ハリー・ポッターと病魔の逆さ磔   作:三代目盲打ちテイク

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炎のゴブレット
第32話 クィディッチ・ワールドカップ


 古来より日本の魔法世界の組織として有名なものは神祇省と呼ばれる組織だ。神祇、つまりは神であり神秘を用いることにより政をより良い方向へと導く神道系の組織が始まりではあったが、魔法の伝来によってこの組織は魔法の探究と護国を掲げるようになったと言われている。

 それらの来歴を今ここで述べることはできないが、それなりに歴史のある組織であり日本における魔法の全てを把握しているとも言われている。

 

 特に、鬼面衆と呼ばれる神祇省でも生え抜きとされるチームの頭目は神祇省に置いても特殊な立場だ。時代における転換期において大抵の魔法的事象に介入してきた。

 直近は約百年前、大正時代。甘粕正彦と呼ばれる破格の魔法使いとされる人物が引き起こした世界が滅亡する可能性すらあった事象に介入し見事に収めて見せたのだ。

 

 その記録は、全て公的記録からも魔法界の記録からもほとんど抹消されている。遺せるものではないし、後の世に必要なものではなかったからだ。

 そんな鬼面衆の頭目たる男がイギリスまで来ている理由とはなんなのか。

 

「たいぎぃのぉ。こげな島国までこなあかんとは」

 

 広島の奥地で、一人好き勝手にしていれば、日本の魔法学校から呼び出しとはついていない。神祇省としては、魔法界とは仲良くしておくに越したことはないわけだが、石神静摩としては乗り気ではない。

 まあ、その時の気分で、ノリノリで魔法界に言ってイギリスまで来たくせして、面倒くさくなったのかもう既に他人のせいにしているのでアレなのだが。

 

「しっかし、なんじゃ。こらァ、おもろいことになりそうじゃわい」

 

 日本で見る星も、異国で見る星も変わらないが、気が付いているだろうかこの国の魔法使いどもは。

 

「特大の凶兆よのォ。そら、俺らが呼ばれるんも当然じゃわい。さて、まずは観光でもしようか。イギリス娘と楽しむで」

 

 とりあえず、適当に地下鉄にでも乗ったり、色々と適当なところに行くとしよう。とくになにもなく思いつきで行動するこの盲打ちという男は、やることなすこと反射神経だ。

 やばい案件に気が付いておきながら何もしない。いや、あるいは何かしようとでもしているのか。そもそもこの男の行動自体何か理由があるわけでもない。

 

 単純に思いつきで行動しているだけなのだ。それが、神祇省鬼面衆頭目、二代目盲打ちと呼ばれる石神静摩という男だ。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 クィディッチワールドカップ。名の通り、クィディッチの世界大会だ。決勝戦、アイルランド対ブルガリア。三十年ぶりのイギリス開催とあってイギリス魔法界は沸き立っているわけだ。

 ハリー、ロン、ハーマイオニーたちもウィーズリー一家に交じって沸き立っている。そりゃみなさんアウトドア大好き、特にハリーはクィディッチの選手とあればこういうのはとても楽しいのだろう。

 

 ゆえに、酷く憂鬱にしているのが一人。そうサルビアだ。サルビア・リラータはこの手の行事が心底嫌いだ。だが、昨年度末の事件の末、ほとんどの戦力を失い秘密の部屋を失い、少しは優秀だったバジリスクを失い、とても大切な可愛いユニコーンを失った。

 その対価は、首輪付きの健康。ああ、嬉しいとも、そりゃそうだ。夢にまで見た健康体。飛び上るほどに喜んでいいだろう。首輪がなければ。

 

 生きれればいい。生きれればいい。そう思ってきたが、これは駄目だ。血が騒ぐのだ。首輪という枷を外せと。今にも首を掻き毟りそうになる。

 首輪付きでも生きれればそれでいいと思う心と、どうしようもなく上から見下す存在が気に入らないという感情が内心で争いまくっている。

 

 ゆえに、サルビアは実に機嫌が悪かった。

 

「サルビア、どうしたのかしら?」

 

 そんな機嫌が悪い彼女を気にしてハーマイオニーがロンとハリーに相談する。

 

「知らないよ」

 

 ロンは早々に匙を投げた。どうせ去年からであるし、別段何かあるわけでもない。気にするだけ無駄だろうとか思っているらしい。

 

「でも、顔色は良いよね」

 

 ハリーが言う。去年の何者かによるホグワーツ襲撃。ヴォルデモートの残党。シリウス・ブラックだとも言われている。それ以降、彼女はどこか調子が良いのだろう、顔色が良いのだ。

 走ればすぐに息切れしていた身体の弱い彼女の顔色が良いことは良いことだろう。ただ、それを指摘すれば途端に彼女は機嫌を悪くするのだが。

 

「もう本人に聞いてみようぜ?」

 

 手っ取り早い案をロンが提示する。

 

「ならあなたが行きなさいよ」

「えー」

 

 ロンが提案したのに彼は行きたくないようだった。あの不機嫌な彼女の前になど立ちたくないのはハリーも同感であった。

 端的に、怖いのだ。恐ろしいとも言う。機嫌が悪い時の彼女はとことん怖い。

 

 だから誰も行きたがらずどうしようかと思っていると、

 

「おーおー、そこのジャリども」

 

 男に声をかけられた。黒いスーツの男だ。ここにいるということは魔法族なのは間違いないが、不思議な髪の色をしている。白と黒が混じった不思議な髪だ。

 

「はい、何か用ですか?」

「なぁに、用があったわけやない。話しかけてみようと思ったから話しかけたまでよ」

「は、はあ?」

 

 なんだろうこの人。用がないのに話しかけた。しかもその理由が話しかけてみようと思ったからと完全に思いつきの行動。あきらかにおかしな人だ。

 

「大丈夫かしら、この人」

「ルーナよりマシじゃね?」

「おいおい、ジャリども、何、こそこそ話しとるんじゃ。気になるやろいうてみぃ」

 

 こいつわかって言っているだろう。

 

「いえ、すみません。あの、それで、用がないなら私たち行ってもいいですか?」

「お、いや、そうじゃのぅ。用があった方が良いちゅうなら、案内でもしてくれんか。俺ァこの英国には来たばかりでの暇じゃけぇ、ここに来てみたんじゃが、何があるんかのう」

 

 ハリーたちは唖然とする。とりあえず、ここで何があるのかも知らずに来たというのだから。本当なんなんだこの男はと。

 この時点で三人は自分たちの手に負えないことを確信した。

 

「ね、ねえ、サルビア、あなたも手伝ってよ」

「お、お前さんめんこいのォ。ほれ、もちっとこっち来てみぃ。胸も尻も貧相じゃが、なぁに外人っちゅうのは最終的にでこぉなるからのぉ。かははははは」

 

 サルビアに気が付いた男はサルビアを舐めるように上から下へ視線を動かしてからそう言った。失礼な男だった。

 

「なに、この変態」

「さ、さあ」

 

 変態に間違いはなさそうなのだが、何者なのかまったくわからない。さっさとこの人から離れたいが、どんなに離れようとしてもこの男はついて来そうな気配がする。ハーマイオニーでは持て余すし、ロンとハリーでもこれはどうにもできないだろう。

 だから、サルビアに助けを求めた。溜め息を吐いてサルビアは仕方なく、男と話すことにする。危険な人物ではないだろうが、端的に不愉快だ。さっさと退場願おう。

 

「で、なに、あなた何が目的なわけ」

「目的なんぞあるわけないわい。俺は、反射神経の男よ」

「つまり馬鹿ってわけ」

 

 反射神経で動く馬鹿。制御不能な箒とかその手合いだ、この男。

 

「そう、じゃあ、私たちは行くわ」

「つれないのォ、うちの国じゃ女は愛嬌つってな。もう少し可愛げがないと嫁の貰い手がなくなるぞ。ほれ、わろうてみぃ」

「…………はあ」

「やあやあ、みんな、そろそろ時間だよ。おや、誰だね君は?」

 

 そこに現れる救世主。アーサー・ウィーズリー。

 

「俺は、石神静摩じゃ。こっち風に言えばシズマ・イシガミっちゅうところかのぉ。こいつらに案内してもらおうと思ってのぉ」

「そうなのか?」

 

 アーサーがハリーたちに問う。どう答えればいいのかわからない為、答えようがない三人。

 

「なぁに、恥ずかしがっちょるんじゃ。俺とお前らの仲じゃろうが」

 

 さっき会ったばかりなのになんで馴れ馴れしいんだこの男は。

 

「違うわよ」

「つれないのォ。まあ、ええわ」

「案内ならば私がしよう。子供たちは先に行きなさい」

 

 とりあえず、アーサーがこの男をなんとかするので先に行くように言われる。とりあえず言われた通りにする。

 

 会場の貴賓席には既に何人かの人が座っており、そのうちの何人かは新しくきたハリーたちを見てひそひそと話し始める。

 なにせ、ハリー・ポッターの名前は有名だ。生き残った男の子。それが貴賓席に来ればそれなりに話題になるし、ウィーズリー一家はそれなりに有名だ。もちろん、良い意味ではなく。

 

 そして、なぜ、石神静摩も貴賓席にいる。

 

「いやぁ、運が良いとはこのことよのォ! 貴賓席に空きが出るとはのォ!」

 

 大笑いしてパンフレットをもって隣に座っている男にサルビアは辟易する。

 

「しっかし、にちょるにちょる思うとったが、こりゃぁ、そのまんまかいな。ほんに、たいぎぃのぉ」

「……なに」

「いや、お前さんににちょるのをしっちょるだけじゃ」

「そ」

 

 そうやって話していると、入り口にファッジ魔法大臣が現れる。両脇にいる豪華なローブを着た男性に大声で話しているが、騒がしすぎて言葉が伝わってないようだった。ファッジは貴賓席にいる人たちと会話をしながら男性を案内している。

 途中、ハリーに気がついたのだろうファッジは彼と挨拶を交わす。それから両脇にいる男性にハリーを紹介してるようだった。ブルガリアの魔法大臣がハリーの額を指差して騒いでいたので、ハリーが誰かというのは伝えられたようだ。

 

「なんぞ、あの坊主は有名なんか。あそこにおるの魔法大臣じゃろ。イギリスとブルガリア、それとアイルランド。おーおー、大した有名人じゃのう、で、あの坊主なにもんじゃ」

「……それ、私に言っているのかしら」

「お前以外に誰がおるんじゃ」

「ハリー・ポッターの名前くらいしらないの」

「知るわけないじゃろ。こちとら片田舎の日本から来たばかりよ。クィディッチもさほど興味ないしのォ!」

「じゃあ、なんで来たのよ」

「知るかいそんなもん。いうなれば反射神経よ。こっちに来たらなんぞ面白いことになりそうじゃと思ったら来た、それだけよ」

 

 本当、この男殴りたい。

 サルビアはそう思う。

 

「まあ、正解だったんじゃろ。お前さんに会えたしのォ。こりゃ、俺が解決せなあかんじゃろうが」

「なに? 口説いてつもり」

「うははは、お前なんぞ口説くかい。自意識過剰じゃぞ。もうちっと成長してから出直してきいィや。それともあれか? 口説いた方がよかったかのォ、いや、すまんのォ、俺はお前みたいなの好みじゃないしのォ」

「…………」

 

 良し殴ろう。もう殴ってもいいよな。

 

 とか思っていると微妙な空気が貴賓席に漂っているのに気が付いた。見ればルシウス・マルフォイがファッジと話している。

 当然、親がいれば子がいるのも当たり前で、ドラコ・マルフォイもそこにいた。ルシウスはこちらを気にしているようだが、公に話すような真似はしないようだ。

 

 その代わりに、ファッジと話、ついでにアーサーと話している。その空気は総じて悪い。あの二人、殴り合いのけんかするくらいには仲が悪いのだから。

 当然、その息子同士も仲が悪いのはいつものことで、空気は険悪の一言だ。

 

「なんぞ、空気が悪いのォ」

「あなたが気にする性質かしら」

「気にせん」

「はあ」

 

 そんなこんなしていると試合が始まる。サルビアは興味がないので、結果だけ言うと試合はアイルランドの勝利で終わった。

 点数はブルガリアが160点でアイルランドが170点。試合は終始アイルランドの優勢で、ブルガリア側のシーカーであるビクトール・クラムがスニッチを取って終わった。

 

「ルールもわからんスポーツを見ても楽しめんのう。うはははは」

 

 本当何しに来たんだこの男は。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 深海のような深き場所。ある意味でそこは礼拝堂であった。ただし、ただの礼拝堂ではない。和洋折衷というように、ありとあらゆる宗派が混じり合い、元がなんだったかすら不鮮明に混沌としている。

 かつてはカクレと呼ばれたキリシタンたちの礼拝堂であった場所。キリシタンを排斥する動きによって、カクレざるえなかった彼らによって変化させられた神々たちのなれの果てがここだった。

 

 立ち寄りがたい場所だ。神聖な場所ではあるが、それと同時に深い恨みに淀んだ場所だった。誰かと話をする場所でも祈りをささげるような場所でもない。そんなことは断じて言えない場所だった。

 そこにヴォルデモートとピーター・ペディグリューはいた。この場所を用意したのはペディグリューだ。誰にも見つからない、忘れられた地下室を改装した。

 

「さて、我が主、これからどうします?」

「時を待つのだ。まだ、その時ではない」

 

 死喰い人を集め、軍団を編成することもできる。だが、今ではない。己の復活は誰にも知られてはいないだろうが、それで魔法界を落とせるほど甘くはないだろう。

 一度失敗したからこそ、慎重にもなる。だが、慎重にし過ぎても駄目なことはわかる。ゆえに、今は暗躍の時だった。

 

「各地に味方を忍ばせよ。悟られぬように潜り込ませるのだ」

 

 既に、死喰い人たちには自らの復活が伝わっていることだろう。裏切り者には死を与える。その意図もまた伝えてある。

 ゆえに、復活がバレることはない。

 

「邪魔なものはハリー・ポッターとダンブルドアだ。幸いなことに三大魔法学校対抗試合が行われる年。それを利用しない手はあるまい」

「なるほど、流石は我が主」

 

 蝿声を吐き出すペディグリューは黒々とした笑みを浮かべる。

 

「幸いなことに、ホグワーツの教職に空きがある」

 

 闇の魔法に対する防衛術。昨年度はリーマス・ルーピンが担当していたのだが、諸事情により教職を辞していた。

 諸事情。それは彼が人狼ということが日刊預言者新聞にリークされたのだ。リークしたのはペディグリューだった。

 

 彼の記憶の中にある情報を有効利用したに過ぎない。

 

「ああ、では、僕が行きましょう。ほら、こうやればバレないだろうしー。別にバレても問題ないしー」

 

 そこにいたのはどこにでも居そうな金髪の男だった。黒々とした蝿声を吐き出す男はどこにもいない。ただの好青年だけがいた。

 この空間において、甚だ不釣り合いな男は、笑みを浮かべている。なにせ、見るからに傷だらけのハリー・ポッターがいる学校だぞ? それに、親友に似た女。実に楽しみではないか。

 

「任せよう。全てのものに安らぎを与えるためにな」

「では、主、期待してまっててねぇー」

 

 そう言って消えるペディグリュー。

 

 闇は静かに広がって行く。静かに、静かに――。

 




平和ですねぇ。ワールドカップで何の事件も起きませんでしたよ! ほら、平和!

盲打ちがゴブレットに余計な事するの確定です。具体的に言えば砂をぶっかけるとかね! その関係で参加者が増えます。誰が参加するか、お分かりですね?

そして、ムーディーの代わりに神野ペディグリューが教職になるようです。
大丈夫、天使状態だから! うん、絶対に教えてもらいたくない。

原作との変更点
シリウス・ブラックとハリーが接触していない。
ホグズミードへの許可なんてなかった。相変わらずハリーはサルビアと居残りです。
ムーディーの代わりにもっとやばいのが来る。
ヴォルデモート復活済み暗躍中。

サルビアを救ったは良いが、もうぐちゃぐちゃどろどろの描写ができないとなると悲しいなぁ。

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