降り注ぐ閃光。
爆裂する大魔力。
夢と魔法の相乗によって、地形と空間が歪み世界がひび割れていくほど。
魔法と夢の応酬。それこそがヴォルデモートとダンブルドアの話し合いだ。
「トムよ、お主は一体、何をするというのじゃ」
「愚問だな、ダンブルドア」
「ならば止めるほかない」
言葉と共に千の魔法が紡がれる。アルバス・ダンブルドアの背後に浮かびあがる砕けた月の欠片はその姿を万の兵士に変えている。
殺到する兵団。彼が杖を振るえば、軍団はまるで生き物のようにダンブルドアを頭とした一個の生命体としてその一撃を繰り出していく。
その数三万。その重さ、単純な足し算とはなりえない。そこにあるのは非常なまでの乗算だ。全てを圧殺する莫大な意思がそこにはある。
超常の魔法。ありえざる範囲にまでダンブルドアの手は届いている。その規模、世界の半分。その全てを己の領域としながら、極一点にその威力を集中させている。
そして、今も目の前の敵を倒さんと天候を変えるほどの魔力を練り上げている。
彼こそ今世紀最大にして最高の魔法使い。最強。その名こそが真実。
阿頼耶の海にて誰もがそう願っている。そう思っている。
偉大なる人。ゆえに、その力は現実を超えて、全盛期すら超えて最強。
それに対するヴォルデモートは当然ながら苦しむことになる。世界の半分が相手の領域ならばその半分はどうか。ヴォルデモートの領域か?
答えは否だ。彼の支持者などそこに転がっている死喰い人だけに過ぎない。
狭いイギリスの中のほんの一握り。ただそれだけが彼の支持者なのだ。
夢の対決。とりわけ、ここまで高度な夢の対決になると個人だけの優劣では勝敗が付かなくなってくる。
なにせ、ダンブルドアとヴォルデモートの夢は互いに賛同者を募ることによってその力を増すという類のもの。
いうなれば選挙という奴だ。
賛同者が多ければ多いほど力が増していく。そして、現状世界の半分はダンブルドアへと傾いている。
それも当然だった。
ダンブルドアの夢は単純も明快。ヴォルデモートを倒すというもの。それに賛同するのであれば、ダンブルドアに力は力を増していく。
ただ一人を倒すという為だけに紡がれる夢。効果は単純で協力強制の難易度も低い。
それはヴォルデモートの所業もある。彼がかつて犯した罪の数々。その爪痕は今も色濃く残っている。その恐怖は今も残っている。遍く三千世界にヴォルデモートの悪行は伝わっているのだ。
ゆえに、ダンブルドアの賛同者は夢の力が範囲を広げる度に加速度的に増えていく。それと共にダンブルドアの力は増していく。
では増え続けるダンブルドアの賛同者と比べてヴォルデモートはどうかと言われれば賛同者は一向に増えない。
彼の思想の骨子にあるものは、未来を見たことによって変動している。
自分の望む通りの夢を見るが良いさと語ったのあの声のままに、見たいものを見ていた。
だが、その結果、ヴォルデモートが直面したのはどうしようもない絶望であったのだ。
純血主義による魔法界の滅び。ヴォルデモートを滅ぼさんと数多くの者が団結し、その尽くを打ち破ったあとに残ったのは、何もない荒野だった。
不完全な■■■では、完成していない■■■では真に望むままを描くことはできない。夢ではあるが、■■■が漂う阿頼耶の影響を深く受ける。
つまるところそれは歴史シミュレーションだった。ただ設定がヴォルデモートが望む通りの設定になるだけ。初期設定だけ整えた歴史シミュレーションの全ては魔法界の消滅、魔法族の終焉で幕を閉じる。
何度やり直しても、何度条件を変えても。
ヴォルデモートが望む、魔法族だけの完璧な魔法界というものは成立しない。必ず滅び消える。
その様相は様々なだ。ヴォルデモート本人による自滅。
近親婚による遺伝子異常による魔法族の限界による自然絶滅。
他にも多くの破滅があった。
試行回数が数万を超えた時、ヴォルデモートはついに悟ったのだ。
スリザリンの思想では、魔法界は潰える。純血主義の限界をヴォルデモートは悟った。
ヴォルデモートは嫌でも悟ったのだ。己の間違いを。
そして、己の身に宿る病に救いを見出した。
病があることによる苦しみ。それに抗うことによって磨かれていく才能と生の輝きを。
苦しみこそが人を輝かせる。病こそが、人に気づきを与える。だからヴォルデモートは誰も彼もを病にしようとしている。
ゆえに自分は、病になりたいもの、病を尊重する者たちの憧憬を――。
「――いや違う。そうか。そうではない。俺様は――」
その瞬間、ヴォルデモートの支持者が膨れ上がる。
「なんと」
「そうだ、違う違う違う。憧憬ではないのだ」
起きたのは夢の反転。
結果は見ての通り莫大な支持者が生まれた。
この身は闇の帝王。憧憬を得られる存在であるはずがない。
受けるべきは反支持。
「そうだ、気がつけ」
人間はどうしても比べるものがなくてはその値打ちがわからない生き物だ。
健康な時は身体の存在を忘れるほど、外に意識を向けることができる。
それだけに健康の有り難さも忘れてしまう。しかして病気の味を知らなければ健康の味はわからない。
ゆえに病を与える。
気がつけ、生きる喜びを。
気がつけ、世界の美しさを。
気がつけ、救いは生の中にあるのだ。
死ではなく病を与えるのは、気づいてもらうため。
死は救いではない。
生きることにこそ救いがある。
人は比べられないと価値がわからない生き物だ。
ゆえに病になれ。
健常の喜びに気が付くために。
生きることの救いに気が付くために!
それこそがヴォルデモートが提唱する
「俺様を嫌悪しろ。それが、俺様を支持するということだ」
ゆえにここに真なる五常楽急ノ段が顕象する。
盧生は人類の
だが、ヴォルデモートは悪である。
ゆえに、その支持とは嫌悪であるべきだ。
それでなお、彼は人類賛歌を謳うのだ。
病は救い足りえる悪魔の祈りだ。
だからこそ、彼は盧生足りえる。
いわばダークヒーローというところか。闇の英雄。まさしくヴォルデモートが冠するにふさわしい名に違いない。
「行くぞ、ダンブルドア!」
「来い」
これでようやく互いが同じラインに立った。
ここから先勝負の行く先を決めるのは互いの支持者の総数と、彼ら自身の技量だ。
現状、総数はほとんど同数といってもいい。
なぜならばヴォルデモートの支持者とは即ち彼を嫌悪する者たちだからだ。
人は誰しも嫌悪感を抱かずに生きてはいない、あのダンブルドアでさえ嫌悪感は抱く。
病とはそういうものであり、そういう嫌悪して遠ざけようとすればするほど
忘れるな、ここにいるぞと。
日常の大切さ、健常の尊さ。生きることの救いとはどういうことかを教えるためにヴォルデモートという
それに対して忌避するということは病を忘れるということ。
忘れさせない。そう思えばこそ夢は回る。互いに協力強制へと嵌るのだ。
現状同数。なぜならばダンブルドアの支持者と彼の支持者は同一であるからだ。
これより先は本当に自力と意思の強いほうが勝つ。
えてして夢というのはそうものだ。どれほど幼稚な空想に命を賭けられるか。行ってしまえばそういう覚悟を競うのが邯鄲での戦。
ゆえに互いに冗談のような魔法がぶつかり合う。
まず動くのはダンブルドアだ。
握りしめた最強の杖を振るう。そこに迷いはない。ヴォルデモートを倒す。それだけに今を賭けているのだ。
魔法使い同士の夢の競い合いとは夢の技だけでは優劣がつかない。いかに魔法と夢を合一させ扱うか。それが魔法使いの邯鄲における戦いの神髄。
一つの魔法に三つの夢を重ねるもよし。複数の魔法に複数の夢を重ねてまったく新しい魔法を作り出してもいい。
ともかく、夢だけでなく魔法の熟練度も競うのだ。
夢という一面で見ればヴォルデモートの方が数段格上といえる。
盧生候補という身である以上に、夢で培った熟練度が違う。この階層まで夢を下ってきたことによる試練によってヴォルデモートはすでに十分なほど夢の行を行ったといってもいい。
それだけに夢の熟練度という意味合いにおいてはダンブルドアよりも数段上だ。たとえ阿頼耶の後押しがあり、夢というものがどういうものかを理解させられた一夜だけの泡沫の存在であるダンブルドアであってもかけた時間による理解度の差によって夢の熟練度は数段の差を示している。
だが、戦闘という局面で見れば有利なのはダンブルドアだ。どれほどヴォルデモートが巧みに夢と魔法を組み合わせ綺羅綺羅しい輝きを放ったとしてダンブルドアの鋭い杖さばきがたやすく反対呪文を繰り出す。
炎には水を、水には炎を。反対呪文は現実の相性を超えて作用する。反対呪文はぶつければ消滅する。それが魔法のルール。
現実においては炎が水を蒸発させることがあるが、この魔法において反対呪文をぶつければ即座に呪文は効果をなくす。
どれほど呪文を解法によって隠したとしてもダンブルドアは自らに直撃するそのコンマ数秒のうちに反対呪文で相殺を行う。
すさまじい技巧。まさに絶技といえる杖捌き。そこに感じるのはただひたすらに磨き上げられた最高の魔法使いとしての年月が感じられる。
これがヴォルデモートが不利な理由の一つ。
魔法と夢の掛け合わせ。それは足し算ではない。乗算なのだ。
大きい数字を同士をかければそれだけ大きな数字となる。それは片方が小さな数字であっても、片方がそれを関係ないと言い張るほどに巨大であれば何ら問題はない。
つまりはそういうこと。ダンブルドアの魔法の技量はこの場に限りヴォルデモートを大きくしのいでいる。
夢という空間。普遍無意識において構築されたダンブルドアは正しく今世紀最大にして最強の魔法使いとして顕象しているということ。
それだけではない。
「――――」
戦っているヴォルデモート自身がダンブルドアには及ばないと思っている。
今現在戦って勝つと意気をたぎらせていようが、無意識はこう思っている。
――アルバス・ダンブルドアは自らと同等。いや、しのぐのではないか。
闇の帝王としての自負は確かにある。自らこそが最強であるという自負が確かにある。
だが、ならばなぜ自分は学生時代、ダンブルドアに対して力を行使しなくなった。
ヴォルデモート卿が唯一恐れたもの。それが彼。誰よりも彼の偉大さを認めるがゆえに、戦闘は大きくダンブルドアへと傾いている。
バジリスクを模した悪霊の火を放つ。強烈な衝撃波をまき散らす大破壊魔法を行使する。
「――――」
しかし、それすらもダンブルドアは防ぎきる。
ここにきて彼は夢の熟練度すら引き上げてきていた。
「ここで、おぬしを止められるのであれば、死んでもよい」
「く――」
夢は覚悟を問う。
己の死すらも冷徹に計算に入れてこの先を見据える。
ヴォルデモートを倒せばそれでいい。そのあとはハリー・ポッターがいる。己の意思を引き継ぐ生徒たちが、教員たちがいる。
ゆえに、たとえここで死んだとしても何を躊躇う必要があるのか。
大地を割るほどの強力な切断魔法が行使される。ヴォルデモートが浮遊しそれをかわせば、引き裂けた大地からマグマが噴出する。
その熱量すべてを瞬時に圧縮したダンブルドアはそれをヴォルデモートへと放つ。
それを躱そうと上空へ逃げるヴォルデモート。
「逃がさぬよ」
容赦なくダンブルドアは咒法の射を掛け合わせ圧縮した熱量をヴォルデモートへと飛翔させる。
いや、そこにさらに創法が加わる。形によって形作られる守護霊。その莫大な熱量をまとえば真なる不死鳥として飛翔する。
いかに逃げようとも複数の魔法、複数の夢を組み合わせた不死鳥から逃れられる者はいない。
恒星のごとき熱量の不死鳥が舞う。
「――まだだ!」
だが、ヴォルデモートはあきらめない。
逃げられないのであれば迎え撃つ。
プロテゴと死の呪文を散で広げ、そこにありったけの解法を流し込む。死の呪文をまとった盾。当たれば最後、解法と死の呪文によって究極まで高められた解体性が夢を破壊する。
「そうするじゃろうと思っておったよ」
ゆえに、ここにはもう一つの夢が重なっていた。
「オオオォォォオォォオオオ――!?」
それは解法の透。ダンブルドアが最も秀でる資質であった。もとは守護霊という実体のない存在を核とした魔法だ。
解法で透過させることなど容易い。高い解法資質が可能とした妙技。
不死鳥は盾に当たる瞬間に、盾をすり抜けヴォルデモートへと直撃した。三千度を超える超高熱がヴォルデモートを襲う。
だが、ヴォルデモートも負けてはいない。
その瞬間、超高熱に耐えられる障壁を創形する。極限においてコンマ一秒も掛からない創法は、しかし完璧な精度をもって破滅を防ぎ切った。
「終わりじゃアクシオ」
だが、そこに告げられる終わりの言葉。
使用されたのは引き寄せ呪文。引き寄せられるのはこの空に浮かぶすべての天体。
太陽、水星、金星、ありとあらゆる惑星から、隕石まで。
ありとあらゆる星々が今ここに向かって降り注ぐ。
文字通りの星の一撃。
「ダンブルドアアアアアアアアアアアアア!!!!」
そんなものを防ぐ手立てなどなく――全ては白へと染まった。
ヴォルデモートVSダンブルドアをお送りいたしました。
ダンブルドアが強くない?
A.阿頼耶の後押しと普遍無意識において誰もがダンブルドアが最高にして最強の魔法使いという者が多かったためにそのように顕象しているからです。
まあ、これによってダンブルドアが闇の軍勢がなにやら大変なことやってんじゃね? ということに気が付くのでよいでしょう。
一応、言っておくとあんな星落とししてるダンブルドアは本物じゃないですからね? あくまでも夢存在ですからね。
ダンブルドアの意識はあれど、夢を見ているだけですから。現実であそこまでのことできません。
さて、次回はハリーでさっさと三年目終了させて四年目へ行きたい。
サルビアは八命陣キャラとの邂逅を行って自らのルーツへ迫ることにしましょう。
まあ予定は未定ですが。
ではまた次回。