サルビアとハリーはオリバンダー杖店へと向かった。最後の買い物。これでこの面倒くさい買い物ともおさらば出来る。
そう思いつつ最後の店へとやって来た。その店は酷く狭くみすぼらしく埃っぽい。中はたくさんの杖が入っているだろう箱でいっぱいであるが、手入れはどうなっているのか蜘蛛の巣もあったりしている。
一刻も早くこんなところおさらばしたいサルビアであったが、ハリーは感嘆の声をあげていた。
「いらっしゃい」
不意にそんな声と共に老人がやって来た。店主のオリバンダーだ。ハリーはいきなり現れた彼に酷く驚いていた。いい気味だ。
「いつお目にかかれると思っていましたよ。ポッターさん、リラータさん。あなたたちの両親もまた、ここで最初の杖を買っていった。さて、あなたたちにはどれがいいか」
巻尺が勝手に動いて採寸していくなか、オリバンダー老は、狭い店内を動き回り杖を探していく。
「さて、まずはポッターさん。リンゴの木にユニコーンのたてがみ、26センチ、良くしなる。強力な杖じゃが、素直で扱いやすい。どうぞ」
そう言って差し出された杖をハリーは手に取る。何も起こらない。ハリーはどうすれば良いのか困っていると。
「振ってみて」
「わかった」
サルビアに言われた通りに振ってみる。すると、ぱりぃん、という音が響き花瓶が割れる。
「あわんようじゃな」
そう言ってオリバンダーはまた別の杖を探し始める。ハリーは腫物を扱うように杖をそっと机の上に置いた。危険物を持っていたくないのだろう。
「では、これは? クリに不死鳥の尾羽、32センチ、頑固だが良くなじむ」
受け取って振る。すると、積み上げられていた書類が吹き飛んだ。即座にハリーは杖を机の上に置いた。なお、サルビアに書類の雨が降っていたが、ハリーに気にしている余裕はなかった。
あとで覚えていろと思うサルビアであった。その後もオリバンダーは何本もの杖を試していくが中々ハリーに合致したものは見つからない。
「さて、どうしたものか」
数十本、もう少しで百に届くくらいで、流石にオリバンダーが悩んで奥へと引っ込む。
「ふぅ」
ハリーもそこで一息ついた。
「杖を選ぶって大変だね」
「そうね」
こっちはお前が起こした被害を喰らってるのだけれど、何か言葉はないのかしら。と言外に言って見るのだが、どうやらこの少年はかなり鈍感で気が付かない。
「それにしても使われている木は違うのに何で芯は三つしかないんだろう」
ふとハリーは疑問を口にした。今まで、振ってみた数十本にまで及ぶ杖は全てがユニコーンのたてがみ、ドラゴンの心臓の琴線、不死鳥の尾羽が芯として使われていたのだ。
だから、それが気になったとサルビアに聞く。知るわけないだろうと言いたかったがそういうわけにもいかず、どうしてなんだろうね、と言っていると、オリバンダー老が戻ってきた。
「それはですな、私がまだ見習いだったころ、やはり杖作りだった父は、ケルピーのたてがみのような質の悪い芯材に苦労させられていた。それを見て私は、自分はいずれ最高の芯材を見つけ、家業を継ぐころにはそうした芯材だけを使って仕事をしたいという野望を抱いた。そして、その望みは叶った。膨大な実験と調査の結果、私はある 3つの素材だけが、老舗オリバンダーで売るにふさわしい杖を生み出せると結論づけたのです」
それこそがユニコーンのたてがみ、ドラゴンの心臓の琴線、不死鳥の尾羽。この三種だ。当代のオリバンダーは少なくともこの三種を使って杖を作ってきた。
ハリーやサルビアの両親の杖もそう。かの闇の帝王の杖ですらそうだ。当代のオリバンダーが作った杖には全て三種類のいずれかの芯材が使われている。
「……さて、では、ポッターさんこれを。柊に不死鳥の尾羽、28センチ、良質でしなやか」
それを持った瞬間空気が変わる。まるで何かが吹き上げるかのような風が吹いた。明らかに今までと違う。これが杖に選ばれるという事。
「不思議じゃ、なんとも不思議じゃ」
オリバンダーはそれが不思議でならないようだった。
「何が、ですか?」
「私は、自分が作った杖は全て覚えている。その杖に使われている不死鳥の尾羽。その不死鳥の尾羽を使って作られた杖がもう一本だけある。
その杖はとあるお方の手に渡り、そして、その兄弟羽の杖が、あなにその傷を負わせたのじゃ。これは運命かもしれん。ああ、申し訳ない。こんなことを」
「い、いえ」
「さて、ではリラータさん。お待たせしてもうしわけない。では、まずこれを」
カエデに、ドラゴンの心臓の琴線、23センチ。堅く振り応えがある。目の前に出された杖。それを受け取って振ってみる。
どうせ合わない。サルビアには確信があった。こんな杖が自分のもののはずがないだろうと。その通り、振ってみると、光の球がはじけ飛び店内を飛び回った。
ほらな、屑めと、思わず悪態をつきそうになったがハリーがいたので我慢する。
「ほう、そうかね。ふむ、そう言うならば、これはどうかな」
マツにユニコーンのたてがみ、21センチ。かなり頑丈でしなりにくい。振ってみるが結果は同じ。棚が捻じれるという結果に終わった。
「ふむふむ、そうかね。では、これはどうかな。黒檀にドラゴンの心臓の琴線、20センチ、硬く、頑固で、曲がらない。あらゆる戦闘の魔法と変身術に最適、強力な杖じゃ」
持った瞬間、空気が変わった。
「やはりそうか。やはりか。あなたの御父上もここで黒檀の杖を買って行った。黒檀に不死鳥の尾羽。20センチ。堅く、頑固で、曲がらずしならない杖じゃった。まるで杖の主そのもののような」
「そうね」
それは既に暖炉で消し炭になっている頃だろう。
「さて、それで代金はいくらかしら?」
こうしてハリーと共に杖を手に入れた。財布の中は風前の灯だ。散財は出来ない。ハリーは未だにじゃらじゃら入っているようだった。
羨ましいぞ、寄越せ。と言いたいが、そう言う事も出来ず。見せびらかすようなら殺して奪い取るところだ。まったく、お金持ちなんて死ねばいいのに。
そして、これからどうしようかと思った時、店のショーウィンドウが叩かれる。そこにはハグリッドの姿。
「ハリー、ハッピーバースデー」
そんなことを言いながらその手にある鳥かごを見せてくる。その中には純白のふくろうの姿。可愛い。外に出ると、ハグリッドが得意げにそのふくろうをハリーへと手渡す。
「お前さんへの誕生日プレゼントだ」
「ありがとう!」
「…………おめでと」
そんなやり取りの後ろでサルビアはこっそりと顔をしかめていた。何が誕生日プレゼントよ。そんなもの貰っても嬉しくはないんだから。
誕生日などと言うものを一度も祝ってもらったことのないサルビアは、忌々しげにハリーが嬉しそうにしているのを見ていた。いい加減見せびらかすなと言いたいが、ふくろうが可愛いので勘弁してやる。良いから撫でさせろ。
「……それじゃあ、私、帰るね」
「あ、うん……あ、あの」
「大丈夫。また会えるわ。ホグワーツに向かう時に、また会いましょう。それじゃあね、ハリー」
そう言って有無を言わせずサルビアはハリーたちに背を向けた。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「ごはっ――」
屋敷。己の領域に戻った途端、サルビアは血を吐いた。朝から、子守をさせられてくそ重い学用品を持たされて限界を迎えたのだろう。
そう客観的に己の状態を分析する。変身術で誤魔化してはいるが、己の身体は既に末期。この一年を生き残れるかも危うい。
いや、生き残るのだ。絶対に。そのために、準備をしなければ。
「――――」
荒い息を吐きながら、サルビアは重たい身体を引きずるように歩く。目指すは調合部屋。ありとあらゆる試薬でごちゃごちゃになった部屋の中でサルビアは、数本の髪を取り出す。
ハリー・ポッターの髪。こっそりと集めまくっていた。あとは、爪の欠片、垢。ありとあらゆるハリーの身体の一部。ダイアゴン横丁でこっそりと採取したものだ。
「…………」
それらすべてを煮込む。そして、糞マズイそれを飲み干す。錆びた鍋から直接。火傷など気にせずに飲み干した。
だが、効果はない。身体の一部では駄目か。何らかの魔法がかけられていることはわかっている。しかし、その原理がわからない。意味がわからない。
だからこそ、食ってみた。だが、効果はない。
「役に立てよ、役に立ってよ。お前が生き残ったのは、そのためだろうが」
食らう、食らう、飲み干す。しかし、何ら効果を及ぼさない。
「…………まあいいわ。どうせ、わかりきっていたことよ。賢者の石、それを手に入れる」
ハグリットを殺して奪うのは論外だろう。ダンブルドアに知られてはならない。今世紀最高にして最強の魔法使い。アルバス・ダンブルドアを敵にして生きていられると思うほど理想論者ではない。
だが、あれも人だ。出し抜くことは出来る。彼の過去を読み解けばそれは簡単だ。だからこそ、その方法を考えるのだ。
おそらく賢者の石はホグワーツに移される。取るにはどうしたら良い。防衛されるだろう。賢者の石だ。間違いない神秘。そんなものをホグワーツの校長室などに安置するはずもない。
絶好のチャンスなのだ。自分の通う学校に目的のものがある。最上のチャンス。だからこそ、その守りを突破する方策を考える。
「……どう考えても、私じゃ無理ね」
それが単純なものならば魔法でどうにかなる。だが、それ以外のもの。例えば行動力を問うものであったならば、それは不可能だ。
自分は弱い。病魔に犯され、動くことすらままならない。それで激しい運動などできるはずもないのだ。
「……駒がいる」
何も自分で全てを破る必要はない。駒を使えばいい。しかし、ダンブルドアがわざわざ石を動かしたということは、警戒しているということだ。
誰かが石を狙っている。少なくともダンブルドはそう考えて石を動かした。その何らかの相手と協力するか? 誰が狙っているかもわからないのに? 論外だ。
そもそも、そんな相手を使えばバレる。ダンブルドアを欺く為にも明らかに狙っている奴らに取りに行かせるわけにはいかない。
ふと、サルビアは気が付いた。
「ふふ――ふふふ、アハハハ、アハハハハッ! そうよ! そうだわ! ハリー・ポッター! 生き残った男の子! あいつを使えばいいのよ!」
わざわざ、ホグワーツから森番がやってくるほどの人物だ。明らかに優遇されている。サルビアにはただ手紙が送られてきただけというのにだ。
だというのに、森番が迎えに来る。好待遇じゃないか。マグルの家にいたからだとか、そういう理論は通じない。毎年、ホグワーツには少ないが
彼らに一々教員を送り込んでいたら足りないだろう。だが、そうでもないのにハリーのところには森番が来た。用事があったついでにしても好待遇と言わざるを得ないだろう。
そんな人物ならば疑われない。明らかなお気に入りを疑うような奴はいないだろう。
ハリーをそそのかし、賢者の石を手に入れさせる。
彼が自発的に動いて賢者の石を手に入れてしまえば、サルビアは疑われない。石を狙う者がいるならば、ハリーたちを呷って潰させる。そちらの方が大義名分も手に入って隠れ蓑になる。
最終的に、賢者の石さえ手に入れてしまえばハリー・ポッターなんて役に立たないクズはいならないのだ。死んでも構わない。
むしろ、死ぬまで使ってやるのだ。感謝されこそすれ恨まれるようなことではないだろう。
「感謝しなさい、ハリー・ポッター! あなた、私の役に立てるのよ! アハッハハハハハ!」
狂ったように嗤い続ける。嗤う。嗤う。嗤う。生きるためにあらゆることをやる。そのためならば、泥でもなんでも啜ってやろう。
だからこそ、そのための準備をしよう。大きなトランクに荷物を詰めていく。役に立つものはこの屋敷にはもはや残っていない。
だが、わずかに残ったものをかき集めて詰めていく。
「必ず、生き残ってやる。必ず。誰にも邪魔なんてさせない。私が願っているのは悪いことじゃないもの。生きるのに、良いも悪いもないでしょ。私に足りないのは
その途中で力尽きて、天井へと手を伸ばす。穴が空きかけた天井。必ずこの手に全てを掴むのだ。掴めないものなんてない。
この自分よりも上の存在なんていないのだ。自分に足りないものさえ手に入れてしまえば、勝てないものはいないのだ。
――少女は嗤う。
栄光の未来を夢見て。叶うことのない理想を夢見て。現実の中で足掻くのだ。諦めものか。
全ては、ここから始まる。そう、ここから――。
感想が結構来てるので、みんな逆十字大好きなんですねw。私も大好きです。
杖についての解説。一応、調べてたものそのままですが、黒檀の合ってる感は半端ないです笑。
黒檀にドラゴンの心臓の琴線、20センチ、硬く、頑固で、曲がらない。
黒檀
あらゆる戦闘系の魔法および変身術に最適。持ち主として最適なのは、あるがままの自分でいることを恐れない者。
この杖の持ち主には、体制にくみさず、自立心が強いか「はみだし者」の立場を好む者が多い
ドラゴンの心臓の琴線
一般にドラゴンの心臓の琴線を用いると、最も強力な杖になる。ドラゴンの杖は特に華々しい呪文をかけることができ、他の杖よりも学習が速い傾向にある。
最初の持ち主から勝ち取られた場合、新たな持ち主に忠誠を示すようになるが、そのときどきの持ち主に対しては常に強い結びつきを保つ。
ドラゴンの杖は、闇の魔術に最も感化されやすい。とはいえ、自発的にそうなることはない。いくぶん気まぐれなところがあるため、3 つの芯材のうち一番事故を起こしやすい。
短い杖に選ばれるのは性格的に欠けたところのある人。
つまり、どこまでも頑固に、どこまでも真っ直ぐに、ただ一つの目的を突き通す者の杖です。あれ主人公っぽい笑。
さて、次回はホグワーツ特急編。同じコンパートメントのハリーとサルビア。そんな空間に飛び込むロン。
全部ちょうだい、で盛大に貧乏人サルビアを挑発してくるハリー。
そんな感じです。未定ですが。
あと、一巻後の、三巻までの案とかをアザトースさんから頂けて、これならやれるかもとか思ってます。ありがとうございます。四巻以降はまったく考えていませんが。
他にも、こうしたらいけるんじゃない? というような意見をいただけると最後まで続けられるかもしれません。
まあ、評判次第ですが。
そして、想う。やはり、私は、逆十字が、甘粕が大好きです。
では、皆さまで楽しく万仙陣を回しましょう。
願わくば、サルビアが幸せになれることを願って。