同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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神通受け取り

 翌日、那美恵と流留は9時手前に鎮守府のある町の駅の改札口付近で待ち合わせした。

 

「おはよ、内田さん!準備おっけぃ?」

「はい。問題ないでっす!」

 

 軽く言葉を交わし合った後鎮守府に向けて歩いて行く。鎮守府に到着した二人はまず本館に入り、執務室を目指す。後ろから流留がついてくる。

 コンコンとノックをする。すると、中からは男性の声が聞こえてきた。

「失礼します。」

 那美恵は丁寧に言い扉を開けて中に入る。

 

「おはよ、提督!」

「おぉ、光主さん。その後はどうだい?そっちの状況ちゃんと聞いてなかったから心配でさ。」

「うん。ついにね、川内の艤装と同調できた生徒見つけたよ。んで、ちゃんと艦娘になる意思も。さ、内田さん自己紹介自己紹介!」

 

 流留はついに待ち焦がれた、提督なる存在を目の当たりにした。そこに立っているのは、彼女にとっては見知らぬ男性ではあったがどことなく懐かしい感じのする人だった。

 思わずどもりながらしゃべるかたちになる。

 

「あ、どうも!……じゃなくて初めまして。あたし、内田流留っていいます。○○高校1年です。この度川内の艤装と同調できて、川内になりたいと思ってます。よろしくお願いします!」

「はい。初めまして。君なんですね。川内の艤装に合格できたのは。いや~うれしいよ軽巡が増えるのは。どうか、俺たちの力になってください。」

「はい!」

 

 ものすごく舞い上がり気味の返事をする流留。それを脇で見ていた那美恵は、その反応に怪訝な様子を感じるも、特にそれ以上は気にしないでいた。

 ひと通り互いの挨拶が終わって落ち着いた空気になった頃を見計らって那美恵は前日のことを提督に伝えた。すると提督は大体ほとんど明石と同じ反応を示し、二人にこう言った。

「あ~そうか。そうだったな。きみが突飛な提案するもんだから俺もそれに引きずられてすっかり忘れてたよ。五月雨の指摘がなかったら危なかったわ。五月雨のいざというときの仕事っぷりに感謝感謝。」

「も~しっかりしてよ。普段のドジっ子は五月雨ちゃんだけで十分だってぇ。」

「ハハハ、ゴメンゴメン。」

 

「で、どうすればいいの?内田さん、今日中に同調の試験させてもらえるの?」

「あぁ、それは大丈夫。今から工廠行って明石さんと俺とでチェックするよ。それを今日中に大本営に連絡する。学生艦娘制度内のことなら多分すぐに承認されると思うから、そしたらすぐに準備に取り掛かれるよ。」

 提督の説明に那珂は思い出したことを茶化し気味に反芻する。

「準備ってことは、つまり内田さんのボティチェックするんだよね?」

「……その言い方はやめなさい。身体測定って言いなさい。」

「アハハ。まだあたしの時の根に持ってる?せっかくだから今度こそ提督自ら内田さんの身体測定してあげれば?」

「だーから、そういう冗談はやめてくれy

 

 

「え!?提督に何かしてもらえるんですか?お願いします!!」

 

 

 

 提督と那美恵の掛け合いを話半分で聞いていた流留はそれを真に受けてしまった。というよりその辺りの事情がよくわかっていないがための発言だ。

「えっ?あ、あのぉ内田さん?そんな真に受けられても逆に困るんですけど……?」

 てっきり突っ込んでくれるかと思いボケてみたのだが、真に受けられて那美恵は慌てた。提督はなおいっそう慌てる。

「う、内田さん?」

 流留はキラキラした目で提督を見ている。提督はもちろんのこと、那美恵もどことなく調子が狂ってしまった。

 

「ちょっとすまないね。」

 そう言って提督は那美恵の肩を軽く叩いて流留から少し離れたところに引き寄せる。そして小声で流留のことを尋ねた。

「なぁ。あの子ちょっとアレなのか?天然入ってたりする?」

「ううん。そんなことはないはずだけど……あ!もしかして。」

「何か思い当たることがあるのか?」

「実はね…」

 

 那美恵は先日流留より直接聞いた彼女自身のことで、一つ関係しそうなことを思い出しながら提督に打ち明けた。

 それは、先日まで関わっていた流留の集団いじめのことだった。実のところ流留がさきほどのような態度を取った原因は、そのいじめのときの体験だけではないのだが、那美恵は流留から彼女の本当の身のうちをすべて聞いたわけではないので、今このときは学校での出来事をオブラートに包んで伝えるのみにした。それを聞いた提督は苦々しい顔をして、流留をチラリと眺め見た後言った。

「そうか。そういうことがあったのか。もしかしてそれで同性不信気味で、余計男性に過剰に接するようになりかけているのかもしれないな。ただ、どうもそれだけじゃない気がするな。」

「どういうこと?」

 提督の懸念が気になったので那美恵は尋ねる。

「いやな?さっきから俺を見る目がちょっとキラッキラしてるんだよ。なんだか妙に期待されてるというか、もしかして……惚れられたとか。」

 提督の最後の一言を聞いて、瞬間那美恵はポカーンとし、数秒後に思わず失笑して提督の肩をパシパシと叩いてツッコミを入れた。

 

「プッ!アハハ! ちょっと提督、自意識過剰~!それはどーだろ?いくら彼女でも、提督にぃ~」

 

 離れたところでケラケラと笑い始めた那美恵を見てビクッとする流留。二人が何を話しているのかよくわからずあっけにとられている。肩をパシパシ叩かれた提督は少し赤面して那美恵に言い返す。

「いや、俺はそんなつもりじゃ……」

「じゃあどーいうつもりなの?」

 那美恵は口を尖らせ少しかがんで提督をやや下から見上げるように返す。提督は赤面しつつ那美恵から視線を少しずらして拗ねたような口調で答えた。

 

「ともかく、なんか気になったんだよ。」

 

 気になった。その一言に、那美恵は心にズキッとくる。

「ん。いいよ別に。提督がどう思おうがお任せするよ。けどね、うちの後輩を傷つけたら、許さないからね?ただでさえ先のようなことがあったのに。艦娘の世界でも何かあったら彼女本当に苦しんじゃうもん。提督はあたしたちみんなを気にかける立場なんだから、誰か一人にかまけたりしたら、ダメだよ?」

「あぁ、わかってるって。」

 二人が長々と離れたところで話しているので、いい加減苛立たしくなってきた流留は二人に向かって叫んだ。

「ちょっと二人共!いい加減あたしを仲間はずれにするの、やめてもらえます?」

「あぁ、すまんすまん。」

「ゴメンね、内田さん。」

 提督と那美恵は慌てて流留のそばに小走りで駆け寄っていった。

 

「……コホン。内田さん。さすがに俺が女の子であるあなたに触るのは問題あるんだよ。それはわかるよね?高校生だもんな?」

 提督から直接指摘され、初めて流留は自分の発言の取られ方を理解した。瞬間、ボッと音が出るかのように顔を真っ赤にして提督に言い訳をして謝り始める。

「あ!いや!あの……そういうことじゃなくて、アハハ……そ、そうですよね~あたしったら初対面の人に何言ってんだろ……。」

 手でうちわのようにパタパタと仰いで顔のほてりを和らげようとする流留。その様子で、どうやら素による発言だと察した那美恵。過去に流留に何かあったのだろうかと想像するが、それをわざわざ彼女に聞くのもはばかられるので、心に思うだけで黙っていた。

 それから提督はあえて流留の様子に触れず話を進める。

 

「……というわけで内田さんの身体測定は光主さんかあとは……明石さんか妙高さんにでも頼むから。その時になったら指示します。」

「「はい。」」

 

 気を取り直した提督の指示に那美恵と流留は真面目に返事をした。そして3人は流留の同調の試験のため工廠に向かった。

 

 

--

 

 工廠に着くと、明石はちょうど出入り口に立って搬入した資材の確認をしているところだった。彼女は提督や那美恵に気づくと作業の手を休めて3人に声をかけてきた。

 

「おはようございます、提督。それに那美恵ちゃん、流留ちゃん。来てくれたんですね~」

「おはよう、明石さん。」

「おはよ!明石さん~」

「おはようございます!明石さん!」

 

 提督が真っ先に明石に近寄り、目的を伝える。

「明石さん、今大丈夫かな?」

「えぇ、大丈夫ですよ。」

「あぁ。多分知ってるんだろうけど、この度光主さんの高校で学生艦娘の候補がいるんだよ。」

「存じています。そちらにいる流留ちゃんですよね。昨日いらっしゃったので話を先に伺っておきましたよ。」

「そうか。それなら話が早い。早速だけど内田さんの同調の試験をしたいんだ。準備してもらえるかな?」

「はい。了解です。」

「あぁ、それとこの前神通の艤装届いたろ?いい機会だから光主さんに同調のチェックをしてもらおう。」

 

 提督の一言を聞いて、そういえば内緒でこっそりと持ち出したことを思い出して明石はドキッとした。それは那美恵も同じだったようで、明石と那美恵は提督から少し離れたところに駆けて行ってひそひそ話し始めた。もちろん口裏を合わせるためである。

 お互い、提督に話せない事情を持っているためだ。

「ねぇ那美恵ちゃん。私がこっそり神通の艤装を持ち出したこと、提督に話してないですよね?アレ、内緒にしてね?」

「もちろん言うわけないじゃないですか。あたしだって昨日の同調の異常を提督に知られたくないんです。だから明石さんこそ、黙っていてくださいね?」

 

 お互いの利害が一致したので、二人は無言で頷いて提督の側に戻っていく。そして明石は提督の言ったことに賛同した。

 

「了解しました!那美恵ちゃん、神通の艤装と同調できるといいですね~?」

 明石のそのセリフに流留が反応して明石に対して言った。

「なに言ってるんですか、明石さん。昨日来て話したじゃないですk ムゴゴゴ!!

 

 途中で流留は那美恵に口を塞がれ、言おうとしたその先の言葉を言えなかった。詳しいことはわからないが、言ったらまずいことがあるのだなと、流留はなんとなく察した。3人の少し変わった様子を見て提督は怪訝な顔をしつつも、明石が同意したためにそれ以上は気に留めず、あとの準備作業を全て任せることにした。

 

 

--

 

 明石は一旦工廠内に戻っていき、先日返却された川内の艤装一式と試験用の端末を持ってきた。端末を手にしてそれを操作したあと、流留に向かって促した。

「それでは流留ちゃん。一応決まりですので、もう一度艤装を身につけてもらえますか?」

 そう言って明石が手で指し示した艤装に流留の心は高揚感に包まれた。展示の写真で見た艤装(の各部位)。それらが全て揃っている、艦娘の艤装の本来の姿を形作る物。流留はゆっくりと川内の艤装に歩み寄り、各部位をまじまじと眺める。後ろから那美恵が流留に声をかける。

 

「全部装備するのは初めてだっけ?」

「はい。」

「手伝うよ?」

 流留はコクリと頷いた。那美恵に手伝ってもらい、流留は川内の艤装全てを装備した。

 

「それでは同調、いってみましょう。」

 明石が指示を出した。流留は心を落ち着かせ、これまでに教わった方法でゆっくりと同調をし始める。この瞬間、流留は見た目にも初めて軽巡洋艦川内になった。

 コアユニットだけをつけていたときよりも、全身の感覚が異なる。軍艦川内のあらゆる情報が、適切に各部位に伝わった証拠でもある。ゆっくりと目を開けて、後ろにいた那美恵や少し離れたところにいた提督や明石に視線を送った。

 

「同調率は、90.04%です。問題ありませんね。」

「おめでとう、内田さん。あなたはこれで本当に合格です。この記録はすぐさま大本営に送信するから、今日中にも続報を伝えられると思います。」

「は、はい……。」

 

 川内はあっさりと同調の試験が終わったことに拍子抜けし、へたり込む。

「ちょ!内田さん、だいじょーぶ!?」

 那美恵が駆け寄るが、川内はすぐに立ち上がって那美恵に笑顔を見せて無事を伝えた。

「大丈夫ですよ。なんかあっさりした感動っていうんですかね、拍子抜けしちゃって。」

「そりゃね~これで計3回も同調を試してるんだものね。まさに三度目の正直ってやつですよ~内田さ~ん。」

 茶化すようにわざと敬語を混ぜながら那美恵は川内となった流留に声をかける。川内はその一言にハハッと笑った。その笑みには、やっとだ、という安堵感が含まれていた。

 

「あの。これで動きたいんですけど、いいですか?」

 かねてより艦娘の状態で動いてみたくて仕方がなかった川内はそんな提案を誰へともなしにしてみた。それには提督が答えた。

 

「気持ちはわかるけど、もうちょっと待ってほしい。」

「え~、ダメなんですか?」

「あぁ。大本営から承認されないとね、万が一内田さんの身に何かがあったときに、安全を保証できないんだ。俺としても事故を起こした鎮守府のダメ責任者になりたくないからさ、頼むよ?」

「はい。じゃ待ってます。」

 

 不満気味な川内だったが提督の言うことに素直に従うことにし同調を切った。川内はその瞬間、艦娘川内から内田流留その人に完全に戻った。

 流留が同調を切ったので明石も端末側から艤装の電源を切断する。そして流留に艤装を外すよう指示を出した。流留の艤装解除は那美恵が再び手伝うことにし、二人は取り外す作業をし始めた。

 その間明石は提督と話し、川内の正式な着任準備のてはずを相談した。

 

 流留が艤装を全て外し終わった頃には提督と明石の話も終わっていた。そして提督が流留と那美恵に伝える。

「この後の流れなんだけど、光主さんも聞いておいてほしい。それを四ツ原先生に伝えて欲しいんだ。いいかな?」

「はーい。わかりました。」

 那美恵が返事をした。

 

「大本営から承認されたら、川内の制服を作るために身体測定をしてもらいます。それを大本営の艤装装着者統括部に伝えると、後日制服が届くからそれを内田さんに試着してほしいんだ。で、問題なければ着任式を開きます。これは光主さんは出たことあるからわかるよな?」

「うん。アレを内田さんにもやるんだよね?」

「あぁ、そうだ。それを持って、内田さんは鎮守府Aの軽巡洋艦川内に正式になるんだ。」

 

「着任式?」

「うん。うちの鎮守府ではね、艦娘が着任すると着任式を開いてくれるの。その場で着任証明書をもらうと、晴れて鎮守府Aの艦娘になれるの。ま、といっても強制じゃなくて自由参加で気持ちの問題だから、あまり深く考えることないよ。」

 提督の代わりに那美恵が説明すると、流留はかなり乗り気で答える。

「へぇ~。あたしそういうの結構好きです。なんか熱いですよね。これから戦うんだって感じで。熱血ですね~。」

 

「よかったね~提督。内田さんも着任式やってほしいってさ~」

 流留に頷いたあと那美恵は提督に向かって茶化し気味に言うと、提督は笑顔で返した。

「あぁ、乗ってくれるなんてうれしいよ……。」

「提督ってば、ほんっとそういうこと好きだよね~」

 子供みたいな無邪気な笑顔で喜ぶ提督に、那美恵は再び茶化しつつも、その笑顔に心臓が跳ねる感じがした。流留はというと、那美恵と提督のやりとりをぼーっと眺めている。

 

「川内についての説明はここまで。着任式にはできれば四ツ原先生にも出てほしいから、その辺伝えておいてくれ。」

「はい。りょーかい。」

 

 

--

 

 提督は川内着任についての説明を終えると、気持ちを切り替えて次は那美恵の方を見て次の話題を口にした。

「それじゃあ次は、神通の艤装、行ってみようか。」

「は、はい。」

「じ、じゃあ那美恵ちゃん、早速艤装つけてみましょっか?」

「はーい!」

 明石と那美恵はやや慌てた様子で反応した。

 

 那美恵は明石の側にあった神通の艤装に近づいていく。足元にあるという距離まで近づいたのち、明石に先のことを小声で確認する。

「昨日の件、あれどうなったんですか?」

「うん。今解析してるからもう少し待ってね。もしかすると1ヶ月くらい必要になるかも。これから同調してもらう際の結果もログに取るから、艤装はガンガン試しちゃってね。」

 

 明石のやや専門的な言葉を聞いて、ログというものがよくわからないと感じつつもそのあたりは自分は気にせず明石に任せればよいと信頼しきっていたので特に気にしないことにした。そして早速神通の艤装を装備し始める。

 那美恵が神通の艤装を装備し終え、明石にむかって合図を送ったのを明石は確認した。明石が何か操作したのを見届けると、那美恵は同調を開始した。

 

ドクン

 

 3度目の同調となると、ある程度覚悟はできている状態であったが、それは杞憂に終わる。2回目とまったく同様に、至って問題なく同調は成功した。

 今回は、93.99%と、前回よりも上がっていた。その数値を見た提督は、那美恵がついに川内型の艤装全てに同調できたことに本気で驚き、すぐに喜びを表した。

 

「おぉ!!光主さんすごいな!? 那珂と川内だけでなくて、ついに神通にも合格だ!!すごいじゃないか……」

「えへへ~なんか一人で3つなんて申し訳ないけどね~。」

「いやいや。本当に一人で3つの艤装と同調できるなんて艦娘制度始まって以来の快挙じゃないか?」

 提督の言葉に続いて明石が調子よくしゃべりだした。

「すごいですよね~那美恵ちゃん。これを大本営や他の鎮守府に知らせたら、きっと有名になれますよ!」

「有名に?」

「えぇ。那美恵ちゃんの夢もあながち夢でなくなるかもしれないですよ。せっかくだから、もう1回念押しで試してみましょうか。ほんとに本当の結果かどうか。」

「おいおい。同調は何度やってもそう大きく変わるもんじゃないって明石さん自分で言ったじゃないか。」

 明石の提案にツッコむ提督。

 

「エヘッ。それはそうですけど、これはすごいことですし、ほっぺたつねるのと同じようなことですよ。さ、那美恵ちゃん。もう1回いってみましょ?」

「あっ、はい。」

 ウィンクをする明石の意図に気づいた那美恵は一拍置いてから返事をして、一度切った同調を再びして、明石にその結果を保存してもらった。

 

「93.99%。もー完璧です。絶対有名になれますよ、那美恵ちゃん。私も会社とかで推しておきます。」

「アハハ。明石さん、あまり強引にはやらないでくださいね~。」

 明石の妙な強引さに押されつつも那美恵は言葉を返した。

 

 ただ口では遠慮気味に言ったが、アイドルになれる・有名になれる、それは那美恵にとって心の底から嬉しいことだった。が、正直喜ぶことはできないでいる。それは、1回目の神通の艤装の時に発生した異常が頭の片隅にちらついていたからだ。専門的なことはわからないが、このことがよそにも知られてしまえば有名になるのではなくさらし者になるのではないかと危惧するところもあるからだ。

 ただ表面上は、提督と明石にむかって笑顔で返すことにした。

 

「夢かぁ~。なーんか複雑。」

 艤装を外しながらつぶやく那美恵に明石は近づいて言葉をひっそりとかけた。

「あの……那美恵ちゃん。提督がいらっしゃるので、必要なテストはまた後日ということでお願いしますね?」

「あ、はい。」

 急に現実に戻されたような感覚を覚えた那美恵だが、確かに今このときは夢よりも、自分の身に起きかけたことの確認が先だった。その後那美恵は明石から指示を受けた日、つまりは提督がいない日に明石に付き合い、必要な同調のテストをしてデータを預けることになる。

 

 

 

--

 

 那美恵が神通の艤装との同調に合格したということで、川内のときと同じく、提督の許可をもって、初めて鎮守府外への持ち出しができることになった。今回は正式なお達しということで、那美恵も明石もホッとする。

 時間にして10時すぎ。このあと那美恵と明石は川内の制服のために流留の身体測定をすることにしそれを書類にまとめた。その後執務室に戻っていた提督に報告した。

 

 その日に終えられる作業を終えると、時間は12時ちかくなっていた。さすがに那美恵と流留は学校に行かないといけない。念のため那美恵は阿賀奈に連絡を取ると、気を利かせてくれたのか、午前中いっぱいということで、艦娘の課外活動のため学校側から許可を得ているという。そのため那美恵たちは安心して登校することができた。

 鎮守府を出る前に明石から神通の艤装のコアユニットを受け取り、最後に執務室に行き提督に挨拶をしてから学校に向けて出発した。

 


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