同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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生徒会の対策

 展示終了の時間が訪れた。那美恵たちは展示を片付けて帰ることにした。3人とも三戸のことは気にはなるが、生徒会室に3人揃って戻る頃にはさすがにカタはついているだろうと捉えていた。阿賀奈とは視聴覚室の片付けが終わった後に別れた。

 

 最初に運ぶものを生徒会室に持って行って、那美恵達3人が生徒会室の扉を開けると、同時に生徒会室から出ていこうとする流留と鉢合わせになった。

 

「うあっ!?」

「きゃっ!」

 

 先頭にいた那美恵と部屋から出ていこうとしていた流留は同時に驚いてのけぞる。そして那美恵が真っ先に反応して口を開いた。

 

「あれ、内田さん? 生徒会室から出てきてどうしたの?」

 生徒会室から内田流留が出てきたことに驚いてみせた那美恵は本人に問いかけた。

 

「あ、生徒会長!? あの~ええとー……。」

 流留は言い淀んでまごつき、部屋の中にいた三戸をチラリと見て視線を送った。その視線を受けて、三戸が代わりに答えてくれるものと彼女は思ったが、三戸のしゃべりは違うものだった。

「内田さん、いいんじゃね? 直接本人に言えばさ。」

「うー……それはそうだけど。」

 

 普段のハツラツさはなく、ソワソワする流留。そんな様子の流留を見て那美恵は流留を一旦生徒会室内に入るよう促し、提案した。

「とりあえず部屋に入って待っててくれるかな? お片づけした後ゆっくりはなそっか。」

「……はい。」

 

 生徒会長である那美恵の言うことにおとなしく従い、流留は生徒会室に戻って三戸のとなりに座って待つことにした。

 那美恵たちはその後せわしなく生徒会室と視聴覚室を行き来して展示道具を片付けている。最初は三戸も黙って座っていたが、再び戻ってきた三千花にどぎつく注意を受け慌てて視聴覚室へと向かって行った。

 

「あの……あたしも手伝いましょうか?」

「ううん、内田さんはいいのよ。どうせすぐ終わるし、これ生徒会の仕事のようなものだから。」

 三千花は頭を振り、流留をそのままにさせて再び視聴覚室へ戻っていった。一人取り残される流留はぼうっとしてるしかなかった。

 

 

--

 

 数分後、ようやく生徒会の4人が生徒会室に戻ってきた。5人になったところで、続きが話された。

 それは三戸が対応した事の確認の意味をこめた繰り返しだった。

 

「改めて内田さん、お久しぶり。元気にしてた?」

「……。」

流留は落ち着いた様子でいる。が、那美恵から話しかけられても口を開こうとしない。

 

「内田さん。」

 三戸が一言名を呼んで促す。すると流留はようやくしゃべりだした。

「生徒会長にお願いがあります。あたしを、艦娘にしてください。鎮守府っていうところへ連れて行ってください。お願いします。」

 流留の口から発せられたのは、それだけだった。彼女が今置かれている状況については触れられなかったのに那美恵は気づいたがあえてそれを指摘はせず、片腕をおもいっきり揚げてガッツポーズをしつつ一言返事を返す。

 

「おっけぃ!やっと決心してくれたんだね!嬉しいよ~」

 

 那美恵の表情はにこやかに、一方で艦娘になることを決心した流留の表情は目を細めて暗い表情をしたまま。その二人の様子をみた三千花は那美恵があえて触れなかった流留の今の状況について我慢できずに指摘する。

「艦娘になるのはいいんだけど、内田さん。あなた、今自分がどういう状況に置かれているかわかってる? なんで今このタイミングで艦娘に? 私はちょっと理解できない。説明してくれない?」

 那美恵とは違ってビシビシと突っ込む三千花。流留はさきほど三戸に対してそれ以上は言わせず、言わなかったことを、ここでも同じようにするつもりでいた。

 

「そんなの、副会長には関係ないじゃないですか。あたしは艦娘部に入りたいってことを伝えるためだけにこうしてここにわざわざ残ったんですから。」

「!!」

 流留の言い方と態度に激昂しかかる三千花。それを那美恵が手で遮って止める。

 

「まぁまぁみっちゃん。艦娘になってくれるって言ってるからとりあえず今はそれでいいとしよ?その他のことはきっと三戸くんと話したんだろうし。ね? ね?」

 

 そう言って那美恵は三千花と流留に目配せをした。異なる対応を見せる那美恵と三千花を流留はこう思った。ちゃらけているけどなんか適切に配慮してくれる良い先輩と、いかにも真面目ぶってそうでつっかかってくるおせっかいな先輩。

 流留は中村三千花という先輩とは気が合わないと直感した。

 一方でそれは三千花にとっても同じだった。自分の現実が見えていないのか見てないのか、突然関係ないことを言い出す今ある意味ホットな1年生。きちんと振る舞う気がないのか。

 到底自分とは気が合いそうにないと。

 

 牽制しあっている二人を見て那美恵は虚空を見上げながら「んー」と喉を震わせて唸ったのち、つぶやきだした。

「これはあたしのひとりごとね。あたしは、助けをきちんと求めてきた人はなんとしてでも助ける。そうでない人には、まわりを取り繕う程度に助けるだけ。あたしってなんてクールなんだろ~!?」

 

 突然わけのわからないことを言い出す那美恵に流留は怪訝な表情をして静かに驚いた表情を見せた。三千花は、おそらく自分と内田流留に対して言ったであろうそのセリフの意味するところを理解し、はぁ、と溜息をついた後に那美恵に向かって言った。

「わかったわよ。なみえの判断とやりかたに従うわ。でもお昼にみんなで決意したばかりなのに、どうなっても知らないわよ?」

 

 

 三千花の忠告とも取れる愚痴を那美恵は手をひらひらさせて受け流して、次の一言で話を進めることにした。

「よっし。じゃあ時間も時間だし、最後に内田さんに川内の艤装との同調、もう一度試してもらって今日は終わろっか。そしたら内田さんはもう帰っていいよ?」

 

「はい……えっ? また、その機械試すんですか?」

 軽く返事をしたあとに流留は最初に同調したときのあの恥ずかしい感覚を思い出して頬を赤らめた。その様子を見て那美恵は流留の耳元に顔を近づけ、そうっと小声でフォローの言葉を囁いた。

「だいじょーぶだいじょーぶ。あの感覚は最初だけだから。多分もう起きずにすぐに艤装と同調出来るはずだよ。ささ! レッツトライ!」

 告げられた後の流留の耳は赤みを帯びてその身は熱を帯びていた。

 

--

 

 軽い那美恵に促され、一同は生徒会室に保管するために持ち運んできた川内の艤装からコアの部位とベルトを取り出し、那美恵はそれを流留の腰にまこうとした。

 

「会長、あたし自分で巻きますよ。」

 そう言って流留は自分でベルトを腰に巻いた。制服のスカートにもベルトがあり、艤装のベルトはそれよりも若干幅と厚みがあるので、制服のそれよりも少し上あたりで巻くことにした。

 

「じゃあ呼吸をして落ち着けて。この前あたしが教えたやり方覚えてる?」

「……いいえ。」

「アハハ。正直でよろし~。こうするんだよ。じゃあやってみよ?」

 

 流留は深呼吸をして、同調する準備が整った合図を那美恵にする。それを受けてタブレットを持った三千花がアプリから川内の艤装の電源を入れようとする。

 

「? え? あれ? ちょっとなみえ。なんかConnection Errorとか出るんだけど。これ何?」

 三千花が異変を訴えた。那美恵は三千花に近寄り彼女の持っていたタブレットのアプリの画面を見る。すると、確かに英語でエラーメッセージが長々と表記されている。那美恵はその英文を読んでみた。

「え~と。起動のためのバッテリー残量が不足か、電源ユニットが接続されていません? 通信ユニットと電源の接続に異常がなんたらかんたら。」

「……え?」

「え?」

 読み上げた那美恵に一言で尋ねる三千花。それに一言で返す那美恵。つまり二人ともわけがわからないという状態になった。

 

「な、何が起きたんですか?」

 互いに聞き返し合う那美恵と三千花を目にし、状況を分かってない流留がハッキリ質問する。書記の二人ももちろんその状況をわかっていない。

「そういえばなみえ。艦娘の艤装って、電源とかはどうなってるの?」

「え、ええと。あの~。アハハハ。多分電気?なんだろーけど、わかんな~い。」

 本当にわからないので仕方ないと思いつつも茶目っ気混じりで謝る那美恵に、三千花は想定を交えて言った。

「そういえば学校に持ち運んでから一度も電源をどうのこうのしたことなかったわね。もしかして、今までバッテリー充電してなかったの!?」

「……はい。」

 非常にか細い声で那美恵は返事をした。

「マジで!? 川内の艤装、バッテリー切れ起こしてるじゃないの!?」

 

 三千花の叫び声を聞いてやっと理解が追いついた書記の二人も口を開いた。

「夢の永久機関搭載の最新機器とかじゃないんっすね……。」と三戸。

「1週間も充電しないで保っていたのがもしかして不思議だったんでしょうか? 艤装って電池保ちいいのか悪いのかわからないですね……。」

 和子も思ったことをツッコミ風に口にした。

 

 

 バッテリー切れ

 

【挿絵表示】

 

 

 川内の艤装は那美恵たちの高校に持ち込まれてから1週間以上、一度も充電されていなかったのだ。その状態を呆けて見ていた流留は三戸になにかヒソヒソと話し、誰へともなしに提案する。

「充電ならコンセントとか無いんですか? それかUSBとタッチ充電とかもダメなの?」

「そんな……携帯電話じゃないんだから。」三千花が突っ込んだ。

「多分、工廠にある電源設備じゃないとダメなんだろ~ね。あぅー。」那美恵は凹んだという表情をして俯く。

 

「これじゃあ明日の展示は艤装なしでやるんすか?明日も試しに来る人いたら気まずいっすね。」

 三戸が懸念した事に那美恵・三千花・和子は一人の少女のことを真っ先に連想した。が、色々可哀想だが無理だと判断するしかない。

 

「提督か明石さんに連絡しておくよ。さすがに運べないから翌日以降に取りに来てもらお。」

 連絡は那美恵がすることにし、結局翌日の艦娘展示は急遽中止することにした。どのみち生徒会メンバーはあることを集中して対策しないといけない。

 期せずして出来た時間を手放しに喜べない那美恵たちだったが、艦娘部入部の意思を見せた流留に、入部届けを出してもらう必要もあるので、時間ができたのは良いことだと納得することにした。

 

 

「内田さん。あとで入部届け出してね? 艦娘部の顧問は四ツ原先生だから。」

「えっ? あがっちゃんが顧問なんですか? え~……。」

 流留の素直な反応に那美恵や三戸が笑う。そして三戸が流留に言い放つ。

「やっぱそれが普通の反応だよなぁ。まぁでもあの先生。俺らが思ってるより優秀な人っぽいから心配しなくていいんじゃね?」

「三戸くん……あなた艦娘部と直接関係ないからって適当なこと言って無理やり納得させようとしてない!?」

「し、してない!してない!」

 

 きりっとした目をさらにキリッとさせて三戸に睨みを効かせて言う流留。その視線にドキッとした三戸は慌てて頭を振る。そんな三戸をフォローするように那美恵は言って流留を平和裏に納得させた。

「ま、でも艦娘のことすぐに覚えてわかってくれたし、良い先生なのは確かだよ。アレな性格みたいだから1年生のあなたたちはなんか避けてるようだけど、気楽に接してもいいかもね。」

「はぁ……。」

「ま、ともかく入部届けを出してくれたら、それで晴れて内田さんも艦娘部の一員だよ。そしたら今度帰りにでも一緒に鎮守府行こっか!提督にも会ってほしいし、鎮守府気に入ってくれると嬉しいな。」

「はい!それは早くにしてもらえると嬉しいです!」

 その後、流留は生徒会室を出て帰っていき、生徒会室にはいつもの4人が残った。

 

 

--

 

「……ということなんっす。」

「そ。内田さんはそう言ったんだ。」

 生徒会室に残った那美恵たちは三戸から内田流留本人が相談してきた内容について聞いていた。流留が生徒会4人の前では決して話さなかったことのほぼすべてを、三戸は彼女に悪いと思いながらも、生徒会メンバーとして仕方なしに生徒会長たちに伝えた。

 

 

「俺も彼女の真意がわからないんっすけど、とりあえずは俺達がやろうとしていたことと内田さんの相談内容が合致していたからいいかなと思ったんす。」

「で、三戸君が話している途中で突然彼女は艦娘になりたいと言ってきたと?」

 三千花からの確認に三戸は頷いて答えた。

「はぁ……。あの子の思考がまったくわからないわ。なみえも結構飛ぶところあるけどあの子も負けず劣らずね。」

「あれー、誰かからさり気なく貶められているような気がするぞー」

 三千花はそのぼやきを無視しておいた。

 

 無視されたので那美恵は仕方なしに真面目に話を進めることにした。

「……ま、彼女の望みに一致してるところは早めにやっとこ。昼間指示したとおりにみっちゃんはSNSの運営会社に連絡、三戸くんとわこちゃんは案内の資料作って、口頭で言ってまわれるところは言ってみんなに注意喚起する。場合によっては先生方に相談するのも仕方ないや。あたしたち生徒だけで解決できるのにも限界あるし。」

 

「えぇ、わかったわ。内田さんの考えや態度も気にはなるけど、あくまでも周囲の噂による騒ぎを潰す、そういうことよね?」

 三千花の確認に那美恵はコクリと頷いた。

「じゃ、今日は解散。すっかり遅くなっちゃったからみんな揃って帰ろー」

 気がつくと18時をすでに過ぎていた。那美恵の一声で全員帰り支度をし、男子の三戸を先頭に4人は珍しく揃って下校し帰路についた。

 

 

 

--

 

 その日の夜、那美恵は艦娘の展示を中止する旨をSNSの高校のページに書き込んでおいた。

 合わせて提督に川内の艤装のことについてメールし、提督経由で明石に伝えることにした。その後、提督から転送されたメールを受け取った明石は那美恵に直接メールをし、艤装の状態を一度確認しに行く旨を伝えた。那美恵はそれを承諾した。とはいえ学外の人間が学校に入るには学校側の許可が必要なため、正式な連絡は後日することになる。

 

 

 

--

 

 翌日。

 お昼に生徒会室に集まった那美恵達4人+生徒会顧問の教師は、内田流留付近の件について対応策の最終調整をしていた。なぜ生徒会顧問の先生がいるのかというと、三千花がSNSの運営会社に連絡する前に、やはり学生だけでは不安に思ったため仕方なく顧問の先生に事の次第を伝えたためだ。

 

 

 顧問の教師は、内田流留本人の言い分をきちんと聞いて証拠として書き起こすか録音しておかないと何の解決もならないと生徒たちにアドバイスをした。那美恵たちの対策に諸手を挙げて賛成したわけではない。顧問としても、あまり大事にさせる気もないので当事者同士で解決して欲しい考えである。ただ肝心の当事者同士の根本の話が見えない以上はどうしようもない。どのように解決するにしても、なんとかして当事者の口から証言を取っておくべきだと、那美恵たちはアドバイスを受けた。

 

 直接流留から相談を受けた三戸が顧に言う。

「でも先生。内田さんが話したがらないというか触れてほしくない様子なんっすよ。だから俺もそのときそれ以上突っ込めなくて。」

「私達もそのことを受けて、じゃあなみえ…会長の考えたことで対応すればいいかひとまずいいかなと考えていたんです。それではダメなんですか?」

 三千花が顧問の先生に補足説明をしたのち聞き返す。三千花の問いかけを聞いて顧問は答えた。

 

「ダメではありませんけれども、それが内田さん本人が望む対応だったとしても、相談を受けて対応する以上は彼女の言い分をきちんと聞いておかないと、あとで困るのはみなさんですよ。あなた達は何一つ確実な要素なしで動こうとしていませんか?」

 先生のいうことももっともだと那美恵は思った。やはり強引にでも先日聞き出しておくべきだったかと反省する気持ちを抱く。

 

「先生。彼女のことはあとで聞き出すとして、あたしが考えた対策はいかがですか?ちょっと心配になっちゃいました。」

 顧問は頭をやや傾けて目をつむって数秒したのち、那美恵の不安に答えた。

「そのでまかせと思われるの内容の投稿を消してもらう依頼をするのは有効でしょう。本当に全部消してもらえるかどうかはわかりませんが、連絡してみる価値はあります。これは明らかに個人への誹謗中傷ですからね。ただ校内への掲示の文章はすこし変えたほうがよいですね。」

 

 和子が家で考えて打ち出してきた書面の内容に添削が入る。掲示の文章は和子が引き続き作成し、顧問の教師がレビューを行うことになった。那美恵と三戸は、流留と直接コンタクトして聞き出す役割。三千花は顧問の教師とSNSの運営会社に連絡する。

 

 

 

--

 

 放課後になり那美恵たちは再び生徒会室に集まって作業の続きを行なった。先生が加わったこともあり和子や三千花の作業は捗っている。

 掲示用の文章は噂などという言葉は使わず、最近SNSなどのサービスで学外にも見えるような形で生徒間の誹謗中傷が行われてる旨に触れ、その手の行為を行なっているのを発見した場合は学年主任および生徒会から厳しく注意、場合によっては厳罰に処すという構成の内容になった。その内容で学年主任の先生にも確認してもらうことになった。学年主任へは、風紀の管理のための定期的な掲示としてどうか、という相談で話が通されたために、流留への集団イジメは気づかれずに済んだ。そしてその文面で学年主任からOKが出たので、学年主任および教頭の印が押されてその文書は公的な文書に变化する。それと同時に風紀委員へも個人の名は伏せて提示され、公的権力によって学内の集団イジメの空気という害毒を中和させる準備が整っていった。

 校内の各掲示板への掲示およびSNSの高校のページの連絡欄に同文面のPDF版が添付された。

 

 SNSの運営会社への連絡のほうは、サポートセンターからの素早い連絡があった。サポートセンターによると、そういう事情であれば対応してもよい。すべての投稿には、その共有元となる元投稿が紐付けられており、すべて追えるようになってためにこの発端である人物を特定することもできるがどうするか?と説明と確認が来た。それを追えば誹謗中傷の投稿を流した最初のユーザーアカウントがわかるのだ。

 

 那美恵たちの高校の生徒間に出回った投稿は再共有を繰り返されて入り組んだ膨大なものになっており、普通に対応したのではもはや対処のしようがない。そのため三千花と顧問の教師はそこまでの調査をサポートセンターに依頼した。連絡は生徒会顧問の先生の名を挙げ、自分ら側の箔を付けることにした。

 サポートセンターから聞いた内容を三千花は那美恵や三戸たちにも報告し、うまくいけばいじめの犯人を突き止めることも不可能ではないと、希望を持たせた。

 

「それが本当なら、ますます内田さんからこれまでの本当の事情を聞いておかないとね。」

 パソコンを操作する三千花ととなりにいた先生の向かいの席に座っていた那美恵はそう言う。

「どうします?早速内田さん呼び出しますか?」

 那美恵の隣にいた三戸は携帯電話を手に取り、那美恵と三千花に合図を送る。

 那美恵はもともと連絡してもらうつもりだったが三戸から流留の様子を聞いていたので、おそらくどこかしら同校の生徒の目がある場ではきっと彼女の本心を聞き出せないだろうとも思っていた。

 

「よし。三戸くん。内田さんに連絡取っておいて。都合があえば明日の放課後にでも生徒会室に来てもらお。」

「はい。了解っす。」

 那美恵からのGOサインが出たので、三戸は早速流留にメールした。

 

「内田さん。ちょっと話したいことがあるから、時間あるとき生徒会室に来てくれない?」

 ほどなくして彼女から返信が来たので三戸は読み上げた。

「なに?艦娘のこと?何かあった?わかった。すぐ行く。」

 

「すぐ行く!?」三戸は思わず最後の言葉を2度読み上げた。

 数秒後生徒会室の扉がコンコンとノックされた。那美恵がどうぞと促すと、扉を開けて流留が入ってきた。全員、いくらなんでも早すぎだろ…と心のなかでツッコミを入れた。

 

 

「アハハ。三戸くん、もう来ちゃったけど、よかったかな? ちょうど一人で校内ブラブラしてたから暇でさ……」

 流留は三戸と隣にいた那美恵をチラっと見ながらそういった。そして三戸の奥にいた生徒会顧問の先生に気づくと、慌てて取り繕う。

「あ!先生……! ゴメンなさい!今はさすがにダメだったよね?じゃあまた今度……」

 そう言って踵を返して出ていこうとする流留を、三戸ではなく那美恵が呼び止めた。

「ちょっと待って内田さん。先生、みっちゃん。あとは任せていいかな?」

「え? えぇ。いいわよ。こっちはこっちで作業続けるだけだから。三戸くんも連れて行くんでしょ?」

 三千花は頷いて承諾し、那美恵の考えを察して確認する。すると言葉を発さずに那美恵は頷き返した。

 

 

 三戸と一緒に何かを話すのかと思っていた流留は、那美恵も加わりそうな雰囲気を目の当たりにして、少し戸惑いと拒絶の色を見せ怪訝な顔をする。そんな様子を気にせず那美恵は彼女と三戸を生徒会室の隣の資料室へと連れて行くため促した。

「内田さん、三戸くん。隣の部屋にいこっか。あっちでなら色々3人で話せるよ。ね?」

「了解っす。内田さん、いいかな?」と三戸も確認混じりに促す。

 その二人の仕草を見て流留は、不安に感じるも黙って頷いて二人の後ろに付いて資料室に向かった。

 


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