同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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提督と艦娘たち

「今の…聞かれちゃったかな?」

「どうだろ?うちら小声だったから大丈夫なんじゃない?」

 普段の様子と裏腹に本気でさきほどの自分の発言に対する反応を気にする那珂。三千花は無事であるだろうと想像して平然と適当なフォローをする。

 

 五十鈴は何度かチラチラと背後の提督を見るが彼と川内や神通たち5人が気づいた様子はないとふんで一息つく。

「って、なんで私までドキドキしなきゃいけないのよ!」

 努めて小声で那珂に怒鳴る五十鈴。

「知らないよぉ~。勝手に五十鈴ちゃんドキドキしちゃってさ~。あたしの発言のほうが聞かれたらまずいよ~。」

 またしてもわざとらしくクネクネと身体をツイストしておどけながら恥ずかしさをアピールする那珂。三千花も五十鈴もその行動にはもはや触れずに那珂の言い分だけに反応して返す。

 

「あんたこそいつもの冗談なら平気でしょ?」

「だから言ってんじゃん。ホントだってぇ~。」

「……え?ほ、本当…なの?」

 五十鈴は上ずった声になって那珂に確認する。那珂は大きくコクンと首を縦に振った後、声に出した。

「ホントホント。那珂ちゃん嘘つかない。」

 

 那珂の言い方と態度には普段のおちゃらけが混じっている。五十鈴は那珂の今の言葉さえ、本当かどうか怪しいとふむ。つまり、那珂の告白はすべて信用出来ない。判断しかねる。一緒に艦娘の仕事をし始めてある程度経つとはいえ、五十鈴は那珂のことを大して理解できていない。真面目な点では信じる・頼るに値すると思っているが、普段の様はからっきしである。

 

 疲れる。

 五十鈴の心境はこの一言に満ちた。真面目に振る舞うときは割りと好きになれるが、目の前の少女は妙に他人の感情や思いを察するのが得意ときている。自分の思いに感づいていておちょくるためにわざと発言している可能性も否めない。

 中村三千花という彼女の同級生は、よくこんな人と幼い頃から付き合えるものだ。きっと彼女なりの苦労があったからこその今なのだろうが……。いっそのこと光主那美恵使用マニュアルでもいただきたいものだ。

 そう頭の中で思いを張り巡らせる五十鈴。

 

 とりあえずは、真に受けないこと。五十鈴は三千花からそれとなく聞けたその忠告を念頭に置いて那珂に反応することにした。

 五十鈴はジーっと那珂を真正面に見つめる。那珂はまさか五十鈴が黙ってじっと見つめてくるとは思わなかったので少し焦りを見せた。

「な、なに五十鈴ちゃん?あたしのこと見つめちゃって。」

「……ま、いいわ。そういうことにしておきましょ。」

「?」

 

((もし本当だったら、一番やっかいなライバルだし、嘘だったら私の気持ちを弄ぶ那珂を許すことはできない。))

 

 

--

 

「あ。」

 三千花が少し上ずった声で一言だけ発した。

「どしたのみっちゃ……あ!?」

 那珂と五十鈴は三千花と向きあうように立っていた。それは川内たちに背中を向ける形になっており、そこから近づいてきた提督にすぐには気づけなかった。三千花が一言発した拍子に振り向くことで初めて後ろに迫っていた気配に気がついた。

 

「や!3人は何を話してたのかな?」

 

 五十鈴は心の中で思いを張り巡らせていた直後、那珂は自身の発言の後だったため提督の何気ない語りかけにすぐには対応できない。二人とも「あ。ええと……」と焦りで言葉を濁している。

 そこで至って平常心な三千花が助け舟を出して先に対応した。

 

「ガールズトークですよ。だから西脇さんは聞いたらいけません。」

 決して強い言い方でもなく、本気で言ってるわけでもないがピシャリとした言い方の三千花の一言。

「ありゃ。それはおじさんにはつらいな。それじゃあ引き続きお楽しみくださいな。」

 提督は肩をすくめて軽くおどけて冗談を言いながら踵を返し、食べ物を置いてあるテーブルのほうに向かっていく。

 提督が背を向けたので視線が交わう心配がなくなりホッと胸をなでおろした那珂らはいつもの調子で提督に一言だけ茶化し混じりの声をかけた。

 

「自分でおじさん言わない~!提督十分若いよ!ちょっと歳の離れたお兄ちゃんで通じるって~。ね、五十鈴ちゃん。」

「へっ!?あ、そ、そうね。そうよ提督。……私はどっちでもいいけど。」

「ははっ、ありがとう。」

 五十鈴は急に振られて焦りつつも平静を取り戻しつつ同意する。最後の一言は非常に小さな声でモゴモゴ言ったので提督"には"聞こえなかった。

 

((てか五十鈴ちゃん、分かりやすすぎるよぉ~!さすがにこんな五十鈴ちゃんはいじったらかわいそうか~))

 

 なお五十鈴の頬は少し赤らみ、引きつっていた。対する那珂は赤らめてはいなかったが、引きつるというよりも頬の感度が少しだけ高ぶっていて、誰かに触れられたら非常に危ないところであった。

 

 

--

 

「あ~今度はマジでビックリしたね~。」

 那珂は自身の胸元に手を当ててホッと撫で下ろす。五十鈴もそれに倣って行うが、ノリツッコミのような態度になってしまった。

「ホントよ……ってだからなんで私まで!ち、違うんだからね!?」

「五十鈴ちゃん逆ギレかぃ。わけわかんないよぉ。」

 

 三千花の目の前でそんなやりとりをする那珂と五十鈴。三千花はそれを眺めていた。自分と那美恵とは違い、かなり凹凸あるコンビだが、五十鈴こと五十嵐凛花ならば、なんだかんだで良き付き合いをしていけるだろうと評価した。

 

 ただ五十鈴があまりに感情出しすぎ、反応しすぎなところが気になっていた。そこを親友である那美恵に突かれすぎないか、それだけが目下最大の心配事である。

 そんな、ついでの心配をする三千花であった。

 

 

--

 

 ひと通りのグループに顔を出して語らった提督は飲み物がなくなった紙コップを手に、中央にあるテーブルへと近寄った。テーブルの端、川内たちがいる方向とは対角線上の逆の場所では妙高と大鳥婦人がおしゃべりをしている。妙高と歳は近いとはいえ、さすがに主婦の井戸端会議に首をツッコむほど空気の読めない野暮な男ではない。

 まったくの同業ではないが近い業種のためにお互い理解のある明石たちのところに戻って会話に参加してみようかと思ったが、見るとかなり会話が弾んでいるようでとても提督が話に入れる雰囲気ではなかった。

 冷静に考えると提督はボッチだった。会社や地元に戻れば気楽に会話できる友人や同僚はいるが、この場では友人と呼べるほどの知り合いはいない。仕方なしに皿を手に料理を2~3取って適当な椅子に座って食事を再開した。

 もともとそれほど社交的ではない西脇提督は、自分で懇親会という場を設けてこの雰囲気を作っておきながら、この空気にやられて若干胃が痛かった。

 

 提督の様子に最初に気づいたのは妙高と大鳥夫人だった。近くにいるのでさすがに二人は気付き、提督に近寄って話しかけた。二人ともおっとりしているが気が利くため、話題は当り障りのないところで、鎮守府Aの艦娘10人突破の祝いの言葉や、今後の出撃や遠征任務のことを持ちかける。

 

 

 

--

 

 提督が愛想笑いをしながら話していると、そこに夕立が突撃してきた。彼女は料理を取るために中央のテーブル側に来ていた。提督が一人で食べているのチラリと見て、夕立の対提督レーダーがうなりを上げて彼女にビビッとさせた。つまるところ、彼女の行動はいつも突発的な思考によるものだ。

 

「てーとくさ~~ん!!」

 

 ガバッという効果音がリアルにしそうな勢いで夕立は提督の座る椅子に飛び込んでぶつかりそうになるが、ブレーキをきかせて寸前でピタリと止まる。

「うお!?あぶないな夕立は。なんだなんだ?」

「お食事するならあたしがあ~んしてあげるから、あ~んしかえして。一緒に食べよ? ……あー!?」

 

 夕立は提督の肩と腕をつかみながら無邪気に誘いかける。だがその刹那、いきなり素っ頓狂な声を上げた。

「てーとくさん、ポテト取ってる~!!」

「そうだけど、それがどうしたんだ?」

 提督が手に持つ皿にフライドポテトが入っており、なおかつテーブルのほうの大皿にフライドポテトがすでにないことを現実として理解した夕立は地団駄踏んで怒り始める。

 

「それぇ!あたしがぁ!最後にたべよーと思ってたのぉ~~!!」

「えー、そんなの知らんよ……。」

 駄々っ子のように怒る夕立に提督は呆れつつもやりすごそうとする。提督のすぐ側で見ていた妙高は彼女に優しく声をかけて慰めた。

「夕立ちゃん。また今度作ってきてあげるから、今日は我慢して。中学生なんだから我慢できるでしょ?」

「う゛~~でも食べたいんだもん……」

 今にも泣き出しそうな表情で提督の手に持つ皿rを見つめる夕立。提督はハァ…と溜息一つ付き、皿を夕立の前に差し出した。

 

「ほら。いいよ食べても。俺まだ箸つけてないからさ。」

 その瞬間、夕立の表情はパァッと明るくなり、提督が差し出した皿と提督の顔を交互に見て一言口にした。

「ほ、ホントにいーの?もらってもいいっぽい!?」

「そんな顔されたんじゃ譲らないわけにはいかないだろ。」

 提督は困り笑いをしながら皿を持っていないの方の手で夕立の頭を軽く撫でた。

「わ~~い!ありがとてーとくさん!大好き大好き!」

 提督は夕立に許可を与えると、彼女はすかさず提督の皿から自分の皿にポテトを移し替え始めた。

 

 年の割に精神的に幼い夕立。五月雨たちの学校のメンツの中では身体の発育はかなり良いが精神年齢の幼さが天真爛漫ぶりに拍車をかけていて、提督と妙高らアラサー組にとっては手のかかるでかい娘なのである。

 

 

--

 

 

「あっ!ゆうちゃん!また提督におねだりしてるー!」

 夕立の行為を斜め後ろから見てそう言ったのは五月雨だ。先ほど夕立が地団駄踏んで怒りだした時にその光景に気付き、いち早く近寄ってきていたのだ。

 

「ん?さみも食べる?」

「私はいいよ……。それよりも提督を困らせたらダメだよー。」

「だってさぁ、提督がポテト独り占めしたんだもん。」

 

「してない。してないぞ!?」

 五月雨は夕立の言葉を受けて提督の方を見ると提督は頭を振ってそれを否定した。なんとなくわかっていた五月雨は夕立の手をクイッとひっぱり連れて行こうとした。

「も~ゆうちゃんは我慢しなきゃ。同級生として恥ずかしいよ?」

「ドジっ子なさみに言われたくなーい。」

 

 五月雨のツッコミにぷいっとそっぽを向いて言い返し、夕立はポテトを盛った皿を手にして時雨たちのいる場所へスタスタ歩いていった。その場に取り残された五月雨は提督の方を振り返りお辞儀をする。

「提督。ゆうちゃんがご迷惑かけてほんっとゴメンなさい!大丈夫でした?」

「あぁ気にしないで。俺も気にしてないからさ。」

「でもお食事が……。」

「大丈夫大丈夫。まだあれだけあるんだし。まぁ本当はじゃがいも料理好きだったから全部譲ったのはちょっと残念だけど。」

 

 提督が何気なく口にした好みを聞いて五月雨はきょとんとした表情になる。

「提督、お芋好きなんですか?」

「うん。子供っぽくておかしいかな?」

「いいえいいえ!素敵だと思います!あ!違くて、おかしくないと思います!」

 微妙なフォローをする五月雨。

「ありがとう、五月雨。」

「エヘヘ。じゃあ失礼します。」

 微笑みながら軽く会釈をして五月雨は夕立を追いかけて時雨達の元へ戻っていった。

 

 

--

 

 一部始終を見ていた大鳥夫人は苦笑いしながら感想を述べる。

「西脇さんも大変ですね。いろんな子の面倒見ないといけないなんて。」

「ハハッ。さしずめ父親か兄か学校の先生になった気分ですよ。」

「でも皆楽しそう。ここがきっと安心できる場所だからなんでしょうね。」

「そう思ってくれてるといいんですけどね。今はまだ10人程度だからいいですけど、今後艤装が配備されたら人増やさないといけないし、その時俺がみんなの面倒見切れるかどうか。」

 

 提督の思いを耳にして妙高と大鳥夫人は相槌を打った。

「そうですよね。提督だけでは大変でしょうし、私のような者でよければどんどんご指示ください。子供好きなので、今のあの子たちくらいの子でしたら喜んで協力いたしますよ。」と妙高。

「ありがとう、妙高さん。助かりますよ。」

 

「あの…西脇さん。素朴な疑問よろしいでしょうか?」

「はい、なんでしょう?」

 大鳥夫人は申し訳なさそうに遠慮がちに提督に声をかけた。夫人が質問してきたのは艦娘のことだった。大鳥夫人の質問の意図に気づいた妙高は婦人に確認する。

「大鳥さん、もしかして艦娘にご興味が?」

「興味といいますか、提督の今のご様子見てると子どもたちのお世話大変そうなので、もっとお手伝いできればいいなと思いまして。下の娘の高子も中学生になって、それほど手がかからなくなってきたので、パート代わりにと思いまして。」

 

 大鳥夫人は、主婦友の妙高が艦娘として鎮守府に通い、艦娘らしいアクティブな活動からご近所様よろしくお手伝いさんのように振舞っているのを見て興味を持ち始めたのだった。その思いを打ち明けられた提督は、艦娘としての活動が完全なパート代わりになると思われると肩透かしを食う面もあるので、給与など金銭的な面を含めて説明した。するとそれでも納得したのか、大鳥夫人はかまいませんと意を表してきた。

 それならば今後お願いしますと言い、提督は一息ついた。ただひとつ、必ずしも希望の艤装との同調ができるとは限らないことを念を押しておいた。

 

 説明が落ち着いたところで、提督はふと思い出したことを口にした。

「ところで大鳥さんの上の娘さんは、すでに職業艦娘と伺ったのですが、本当ですか?」

 さきほど五月雨たちと一緒にいた大鳥高子から聞いたを提督は改めて確認するため問うた。大鳥夫人の側にいる妙高も初耳であり、尋ねるような表情で夫人に視線を向ける。

 

 大鳥夫人は最初は何のことかわからない様子であったが、思い当たる節があるのか微かに頷いて答え始めた。

「もしかして、あの子のバイトのことかしら? あの子ったらちゃんと話してくれないからわからなかったわ……。えぇ、今思うとそれらしいことを言っていた気がします。」

 

【挿絵表示】

 

「鶴喜(つるぎ)ちゃんももう大学生ですし、夜遅くなることも多いでしょうから心配でしょ?」

「えぇ、普段は活発なんですけど、私に似ておっとり屋なところがあるので何かとねぇ……。」

 妙高は大鳥夫人の上の娘を知っているのか、名前で呼んで夫人の普段の苦労を想像して声をかける。大鳥夫人も苦笑いしながら妙高に応対した。

 提督は夫人二人の井戸端会議の雰囲気に若干飲まれつつも、冗談を交えて考えを述べた。

「その……娘さんの鶴喜さん?もいつかうちの鎮守府に着任していただけると運用者の立場としては嬉しいですね~。」

「あらそうですね!西脇さんとは面識ありますしこれだけ近くなら娘を安心して預けられますし、親子ともどもお世話になれるなら安心して勤められます。」

 

 大鳥夫人は両手を叩いて提督の何気ない希望に賛同し、にこやかにしていた。

 

 

--

 

 五十鈴と三千花を話している間、那珂は離れたところで妙高・突っ込んでいった夕立・五月雨と何か話している提督のことが気になっていた。視線を送るわけでもなく、あくまで頭の中で意識しているだけである。

 そのため若干上の空になってしまっており、三千花から注意されてしまった。

 

「…ねぇ!なみえ聞いてる?」

「ふぇ!?あ、なぁに?ゴメン。ボーっとしてたよ~」

 横にかかる髪をサラサラと撫でながら弁解する那珂。

「とか言って、あんたまた何か茶化すこと考えてたんじゃないでしょね?」

それを見た五十鈴は那珂の普段の行動パターンを想像して冷やかす。

 

「ひっどーいなぁ~五十鈴ちゃん。あたしそんな毎日毎時毎分そんなこと考えてないよ!」

 那珂は小指と薬指で軽く五十鈴の肩を何度も突きながら言い返した。

「いたっ!いたい!そこ素肌だからやめてよ。あんたの爪当たってるのよ!」

 

 突付き突かれる那珂と五十鈴を見て三千花はプッと吹き出す。その吹き出し音を聞いた那珂と五十鈴は目を白黒させて見合う。

「ど、どしたのみっちゃん!?」

「な、なにかしら!?」

「ううん。ゴメン。二人のやりとり見てたら思わず。」

 那珂と五十鈴は顔を再び見合わせて頭に?を浮かべる。那珂はその後自身もニカッと笑って三千花に返した。

「みっちゃんが何気なく笑うなんて珍しー。」

「珍しいってなによー。それじゃ私が全く笑わないみたいじゃない。」

「エヘヘ。ゴメンゴメン。みっちゃんは笑わなくても可愛いよ~。」

 五十鈴とは違い、親友に褒められて悪い気はしない三千花。

「はいはいありがとね。なみえだって十分イケてるよ。」

「フヒヒ~。またみっちゃんから褒められちゃったぜぃ。」

 ニンマリとする那珂。五十鈴はそんな二人の親友としての掛け合いを見て遠い目をしながらも微笑んでいた。

 

--

 

 ふと三千花は鎮守府に来る前に那珂が川内と口約束していたことを思い出し、確認してみた。

「なみえさ、そういえばなんか忘れてない?」

「ん?なにが?」

「……忘れてるわね。まぁ私としてはどうでもいいんだけどさ。なみえ、内田さんと約束してたでしょ?」

「約束ぅ? ……あっ!」

 

 那珂はハッとした表情になった。三千花の指摘通り、すっかり頭の片隅に追いやっていたのだ。

「そうそう。そうだよ。あたしとしたことがぁ~~!」

「どうしたの?」

 わざとらしく頭を両手で抱える那珂に五十鈴が質問した。

「着任式が終わったらさ、川内ちゃんと神通ちゃんに記念に艤装フル装備させて同調やらせてあげたいねってこと。ここ来る前に話してたの。」

「へぇ~。いいじゃない。訓練してないから動けないでしょうけど、いい記念にはなるわね。」

 仔細を聞いた五十鈴は那珂の言に賛同した。

 

「お~い!川内ちゃん!神通ちゃぁ~ん!」

 那珂は先ほどまでいた場所、川内たちが今もおしゃべりしている場所にスタスタ歩きながら声を上げて二人を呼ぶ。

 

 

 那珂が自分たちの集まりのすぐ後ろまで近づいてきたので体ごと振り向く川内たち。

「はい。なんですかぁ?」

「あたしすっかり忘れてたよ。二人の艤装フル装備お願いするの。」

 那珂から言われて初めてハッとした表情になる川内。神通は前髪で隠れているが、似た表情をしている。つまり二人とも今の今まで頭の片隅に欠片ほども残っていないほど失念していた事が伺えた。

 

「あ~~あたしも忘れてました。自分でお願いしといてなんですけど。」

「あたしも川内ちゃんもうっかりしてたね~~」

アハハと笑い合う那珂と川内。

「じゃあお願いしちゃいましょうよ。」

「うん。そーだね。」

 神通は密かにノリ気ではなかったが、彼女の要望はは乗り気になっている那珂と川内の耳には届かない。川内の賛同を得た那珂は二人でその足で今度は提督のところに行った。

 後ろからは神通がもそっとした仕草でついていった。

 

 

--

 

 一方の提督は妙高と大鳥夫人との話が途切れる頃だった。主婦らと合う話題なぞ彼の頭の引き出しにはないので内心焦っていたが、そこに助け舟が来た。

 那珂である。

「提督。ちょっとお願いがあるんだけど、今話せますかー?」

 妙高と大鳥夫人が側にいたため、那珂は普段の軽い調子を少し抑えて淑やかに提督に話しかける。

 少なからず嬉しく思った提督は快く返事をして反応する。

「あぁいいとも。どうしたんだ?」

 提督の座っている椅子のすぐそばに那珂と川内、その後ろには神通が立っている。

「あのね。川内ちゃんと神通ちゃん、今日正式に着任したでしょ。それでね、初日の記念に艤装全部装備して海に出させて欲しいの。どうかな?」

 

 那珂の提案を聞いて提督は眉間にしわを寄せて表情をこわばらせる。那珂はそれを見てなにかまずいこと言ったのかもと不安を身にまとう。

 提督は川内とその後ろにいる神通をチラリと見て口を開いた。

「それはダメ。二人ともまったく訓練を受けてないからまともに動けないと思うから危ないよ。軽い気持ちでOKを出して初日に大怪我でもされたら、俺は責任者として失格だ。お互いの身を守るためにも、基本訓練をこなすまではダメ。」

 

「え~~!?あたしが監督役で側にいても?」

「ダメ。」

「じゃあ身につけて写真取るだけ。ね?ね?」

「……まぁ、それくらいなら。」

「やった!!!やったよ川内ちゃん!神通ちゃん!」

「やったぁ!」

 

 提督からしぶしぶの許可をもぎ取ると、那珂は川内と神通の手を取ってブンブンと振って喜びを伝え合う。海に出るのではなく装備をするだけであればと神通もわずかに乗り気になった。

 当事者以外の妙高が不安に感じて提督に尋ねた。

「提督、本当によろしいのですか?」

「まぁ、身に付けるくらいだったら。」

 そう妙高に言い訳的に言い返し、そして川内たちの方に向いて改めて言い渡した。

「でも同調するのもダメだからな。地上で同調してうっかりにでも地面や周りの施設壊したら大事になりかねないからな。」

 提督の許可する範囲は神通は自身の望む範疇の事だったため、僅かに表情を柔らかくして頷いた。

 

「え~~、同調したらいけないのぉ?せっかくスーパーヒロインの川内ちゃんと神通ちゃんを見たかったのにぃ。」

「あたしもスーパーパワー出してるところ見てもらいたかったのに~~。」

「そんなの基本訓練した後ならいつでもさせてあげるから。今回はそれで我慢してくれ。」

「「はーーい。」」

 

 同調すらしてはいけないという提督の許可に不満を持つ那珂と川内だったが、基本訓練とやらをクリアすればいつでもさせてもらえるという言を聞き、おとなしく従うことにした。

 これから始まる夏休み、早めに訓練を終わらせて、川内と神通にガンガン海に出て艦娘になった実感を得てもらおうと密かに頭に思い浮かべる那珂であった。

 


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