呼ばるる異名は黄金騎士   作:桐生 乱桐(アジフライ)

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アインクラッド
邂逅 ~はじまり~


ソードアートオンラインというデスゲームが始まってはや二週間

その二週間で、おおよそ一千人の命が失われた

失われて、しまった

 

クリアするまで脱出は不可能

期待を膨らませて起動させたそのゲームは、一瞬にてデスゲームへと姿を変えたのだ

 

今道を歩いている青年も、その被害者の一人だ

男はそこそこなゲーマーであった、が、しかし廃人というレベルでもない

この〝ソードアートオンライン〟も、興味を持ったから、ネット注文して偶然入手できたに過ぎないものだ

大手の通販サイトのどこもが、初回入荷分が軒並み数分で完売したというのだから、その人気は計り知れない

その中で入手できたというのだから、青年は幸運とも言えるだろう

同時に、不運でもあったのだ

でなければ、こんなデスゲームに巻き込まれる必要もなかったのに

 

青年の行先に宛はない

適当にクエストをこなし、ゲーム内通貨を稼いで、その場しのぎの毎日を過ごす日々

このゲームに囚われる前は剣道なんかを嗜んでいたが、今となっては無意味に等しい

時折、狂乱した野党まがいの連中に襲われることもあった

無論、ゲームの中とはいえ死にたくはないので、抵抗し、返り討ちにした

 

ふと、目の前にダンジョンの入口であろう洞穴が見えてきた

青年はここを探しに道を歩いてきたのだ

風の噂に、妙なダンジョンがある…そんな噂を聞いた青年は興味本位でこのダンジョンを求め探したのだ

その近くに妙な看板も一つ

書かれているのは〝一撃〟という変な文字列だけ

その言葉に少し疑問を抱いたが、青年はおどろおどろしい雰囲気を醸し出すそのダンジョンに足を踏み入れた

足を踏み入れたとき、不意に妙な違和感が体を襲った

何かにスキャンされたような、そんな感覚

そのときは特に気にもせず、改めて足を進めていく

別に死に場所を探していたのではない

抗った結果死んだのなら、それでいいかとも思っていたからだ

死ぬ、というのはある種の逃げ、とも青年は考えている

だから、基本死にたくはないなぁ、なんてことを考えながら青年は道を歩く

ダンジョンというのは基本的に入り組んでいるものと思うのだが、どういうことかこのダンジョン、一本道でしかないのだ

このダンジョンはどういう作りなのだろうか、と思っていると目の前に敵がドロップする

人型の、剣を持ったヒューマンタイプのモンスターだ

敵はこちらを視認すると剣を振りかぶり攻撃してくる

しかしその攻撃は大ぶりで、避けやすい攻撃たった

その一撃をするりと回避し、ガラ空きの脇腹にその持っている剣での一撃をいれる

刹那、一撃を打ち込んだ敵モンスターが消し飛んだ

まさか、と思った

これまでどんな敵でも一撃では倒せるものはなかったはずだ

 

そんなに自分が強くなった? いや、そこまでレベル上げには勤しんではいないし、装備も最低限変えるもので一番高いものではあるが、そんなものである

第一層であるこの場所で手に入れられるものなんてタカが知れてる

どうして一撃で倒せたのだろうか

そのときはそんな疑問を深く考えるまでもなく足を進めた

考え始めたのは、三体目を倒したときだった

頭に宿る〝嫌な予感〟に応えるように敵の攻撃を避け、こちらの攻撃を当てていくスタンスを続けていく

三体目も一撃だった…一撃で倒せる

そこでふと、看板に書かれてあった言葉を思い出す

 

〝一撃〟

 

「…敵は一撃で倒せる、って事なのか」

 

仮にそうだとしたらどんなに楽になるか

しかしそこでいやいや、と首を振る

確かにこっちの攻撃一発で敵を倒せる…しかしそれはこっちからの攻撃を与えた場合だ

なら、こっちが相手の攻撃を喰らったらどうなる?

こっちが一撃でやられないのなら理想なのかもしれないが、その保証はどこにもない

 

一撃で相手を倒せる代わり、こちらも一撃で仕留められるのではないか?

 

思えば一番最初に足を踏み入れたときスキャンされたのはこのダンジョンの仕様に最適化されたのではないか?

そう考えると唐突に鳥肌が立ち始める

しかし、ここまで来て引き返すのもシャクだ

拳を握り締めて、先へ進むことになる

そう考えると今装備している盾なんて不必要だ、ガードすれば確かに防げるかもしれないが、その硬直も確かな隙だし、ソードスキルなど以ての外

確実に、相手の動きを見極め、全神経を集中させて戦うことを余儀なくされているのだ

 

もしこれがデスゲームでなければ、〝死んで覚える〟などという強引な攻略もできただろう

だがこれは、死んでしまえばそこで終わりのデスゲーム、そんな攻略などできない、できるはずがない

自然と手に力が入る

振り返ることはなかった

 

 

そこからの戦いは、本当にキモが冷える戦いとなった

四人目、五人目と続くたびに当然ながら、一人目とは反応速度がまるで違う

傍から見れば、必死すぎて気味悪かっただろう

だから―――最奥に到着することには地面に膝を付いて思いっきり肩で息をしていた

ゲームの世界では全く疲れることなどないくせに、ぜぇはぁと本気で息を吐いたり吸ったりしている

 

生き、残れた?

 

未だに実感がわかない、本当にここまで来たのか?

あたりを見回す、壁や天井とかは変わりはない、青年の目の前にあるのは仰々しい黄金の鎧と、地面に突き刺さっているひとふりの剣、そして手前にある、ドクロのような指輪が設置された奇妙な台座…

同時に、目の前の黄金の鎧に、青年は目を奪われた

ずっと薄暗い道筋に現れた、一筋の光

その夥しい輝きは、まるで雲ひとつない晴れた夜に輝く満月の様にこの場所を照らしていた

 

<―――ほぉ。ここまで来た奴がいたのか>

「!?」

 

不意にそんな声が聞こえた

どこから声が聞こえた? 今ここにいるのは自分ひとりのはずだ

発生源は探すべく、キョロキョロと辺りを見回す

しかしそれっぽいのは見つけられることはできなかった

 

<どこを見ている小僧。ここだここ>

「こ、ここ、だと!?」

 

もう一度言われ改めて発生源を探す

不意にそのドクロのような指輪のある、奇妙な台座に目がいった

 

<やっと気がついたか小僧>

「お、お前が、喋ってるのか」

<それ以外に誰がいる。そうだ、お前に語りかけているのは俺だ>

 

ようやく視認した

目の前の奇妙な指輪が喋ったとき、かちかちと音が鳴る

金属の音だ

 

<よくここまでたどり着いたな。お前は得る資格を得た>

「…資格…?」

<あぁ、この鎧を得る資格をな>

 

そうドクロに言われ、青年は佇んでいる黄金の鎧を見やる

 

<正直たどり着けるとは思わなかった。おまえ、相当な反射神経だな?>

「まぁ、必死だったから…」

<生への渇望は、人間として当たり前の事。生きたいと願った結果さ>

 

不意にドクロの言葉が耳に残る

設定されたAIのはずなのに、なんか妙に言ってる言葉が人間臭いような気がする

…本当に、AIなのか?

 

<ここのダンジョンの作りは、互が一撃で死ぬ設計だからな。甘く見ているとすぐにゲームオーバーだ。よく生き抜いた、まずは見事と言ってやろう>

「あ、ありがとよ…」

<さぁ、お前はどうする?>

「どうする、って…」

<さっきも言ったが、お前はこの鎧を手に入れる資格を得た。だが受け取らないのもまた自由だ。…さぁ、どうする?>

 

ドクロの言葉を聞きながら黄金の鎧をもう一度見る

…この鎧を得られたら、きっとこの先楽になる

しかしこの神々しい黄金を自分は背負えるのだろうか

一つ、青年はドクロに問うた

 

「…この鎧を纏えば、誰かを助けることができるかな」

<知らんな。それはお前次第だ、救うこともできれば、救えないこともある。この鎧を得たからといって、心までが強くなるわけじゃないからな>

「…そりゃ、そうか」

 

ドクロの問いにこ短く答え、青年は立ち上がる

このまま踵を返して立ち去るだろう

ドクロは思った、が青年はその考えとは違う行動を起こす

青年は真っ直ぐこちらに向けて歩いてきたのだ

 

「…いいさ、もらおうじゃないか、その鎧」

<ほぉ? 思い切ったな>

「安っぽい正義感かも知れない、いや、実際そうなんだろう。けど、俺はこれ以上誰かが死ぬのを見たくない。守るために、この鎧を使わせてもらう!」

<―――はっ! いいだろう小僧! 名はなんだ?>

 

ドクロにそう問われ、青年は一瞬押し黙る

しかし次は迷いなく己の名を言った

 

「―――白銀大河、ネームはギンガだ!」

<別にプレイヤーネームだけでよかったのだが。まぁいい、小僧! お前をこの鎧の装着者として認めよう! さぁ、剣を抜け!>

 

促されるままに、青年―――ギンガは突き刺さっている剣の柄へと手を伸ばす

そして己の持っている力の限りで引き抜こうと柄を持つ手に力を込めた

時間にして、おおよそ数十秒…その剣は勢いよく引き抜かれ、同時に鎮座していた黄金の鎧が弾けとんだ

弾けとんだその鎧は数秒間だけギンガの周りを飛び交い―――ギンガが剣を振るったと同時、彼の体に装着される

薄暗い闇の中、白い双眸がどこかを見ていた

 

<自己紹介が遅れたな>

 

ふとドクロの声が聞こえた

しかしそれは座されていた台座からではなく、己の左手あたりから聞こえてきた

よく見ると、自身の左手にそのドクロがあるのが見える

鎧を纏ったとき一緒についたのだろうか

 

<俺様はザルバ。よろしく頼むぜ、ギンガ>

「―――あぁ、よろしくお願いするよ、ザルバ」

 

言葉を交わし、鎧が外れる

上空の方へ飛んでいったが、どこにいったのだろうか

 

<安心しろ、あとはもう、お前の自由意思で鎧を纏える。制限時間があるがな>

「そうか…だが、詳しい話は後でしよう」

 

ザルバにそう伝えると、ギンガは先ほど来た道を戻っていく…

 

 

―――これは、いつしか黄金騎士と呼ばれる、一人の男の物語―――


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