こえてきた

 

「そうです! そんなのダメですよ!」

 

女の子の声だ、感じからして幼い感じだ

キョロキョロと見回すが人の姿はない

すると少年が慌てた様子で

 

「あ、こら。出てきちゃダメだって」

 

視線をそちらに向けると彼の胸ポケットから何やら小さい光るものが飛び出して彼の顔の周りを飛び回る

しゃらんという綺麗な音を立てながら

 

「パパにくっついていいのは私とママだけです!」

「ぱ、ぱぱ!?」

 

呆気にとられ変な声が出た

思わず数歩近寄ってよく見てみるとそれは手のひらサイズの妖精だ

 

<あら。随分珍しいわね、プライベートピクシーだなんて>

 

ふとまた別の声がした

落ち着いた女性の声の方へとリーファと少年が視線を向けると、そこには少年と同じスプリガンの男性が浮かんでいる

リーファは彼が誰なのかを知っていた

 

「レイさん! なんでこんなところに!?」

 

リーファの声に答えるようにレイはその場で翅を仕舞いそのまま地面に着地する

ポンポンと服に付いたホコリを払うような動作のあと、彼は言った

 

「シルヴァが戦闘の気配を感じたらしくてさ、来てみたら、二人がいたって話。…それにしてもプライベートピクシーねぇ。プレオープンの催促キャンペで抽選配布されてたみたいだが…」

「あ、私は―――むぐ」

 

何か言いかけたピクシーの顔を少年が覆う

 

「そ、そう! 俺クジ運いいんだ」

「―――へぇ…」

 

明らかに何かワケアリのようだが、それ以降レイは聞こうとしなかった

なんとなく無粋に思えたからだ

 

「そういえば、どうして君こんなところをウロウロしてるのよ。領地はずっと東じゃない」

「み、道に、迷ってさ」

「迷った? …ふふっ、方向音痴にも程があるよ、変すぎ、君」

 

思わず吹き出したリーファは笑みをそのままに刀を鞘に収める

若干しょんぼりぃとしている少年に改めて向かいあって

 

「ともかく礼を言うわ。ありがとう、助けてくれて。私はリーファ。そして、こっちは―――」

「スプリガン、シルフ領で用心棒みたいな事をしているレイだ。んで、こいつは」

 

そう言って彼は左手の甲に付けられているアクセサリを指差し

 

「俺の相棒のシルヴァ。よろしくな」

<シルヴァよ。今後共ヨロシク、なんてね>

「あ、あぁ。俺はキリト、この子は、ユイ…」

 

不意にキリトの視線がレイの甲にあるシルヴァに集中する

それを疑問に思ったリーファが問いかけた

 

「どうしたの? あ、シルヴァさん? 珍しいよね、喋るアクセサリって」

「うえ!? あ、あぁ、そうだな。実は俺も、同じアクセサリを持った知り合いがいてさ」

<…私と同じ?>

「へぇ。シルヴァと似た奴が他にもいるんだ」

 

珍しそうにレイが改めてシルヴァを見やる

静かになったタイミングを見計らってリーファが言った

 

「そだ、君、このあとってどうするの?」

「や、特に予定はないんだけど」

「じゃあこのあとどう? その、奢るよ、一杯くらいなら」

 

するとキリトはにこりと微笑んだ

この世界でそう純粋に笑えるものは中々いない

 

「じゃあ俺もあやかろうかな?」

「レイさんは自分のお金で飲んでくださーい」

「だと思ったよ」

 

そんなやりとりを見て、またふふとキリトが笑んだ

 

「ありがとう、実は探してたんだよ、いろいろ教えてくれる人を、さ」

「? 色々?」

「あぁ。この世界と…あの世界樹ってやつのこと」

「うん、いいよ。こう見えてもアタシ、結構古参なんだから。…あ、場所は…」

「普通にスイルベーンでいいだろう。俺もいるし、いきなり斬りかかってなんか来ないさ」

「…それも、そうですね。じゃあスイルベーンまで飛ぼう、そろそろ賑やかになってくる時間帯だからさ」

 

時刻は午後四時を回ったところだ

リーファとレイは翅を展開し、宙に浮いたところでキリトが首を傾げながら

 

「あれ。二人は補助コントローラーなしで飛べるんだ?」

「うん? あぁ、まぁねっ」

「お前は?」

「少し前にコントローラーの使い方がわかったくらいでさ」

 

そう言って彼はコントローラーを手に出現させ、それを動かす仕草をする

 

<随意飛行は慣れがいるものね、コツをつかめば簡単なんでしょうけど>

「出来る人はすぐできるんだけど…試してみよう、キリトくん、後ろ向いて」

 

そう言ってリーファはキリトの後ろに立って、その背中に触れてみる

その傍らにレイも降り立ち、その様子を見守った

 

「随意飛行って呼ばれてるけど、ホントにイメージだけで飛ぶわけじゃないの。ここから仮想の骨と筋肉が伸びてるって思ってそれを動かすの」

「仮想の…」

 

あやふやな声で繰り返す彼の肩甲骨が小さく動き出す

その動きに反応し、彼の翅が小刻みに動き始めた

 

「いいね、そんな感じだ。思い切って肩や背中の筋肉動かして感覚を掴むんだ」

 

そうレイが言った途端彼の背中が内側に収束する

翅の振動が早くなりひぃぃん、という風を切る音が聞こえた

 

「ぐぬぬ…」

 

彼が唸りながら両腕を引き絞る

十分な推力が生まれたと感じたリーファは彼の背中をドンって押し上げた

 

「うわ!?」

 

瞬間キリトの体はロケットのように真上に吹っ飛び始める

そこから数秒後

地上に残された三人(二人と一匹?)は顔を見合わせて

 

「やば」

「あらら」

「パパー!」

 

三人同時に慌てて飛んで後を追う

その辺をぐるりと見回すと月をバックに飛び回る少年の姿が見えた

 

「と、とめてくれぇぇぇぇぇぇぇ!?」

 

そんな情けない悲鳴に思わずリーファが吹き出した

彼女に釣られ、ユイとレイも同時に吹き出す

宵闇の中に少年の叫び声と三人の笑い声が響いた

 

◇◇◇

 

少年が随意飛行のコツを掴んでからは移動がかなりスムーズになった

少年は初心者にしては大変筋がよく、わずか十分ほどのレクチャーで自在に空を飛べるようになったのだ

初めて自由に空を飛べるようになった時の感動はひとしおだ

また、初心者にしてリーファについていける、という点も素直に評価できるポイントだ

 

マックススピードのリーファについていける人物は未だかつて見たことがなかった

レイもついていけるにはいけるのだが、流石にしんどいのである

最高速度で飛ぶ事数分、目の前に煌びやかな街の光点が姿を現していく

そこはシルフ領の首都、スイルベーンだ

 

「そういやリーファ」

「うん? なんですレイさん」

「お前、キリトにランディングのやり方教えたか?」

「…」

「教えてないなお前」

「…え、何の話?」

 

ちらりと前方を見た

半分以上が巨大な塔である

もう無理だ(無慈悲)

 

「悪いキリト、グッドラックだ」

「…え!?」

 

ようやく意図が理解したキリトは前方を見て青ざめる

リーファとレイの両名は減速し着地体制に入っており、降下を開始していた

 

「そ、そんな馬鹿なぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

そんな絶叫を聞きながら心の中で合唱する

南無

 

 

「…飛行恐怖症になるよ」

 

花壇に座り込んだキリトが恨みがましい顔でつぶやいた

正直教えてなかったこっちが全面的に悪いのでなにも言い返せない

キリトの肩に座ってるピクシーも目を回しており、頭がふらついている

 

「とりあえず、席とってくるよ。リーファ、俺の行きつけの店でいいか?」

「いいんですか? ルーポに行っても」

「あぁ、ログアウトもそこでするといい。マスターには俺から言っとくよ」

「ありがとうございますレイさん! 私あそこのデザート大好きなんですよ」

「マスターにも言っとくよ、じゃキリトが回復したらあんないしてやってくれ」

 

そう言ってレイは一度リーファとキリトの二人に別れを告げルーポまでの道を歩いてく

シルフ領にあるお店、喫茶店ルーポ

イタリアの言葉で幸運を意味するその店がこのスイルベーンにできたのはいつごろだっただろうか

既に鎧を手に入れた頃からあったことは覚えている

何年も前からそこにあったのか、はたまた知らない内にできたのか、そこのところはレイにはわからない

そんなことを考えながらレイは到着したルーポの扉を勢いよく開ける

 

「へいマスター、いるか?」

 

店内には数人のシルフプレイヤーが席に座って談笑を楽しんでいた

この店にいるプレイヤーとは大体が顔なじみであり、レイもその客たちに挨拶を交わしながら移動していく

マスターはカウンターでドリンクを作っており、レイの姿を確認すると軽く手を上げて

 

「レイじゃねぇか。どうした、また甘いの頼みに来たのか」

「それもあるけど、あと少ししたら知り合いが店にくるんだ。席をとっていいかって聞きに来たの」

「そいつは別に構わねぇが、お前さんが客連れてくるなんて珍しいじゃねぇか。誰連れてくんだよ」

「リーファと、スプリガンの男さ、男の方、結構筋がいいぜ?」

 

その話を聞くとマスター〝ガダル〟は「ほう」と頷きながら

 

「お前さんが言うんだ、確かなんだろうな」

「おうともさ。サービスしてあげてくれよ」

「俺は俺次第だな」

 

短い会話のあと、ガダルは再度カクテルを作り出す

この世界で飲んでも酔うことはないのだが、それでも味は現実の酒と変わらない

彼が作る品はどれも美味しいのだ

 

「レイさーん、来ましたよー」

 

少し時間が経ち、扉が開かれた

それに合図するようにレイは手を上げて自分たちの席がどこかを教える

彼女の後ろには周りを物珍しそうに見て回るキリトの姿も見える

 

「ここはあたしが持つから、なんでも自由に頼んでいいよ」

「あ、あぁ。じゃあお言葉に甘えて…」

<けどここで食べ過ぎると、アウトしてから辛いわよ。ちゃんと考えてオーダーしてね>

 

シルヴァの言葉にレイとリーファが頷き合う

どういう原理かは全くわからないのだが、ここで食事をすると満腹中枢が刺激されるのかなんなのか不明だが仮想の満腹感が発生する

カロリー一切心配しないで甘いものが食べ放題なのは女性にとって最大の魅力なのだろうが、それで現実世界の食欲がなくなっては意味がない

実際にこのシステムをダイエットに利用しようとして栄養失調になったり生活全部をゲームに捧げた一人暮らしのプレイヤーが現実の食事を忘れて衰弱死…というのもよくあることだ

 

「…ちょっとマスター、いつになったら常連の好み覚えんの。もっと生クリーム多めでしょ?」

「そんなもんもうホワイトルシアンじゃねぇよ。ソフトクリームでも舐めてろ」

 

レイとガダルがそんなやり取りをしてる中、リーファがババロア、キリトがタルト、ユイがクッキーという無難なところに落ち着き、飲み物に香草ワインを一つ取ることにした

ガダルがオーダーを聞き、数分の後にこちらに運んできてくれる

 

「さて、それじゃあ改めて。助けてくれてありがとう」

 

グラスに注がれたワインをかちんと合わせ、リーファはそれを口に含み嚥下させる

 

「まぁ成り行きだったし…。しかし、凄く好戦的な連中だったな、ああいう集団PKってよくあるのか?」

<元々サラマンダーとシルフ勢力が仲悪いのは確かなのだけれど。領地は隣り合ってるし中立域の狩場ではよく出くわしてるし」

「けどああいった集団でPKにかかってくるようになったのはつい最近だな。恐らく、近いうちに世界樹の攻略を目指してるんだろう」

 

シルヴァとレイの呟きにキリトが反応する

 

「それだ。その世界樹について教えて欲しいんだ」

「そういえば言ってたね。でもなんで?」

「世界樹に行きたいんだよ。一番上に」

 

リーファは少々呆れながら、レイは驚きながら互いに顔を見合わせる

しかし彼の瞳は真剣そのものだ

 

「それは全ALOプレイヤーの夢だよ。世界樹の攻略は」

「っていうか、それがこのゲームのグランドクエストだよね」

「? って言うと?」

「滑空制限があるのは知ってるな? どんな種族でも連続して飛べるのはせいぜい十分、世界樹上にある神殿に到着し、そこにいるオベイロンっていう妖精の王様に謁見した種族はアルフっていう高異種族に生まれ変われ、滑空制限がなくなり無限に空を飛べるようになるってわけ」

「なるほど…」

 

タルトを一口かじりつつ、キリトがレイの言葉に頷く

 

「そいつは確かに魅力的な話だな。上に行く方法はわかってるのか?」

「世界樹の内側。根元のところが大きなドームになっててね、その頂上に入口があってそこから中に上るんだけど、そのドームを守ってるガーディアンが恐ろしい強さなの。今までいろんなプレイヤーが挑んでたけど全部全滅。サラマンダーは今最大勢力だからね、お金貯めて装備とアイテム整えて次こそはって思ってるんじゃないかな」

「…そのガーディアンはそんなに強いのか?」

「考えてもみてよ。オープンから一年経つのにクリアされないクエストなんかあると思う?」

「…それは、確かに」

「一応、去年の秋頃に大手のALO情報サイトが署名集めてレクトにバランス改善要求出したんだけど、お決まりの回答ばっかりで全然よ」

「最初に到達した種族しかクリアできないって触れ込みだから、他種族と協力しちゃ矛盾しちゃうしな」

「…じゃあ、事実上クリアは不可能、なのか?」

「…少なくとも俺はそう思うな。まぁクエなんて他にもたくさんあるし、地道に時間かけて―――」

 

「それじゃ遅すぎるんだ!」

 

不意にキリトが声を荒らげ、レイの言葉を遮った

リーファもびっくりして目線を上げると彼の顔は歯を食いしばった表情をしていた

「パパ…」とクッキーをかじっていたユイが彼の肩に乗り、宥めるように彼の頬に手を添える

 

「…驚かせて、ごめん。だけど、どうしても行かなきゃいかないんだ」

 

真剣な瞳で見られ、リーファは若干照れたのか、隠すようにワインを飲む

その最中、シルヴァが問うた

 

<どうして、そこまで世界樹にこだわるの?>

「…人を探してるんだ」

<人?>

「簡単には説明できない…」

 

キリトはそう言うと少し微笑んだ

深い絶望にも見た、そんなヒトミ

 

「ありがとう二人共。色々助かったよ。最初に会えたのが二人でよかった」

 

立ち上がりかけた彼の腕を、リーファが掴む

 

「ちょ、ちょっと待って。本気で世界樹に行くつもりなの?」

「あぁ、この眼で確かめないと」

「無茶だよ、すごく遠いし、君がいくら強くても―――」

 

そう思ったときには、リーファは言葉を紡いでいた

 

「―――じゃあ、あたしが連れてったげる」

 

キリトの顔が丸くなり、レイもほうけたように口を開けた

 

「で、でも初めて会った人にそこまで世話になるわけには…」

「いいの! もう決めたの!」

 

恥ずかしくなったのか、リーファはぷいと頬を背けた

そんな光景を見て微笑ましくなったのか、不意にレイも言葉を発する

 

「ま、乗りかかった船だしな」

「え?」

「俺もついてくよ。君の世界樹目指し」

「えぇ!? だ、だけど…」

「気にするな。ここまで話聞いて俺だけ知らんぷりなんてできないしな」

<相変わらずお人好しねレイ。だけど私は嫌いじゃないわ>

「さんきゅーシルヴァ」

 

シルヴァと軽く会話をしているとリーファが言った

 

「あの、明日も入れる?」

「う、うん」

「私、もう落ちないとだから。明日三時にここね、あ、ログアウトには…」

 

ちらりとガダルを見やる

 

「おう。上のベッド使っていいぜ。用意しといて正解だったな」

「ありがとうマスター! じゃ、そういうことだから! また明日ね!」

「あ、待って!」

 

不意にキリトが声を上げる

彼の声に目を向けるとキリトは笑みを浮かべながら

 

「ありがとう」

 

リーファに笑顔を浮かべて、そういった

彼女はどうにかして笑顔を浮かべると、そのまま光となって消えていく

リーファはシルフなのでシルフ領内ならどこでも即時ログアウトできるのだ

 

◇◇◇

 

その後、キリトと何気ない短い会話を済ませ、キリトはガダルが案内した二階のベッドへと歩いて行った

ガダルがカウンターに戻ってきたとき、レイは言う

 

「…どう思う。アイツ」

「わからねぇな。まぁ少なくとも、スパイとか器用なこと出来るガキじゃねぇことは間違いねぇ」

「それは話してみてわかる。俺が気になるのはアイツの言ってた探し人の事だ。世界樹の上にそんなのあるなんて聞いてないぜ」

「その話か」

 

ガダルはそう言うとウィンドウを開き、カウンターに五枚の写真データを映し出した

 

「こいつは、どっかの馬鹿どもが体格順に肩車して、世界樹の上に行こうとした時に、撮った写真だ」

「なるほどな、馬鹿だけど頭いいぜそいつは」

「結果は無理だったんだが、その証拠としてそいつらは写真を撮った。んで、その一枚なんだけどよ」

 

ひとつのデータを残し、他のデータを仕舞い、それをレイに見せる

ガダルは一点を指さしながら

 

「ここに鳥かごがあるだろ、そこをよーく見てみな」

「ん? んー…」

 

言われるがままによーく見てみる

目を凝らすと、そこには亜麻色の髪の色をした女性のようななにかが、いる、ような気がする

 

「…偶然ってすごいな」

「気づけたのは俺も偶然さ。こんな変な場所に鳥かごなんて変だろ? 装飾品にしてはアレだし、ちょっとズームしてみたらってやつさ」

「となると、キリトはこの子を助けるために?」

「かもしれねぇな。…んで、お前さんはどうすんのさ」

「―――わかってて聞いてるだろマスター」

「はっ、だよな」

 

レイはホワイトルシアンの入ったグラスを飲み干し、それを置いてウィンドウを開く

 

「またここで落ちる気かよ、見る俺の身にもなれよな」

「信じてるからさ、マスターのこと。じゃあまた明日!」

 

そう言って彼はログアウトのボタンを押し、ログアウトする

シルフでなくスプリガンの彼はシルフ領ではアウトした後も数分間アバターはその場に残り狩りや盗みの対象になってしまうのだ

 

「ったく」

 

苦笑いと共にガダルはカウンターに置かれたグラスを取る

ちらりと見やる、魂の抜けたアバターがそこに座っている

 

「さて、俺は見守るしかできねぇが、どこまで行けるか見せてもらうぜ。〝黒の剣士〟さんよ」

 

小さく呟いたその声は、誰に聞こえるわけでもなく闇に消えていく

 

「ま、絶狼がいりゃあ行けるとこまでは行けると思うがな」




旅、心躍る響きだよな。だが何事にも先立つものがなくちゃ始まらねぇ
え? 先に何を用意すればいいのかって? さぁな、自分が一番必要だと思うもんがいいんじゃないか?

nextZERO 冒険 adventure

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