呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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急ぎすぎな展開
急展開
これにてアインクラッド完結

以上の要素が含まれます

そして最後の方に自作品クロオバ先のキャラがちょびっとだけ出てます
クロオバった理由はもしかしたらそこの技術力ならユウキ(そこまでいくか知らんけど)を救えるのでは、という安直な愚行

そして次回予告で容赦なくネタバレしていくスタイル

まぁ相変わらずのできなのであんまり期待しないでね(切実

ではどうぞ


黒幕 ~せいさくしゃ~

撃破できたとしても、それに歓声を上げるものは誰もいなかった

そんな余裕なんてなかったからだ

みんなその場に座り込み、或いは寝そべって大きな息を吐いたり吸ったりの繰り返しだ

 

ギンガもサチも鎧を解除した途端その場に座り込んだ

肩で大きく息をしながら、周囲を見渡してみる

 

何人死んだのか、数えていない

 

「何人、やられた…?」

 

クラインがしゃがれた声で聞いてくる

彼の横で手足を投げ出して寝ていたエギルも顔だけをこちらに向けてきた

ギンガもキリトへ視線を向けると、彼はマップを呼び出して表示された数を数えている

出発した時の人数から犠牲者の数を逆算してるのだろう

 

「…十四人、死んだ」

「うそだろ…」

 

エギルがそう言った

彼の声色にいつものような張りはなく、ほかの生き残った人たちもまた、暗鬱な空気が流れ込める

ギンガはちらりと、あの男を見てみた

 

ヒースクリフである

当然あのヒースクリフも無傷じゃなかった

あまり減少しない体力バーもかなり減っているのが見て取れて、サチと協力して防いだあの鎌の攻撃を一人で彼は防ぎ切ったのだ

本当なら疲労困憊でぶっ倒れてもおかしくないはずなのに

 

けどあの表情―――どこか、変だと思ったのはギンガだけだろうか

 

ふとキリトに視線を向けると、彼も何かに気づいたのか、一人じわじわと体制を変え、ゆっくりと構え直していた

 

―――いいのか、もし間違ってたらお前は犯罪者だぞ

―――いいんだ。けど、そのときはごめんな

 

視線だけでそんな会話を交わす

 

…キリトくん?

 

声には出さず、唇だけでアスナは彼の名前を呼んだ

しかしその時にはもう彼の足を大地を蹴っていた

まっすぐ一直線に彼は片手剣を突き出す

ソードスキル〝レイジスパイク〟

しかしそこはヒースクリフ、恐るべき反応速度で気づき、その表情を驚愕に染めた

彼は急いで防御しようとするが、かつてのデュエルの時慣れていたのか、途中で軌道を変え、彼のガードをすり抜ける

直撃、寸前彼の刃が見えない壁に阻まれた

 

〝IMMORTAL OBJECT〟

 

システム的不死

なるほど、デュエルの時の超反応はこの表示が見えるのを恐れたからだったのか

 

「き、キリトくん、いきなり…なに、を…」

 

彼の唐突な攻撃に驚いてかけてきたアスナが表示された文字の羅列を見て固まった

この場に居るみんな誰ひとりとして動かなった、否、動けなかった

 

「システム的、不死、って…どういうこと、ですか? ヒースクリフ、さん…」

 

戸惑いを隠せないアスナの代わりに、サチが問うた

最も、同じように戸惑っていることに、変わりはないのだが

なにも言わないヒースクリフに変わって、キリトが言い放つ

 

「これが伝説の正体だ。この男は何があってもイエローまで体力が落ちないように、システムに守られていたんだ。不死なんて属性、NPCでなければ所持してるやつなんてひとりしかいない。…そうだろう、―――〝茅場晶彦〟」

 

完全に辺りが凍りつく

ヒースクリフは変わらない無表情のママだ

キリトの隣でゆっくりとアスナが前に出る

彼女は虚無でも見てるかのような、そんな表情をしている

 

「…本当、なんですか?」

 

ヒースクリフは答えなかった

ふぅ、と小さく首を傾げてキリトに向かって言葉を発する

 

「どうして気づいたのか、参考に教えてくれるかな」

「最初におかしいって思ったのは、デュエルの時だよ。最後の一瞬だけ、アンタ速すぎた」

「やはりあれか。君の動きに気圧されてついシステムのオーバーアシストを使ってしまったよ」

 

ヒースクリフはゆっくり頷いて、そこで初めての表情を見せる

わずかな、苦笑いだ

 

「如何にも。私が茅場晶彦だ。本来なら九十五層でその正体を明かし、最上階にて待つはずだった、このゲームのラストボスでもある」

<やれやれ。趣味が悪いな。聖騎士が魔王だとはな>

 

静寂の中、ザルバが答える

 

「悪くないシナリオだとは思ったのだが。まさか四分の三あたりで看破されるとはな。キリトくんや、君たちがこの世界最大の不確定因子だとは思っていたが」

 

茅場晶彦とヒースクリフ

現実は全く違うその風貌だが、纏っている雰囲気はチュートリアルにて現れたあの巨大な外套の男を彷彿とさせている

 

「最終的に私の前に立つのは、キリトくんか、牙狼を手に入れたギンガくんだと思っていたよ。全十種類のユニークスキルの一つ、〝二刀流〟は全てのプレイヤーの中で最も反応速度の持つものに与えられる。黄金の鎧は、あのダンジョンをくぐり抜ける意志力、とでも言ったほうがいいか。とにかく、君たちには驚かされてばかりだよ。特にサチくんの奮闘はとても素晴らしいものだ。まさか君が、その鎧を手に入れるなんてね。この想定外の出来事も含めて、ネットRPGの醍醐味、というべきかな」

 

 

「―――なんでや!」

 

 

不意にここまでワナワナと震えていたキバオウが叫んだ

その表情には、どこか煮え切らない感情が渦巻いているような、そんな表情

 

「なんでや! なんでこないなことしおったんや! ワイらはこのゲームで遊べたらよかったんや…! なのに、なのに…! 今まで…何人…!」

 

言葉にならない感情がいろいろ押し寄せてきているのか、言葉が続くことはなかった

しかしヒースクリフはその言葉に返答をしなかった

どこか達観したような目つきで、キバオウを見据えているだけだ

 

「―――そのすまし顔がっ、気に食わんのやぁぁぁぁぁ!!」

 

ついに怒りが限界に達したのか、片手剣を抜き放ち一気にキバオウが駆け出した

瞬時に間合いを詰めて横一文字にその剣を振り抜くが―――彼に届くことはなく、不死の壁に阻まれる

そこでヒースクリフの表情は小さい笑みを浮かべたものになり

 

「君の健闘もまた、素晴らしいものだったよ」

 

そう短く褒めたあと、彼は〝左手〟を振ってウィンドウを出現させ、それを操作する

不意にキバオウの体がその場に停止し、からんと持っていた片手剣が地面に落ちた

体力の横に覚えのあるマークがある

麻痺だ

 

彼はそのまま操作を続けていく

 

「あっ…?」

 

その声色はアスナのものだ

ふと見ると彼女も地面に膝をつき、体をかき抱いていた

いや、アスナだけではない、気が付けばキリトと茅場、そしてギンガとサチ以外のメンバーが全て麻痺状態へとなっていたのだ

 

「…なんで俺とサチは麻痺にならない」

「ならないのではない。できないのさ、鎧を入手した者は、そのメリットとして、全ての状態異常の無効化と、一部システムに干渉できるようになるんだ。無論、後者は纏っている間だけなのだがね」

 

まるで紅茶でも飲むかのような優雅さで彼は告げる

そうだったのか、確かに入手していこう、バフ、デバフ問わず状態異常アイコンを見ていない

サチが脱出できたのもその干渉のおかげなのだろうか

 

「だから、代わりに移動の制限をかけよう」

 

そう言ってギンガとサチの周りが一瞬光った

ふと手をやるとそこには見えない壁が生まれており、自分たちを囲むように壁が出来ていた

なるほど、これならこっちは手が出せない

鎧は先程使っているし、この壁だって壊せない

ヒースクリフは言葉を発する

 

「さて。キリトくんには私の正体を見破った報酬を与えなくてはね。一つ、ここで私と一対一で戦う権利をあげよう。君が勝てばその時点でゲームクリア、プレイヤーの開放を約束する」

「! だ、ダメよ、キリトくん…! あなたを排除する気だわ…!」

 

十中八九そうだろう

相手は製作者、どう転がろうと思い通りにできる可能性があるのだ

 

「キリト、ダメだよ…! アスナの言うとおり君を殺す気だよ、ここは一旦退いて―――」

「わかった。決着をつけよう」

「キリトくん…!」

 

アスナが悲痛な声を漏らす

どうあってもキリトがもう首を横に振ってこの戦いを拒否することはないだろう

だから精一杯、自分にできる最低限の言葉をかけよう

 

「…生きて帰れよ」

「…それしか、ないのかな…」

 

見えない壁に手をやりながらサチは煮え切らない顔をした

こちらからは手が出せない、見ているだけとはこうも辛い状況だったとは

 

「やめろ、キリトっ!」

「キリトォ!」

 

声の方を見る

そこには必死に体を動かそうともがいているエギルとクラインの二人の姿があった

その近くには、聖龍連合のディアベルとキバオウの二人も

 

「エギル。…知ってたぜ、お前が儲けた金額、全部中層のプレイヤーの育成につぎ込んでたことさ」

 

目を見開いた巨漢の男に短く礼をしてから、もう一歩キリトは足を踏み出した

今度はバンダナのカタナ使い―――クラインに向かって

 

「クライン。…あの時。―――あの時お前を置いていって悪かった。ずっと、後悔してた」

 

掠れた声色でキリトはそう言った

過去に何があったのか、ギンガもサチもしらない

しかしその短い言葉をつぶやくだけのことに、かなりの時間を有したということは、彼にとって一番大事だったということだ

 

その言葉を聞いたとき、クラインは両目から大粒の涙を流し出す

出会いに何かしらあったのだろう、そしてそれは、とても大切な、けれども些細な出来事で

 

「ばっ! バカ野郎キリト! いま、今謝んじゃねぇ! ちゃんと現実世界で飯の一つでも奢ってからじゃねぇと、絶対に許さねぇからな!」

 

喚き、泣く彼の言葉にキリトは

 

「わかった。約束するよ。次は向こうでな」

 

右手を持ち上げて、サムズアップする

 

「待つんだ、キリトくん! ここは大人しく退くべきだ! 今戦っても!」

「せや! 気持ちはわからんでもない、けど今あんさんが死んだら!」

 

聞こえてきた別の声

それはディアベルとキバオウの声だ

 

「ディアベル…アンタはきっといいリーダーになれる。聖龍連合がその証拠さ。だから、その明るさを無くさないでくれよ」

「なっ! え、縁起でもないことを言うな!」

 

叫ぶディアベルに対して、キリトはただ笑みを見せるだけだ

次にキバオウに向かって

 

「キバオウ。ホントはあの時、俺もベータテスターって事を告白しておくべきだった。今更かも知れないけど、っごめんな」

「―――今、今! 謝られても嬉しないわ! しっかり生き残って、詫び入れさせんかいダァホォ!」

 

ついに彼も両目に涙を浮かべ慟哭する

最後に彼は横たわり泣き笑いの表情を浮かべている己の(アスナ)に向かって微笑みをしたあと、改めてヒースクリフに向き直る

 

「悪いが、一つ頼みがある」

「何かな?」

「無論負けるつもりなんてない。けど、俺が負けたら、しばらくの間、アスナを自殺できないように計らってほしい」

「―――よかろう。彼女はセルムブルグから出られないように設定しておくよ」

「―――キリトくん、ダメだよ! そんな…そんなのって…!」

 

キリトの後ろでアスナが涙混じりの絶叫を上げる

その光景を眺めているしかできない自分が恨めしかった

ヒースクリフがウィンドウを表示させ、何かを操作する

するとキリトとヒースクリフの体力が同じ量になるまでに調節された

どちらも一撃で死亡する量である

そして奴の頭上に己の不死属性を解除したという英語の表記が表示された

彼はそこでウィンドウを消すと長剣を構え、身を十字盾の後ろに隠す

同じようにキリトも己の相棒である二つの剣を構え、臨戦態勢に入った

 

「…どっちが勝つ、かな」

「―――わからないな。相手はゲームの製作者。どんな手を使ってくるとも限らない」

<いいや、アイツはそんなことしないだろう。その気になれば、アイツはこの場にいる奴ら全員を殺害し、隠蔽だってできたはずだ。アイツにもアイツなりのプライドでもあるのだろう>

<己が持つ、神聖剣の能力だけで勝とうとするだろうな>

 

ザルバとゴルバの声に、キリトとサチは押し黙る

それがあの男―――茅場晶彦か

見つめる二人の間で緊張感のような空気が高まっていく

キリトが言った

 

「―――お前を―――殺すッ…!」

 

その言葉とともに、キリトは地面を蹴った

 

◇◇◇

 

そこからの激闘は熾烈を極めた

かなりの速度を誇ったキリトの剣戟を全てヒースクリフは防ぎきり、その時間は何十分、果ては何時間かと錯覚を覚えるほどだ

不意に、サチが口にする

 

「…どうして、キリトはソードスキルを使わないんだろ」

「使わないんじゃない。使えないんだよ、スキルを」

「え?」

「考えても見ろ。相手はこのゲームの製作者…いわば原作者みたいなもんだ。どのスキルがどの角度でどんな速度で来るか、アイツは全部知ってる。迂闊にスキルなんて使ったら使用直後の硬直を狙われて、アウトだ」

 

ガンガンと攻撃を防がれ続けて、もう何分経ったのだろうか

 

「う、ぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 

不意にキリトが叫びとともに、〝刀身を光らせる〟

それはソードスキルを発動させる合図でもあり、そして―――

 

「ダメだキリト、それは―――!!」

 

ギンガの叫びを虚しく響き、キリトはひとつのソードスキルを発動させる

発動させてしまう

ヒースクリフの表情がそこで初めて変わった

己の勝ちを確信する、その笑みを、自分の口元に浮かべたのだ

あとはもはや流れ作業

ヒースクリフはシステムの通りに繰り出される攻撃を防ぎ、彼の硬直を待ち、その時間に合わせて切りつけるだけだ

 

「さらばだ」

 

容易く防ぎ、彼は言う

あとはもうキリトがヒースクリフの剣に斬られるのを、ただ眺めているだけ―――そうだと思った

だが実際は違った

その間にひとり、誰かが割り込んだのだ

 

その誰かとは、アスナである

 

サチと揃ってギンガは目を見開いた

どういうことだ、彼女は解除不能な麻痺になっていたはずである

驚く二人を尻目にこの間にもキリトをかばってヒースクリフの一撃を受けた彼女の体力バーはぐんぐん減っていき―――ゼロとなった

 

そのままとさりとアスナはキリトの腕に倒れこむ

彼女の体がどうなっているのか、それはキリトにしかわからないだろう

 

「うそ、だろ…アスナ…こんな…!」

 

聞こえるのはうわごとのようなキリトの声だけ

消えゆく彼女が何を思っているのか、彼にしかわからない

やがて、永劫とも思える時の中で―――アスナが結晶となって消え去った

 

 

「驚いた。麻痺から回復する手段はなかったはずだが…こんなことも起きるのだな」

 

簡単すぎた

呆気なさ過ぎた

命というのは、こうも呆気ないものなのか

…いいや、いつもこんなものだった

 

そうこうしていると感情のない動きでキリトがヒースクリフに攻撃を再開した

しかしそれは攻撃というにはあまりに不格好で、ヒースクリフは哀れむ顔で難なく剣を弾き、無慈悲に彼に剣を突き立てる

 

希望が潰えた―――そう思った瞬間のできごとだ

 

彼は諦めなかった

体力がゼロになり、体が消えそうな絶望的な状況の中でも彼は行動を止めなかった

アスナが残した細剣―――ランベントライトを掴みそれをヒースクリフへと突き立てた

表情からわかるのは、その表情は穏やかな笑みがあったことだけで、ほかのことはわからない

結果だけを見るならば、相討ち

 

そんな光景を、ただ、見ていた

何秒、何分の時間が過ぎ去ったことだろう

やがて耳には、無機質な声が響いてくる

 

―――ゲームはクリアされました―――ゲームはクリアされました―――

 

そんな声がずっと響いていた

 

◇◇◇

 

妙な夕焼けの場所に気がついたら立っていた

足元は分厚い水晶の板で、その床の下には赤い空が悠々と流れている

…どこだここ

まだゲーム内にいるのだろうか、っていうかほかのプレイヤーは無事なのか?

 

「ギンガ」

 

不意に声が聞こえる

その声の方に振り向くと同じように戸惑った様子のサチがこちらに向かって歩いてきていた

 

「サチ、いつここに」

「わかんない。気づいたらここにいて…ギンガも?」

 

サチの問いかけにうんと頷く

試しにウィンドウを開いてみるとそこには最終フェイズ実行中という文字列が並び、その横に数字が並んでいるだけで、その数字は時間経過で増えている

…意味がわからない

 

ふと視線を動かしてみる

思わず「おぉ」と変な声が出た

釣られてサチも視線を追って、わぁ…と同じような声を上げた

 

アインクラッド

自分たちが二年間戦った浮遊城が下からボロボロとこぼれ落ちている

不謹慎ではあるが、その光景を綺麗だと思っていた自分がいた

 

「やぁ」

 

不意の傍らからの声

声の方に視線を向けると、そこには一人の男が立っていた

名を茅場晶彦

白衣をまとったその姿は聖騎士ではなく、開発者としての本来の姿だ

 

「…あれはどんな表現だ」

「比喩的表現、とでも言えばいいのかな。安心してくれていい、先程生き残っているプレイヤーのログアウトは完了している」

 

それを聞いて安心した

二年という激動を生き延びた人たちはみんな生存できたのだ

そしてもう一つ、聞いておかねばならない事がある

 

「―――キリトとアスナはどうなった」

「心配には及ばない。彼彼女も、ログアウトしている頃だよ。先程この空間に呼んで、軽く喋っていたからね」

「二人もここに来てたの!?」

「あぁ。二人共無事だよ、安心していい」

 

茅場のその言葉を聞くと、心から安堵したようにサチがその場にくずおれて

 

「…よかったぁ…! ―――本当に、よかったよぉ…!」

 

目尻に涙を浮かべ、彼女は友人の生存を心から喜んでいる

そんなサチの頭を撫でながら、ふと頭の中にとある疑問が思い浮かんでくる

恐らく全プレイヤーが思っていたことではあるのだが―――

ギンガはそれを聞こうという気はしなかった

何故ならば―――聞いたところで、理解など出来そうにないからだ

 

「先程、キリト君たちにも言ったのだが、君らにも言っておこう。ゲームクリア、おめでとう」

「クリアしたのはキリトとアスナだ。俺たちがその言葉を耳にする権利はない、と思うけど」

「私の気持ちだよ。気にしないで構わない」

 

そういう彼の顔は、どこか穏やかで、静かだった

そのまま彼はゆっくりと歩きながら呟いた

 

「では、私は行くよ」

 

その言葉を最後に、風にかき消されるように消えていく

彼がどこに行くかは誰にもわからない

―――いつのまにかふたりっきりだった

 

「…お別れかな」

「それは違うよギンガ。これはお別れじゃない。そりゃあここではお別れになっちゃうけど…現実世界で必ず逢えるもん。ううん、逢いにいく」

<―――すっかり前向きになったなサチ。会った頃とは別人のようだ>

「…ありがとう、ザルバ。ゴルバもありがとう」

<気にすることはない。契約者を見守るのは当然のこと>

 

そう声をサチがかけてハッとする

そういえば、ザルバたちとはここでお別れなのか

それは少し―――寂しいな

 

<あぁ、そこのところは気にするなギンガ>

 

不意にギンガの心情を察したのか、ザルバがそんなことを言ってきた

 

<俺たちは一心同体―――いつでも一緒さ。だから、すぐ会える>

 

その言葉はとても作られたものとは思えないくらいに、短い言葉だった

励ましかはわからないが、本人が言うんだ―――なら、また会えるのだろう

 

「ねぇギンガ。最後に名前を交換しようよ。ネームじゃない、本名を」

「本名…か。あぁ、いいよ」

「じゃあ言いだしっぺとして私が先に。―――私は〝早見(はやみ)幸衣(ゆきえ)〟。あ、名前は幸せに衣って書いて、ゆきえ、ね?。まぁ知ってのとおり、みんなからは名前の幸の部分の、サチって呼ばれてるけど」

「…ぶっ飛んだ呼ばれ方だな。ま、俺は名前の方も嫌いじゃないけど」

「呼ばれた理由がなんか幸薄そうだから、だよ? ひどい話だよね、ホントに。…じゃあ、今度はギンガの番」

「俺の名前、か。…俺は大河。…白銀大河。白い銀に、大きな河って書いて、シロガネタイガ」

「なるほど、だからギンガなんだ。 かっこいいね、ギンガの名前」

 

そう言ってサチは―――幸衣はこちらに向かって微笑みを浮かべた

周りからは幸薄そうとか言われたからサチとかって言われてるらしいのだが、ギンガはそうは思わない

少なくとも、自分には幸運を振りまいてくれている気がするから

 

「ギンガ」

「うん?」

 

その言葉のあと、彼女はうーんと押し黙る

何かあっただろうか、と問いかける前に彼女は一つ問うた

 

「覚えてる? ゲームクリアした時に、言いたいことがあるって」

「あ、あぁ。覚えてるけど」

 

それだけ聞くと、もう一度彼女は押し黙った

しかし今度はスーハーと深呼吸をしている様子でもあった

いったいどうしたのだろう

 

「ギンガ」

「? どうした」

「―――大好き」

 

唐突に聞こえたそんな声色

どきりと胸が疼いたが、その言葉に返せる言葉をパッと思いつくことは出来なかった

戸惑う彼を見てふふふ、と笑みがこぼれたあとに、彼女が言う

 

「―――現実世界でも、一緒にいようね。大河―――」

「―――あぁ、それは、約束する―――」

 

最後に交わしたのは、そんな言葉だった

 

◇◇◇

 

とある病院の、とある部屋、にて

その医者はペラペラ紙に印刷されている運ばれてきた患者の容態をチェックしている

身体はゲル状の特殊ベッドに寝させてあるし、点滴の用意も万全だ

ただ一つ悔しいのは、彼らを治すことができないことである

なんどかギアが音を立て、使用者の命を断つところを目撃したが―――歯がゆい気持ちになる

 

「―――先生!」

「浅上くん? どうかしたのかな?」

「昏睡していたゲームの患者たちに意識が次々と戻っています! 詳しいお話は、歩きながら!」

「―――わかった、すぐに行こう。ただ患者を扱うときはデリケートに、ね? なんせ二年も寝たまんまだったのだから」

 

浅上と呼ばれたナースの後ろを追いかけるように、カエル顔のような医者は歩き出す

 

この日を境に、二年間人々を驚嘆させた、SAO事件は、終局を迎えることとなる―――




誰だって羽根を広げて大空自由に飛び回りたいって思っただろ?
けど最近俺はそうは思わねぇ、何でって? 地上から見上げる青空も、なかなかオツなもんだぜ?
あ? ところで俺は誰かだと? さぁな、そいつは自分で確かめな!

nextZERO  妖精 ALfheim 

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