Das Duell zwischen Admiral und Ich 作:おかぴ1129
……信じられない事が起こったわ。今日、本当なら私たちは本国に帰る予定だったのよ。
でも今、信じられない伝令が私の目の前でこれ見よがしに光り輝いているわ。
―ビスマルク以下、日本国にて実習中の艦娘は、帰国予定を破棄。
そう。私たちの帰国はなくなったのよ。
「やったー! ボクたちまだ日本にいられるんだね!!」
「やりましたね姉様!!」
レーベたちはのんきにこんなこと言って喜んでるけど、私は怒りが込み上げてきていたわ。具体的に問題なのは、次の一文よ。
―理由:現状の日本鎮守府の戦況を鑑み、日本国提督より強い要望があったため
そうよ! すべて提督の仕業なのよ!! 自分が私を鎮守府に残しておきながら、それを隠してあんなロマンチックな晩餐を準備したのよ!!
ムカつくわ!! だってそうでしょう?! そんな要望出したというなら私にもちゃんと教えなさいよ!! こっちはこれでお別れだと思ってこっ恥ずかしいことまで口走ってしまったわよ!! 何がはなむけよ! 次の日にはまた会えるじゃない!! 何が家庭を築く夢を見て幸せよ!! きっと裏で『プークスクス』とか笑っていたのよ!!
許せない……許せないわ提督……これはガツンと一回叩く必要があるわね。
そうやって私が怒りに我を忘れていると、オーヨドの声で放送が入ったわ。
―秘書艦ビスマルク。至急執務室に来て下さい。提督がお呼びです
ええ行ってやるわよ。行って一発ぶん殴ってやるわよ。覚悟しなさい提督! 私の乙女心を弄んだ罪は重いわよ!!
私は執務室の前まで来ると、いつものように……いえ、溢れんばかりの怒りをこめて、ドアをノックしたわ。ノックというよりドアを殴ったわ。ヒビが入ってたわね。
「秘書艦ビスマルク!! 入るわよ!!!」
執務室のドアを開いた瞬間、豆板醤と甜麺醤の香りが部屋の中に充満しているのが分かって、お腹が鳴ったわ。……いけない。ここで気持ちが折れてはいけない。今日は提督にこの怒りをぶつけなくてはいけないのだから!!
提督は大火力の炎の前で中華鍋を振っていたわ。それにしてもあなた、なんて格好してるのよ! チャイニーズコックなのはこの前と変わらないけど、何その金ピカな服は?! 冗談にもホドがあるわよ?!
「ねえ提督?!」
提督は中華鍋を振るのをやめ、コンロの火を消すと、中華鍋の中身を大皿に移し替えた後、こっちを振り向いたわ。
―座れ
提督は、いつも以上に殺気のこもった鋭い眼差しで私を見つめたわ。この目で見られる度、私の心臓は恐怖で鼓動を早め、全身に嫌な緊張が走り、言われるがままに秘書艦の席に座ってしまう。
席に座った私の前に、提督は大皿に盛られた麻婆豆腐を持ってきたわ。
……ダメよ。
……ダメ。
…………朝から麻婆豆腐だなんて……反則よ……
私は理性を総動員させて、目の前の麻婆豆腐からたちこめる香りに抵抗したわ。このピリリとくすぐる豆板醤の香り……鼻ではなくお腹までダイレクトに届く甜麺醤の甘い香り……そしてそれらをまとう、純白の豆腐……ダメよビス子。今だけはダメ。
―よく見てみるがいい……
提督にそう言われ、私は麻婆豆腐をよく見たわ。そして、その時気付いてしまった。麻婆豆腐の下に隠れる、黄金色に輝くチャーハンの存在に、私は気付いてしまった……
「ぁああ……あああ……」
私のおなかが……全身がこの目の前の料理を欲しているのが実感出来る……食べなくとも口の中に広がる、豆板醤の刺激的な辛さと甜麺醤の暴力的なまでのうまみ……そしてそれらに包まれるのは、純白にして大豆のうまみを極限にまで濃縮した豆腐と、米と卵を炎で煽ることによって生み出された奇跡のチャーハン……私のイマジネーションが口の中に幻想の味を作り出し、全身がそれを直に味わいたいと懇願したわ。
―さあ……召し上がれ……
「うわぁあああああああああん!!!」
卑怯よッ!!! 卑怯よ提督!!! 麻婆豆腐とチャーハンを合わせるだなんて卑怯すぎるッ!!! こんなの美味しいに決まってるじゃないッ!!!
貪ったわ……ええ貪ったわ。額から汗を流し、自慢の金色の髪をかき乱して、みっともなくハフハフと音を立ててね……
―お前は離さん
なんか提督がボソッと言ってたけど、まったく聞き取れなかったわ……それよりも……また今晩も、恐怖におののきながら体重計に乗らなきゃいけないのね……提督と共にある限り、この恐怖からは逃げることは出来ないのね……
「まぁそういう幸せがあってもイイと思うクマ」
Duel noch weiter
訳:二人の戦い(いちゃいちゃ?)はまだまだ続くクマ。