同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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 川内と神通の基本訓練、艤装の概要説明、そして砲撃訓練。二人は異なる反応を示しながら学習と訓練を続ける。

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川内型の訓練2
夏休みの艦娘たち


 日曜日、那美恵たちは鎮守府には行かずにそれぞれ思い思いの過ごし方をした。それは艦娘の世界とは何ら関係のない、今までどおりの生活である。

 艦娘の生活も普段の生活も大事にする那美恵、学校外なので普段の生活を満喫できる流留、そして先週から本格的に艦娘の生活に足を踏み入れ始めたために今までの普段の生活に退屈を感じ始めていた幸。三人とも過ごし方はバラバラではあったが、普段の生活に新たな息吹が通るのを感じていた。

 

 日曜の夜、那美恵は居間でテレビを見ていたところ携帯電話の通知が入った。誰かと思って見るとそこには西脇提督からのメールの通知が表示されている。

「夜分遅く申し訳ない。突然だけど、明日月曜日から数日は1階女性用トイレは使えません。実はトイレの隣部屋を改装してシャワー等の入浴設備を作ることが決まったのです。俺は本業の都合上、今週前半は鎮守府に行けませんので、明石さんに現場の人との折衝を任せました。ですので君たちは気にしないでください。早く君たちに安心して訓練後にサッパリしていただきたく。これを念頭に置いて今週の訓練を進めて下さい。」

 

 見終わった頃に、今度はメッセンジャーの方の通知が入った。五月雨からだ。

「那珂さん!シャワー室がついにできるそうですよ!!楽しみですね~」

「おぉ?五月雨ちゃんの方にも連絡行ったの?」

「はい!那珂さんのほうもですか?もしかして、私達一人ひとりに知らせようとしてるんですかね~。どんだけ嬉しいでしょうか。提督ったら子どもみたい!」

 那美恵は五月雨の口ぶりに合わせて適当に相槌を打ったり言葉を返しておいてその日のやりとりは終えた。

 

 女性が多い現場、なおかつ汗をかくことが多い仕事なのでないほうがおかしい大事な設備、求められる設備。それがついに設置される。那美恵は普通に喜びを感じる部分と、これであの鎮守府もやっといっぱしの基地だと、失笑してしまう部分があった。

 ともあれこれで流留と幸に訓練後に人前に出しても恥ずかしくなく帰宅させることができる。那美恵は後輩の心配もしていた。

 

 

--

 

 日が明けて月曜日。那美恵と凛花は先週と同様に鎮守府に出勤した。すると、やはり先週と同様に幸がグラウンドを走っている光景を目の当たりにした。走っている幸が裏口から出てきた那美恵たちに気づくと、その周をやめずにそのまま走り続け、本館裏口の手前あたりで走りをやめ、ハァハァと激しい呼吸をしながら那美恵たちに近づいてくる。

 

「お、おはようございます。なみえさん。凛花さん。」

「うん。おはよーさっちゃん。」

「おはよう、神先さん。今日も早くから来たの?」

「……はい。私、一度習慣になればいくらでも続けられるので。」

 

 幸の頑張りに那美恵たちは感心しつつ、3人で本館に入った。廊下をテクテク歩きながら、先日提督が伝えてきたことを思い出してなんとなしにつぶやく。

「そーいえばさ、今日から工事だって言うけど、何時からなんだろ?」

「まだ大工さんたち来てないのを見ると、きっとこれからなんでしょうね。」

「明石さん、このあと忙しくないといいけどなぁ~。」

 那美恵が希望的観測を口にすると凜花と幸も相槌を打つ。更衣室、そして執務室までの道のりの途中、次に那美恵は先週うっすらと危惧していた事態に気づいてぼやく。

 

「さてと。一人足りないと思いますがね~、凛花ちゃんや、あの人どうしますかねぇ~~?」

 わざとらしく名前を伏せて、話題の人物の処遇をどうするか尋ねる那美恵。

「どうもしないわ。さっさと連絡しなさいよ。」

「ん~~~あたしたち先週から同じ時間に来てるんだから、いいかげん流留ちゃんも時間の感覚覚えてほしいんだよなぁ~~。」

 ブチブチ文句を言いつつも、那美恵は幸に流留へと連絡をさせた。時間にしてまだ9時になっていない。

 

「内田さん。おはようございます。今どちらですか?」

 今回は早く返信が来たので幸はやや驚いてメッセージを開いた。

「おはー。今日は頑張って早く起きたよ。今○○駅のところ。なんかね、今ちょうど夕立ちゃんと会ったよ。だから一緒にこれからバス乗ってすぐ行くよ。」

 流留からのメッセージの文面には、珍しく自分たち以外のメンバーが登場していたことに幸は更に驚いた。幸は早速那美恵たちに伝える。

 

「え?夕立ちゃんと一緒に?」

「はい。」

「なんだか珍しいわねこの時間に。あの子も任務なんかないでしょうし。」

 

 凛花の言葉に何か思い出した那美恵はすぐに触れた。

「あ、そういえば土曜日に五月雨ちゃんが帰ってきたときに、お土産あげることを夕立ちゃんたちにも話しておくって言ってたから、だから早く来たのかも。」

「だからって……。だいたいあの娘たち同じ地元なんだからそこで集まって渡し合えばいいのに。何も鎮守府に来なくたって。」

「まぁまぁ。彼女たちなりの事情があるんだよぉ~。」

 凛花が夕立たちの態度を気にかける理由の一端、それは真面目な彼女は鎮守府をあくまでも仕事場と捉えているがためのことだった。一方で那美恵はもちろんのこと、夕立たち中学生組の鎮守府の捉え方は異なっていた。

 

 

--

 

 十数分ほどして流留は鎮守府に到着した。流留は今度こそ怒られないようにまず更衣室に入り、着替えを済ませて川内になった。夕立はせっかく一緒に来たということで更衣室にそのまま付き合い、流留の着替えをぼーっと眺めている。

 

「よっし。川内参上!」

「わぁ~~~! 川内さんかっこいいっぽい!決めポーズ決めよ!」

「決めポーズ?」

「うん。テレビアニメのヒロインとかって必ずあるでしょ?川内さんなら似合いそう!」

 妙に同じ匂いを感じた川内は年下から褒められて若干照れつつも、夕立に合わせてノる。

「いいねぇ~!もしかして夕立ちゃんもアニメとかゲーム好き?」

「うん!よくね、月刊○○とか少女○○とか読むよ!アニメも。」

 夕立が打ち明けたその作品は、いわゆる少女漫画やアニメが掲載された雑誌だった。川内はそれを聞いて自分とはその好きの度合いが違うことを察した。察したし配慮もするが、遠慮はしない。

 その思いを作り出すのは、明石の時と同じく自分の趣味と合いそうな同志を見つけた時の喜びそのものだ。

 

「よーっし。それじゃあ夕立ちゃん。あたしについてこーい!」

「アハハーはーーい!」

 お互い初対面ではないがそれほど面識があるとはいえない間柄ではある。しかしながらお互いピンとクる感覚があったのか、片方のノリに乗るのは容易かった。つまり似た者同士だった。

 

 更衣室から出て階段を上がって上の階に来た二人。夕立が待機室に入ろうとしたのを川内が止める。

「ちょっと待った。那珂さんたち執務室にいるよ。ここには誰も居ないと思う。」

「え?那珂さんたち、てーとくさんがいないのに執務室使ってるの?いーの?」

「さぁ~……。本人いないんだからいいんじゃない?」

 川内の曖昧な回答を受けた夕立はそれ以上気にすることなく、開けようとした待機室のドアのノブから手を離して川内の方を向いた。そして川内は夕立を引き連れて執務室へと駆けていった。

 

 

--

 

 執務室では那珂・五十鈴・神通が訓練の打合せも早々に終わり、それぞれ別のことをしていた。そこに川内と夕立が勢い良くドアを開けて入ってきた。

 

「おっはようございます!川内参上!」

「おはよーございます!夕立も参上!」

 川内が適当なポーズを取ると、夕立がそれを真似してポーズを取り、二人揃って妙なポーズで那珂たちの前に現れた。

 

 ポカーンと見つめる那珂たち。そんな那珂たちをよそに川内は喋り始めた。

「那珂さん!今日はあたし早かったでしょ?」

「う、うん……そーだね。」

「あたしだってやればできるんだから。それに今日は夕立ちゃんっていうおまけ付きで2度美味しいですよ?さあ!!」

「あぁ、うん。うん。わかったヨ。せ、川内ちゃんもやれば早起きできるね~。うんうん。よかった。よくできました!」

「いや~それほどでも。」

 先輩から褒められて照れくさそうにエヘヘと笑う川内。

「そういえば夕立ちゃんはどうしてこんなに早く来たの?」

 那珂の問いかけに顎に人差し指を当てて唸りながら答えた。

「んーとね。さみがお土産持ってくるっていうから、先に来ちゃったっぽい。」

「にしたって、9時近くって早すぎじゃないの?」

 さきほど気にかけていたことを改めて本人に向けて五十鈴は言った。しかし言われた当の夕立本人はまったく意に介さない様子で説明を続ける。

「だってぇ~さみが来たらお土産すぐにもらえるようにしたいんだも~ん。」

 

 その行動理論がわからないが必要以上に気にすることもないだろうとし、五十鈴はもちろんのこと那珂も神通も苦笑いをして夕立を見るだけにした。

 

 

--

 

「さて、あたしたちは訓練始めるよ。」

「「はい。」」

 

 笑顔から一転して真面目モードになる那珂。その先輩を見て川内と神通も表情を切り替えた。いよいよ武器、その他艤装のパーツの説明と訓練に入るということで、川内はもちろんのこと、神通も新しい知識の入手に、心の中では沸き立つものを隠すのに必死であった。

 

「今日からはあたしたち艦娘が戦うのに大事な艤装の部位の説明に入ります。いくつか説明したあと、二人にはまず基本的な使い方を実際にいじって覚えてもらうよ。いい?」

「はい!待ってました!」

「……はい。」

 

 那珂の説明にさらに沸き立つ二人。川内は那珂に手招きをする仕草で早く工廠に行こうと急かす。

「ねぇねぇ!早く工廠行きましょうよ~!」

「まぁまぁ。そんなに慌てないでも艤装は逃げないから。」

 那珂はそわそわしだす川内と神通をなだめながら執務室を出て行く。3人に続いて五十鈴も出ようとしたその時、一人取り残される形となった夕立が五十鈴に声をかけた。

「4人とも行っちゃうの?」

「えぇそうよ。」と五十鈴。

「うーー。一人でいるのはやだなぁ~~。」

 夕立は急に寂しくなるのが嫌でたまらない様子をみせ、五十鈴に提案をする。

 

「ねぇねぇ!あたしもついてっていーい?」

「何言ってるのよ? いい、夕立。これは遊びじゃないのよ?川内たちのための訓練なんだから。」

「う~~でもぉ!! 一人じゃ退屈っぽいぃ!見るだけ!見るだけだからいいでしょぉ?」

 完全に駄々っ子が母親にねだる構図になっていた。五十鈴も夕立の扱いに困ってる人の一人だったので、こうも駄々をこねられてしまうと頭を悩ませてしまう。大きなため息をつき、仕方なく五十鈴は夕立の同行を許した。

「はぁ……わかったわ。けどこれだけは約束よ。絶対に川内と神通の邪魔はしないこと。いいわね?」

「うん!川内さんと神通さんの邪魔はしませーん!!」

 夕立からの天真爛漫さ抜群の返事を聞いた五十鈴は眉間を抑えつつ、再びため息を付いた。

 

 先に出て行った那珂たちを追いかけるように小走りで進む五十鈴と夕立。やがて本館の正面玄関を出た少し先で追いついた二人は説明をして那珂たちを納得させた。

 説明で触れられた夕立は無邪気にキャッキャと笑ってはしゃいで那珂たち4人のあとについていくのだった。

 


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