ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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第36話 炎のゴブレット

 大きな荒削りの木のゴブレットであり、衆目に晒されると同時に青白い炎が燃え盛った。

 このゴブレットに羊皮紙で名前と所属校名を記入して入れることで代表選手に立候補できる。期限は一日。

 

 翌日のこの時間にゴブレットが各校より一人だけ代表選手を選び出す。

 無論、十七歳未満の生徒が参加できないようにダンブルドアが直々に年齢線を張る。十七歳未満は、何人たりともこの線を越えることは許されない。

 

 それでも諦めきれない人たちは何とか年齢線を越えられないかと様々な策を練っている。誰も彼もが一千ガリオンの栄光を手にしたいと諦めきれずに挑戦して失敗してはまた挑戦している。

 見るまでもなく、その全てが徒労に終わるだろうとサルビアが呆れ果ていた。

 

 ハリーもそう思う。ダンブルドア校長の偉大さは誰よりも知っている。ゆえに、その呪文が正確無比であることも先刻承知。

 ゆえに、無駄な努力であるとハリーですら断じることができるだろう。

 

 サルビアがいなければロンと二人してどうにかできないかと話していたかもしれないが、サルビアと過ごしたことですっかりとそんな考えはなくなっている。

 それでもハリーは、朝早くから多くの生徒たちに交じって朝から炎のゴブレットが置かれている玄関ホールへと集まっていた。

 

 殆どの生徒と同じ野次馬であったが、時折ゴブレットへ羊皮紙を入れる生徒を見に来たのだ。ボーバトン、ダームストロングの全生徒。

 ホグワーツからはセドリック・ディゴリーなどがいれていた。彼は優秀らしい。サルビアに聞いた話でしかないが、一応ハリーも本人にはクィディッチ・ワールドカップの時に会っている。

 

 好青年であるし、彼が選ばれたならきっと優勝できるかもしれない。その時、

 

「見てろよ、今度こそ!」

 

 フレッドとジョージが何等かの魔法薬をつかって年齢線を越えようとしていた。薬を飲んで年齢線を越えたのだ。

 一瞬だけ、静けさが訪れる。誰もが成功したのかと思った。

 

 しかし、

 

「無理ね」

 

 サルビアだけが冷静にそう告げる。

 成功したかに見えたが、ゴブレットに髪を入れた途端、二人が吹っ飛ばされた。失敗したのだ。

 

「やっぱり無理か」

「仕方ないよ、ダブルドア先生の年齢線だしね」

 

 ロンと共にそれを見ながら、二人で納得して頷く。

 それから隣に座るサルビアの方を見る。彼女を誘ってここへ来たが、彼女は代表選手に興味などないようでいつもの通り本を読んでいる。

 

「ねえ、君でもやっぱり無理かな?」

 

 ふと、そんなことを思った。

 ダンブルドア校長の年齢線は強固だ。でも、どうしてか彼女ならばどうにかできるのではないかと思うのだ。誰よりも強く魔法を使える彼女ならばあるいはと。

 

 そうサルビアは誰よりも魔法が巧く使えるし、凄い魔法を一杯知っている。きっと試合に出られればいい成績を修められると思う。

 そう問いかけるとサルビアは本を閉じてこちらを向く。綺麗な翡翠の瞳がハリーを射ぬく。

 

 ごくりと思わず喉を鳴らす。その瞳の奥底に何かを垣間見た気がした。

 

「今は、無理ね」

「今は?」

 

 予想していた答えとは少しだけ違ったので思わず聞き返してしまった。

 

「気にしないでちょうだい。こっちの話だから」

 

 けれど、サルビアは答えてくれなかった。

 どういうことなのだろうか。

 

「やあ、少し良いかね」

 

 話していると、ダームストロングの校長がハリーたちの前にいた。

 

「え、えっと」

「リラータ君だったかね。少し話があるので来てくれないか」

「知り合いなの?」

「いいえ。でも、父の知り合いなのかしらね」

「お父さん?」

 

 そう言えばサルビアの両親の話はあまり聞かない。

 

「じゃあ、行ってくるわ」

「あ、ああ、うん」

 

 ダームストロングの校長と一緒にどこかへ行くサルビアをハリーは見送る。

 

「なんだったんだう?」

「さあ」

 

 ロンと二人で考えてもよくわからなかった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 サルビアはカルカロフと歩いていた。向かったのは誰もいない教室。カルカロフが防音の魔法をかける。何か内緒話がしたいのだろう。

 

「で? 何か用ですか」

「演技などせずとも良い。私は、君の父君を知っている。あれの娘がそんな殊勝ではあるまい」

 

 なるほど、やはりか。

 

「こちらこそ、お前を知っているぞ。イゴール・カルカロフ。元死喰い人の裏切り者だ」

「リラータほどではないさ」

 

 かつてのリラータ。その暴虐を闇の魔法使いで知らない者はない。それはある種の羨望だ。あのような悪逆非道を行えた魔法使いは、ヴォルデモートを除けばリラータの一族だけだ。

 それもどの一族も同じことをしている。人々を恐怖に陥れ、闇の魔法の深淵を探求する。

 

 その力は自陣にあれば何よりも有効であることを闇の魔法使いは知っている。だから、カルカロフのこれは勧誘なのだ。

 リラータの力を手に入れる。そうすればあの悪魔の魔法使い。闇の魔法使いの頂点たる男に怯えなくとも済むとカルカロフは思考する。

 

 恐ろしくて仕方がない。自分は裏切り者。それは自明の理。友を裏切り仲間を裏切り今の地位にある。

 それを盤石にするならば、リラータは手に入れておきたい。

 

「で、何の用だ。あの塵屑を知っているのなら、用件を言え」

 

 何が言いたいのかはわかる。このような男の思考など手に取るようにわかるのだ。

 目が物語っている。力が欲しいと近づいてきたハイエナだこの男は。光に寄ってくる塵虫と変わらない。

 

 利用価値はあるだろうが、誰が貴様なぞに利用されてたまるものか。

 

 ――利用するのはこの私だ。お前ではない。

 

 そうこの世の全ては塵屑でしかない。ただそれでも使ってやればそれなりに輝く。ゆえに、利用するのは頂点たるこのサルビア・リラータなのだ。

 他の誰でもない。闇の帝王でも、ダンブルドアでも。ましてや、この男では断じてない。

 

「なに、少し話をしてみようと思ったのだ。あのリラータの娘が、この学校にいると聞いてね」

 

 胡乱な言い回し。つくづく気に入らない。時間は貴重なのだ。病魔に犯され、死に瀕していたからこそわかる。時間こそが何よりも尊いものだ。

 時間さえあれば、ダンブルドアもヴォルデモートも倒すことなどわけはない。サルビア・リラータに不可能などないのだから。

 

「帰る。貴様と話すことは何もない」

 

 ゆえに、話すことなどなにもない。この男は必要ない。

 

「わかった。ところで、ダームストラングに来る気はないかね。そこでならば君に資質を伸ばせるだろう」

 

 しかし、サルビアにとってその提案は魅力的ではある。闇の魔法に傾倒できる場というのは非常に魅力的だ。

 だが、セージがここにいる以上、離れるわけにもいかんだろう。また、ダンブルドアを殺すならば、その掌の上からの方がやりやすいのもある。

 

 従っているふりをして、その後ろから刺す。それがもっとも確実な方法だ。どこか遠くに行くなど無駄に警戒されるのだ。

 今も警戒されているが、掌の中におさまっていると誤解させておいた方がそれを踏みにじった時が楽しみになる。

 

「遠慮しておこう」

「そうか、残念だ」

 

 自陣に加えられなくて残念という意味だろう。つくづく気にくわない男だった。

 戻り再び意味もない観察。代表選手選考の為のゴブレットの見学より、寮で大人しくダンブルドアを倒す算段を付ける方が有意義であるというのにまったく面倒な事だった。

 

 それもようやく帰るという段になって、一人ゴブレットの部屋に入って行く石神静摩をサルビアは見た――。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 そして、一日が過ぎ代表選手の発表になった。

 

「ゴブレットは、誰が試練に挑むべきかほぼ決定したようじゃのう。代表選手に選ばれた者は、前まで来た後に隣の部屋へと向かいなさい。そこで最初の指示が与えられることじゃろう」

 

 ダンブルドアが杖を振り大広間の明かりは僅かばかり残して消し去る。暗闇の中で尤も光を放つのはゴブレットのみ。

 青白い炎が燃え盛り幻想的であった。

 

 そして、次の瞬間、ゴブレットはこれまで以上に燃え盛り、青白い炎は真っ赤な炎へと転じる。そして、一枚の焦げた羊皮紙を吐き出す。

 

 羊皮紙はひらりと宙を舞い、ダンブルドアの手に収まる。

 

「ダームストラングの代表選手は――ビクトール・クラム!」

 

 その名が出た瞬間、大広間は拍手と歓声に包まれた。特に各寮のクィディッチ選手やイゴール・カルカロフの声など拡声器を使っているのではと思うほどの音量であった。

 それもそうだろう。ビクトール・クラムだ。クィディッチにおけるヒーロー。あの様子では、ダームストロングでも優秀であるようだ。誰もが彼の健闘をたたえての拍手を惜しまない。

 

 一度、その拍手に応えてからビクトール・クラムが隣の部屋へと消えていく。

 再びゴブレットが赤く燃え盛る。

 

 先ほどの熱気なんてなかったかのように大広間が静まり返り次の選手の名前を今か今かと待つ。

 燃え盛る炎から再び先程と同じように羊皮紙が吐き出されて、ダンブルドアの手に渡る。それを彼が見て読み上げる。

 

「ボーバトンの代表選手は――フラー・デラクール!」

 

 再び大広間は拍手と歓声に包まれる。

 フラー・デラクールは席から立ち上がると、その長い髪を流しながら歩いていく。

 選ばれなかった他のボーバトン生の反応は様々で、フラーに拍手を送っている者もいれば顔を伏せて泣いている者もいる。

 

 ただその他大勢は拍手だ。特に男子生徒は彼女の容姿を見て拍手している者も多い。美しいことはそれだけで得だということか。

 それに応えて一度だけくるりとパフォーマンスをしてみせるフラー・デラクール。より一層拍手と歓声が大きくなった。

 

「最後じゃ」

 

 フラー・デラクールが隣部屋へいなくなると、ダンブルドアはゴブレットに手を翳しながらそう言い放つ。同時にゴブレットが燃え盛り、最後の、ホグワーツ代表の名が記されているであろう羊皮紙を吐き出した。

 

「ホグワーツの代表選手は――セドリック・ディゴリー!」

 

 ダンブルドアが言い終える前に、すでにハッフルパフのテーブルから今までに負けないほどの拍手と歓声が響き渡る。自分たちの寮から代表選手が出たのだ。当然だろう。

 特に彼は優秀だ。もし彼が優勝したらとても名誉なことである。きっと、同じ寮であるということだけで誰かに自慢したくなるほどになるだろう。

 

 同じ寮の紋章をつけるだけで自分たちもまた彼のようになりたい、そうありたいと思うほどに。

 名前を呼ばれたセドリック・ディゴリーはハッフルパフ生に笑いかけながら進んでいく。選ばれたからには必ず勝つ。気負いではなく、覚悟の笑みを浮かべて隣部屋へと入っていった。

 

「結構、結構! さて、これで三人の代表選手が決まった。選ばれなかった者も含め、全員が代表選手にあらん限りの応援をしてくれることを信じておる。代表選手へ真摯な声援を送ることで、君らは真の意味で彼らに貢献でき―――」

 

 そして、ダンブルドアが締めの言葉を遮るかのように、役目を終えたはずのゴブレットが再度燃え盛った。その予想外の出来事に、生徒や先生、クラウチやバグマン、ダンブルドアでさえ信じられないものを見ているように唖然としている。

 ただ一人、石神静摩だけが、この状況をわかっていたのかと言わんばかり笑みを作っている。いや、あれは驚いているのか。

 

 誰もが驚いて声も出せないなか、サルビアだけは、周囲を見ていた。

 

 この状況は誰かが意図したものだ。誰かがゴブレットに細工をしなければこのようなことはありえない。

 ならば目的は何だ。誰がやった。

 

 ゆえに、サルビアは周囲を俯瞰する。

 

 怪しいのは一人だけだった。

 石神静摩。この男だけが動じていない。普段と変わらぬ様子で笑みを浮かべているのだ。

 

「あいつがなにかやったっての?」

 

 何の目的で? いや、うすうす感じているのだが、もしかするとあの男は何も考えていないのかもしれない。クィディッチワールドカップでもそうだが、あの男が何かを考えてうごいているとは到底思えないのだ。

 

「考えても仕方ないわね」

 

 自分に被害がこなければそれでいい。ともかく今は、誰が選ばれたのかを見るべきだ。

 

 

「…………」

 

 ダンブルドアは、ゴブレットから新たに吐き出された二枚の羊皮紙を無言で手に取り、それをじっと見つめていた。

 時間にして数秒か数分か。緊張に包まれる中、ダンブルドア校長はついに口を開いた。重々しく混乱の中であったが、誰にでも聞こえるようにと、声を出した。

 

「ロナルド・ウィーズリー――」

 

 そして、羊皮紙に書かれたその名を告げた。

 特筆して何もない、ただのチェスが得意なだけのその赤毛の少年の名を。

 




代表選手選抜。

サルビアかと思った、残念、ロンです。
まあ、大方の方は予想通りなんでしょうけど。
これはまあロン育成計画です。

盲打ちの意図しないロン育成計画。彼にはもっと強くなってもらわねばならないのです。
ちなみに、それに伴い、ロンの中にある要素が追加されました。
狼になってもらいましょう。輝く光を喰らう狼に。

あとセドリックさんとかピクトール・クラムさんたりが意図せず鋼の英雄になるかもしれませんがその時は許してください。なにもしませんから。

というわけで、今回はサルビアは完全サポート。
そして、湖の試練で捕えられるのは、誰でしょうね(ゲス顔)

関係ないけど最近、傾城反魂香聞きながら執筆しているのですが調子がいい。なんかいい気分ですし。なんででしょう?

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