同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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基本訓練(水上移動総括)

 翌日、土曜日も4人は前日までと同じ流れで訓練を進める。川内のほうは荒削りで細かい制御がまだできていないながらも、水上移動自体は五月雨や夕立たちと変わらぬレベルにまで達していた。神通はやる気はあって練習の密度もあるのだが、体力が足りずに思うように進めずにいる。

 

 この日も幸は那美恵たちよりも先に来て、グラウンドで走りこみをしていた。地上を歩く・走るのと水上を歩く・移動するのは何もかも感覚が異なるのが前日までに身にしみてわかってきていた幸は、その走りこみは単に体力をつけるためだけにしかならないと感じ、とにかく無理せず毎日続けられるように、周を一旦減らし、少しずつ距離を増やしていくことにした。訓練を始める前に疲れ過ぎないことを念頭においたプログラムだ。

 那美恵たちが来るまでの間、余った時間は艤装を持ってプールに行こうと考えていたが、鍵を持っているのは那美恵、工廠にはまだ明石たちが出勤してきてなかったため艤装を出そうにも出せず、暇を持て余すことになってしまった。

 

 ふと思いついたことがあり、幸は本館の裏口からグラウンドまでの短い距離にある沿道にテクテクと歩いて近寄っていった。バランス感覚を磨くならば、この縁石が使えるのではと頭に思い浮かんだのだ。試しに縁石に片足を乗せ、体重をかけてもう片足を地面から上げて縁石に乗せる。これで完全に縁石に乗った形になった。細い縁石の上、彼女は何気なく乗っただけなのでバランスが取れずにすぐに地面に降りてしまうがもう一度乗り、縁石の上を一歩また一歩と歩き始めた。

 これは使える!幸は実感とともに、何やら心にワクワク湧き上がる波のようなうねりを感じていた。つまり遊びのように楽しくなってきていた。裏口の扉に近い方から縁石に乗り、速度を毎回変えて縁石の上を歩く(走る)。そうしてグラウンドに近い方の縁石で降りる。

 それを何度か繰り返し、幸は那美恵たちが来るまでの時間を潰した。

 

 

--

 

 というような光景を、那美恵と凛花は本館裏口の扉を開けずに側の窓からじっと眺めていた。

「あれ……なにかしら?」

「うーん。ま、いいんじゃない?本人めっちゃ楽しそーだし。」

 凛花と那美恵が感想を言い合っていると、本館裏口側に戻ってきた幸と窓越しに目が合ってしまった。

 

「「「あ。」」」

 

 

 那美恵が扉を開けて声をかけようとすると、幸は耳まで真っ赤にしてグラウンドへ駆けて行き、東門のほうへと走り去ってしまった。

「あーあ。さっちゃん行っちゃったよ。そんな恥ずかしいことでもないでしょーに。」

 那美恵があっけらかんと言うと、凛花が静かにツッコんだ。

「一人の世界に没頭してるの知られたら誰だって恥ずかしいでしょうに。あんたにもそういうことあるでしょ?」

「まぁね~。そういう凛花ちゃんにもあ

「はいはいあるわよあるわよ。彼女追いかけるわよ、ホラ。」

「うー、有無を言わさずかよぉ……」

 茶化しキャンセルをされた那美恵は不満気に凛花の背後についていった。

 

 凛花と那美恵は玄関から出て、右手側をぐるりと回って駐車場の側の道路を通り、東門に向かった。すると駐車場の端でバッグに頭をうずめてうずくまっている幸を発見した。

「うわっ、めっちゃ恥ずかしがってる。あれだと余計に恥ずかしいと思うけどなぁ。」

 那美恵の意見に同意だったのか凛花は短く「えぇ」とだけ言って相槌を打った。

 二人が幸の側まで近寄ると、平静を取り戻しつつあったのか幸はゆっくり立ち上がり、那美恵に向かってなぜかお辞儀をした。那美恵はそれを受けて何を言おうか一瞬困ったが、当り障りのないところで幸の朝練を労った。

「さっちゃん。今日も朝から自主練お疲れ!えーっと、まぁアレですよアレ。あたしの指示守ってやってくれてるようで何よりですよ。うん。ドンマイ!!」

「うぅ……普通に、茶化してくれたほうが……まだいいです。」

 

 

--

 

 本館に入り、着替えを済ませた3人は執務室で話していた。

「水上移動の練習の代わりに?」

「……はい。バランス感覚を鍛える練習になるかと思って。」

 さきほど自身がしていたことの真相を打ち明ける神通。那珂はそれを聞いて苦笑いをする。

「まぁ時間が時間だったしね。明石さんたち出勤前だったなら仕方ないね。だったら今度から明石さんか誰か、一番早く来る人の時間聞いてそれに合わせて来れば?あとで時間聞くといいよ。」

「そ、そうですね……ちょっと考えてみたいと思います。」

 やや恥ずかしさを残していた神通は戸惑いながら返事をした。

 

 神通は来ているが、川内はまだ内田流留として自宅で居眠りこいている状態だとその場にいた全員が容易に想像出来ていた。ひとまず神通に連絡を入れさせた那珂は川内抜きで一足先に訓練を始めることにした。

 もちろん目的は、差がついてしまった神通へ比重を置くためだ。

 

 工廠で艤装を受け取り演習用プールにやってきた3人は早速訓練を始めることにした。しばらくは講師2人に生徒が1人というフルバックアップ体制である。

「神通ちゃん。今日は昨日よりスピードあげてやってみようか?」

「はい。」

「神通ちゃんの午前の目標はね~、方向転換ができるようにしよっか。昨日の川内ちゃんみたいな障害物避けるところまではしなくていいから、普通の速度で方向転換して移動がスムーズになるようにね。」

 那珂から本日の目標を定められた神通は昨日の那珂の様を脳裏に焼き付けていたため、やる気に燃えていた。無理はするなと言われていたが、多少無理してでも上を目指したい。大人しい性格な神通ではあるが、内に秘める思いは活発になり始めていた。

 

 神通は先日と同じ速度で発進、移動し始めた。程なくして速度をじわじわと上げる。その調整は非常に細やかなものだ。

「へぇ……川内ちゃんとは全然違う……」

 那珂は目の前でゆっくりと進む少女の動きを見て一言そう漏らした。那珂は気づいたのだ。神通の艤装の制御は五月雨たち、下手をすれば自分らと同じかそれ以上に丁寧に細かく出来かけていることに。神通の集中力はすさまじいもので、那珂と五十鈴が脇から感嘆の声を上げてもまったく動じないほどだった。

 なんだ、やればできるじゃないの、と那珂は思った。那珂がなんとなく予想したとおり、神通は一旦集中して取り組めば周りの声や動きに影響されないでやれる。そのことに気づいたので那珂は満面の笑みを浮かべ、神通の未だスローだが着実にスピードを上げて進んでいく様を眺めていた。

 

「神通ちゃん。そのまま体重を右にかけてみて。足先だけはそのままで、すねから上を傾けるイメージで。」

 那珂は神通の成長のために助け舟を出すことにした。だんだん距離を伸ばしつつある神通は先輩の言ったアドバイスどおり、スピードはそのままに、体をゆっくりと傾けた。すると神通の進行方向は右に傾きだした。

 

「あ……あ、はい。……はい。」

「そーそースキーやスケートと同じ感じでね。」

「……スキーとかスケートって……こんな感じなんですか? あ……このあとは?」

「逆に傾けてみて。……って、神通ちゃんもしかしてスポーツ全般ダメ?」

 

 神通は那珂のアドバイスどおりに今度は体を逆に傾けて進行方向を微妙に変えて進みながら答えた。

「ダメと言いますか……ほとんどやったことないです。学校の体育以外で唯一あるといえば……お散歩くらいでしょうか。」

 

 その返答のあと、プフッと吹き出したのは五十鈴だった。何事かと那珂と神通は五十鈴の方を振り向く。

「あ、ゴメンなさい。でも散歩って……。それ運動じゃないわよ~」

「五十鈴ちゃ~ん、笑ったら失礼だよぉ~」

「そう言いながらあんたもにやけてるじゃないの。」

「だってぇ~~。はっ!?」

 

 クスクスと笑いかけていた那珂と五十鈴が気づいて見た時は、神通は顔を真赤にして俯いて停止してしまっていた。

「あ!あ!ゴメンゴメン! 笑っちゃって悪かったよぉ~」

「い、いいですいいです……!どうせ、私なんか運動ダメで艦娘に向かないんです……!」

「拗ねないでよぉ~神通ちゃ~~ん。」

 

 笑われて拗ねる神通をなんとかなだめた那珂と五十鈴は改めて彼女の運動経験の無さを踏まえて訓練の進め方を話し合うことにした。

 

「コホン。えーっと、神通ちゃんが運動らしい運動の経験がないことは大体わかりました。ホントならスケートくらいはやったことあるとスムーズなんだけど、それじゃあ改めて。」

 わざとらしく咳をして話しだす那珂。言葉の途中で自身の実情に触れられたので神通はしょげたが五十鈴はあえてフォローせずに話を進めるのに任せた。

「スケートやったことあればね、体の傾きとか足の出し方とか諸々似てるから伝えやすいんだけどね。まぁスキーでもいいんだけど。」

「そうね。滑るスポーツを一度でもやったことあればイメージもしやすいし体の動かし方もすぐに対応できると思うわ。」

「……私、ウィンタースポーツだってまったくやったことありません。」

 五十鈴も那珂と同じイメージを抱いていたのでアドバイスを出したが、二人の説明を受けた神通はダメ押しでさらに自分の運動経験の無さを語って二人を悩ませる。

「うーんそこなんだよねぇ。」

 那珂は後頭部をポリポリ掻きながら悩ましい問題点を指摘した。

「ま、神通ちゃんの滑るスポーツの初体験が艦娘の水上移動ってことで、一から覚えてくれればいっか。そのうち鎮守府のみんなで冬とかにスケートやスキー一緒に行こ?」

 

 那珂は神通の前方に十分に距離を離したところまで移動する。五十鈴は神通の横に移動したのちやや距離を開けた。神通の水上移動の訓練には方向転換が加わるため、十分距離を開ける必要があった。

「それじゃあ改めて再開。さっきあたしがアドバイスしたことをすれば簡単に方向転換できるよ。普通のスケートとかと違うのは、艤装がバランス取りを助けてくれるから、よっぽど極端に変な体勢や思考をして傾けない限りは転ばないから大丈夫だよ。」

「……はい。やってみます。」

 

 神通は発進しはじめ、しばらく進んだ後に那珂からアドバイスを受けたとおりに体を傾けた。今度は、初めて意図した方向に向けて曲がって進むことができた。その次の動きとして逆方向に体を傾ける。また曲がって進む。そして最後は体をまっすぐにして直線で進み、やがて神通は止まるイメージをして動きを止めた。

 

「……はぁ。ふぅ……。もう一度します。」

 

 神通は足を水面から上げて逆方向を向き、先ほどと同じ動きをプラスして進み始めた。

 那珂と五十鈴はその動きをじっと見守っている。

 神通はさっきよりもスピードを上げ、体を傾ける。つまさきをずらさないように、右足の土踏まずを水面から離し、左足の土踏まずを水中に沈めるように重心を傾けた。スピードが早まった分、早く右斜め前へと進んでいく。安定して曲がっている感覚を覚えた。

 

 しかし疲れる。

 

 訓練で神経と体力を使っているという疲れもあったが、神通は取っていた姿勢でも疲れを感じていた。自身が告白したようにスポーツらしいスポーツをしたことがなく、身体の使い方のコツがわからない。そしてここまで神通はスキーの初心者よろしく、ずっとおしりを後ろに下げ腰が引けた状態、いわゆるへっぴり腰の状態で練習していた。

 那珂と五十鈴は気づいてはいたが、恐怖が先に来てしまう初心者の気持ちはわからないでもなく、ある程度慣れるまでは本人の好きにさせておこうと、あえて触れないでいた。

 

 疲れが溜まっていくのを感じていたが、とにかく停止するポイントまでは進もうと決め我慢して神通は移動を続けた。何回かの蛇行を繰り返してようやく停止ポイントまでたどり着いた。これで1往復した形になった。

 それを見届けた後那珂は口を開いた。

 

「うん。身体の傾けから体重のかけ方、わかってきたみたいだね。もう一回やってみよっか?」

「えっ……? あ……はい。」

 

 休む間を与えず那珂は指示を出す。神通は文句を言わずにその指示通り再びもう一往復し始めた。

 

 

--

 

 神通からメッセンジャーで連絡を受けた流留は目を覚ましてそのメッセージを見て、驚きベッドから飛び起きた。2時間半前だ。部屋の時計を見ると、すでに10時を過ぎて半近くなっていた。こうも毎日一人だけ遅いと、あの生徒会長でも激怒するに違いないと、彼女の厳しさの一旦を垣間見ていただけに想像に難くなかった。流留は急いで着替え、朝食もほどほどに家を飛び出していった。

 今からだと間違いなく11時半を超える。ヘタすると鎮守府に着く頃には昼食の時間だ。さすがにこの遅刻っぷりはまずいと流留は焦りに焦りを感じていた。とりあえずメッセンジャーで幸経由で那美恵に連絡を入れる。しかしそのメッセージを二人が見たのは、午前の訓練が終わってからのことだった。

 

 流留が想像したとおり、電車とバスを乗り継いで鎮守府に着く頃には、すでに11時35分を回っていた。時間的に那珂たちは演習用プールにいる頃だろうと想像した流留はひとまず本館に入り、更衣室で着替えて川内になり、覚悟を決めて工廠へと向かった。

 工廠に入って身近な人に艤装を取り出してもらおうとそうっと入ったところ、偶然明石と一番仲の良い女性技師に出会った。一応面識がある女性だったので川内は早速話しかけた。

 

「あのぅ。あたしの、川内の艤装出してもらえませんかぁ……?」

「あら川内ちゃん。今日は遅いのね。もう那珂ちゃんや神通ちゃん訓練始めてだいぶ経つわよ?」

「アハハ……はい。なのでこっそり艤装出してくれると助かります。」

 女性技師は川内の態度に呆れて苦笑いしつつ、望み通り川内の艤装を運びだしてきた。歳が一回り近く離れた少女を見て、こんな感じで遅刻してくる子、クラスに一人はいたっけなと思い返してなんとなく同情の念を感じていた。

 

 

 脚部の艤装だけ手に持ちプールの正面の入口から入ろうとしたが、ここは少しでも良い所を見せて先輩二人の気を引いて怒りをそらそうと企んだ。プールの正面出入り口から工廠に戻り、女性技師に断りを入れて演習用プールへと続く屋内の水路へと向かった。

 そういえば、水路から発進するのは初めてだったと気づいたが、ここまで慣れたのだ。イケるだろうとふむ川内。水路に降り立つ前に同調し、ゆっくりと水路脇の短めのスロープを歩いて水面に足をつけた。続いてもう片方の足をつけ、川内は完全に水上に立った。

 思った通り、水路といってもプールとなんら変わらないじゃないの。少し構えて考えていただけに川内は拍子抜けをした。

 

「よーっし。行っくぞー!!」

 工廠内と演習用プール、距離はもちろん何枚もの壁があるため聞こえるわけはないのだが、川内は小声で掛け声を出して水路から発進し、あっという間に屋根のある工廠から湾へと飛び出していった。

 そして川内は演習用水路を少し進んだところで横に空いた脇道に曲がり、湾とプールを遮る凹凸を越えるべくジャンプしてプール側の水路に入った。

 

 

--

 

「川内、参上しましたー!」

 

プール脇の水路から飛び出てきた川内に那珂たちはその大声に驚いて振り向いた。

「川内ちゃん!?」

「川内……さん?」

 

 驚いたあとに那珂から飛び出した言葉は、川内の想像通りの内容だった。

「コラー!!おっそーい!少しは神通ちゃんを見習いなさーい!」

「うわぁ!ごめんなさい!!」川内は頭を抱えるような仕草をしていつもの軽めの口調で謝った。

 

「いくらなんでもこうも毎日だとね……そりゃ那珂だって怒るわよ。」

 五十鈴は那珂のように怒るわけではなく呆れ返っていた。

 

「だ、だからせめてものおわびに、成長した証を見せようと思って水路使って来たんですよ~。」

 普段の彼女の態度そのままでまったく反省の色を見せていないその口ぶりに那珂はまた叱る。

「謝るんならちゃんと謝りなさい!川内ちゃん、たまには早く起きてこようって気にはならないの?神通ちゃんは早起きしてあたしたちより早く来て自主練してるんだよ?」

「え!?神通連続で早く来てるの?」

 川内は目を見開いて機敏に頭の向きを変え神通をみつめる。異様に驚く様を見せる川内の視線に気づいた神通は恥ずかしそうに顔をうつむかせ、垂れた前髪をさらに垂らして顔を隠す。

 

「う……明日から善処します。」

 さすがにこれ以上軽い態度をして先輩を怒らせては夏休みはおろか2学期始まってからの唯一の拠り所たる人との学校生活に支障をきたしかねないと本気で危険を感じた川内は顔を曇らせて再び謝った。その表情と声に本気を感じたのか、那珂は一言だけ言って訓練を再開する音頭を取った。

「その言葉、信じるからね。……さて、それじゃあ二人の本日の訓練を改めて始めたいと思います。」

 

「待ってました!」

「……(コクリ)」

 

 川内の調子良い掛け声を無視して那珂は説明を始めた。

「今日も水上移動の続き。だけど今日で水上移動自体は一旦終了して、次のカリキュラムに進もうと思ってます。だから、各自伸ばしたいところ、苦手を克服したいところ、みっちり自分たちのペースで繰り返し練習してみて。」

 

「「はい。」」

 

 その後、お昼までの数十分間、川内と神通は思い思いに繰り返し練習した。すでに自在に動ける川内は、もう一度水路からの出撃をすると言って工廠に戻り、数分して再び演習用水路から飛び出してプールに姿を表した。

 神通は、先刻までの那珂から受け取った曲がり方のアドバイスを思い返し、直線+蛇行の移動の練習を再開した。

 

 口を挟まないことにしていた五十鈴だったが、どうしても黙っているのを我慢できず、神通にアドバイスをした。

「神通、これだけ言わせて。あなた姿勢悪いからもうちょっと背筋を伸ばして、腰を前に出してみなさい。」

「え……でも、怖い……です。」

「スキーもスケートもそういう人いるんだけど、腰を引いて姿勢が悪いほうがむしろ怖くなるのよ。艦娘の艤装はスキーとかと違って姿勢低くしてもスピードに変わりはないし、バランスは艤装が調整してくれるからいいんだけれどね。でも艦娘は長時間水上を移動するし、身体面と精神面の両方で疲れが出てくるから、姿勢をなるべく普通にして余計な疲れを出さないようにしないといけないのよ。もちろん艤装の種類によっては前傾姿勢にならないといけない場合もあるけれど……少なくともあなた達川内型は直立で全く問題ないはずよ。」

「はぁ……なんとなくわかるんですけれど、どうしても……。」

 言いよどむ神通を目にして、五十鈴は彼女に近寄り、ちょっと失礼と言って神通の腰からお尻にかけての部分にそっと手をあてがって触れた後、前へとグッと押した。

 

「きゃっ!」

 

 一瞬の悲鳴とともに神通の姿勢は五十鈴や那珂と同じように、地上で普通に立っている時と同じように直立姿勢になった。

 

「地上で同調して歩いた時は姿勢良かったでしょ?怖がらずにこの姿勢でやってご覧なさい。」

「……はい。」

 

 神通は直立姿勢のまま発進した。スピードがノッてくると再び腰がどんどん引けてきてお尻を突き出した姿勢になってきたが、すぐに意識してすんでのところで腰の動きを止め、スピードを調整しながら腰とお尻の位置を戻し始める。

 直立とまではいかないが、中腰よりも角度がわずかに浅いくらいにまでは姿勢は戻っていた。そしてそのまま重心を右に左に、そしてまた右にと変えて蛇行をし、停止ポイントまでたどり着いた。再び同じことを繰り返して1往復、2往復、3往復と繰り返したところで那珂からの合図が聞こえた。

 

「はーい!二人とも。お昼にしよ。休憩だよ~」

 

 二人はまだやりたいと食い下がっていたが那珂はピシャリと注意して強制的に止めさせた。

 

 

--

 

 午後になり夕方。那珂は神通がある程度深い角度まで曲がって蛇行できるようになっていたことを確認し、ブイを使うと宣言した。ブイを4人で運び出し、那珂の指示通りにプールにアンカーを沈めてブイを所定の位置に浮かばせる。

 ブイを使って練習したことのある川内はその妙な配置に疑問を持った。

 

「あの……那珂さん?このブイの位置ってなんか意味あるんですか?この前あたしがやったときとは違うし。」

「んふふ~。よく気づきました!」

 那珂は満面の笑み(ただし若干企んだ表情)をして腰に手を当てて胸を張り、川内と神通に説明し始めた。

 

「神通ちゃんもある程度曲がれるようになったし、水上移動の締めくくりとして、このブイのコースを迷路に見立てて移動してもらいまーす。」

「「迷路?」」

 

 川内と神通が改めて眺め見たプール全体とブイの配置は確かに線で繋げば迷路のような配置になっていた。それほどブイの数があるわけではないので複雑なコースではないが、やり方によってはいくらでも複雑な移動パターンを作り出すことができそうな配置であった。

 

「あたしがコースを辿るから、二人はそれを辿ってみて。あと五十鈴ちゃん。」

「なに?」

「五十鈴ちゃんにもそのコースをお手本として辿ってもらうから、しっかり覚えてね?」

「わ、私もやるの!?」

「もち。先輩の威厳をここでみせよー。」

「はぁ……わかったわよ。やればいいんでしょ。」

 

 五十鈴の了解を得た那珂は、コースのスタートポイントと思われる場所まで移動し、しばし考えた後発進した。

 那珂の移動は以前と同じく波しぶきがほとんど立たない移動だったが、曲がるときに限って思い切り波しぶきを立てて曲がった。

「? なんで那珂さん、ところどころで波立てるんだろ?」

「気づかないの?」五十鈴は川内に問いかけた。

「はぁ。」

 気の抜けた川内の返事を受けて五十鈴の代わりに答えを教えたのは神通だった。

「私たちに、コースの形を印象づけて教えるためだと思います。」

「はい、神通正解よ。」

 

 思い切り波しぶきを立てることで那珂はコースのコーナーを強調していたのだった。本当ならば色違いのブイを使えばいいことだが、完全なコースを設置できるほどのブイの数が用意されていないのでそうする他なかった。

 

 

--

 

 3人の元へ戻ってきた那珂は念のためとして再び同じコースを辿って教えた。そして再び戻ってきた後、五十鈴に向かって言った。

「さ、まずは五十鈴ちゃん。お手本見せてあげて。」

「……やるのはいいけれど、どういう方針でやればいいわけ?」

「ん~~~それは五十鈴ちゃんにお任せしちゃう。まぁ、二人が参考になるようなことしてくれればそれでいーよ。」

「くっ……また難しい注文ね。」

 

 五十鈴は苦々しい顔をしながらもコースのスタートポイントまで移動した。発進する前に大きく深呼吸をして気持ちを整える。任せるとは言われたが、五十鈴は自由に任せるとされるのが苦手だった。

 仕方なく、自分の得意分野である記憶力と正確性を胸に発進した。

 

 五十鈴の移動とカーブでのターンは、那珂のそれを髣髴とさせる動きだった。若干の違いはあるものの、那珂の辿ったコースと軌跡をほぼそのまま辿って那珂たちの側へと戻ってきた。

「……と、こんなものかしら。」

「うわぁ~五十鈴ちゃんすげー再現率ー。」

 那珂は五十鈴の動きに始めのほうで気づいていたが、自身の辿ったコース・動き等をきっちり再現した五十鈴に改めて驚きを見せた。

 

「え?え?五十鈴さん普通に進んじゃないの?」

「……多分、那珂さんの進み方や曲がり方を忠実に再現したのかと。」

「うわぁ~よく覚えてるなぁ~。あたしもう忘れちゃったよコース。」

 川内は那珂の辿ったコースを2回だけでは覚えられていなかったので五十鈴の記憶力に感心しまくっていた。そんな川内を見て神通はアドバイスをした。

「……川内さんは、ゲームに例えればいかがでしょうか?自分の好きなもので例えたほうが覚えやすいかと思います。」

「って言われてももう那珂さんのデモ終わっちゃったし、どうしようもないよ。」

 

 神通のアドバイスを受けるも、覚えるべき内容がもうデモンストレーションされないために諦めの様子を見せる川内。そんな同期を見て神通は静かに言った。

「私が…先に行きます。」

 大人しい神通の突然のやる気発言に驚いた川内は神通を見つめて確認する。

「えっ?先に?だ、大丈夫なの?」

「大体覚えてますので。それにまだスピード出せないのでゆっくり見せられるかと。」

「うーん。だったらいいけど。」

 川内は言葉を濁しつつも、そのやる気を削がないように神通のしたいがままにさせることにした。

 

 

--

 

「それじゃ~ね~。次はどっちにやってもらおっかなぁ~~?」

 那珂は川内と神通を行ったり来たり指差しして順番を決めようとした。その最中、神通は「ふぅ」と一息ついた後、意を決して口を開いた。

「あ、あの……!私に先に行かせてください。」

「おおぅ!?神通ちゃんやる気に満ちてるねー!よっし!じゃあ神通ちゃん行ってみよっか?」

「……はい。」

 

 那珂から合図を受けた神通は緊張の面持ちで3人の前に出てスタートポイントまで移動し、発進前の深呼吸をした。そして神通はゆっくりと進み始め、コースへと入っていった。那珂は神通の動きを目で追い続け、五十鈴は記録のために携帯電話のカメラを構えて録画をし始めた。

 

 コースを進み始めた神通は直線コースはできるかぎり速度を上げて進み、コーナー直前でスピードを極端に落としつつ大きめの角度でもって曲がって次の直線や蛇行のコースを進む。途中、角度の深いコーナーで大きめの角度で曲がれそうもない箇所では徐行運転に近い速度まで落とし、水上を歩いて角度を次へと進めた。

 その動きは今朝まで曲がれずにいた運動経験のない人のものとは思えないほどの動き、そして任務遂行に支障がやっと出なくなる程度には十分移動力のある水準に達していた。

 神通の動きを見ていた那珂と五十鈴は話し合う。

 

「あれだけ動けるようになればひとまずいいんじゃない?」

「そーだねぇ。止まったりターンするときにまだどうしてもスムーズじゃないけれど、それ以外はいいよね。神通ちゃんはさ、あれは運動苦手とか音痴とかそういうことじゃないんだろうね。」

「ん?どういうことかしら?」

「運動の経験がほとんどないからただ感覚がわからないだけ。体力がないのは致命的だけど、ホントはちゃんと運動やれば結構いい線行けるんじゃないかなと思うの。あとは思い切った冒険しないだけなんだと思うな。」

 五十鈴は相槌を打って那珂の言葉に耳を傾けている。

「そんな神通ちゃんがなんで我先にって感じで一番手を名乗ったのかわからないけれど……ああいう思い切りをしてくれると今後も助かるんだけどねぇ。」

「そうね。そのほうがこちらも張り合いがあるわね。」

 

 やがて那珂たちのもとに戻ってきた神通は、せめてオリジナリティを見せようとしてスキーばりの止まり方をしようと身体と足の向きを瞬間的に変えた。すると艤装がバランスを制御しきれなかったのか、神通はミサイルのように頭から水面に突っ込んで転んでしまった。もちろん全身びしょ濡れである。

 神通が急に頭から突っ込んでいったように見えたので、那珂と五十鈴は頭に!?を浮かべて同時にツッコミを入れる。

 

「「な、なにしたかったの?」」

 

 水面から起き上がった神通は先輩二人から同時にツッコまれて顔を耳まで真っ赤にしながら弱々しい声で答えた。

「か、カーブして止まりたかった……のですけれど。」

 ようやく彼女の意図を理解した那珂はツッコミ混じりのアドバイスをして神通のコース挑戦を締めくくった。

「あのね、弧を描いて綺麗に曲がりたいならそんなまっすぐ進んでるときに急に方向変えたらダメだよ……そりゃ艤装だって制御しきれずに転ぶって。」

「は、はい……気をつけます。」

 五十鈴がピシャリと注意すると神通は頬を赤らめながら謝るのだった。

 

--

 

 神通は川内の近くへと戻り、小声で語りかけた。

「あの……いかがですか?私の進み方で覚えられました?」

「うー多分。とりあえずやってみるよ。」

 

 川内は神通の助けを借り、ゲームで例えろとのアドバイスどおり神通の動く様をゲームキャラに見立ててコースの覚え直しをした。自分の好きな分野とあらば覚えられそうな気分がしてきたが、スクリーンを見てするのと現実のものを見てするのでは当然ながら感覚が異なっていた。同僚の厚意に甘えてはみたが、正直言って無理だった。

 どうにか半分程度は覚えられたが神通が終わった瞬間、川内がせっかく記憶したコースは綺麗に雲散霧消した。 その原因は最後にすっ転んだ神通のおもしろドジだった。だが吹いてしまいましたなんて、口が裂けても言えない。

 厳密な試験でもないのでどうにかなるだろうと前向きに考えることにした川内は両頬を軽くパンッと叩き、掛け声をあげてコースの入り口に移動した。

「よし。うだうだしてても始まらない。いっくぞー!!」

 

 川内は力を溜めてダッシュするヒーローやレーシングゲームでスタートダッシュするカートを頭に思い浮かべ、艤装にその爆発的ダッシュのイメージを伝える。川内は構えて後方に置いていた左足を蹴り飛ばしたその瞬間、その足から極大の衝撃波が発生し、川内の身体は前方へと押し出された。このようなダッシュは自由練習の時に何度か行っていたため、その後のバランス取りは慣れていた川内はすぐに上半身を低くして前方に出し、スピードが落ち着いてノってきたところで姿勢をゆっくりとまっすぐに戻していった。

 

 最初のコーナーは曲がる際に見を低くして重心を下げて豪快に水しぶきを巻き上げて曲がった。そしてまっすぐ、蛇行、再び曲がり角たるコーナーを過ぎていく。

 ただし本人も不安がっていたあやふやな記憶力のため、途中の曲がり角を構成していたブイを連続で間違え、戻るたびにコースがだんだんわからなくなっていった川内はもはや正常なコース辿りを半分諦めていた。

 川内の進む様子をじっと見ていた那珂と五十鈴同じような感想を持ち同じように呆れ返っていた。

 

「あらら……川内ちゃん、もうあたしの見せたコースから完全に外れちゃった。覚えてなかったんだろーか。ありゃひでーや。あれはあれで見てて面白いけどやっぱひでーや。」

「途中までは良い線行ってたように見えたんだけどね……。しっかしレーシングカーのドリフトばりに豪快で気持ちいい曲がり方ねぇ。あれだけは褒めてあげたい。」

「アハハ、同意。でもホントならもうちょっと静かに綺麗に移動して欲しかったけどなぁ。」

「まあまあ。誰もがあなたのような立ち居振る舞いできるわけじゃないんだから。」

「うーーん。あれが川内ちゃんの個性だと思えば……とりあえずいっか。」

 

 川内の水上移動の仕方に若干の不満を残しつつも、那珂はひとまず基本としての水上移動はこれで終いとし、締めくくることにした。

 やがて戻ってきた川内はすでに大幅に間違えていたことに悪びれるわけでもなく、ケロッとした態度で那珂たちに声をかける。

 

「川内、終わりましたー。」

「はい。ごくろーさま。まぁ合格とか不合格とかいうつもりはないから。おっけーだよ。」

「やったぁ!」

 飛び跳ねて喜ぶ川内。彼女の左後ろには静かに移動してきた神通が立ち止まる。神通が背後に来たことに気づいた川内は上半身だけを神通の方に振り向かせ、小声で声をかけた。

 

「ありがとね、神通。あたし馬鹿だから余り覚えていられなかったけど、感謝してるよ。」

「い、いえ……。」

 

 川内と神通の二人が何か話しているのに那珂は気づいたが特に気に留めず、今回の練習の意図を伝えて締めくくった。

「二人には複雑な移動を今の時点でどれだけできるようになったか、その場その場に適した移動の仕方がどれだけできるかを分かってしてもらいたかったの。もちろんあたしや五十鈴ちゃんが把握するためでもあるけどね。ここまでできれば、基本としてはおっけーかな。あとは色んな状況に見立てて練習して経験積んでけばいいよ。」

「「はい。」」

 

 

--

 

「よーっし。それじゃあ、二人とも、お疲れ様。これで水上移動の訓練はおしまい。」

「はぁ~~!!やっと次へ進める~~!」

「私はもう少し……これやりたいですけれど……。」

 

 那珂の言葉を受けて川内と神通はそれぞれの反応を見せるも本気で抵抗するつもりはなく、先輩の指示に従うことにしていた。

 那珂と五十鈴は水路に向かい、川内たちに確認した。

 

「そーいえば川内ちゃんは水路使って入ってきたけど、どうだった?今度からこっちから行けそうかな?」

「はい!大丈夫です。」

「あとは……神通ちゃんだけど、どう?今帰り試しに使ってみる?」

 

 普通に今までどおり歩いてプールから帰ろうと考えて同調を切る心構えをしていた神通はいきなりの提案に戸惑う。

 

「あの……私は……海に出るのがちょっと怖いです。」

「あ~~、今までは底が見えてるプールだったもんねぇ。まぁでも細い水路だから大丈夫だよ。行ってみよ、ね?」

 神通は悩んだが、プール以外も早めに経験しておかなければ同期に置いてかれる・足を引っ張りかねないという不安を持ちだした。恐怖のほうが依然として強いが一度もたげた不安をそのままにしたくない。意を決した。

「わ、私も水路試してみます……!」

 神通の宣言を聞いた3人はうなずいたりニコッと微笑んでその意思を評価した。

 

 水路は先頭川内、那珂、神通、そして一番後ろに五十鈴という順番で通ることになった。海と川に直結している湾のため水深はさほどでもないがそれでもプールよりも深く、神通の恐怖は消えない。それが普段よりもビクビクしている様子でひと目でわかるほどだった。

 実はまだプール側の水路の途中ではあるが、すでに神通は怖がっていた。

「神通ちゃん?まだプールだからそんなに怖がらなくて大丈夫だよ。」

「……(コクリ)」

 頷くが顔は完全にこわばっている。振り向いていた那珂の背後から顔を乗り出して見せた川内が神通に声をかけて鼓舞するも、その様子は変わらない。

「神通!あたしだって午前に初めてやったけど全然変わらなかったんだから、そんなビクつかなくて大丈夫だよ。」

「彼女のいうとおりよ。プールの水だって海水だって私たちは変わらずに浮いて進むことができるんだから。艤装を信じなさい。」

 五十鈴も安心させるために声をかける。

 

 3人から励まされつつ神通はやがてプールと湾の境目の凹凸部まで来た。境目には水が混じらないようにするための壁がある。川内はそこをジャンプして飛び越え、次に那珂が続……かなかった。

 那珂は五十鈴に合図を出し、水路とプールサイドの間の壁にあるスイッチを押させた。すると壁は水路側に向かって底の部分からずれ始め、ジャンプ台のように坂ができた。

「え゛? なんですかそれ!?」

 真っ先に声を上げたのは川内だった。那珂は川内のさきほどのジャンプをここに来てようやくツッコむ。

「湾とプールの間の水路の壁は可動式になっててね、海からでもプール側からでも移動をなるべく妨げないようにスムーズに入れるようになってるの。だからぁ~、今の川内ちゃんみたいに大げさにジャンプして飛び越えなくてもいいんだよ。」

「言われなきゃわからないわよね、これ。私だって一番最初はわからずにジャンプしたもの。五月雨なんかジャンプしようとして足つっかけて転んで、壁飛び越えて湾まで吹っ飛んだことあるって言ってたし。」

 五十鈴も思い出すように自身と他の艦娘の例を語る。

「く……そういうことは訓練始める前に教えて下さいよぉ~~!」

 川内は顔を真赤にして口をタコのように尖らせてプリプリと怒ってみせる。しかし那珂も五十鈴も川内のさきほどの様を思い出してアハハと笑い合うだけだ。二人の間に挟まれた神通を見た川内は、そこに必死に笑いをこらえている同期の姿を確認してしまった。

 

 那珂から可動式の壁の使い方を教わった川内と神通は改めてその坂(となった壁)の上の移動の仕方まで教わり、一度試した。艦娘は脚力も増すためやりようによってはジャンプして飛び越えてもまったく問題ないのだが、鎮守府Aの湾とプールの設置の関係上このようなギミック付きの壁が使われる。それは艦娘たちのスムーズな移動を妨げないように密かに活躍している。

 

 

 工廠内の水路まで戻ってきた一行は工廠の陸地に上がり、それぞれの艤装を明石に頼んで仕舞ってもらった。そして工廠の入り口まで戻ってきた那珂は今後のスケジュールについて二人に伝えた。

「明日は日曜だし、お休みにしよっか。あたしも別の用事したいし二人もやることあるでしょーし。どうかな?」

「あたしは賛成です。」

「私も……です。」

 川内と神通は賛成した。

 五十鈴も賛成の意思を示し、ふぅと一息ついて確認がてら言った。

「それじゃあ明日は皆、完全にお休みってことね?」

「うん。まぁ鎮守府に来てもいいけどね。部屋もクーラーも使い放題、お茶も飲み放題だしぃ~。」

「アハハ!艦娘のあたし達って鎮守府内の施設自由に使っていいってことなんですか?」

「そーそー。せっかく揃ってるんだから特に夏休み中は使わにゃ損ってこと。」

「だったら着替えと身の回りのもの持ってきて適当な部屋借りてもいいのかなぁ~?」

 いきなりとんでもない欲望めいた言葉を出した川内に全員突っ込む。

「鎮守府に住むつもりかよぉ~」

「あなたね……鎮守府は賃貸アパートじゃなくて仕事場なのよ?」

「川内さん……それはさすがにやりすぎかと。」

 

 4人は雑談しながら本館までの道を歩き、本館へと入って更衣室で着替えて執務室に入った。

 


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