同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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幕間:裸の付き合い

 演習が終わり、五十鈴はペイント弾により体中ベトベト、那珂はそれなりに動いたので汗をかいていたのと、演習用プールに浸かったので身体の感覚が気になっていた。なので艦娘に対して認められた入渠と呼ばれる、休憩をとることにした。

 

 入渠には2種類の意味がある。艦娘が装備する艤装・兵装のメンテナンスという機械的な作業と、艦娘の心身のケアを図る運用だ。

 職業艦娘と呼ばれる艦娘以外は定期的な給与は出ない(出撃手当など、不定期・一時的な金は出る)ため、その分の艦娘のメリットとして、鎮守府内の施設の充実、あるいは鎮守府の置かれる町の地域の民間施設・商業施設との提携により、それらの施設で破格の優待を受けられるようになっている。

 大きな鎮守府では鎮守府内に入浴施設、商業施設、果ては美理容施設が整っているが、鎮守府Aはできたばかりでそのたぐいの施設はなく、当分はそういった施設が敷地内に作られる予定もない。

 これから那珂たちが行こうとしている施設は、艦娘なら無料で入れる優待がある。

 

「ねぇねぇ五十鈴ちゃん。近くのスーパー銭湯行こうよ。確か線路挟んだ駅の向こう側にあるはずだよ。」と那珂。

「行きたいのはやまやまなんだけど……あたしペンキがべっとりなんだけど!このまま町中歩くのは勘弁よ!」

 誘っておいてなんだがそりゃそうだ、と那珂は頷いた。

 

 その様子を見かねて提督が言った。

「五十鈴、せめて工廠の中の特殊洗浄水で洗い流してから出かけなさい。」

 ペイント弾を扱う以上は最低限、洗い流せる設備はあるのだ。

 

 そう言って提督は工廠を離れた。後ろには五月雨を始めとして時雨たちもついて本館へと戻っていった。工廠には(整備士を別として)那珂と五十鈴が残るかたちとなった。

 

「洗い流すの、手伝うよ?」と那珂。

 

 その後ペンキを洗い流し、外にでるのに恥ずかしくない程度の格好になった五十鈴は那珂と二人でスーパー銭湯に行く準備をした。その際、提督から五月雨たちも連れて行ってくれとお願いされたので、駆逐艦4人を連れて計6人編成でスーパー銭湯へと出撃していった。

 

 

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 夕方に差し掛かろうとする時間の少し前、スーパー銭湯にはまだほとんど人がおらずほとんど6人の貸切状態と化していた。衣類を脱いで全員浴場に入る。

 

「あれ、凛花ちゃん?女同士なんだから隠さなくてもいいじゃない!」

 と、那美恵は凛花が前を隠すために胸元からたれかけていたタオルを剥ぎとった。

「!!!なにすんのよ! 返してよタオル!」

凛花は顔を真赤にして怒る。

 

 手ですぐ隠されてしまったが隠しきれてないそのボリュームに、負けた……と那美恵は心のなかで舌打ちをした。

 そんな那美恵は前を隠そうともしない。一方で皐月たちは全員隠したまま。さすがに中学生には羞恥心もあって酷かと思い、那美恵は彼女らのタオルは剥ぎ取ろうとはしなかった。

 

 身体を洗ったり湯に浸かり、会話をする。

 

--

 

 そのスーパー銭湯は4~5種類のお風呂があり、那美恵たちはそれぞれ湯に浸かっている。たまたま那美恵は移動した先の湯に、夕立こと立川夕音が一人で入っていて二人っきりになった。

 那美恵も夕音も普段はストレートヘアで肩の下、二の腕の中間付近まで長い。二人とも頭上で束ねてタオルでくるんで縛ったり、専用の髪留めをして湯に浸かる。

 ふと、那美恵は以前夕音がオシャレしたいと言っていたのを思い出したので、それについて話してみた。

 

「そういやさ、夕音ちゃん。」

「はい?」

「この前オシャレしたいって言ってたよね?もしするとしたらどのへん?今イメージあるのかな?」

 

 那美恵がそう尋ねると、夕音はタオルでくるんだ髪が崩れないように抑えながら頭を左右に揺らした後、こう答えた。

「んーとね?服でもいいんだけど、別の服着てくるとね、出撃するときにそのお洋服破けたら補償しなくちゃっていけないからって提督にいちいち言わなきゃいけないんです。そーいうの面倒っぽいから、やるとしたらヘアスタイルにしよっかなって思ってるの。」

「髪型かぁ~夕音ちゃんはどんな髪型にしたい?」

「んー。ストレートはそのままにしたいかなって。」

「ストレートはそのまま? そーなるとワンポイントつけるくらい?」

 那美恵がそう言うと、夕音はタオルで包まれた髪を端から少し引っ張り出し、那美恵に髪型のイメージを伝える。

 

「前か横髪をね、なんかこう……ピンっとハネさせたら変わってて面白いっぽい?」

 那美恵はふぅん、と相槌を打った。すると夕音が那美恵に聞き返してきた。

「那珂さんはあたしやさみより短めだけど、そのままストレートにするんですか?」

「え?あ~。考えたことなかったなぁ。」

 那美恵は髪留めで湯より上にある自身の髪をところどころひっぱったりかき分けたりする。その様子をじーっと夕音は眺めている。するとなにか思いついたような表情になり、那美恵に近づいて密着してきた。

 

 

「那珂さん最初に制服着てきたときさ!アイドルっぽかったから、アイドルっぽいヘアスタイルにしてみたらどーですか?ストレートより絶対よさ気っぽい!」

「……そっか。何も普段の髪型で艦娘やる必要なんてないんだよねぇ?」

「そーそー。せっかくあたしたちすごいことやれるんだし、普段とは違うオシャレして艦娘やりたい~」

 夕音からの意外な提案に、まったく考慮に入れていなかった艦娘としての姿を考え始める那美恵。

 

「うーんそうだね~。髪型でいい案あったら今度教えて。夕音ちゃんたちくらいの若い子の流行知りたいし~。」

 那美恵が最後に茶化すように言うと、夕音もそれに乗った。

「うん!例えばポニテとかお団子ヘアとかウェーブとか、那珂さんの髪の量なら大丈夫っぽい? その時は那珂さんたち高校生のヘアスタイルやファッションも教えて!」

 

 ところで近づかれたとき那美恵は気づいたが、この立川夕音、五十嵐凛花より劣るが、胸のボリュームが中学生4人の間じゃ一番、そしてもしかしなくても那美恵自身よりでかい。肉付きも程よい。

 この娘、栄養全部胸に行ってるんじゃねーのと、どうでもいい感想を那美恵はひそかに抱くのであった。

 

 

--

 

 ノーマルタイプのお風呂に全員で浸かっているときのこと。

 

「ねぇ、凛花ちゃんはどこの高校なの?」

 と那美恵に対し、答える前に凛花は質問で返した。

 

「……その前にさ、あなたさっきからふつーに本名で私の事呼んでるわよね。艦娘名で呼ばないの?」

「えー、鎮守府を出たらあたしはお互いを本名で呼び合って仲良くしたいなぁ。だから全員の本名を提督から聞いておいたんだよ。よろしくね、皐月ちゃん、時雨ちゃん、夕音ちゃん、真純ちゃん。」

 そう呼ばれた4人は「はぁ」と勢いのない返事で返した。

 

 皐月は駆逐艦五月雨、時雨は駆逐艦時雨、夕音は駆逐艦夕立、真純は駆逐艦村雨担当だ。4人共同じ中学校の同級生である。もう一人白浜貴子という子がいるのだが、彼女は艦娘部の部長でありながらまだ同調で合格できる艤装に巡り合っていないため、鎮守府には来ていない。

 仲間はずれは可愛そうだなぁ、と那美恵は感じていた。

 

「んでさ、凛花ちゃんはどこの高校?」

「私は○○高校よ。」

「うっそ!?結構名門のところじゃない!凛花ちゃんすごいねー」と驚く那美恵。

「……そうでもないわよ。ふつーよふつー。」

 謙遜してるのか、凛花はそう答えた。

 

 お互いのことを話し合うと、意外と境遇は似てるのだなと那美恵は思った。五十鈴こと凛花も学校で艦娘部を設立して学生艦娘を集めて活動したいと思っていたが、学校側に拒否されてしまった。そのため普通の艦娘として鎮守府Aに応募し、五十鈴として採用されたのだ。

 彼女が話すことによると、やはり顧問になるべき教員が、職業艦娘になったり艤装の技師免許を取るのを渋っていたのだ。

 

「そういえば、皐月ちゃんたちは艦娘部作れたんだよね?先生の協力あったの?」

 話題を皐月たちにふる。すると時雨が答えた。4人の中では一番しっかりしてそうな子だと那美恵は感じた。

 

「うちは最初にさみが、ええと皐月が初期艦として艦娘になって、うちの学校に相談をもちかけたんです。で、たまたま先生の中に職業艦娘になってもよいという黒崎先生という先生がいらっしゃるんですが、その人が職業艦娘の試験を受けに行ってくれたんです。無事なれたのでうちの学校で艦娘部が作れたというわけで。

 僕達はもともと友達で、さみがやるなら自分たちも揃ってやりたいね、って話し合って部に参加したんです。」

 それに続いて村雨こと真純が言う。

「ですから私達って、さみと黒崎先生が揃っていなかったらこうして艦娘にならなかったかもしれないんですよ~」

 

 皐月たちの学校にはやる気ある人が揃っていた。生徒がやる気あっても教師がやる気ないとダメなのだな、と那美恵は痛感した。うちの学校もどうにかせねばと密かに思いを強める。

 

 

--

 

 那美恵はふと、皐月たちにこんな質問をしてみた。

「ね?みんな。みんなは何回出撃したことある?」

「私は4回です。」と皐月。

「僕は2回です。」と時雨。

「同じく私は2回よ。」と五十鈴。

 続いて夕立と村雨が答えた。

「あたしは1回!」

「私も1回です~」

 五月は初期艦五月雨として最初からいるだけあって、今のところすべての出撃任務に加わっている。その次に一番の仲良しの時雨、違う学校だが唯一の軽巡だった五十鈴が続く。

 

「ね?深海凄艦と戦うのって、怖くない?」

 それは艦娘として戦う少女たちにとって、根源とも言える、第三者が抱く当然の質問だった。

 五月は時雨たちと顔を見合わせて、そののち答え始めた。

「私も最初は怖かったです。けど、同調していざ深海凄艦と会って戦ってみると、その怖いっていう感じがあまりしなくなるんです。きっと艤装が私達のそういう怖いって感情をうまくカバーしてくれるのかなぁと思います。

 ……まったく怖くなくなるわけじゃないですけど、そういう気持ちの部分でも艤装に守られているから、艦娘っていうただの少女でも戦えるんだなぁって思います。不思議に出来ていますよね~。」

 

 一番経験がある五月の言葉は、彼女のぽわ~っとした雰囲気に似合わず、那美恵の心になんとなく重く響くものがあった。それは時雨たちも那美恵と同じ気持を抱いているように見えた。

 その後五月から話をさらに聞くと、彼女は鎮守府A着任以前、初期艦研修で限りなく本物に似せたダミーの深海凄艦と数回模擬戦闘をしているとの過去の経験を明らかにした。採用されて実戦にいきなり挑むことになりやすい普通の艦娘や学生艦娘とは異なり明らかに利がある。頼りなさげに見える五月が艦娘五月雨として普通に戦えるのは、初期艦として艦娘としての経験が一歩抜きん出ているおかげもあるのかと、那美恵は思った。

 

 

 

 その後6人は思い思いの会話をし、心身ともにリラックスして疲れを癒やした。

 

 スーパー銭湯を出て鎮守府へ戻る道すがら、6人は駅に隣接しているデパートでお菓子などを買い込み、鎮守府へ戻った。その日は6時過ぎまで鎮守府内でおしゃべりをして6人は家に帰っていった。

 提督は最初のうちは同じ部屋で6人の様子を見て時々会話に参加していたが、付き合いきれないと言って部屋から出ていき鎮守府内の見回りをしに行った。

 提督は責任者であるため、全員が帰らないと鍵を閉められないので最後まで残るはめとなった。

 




世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing

挿絵原画。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=51252949

ここまでのGoogleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1lSrLjZg0y_rgb_Sah7qP43M2BhmuQcwW4Xd_otNO_js/edit?usp=sharing
好きな形式でダウンロードしていただけます。(すべての挿絵付きです。)

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