同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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プール掃除と友人

 プール掃除に行く途中、三戸は友人を呼びに行くために那美恵たちから一旦別れた。

 那美恵と三千花、そして和子の3人は先にプールへと戻り、機械室の鍵を開け排水口の栓のロックを解除した。ほどなくして機械室の外、プールの地下でズゴォォォという音が聞こえ始める。

 そのまま10数分待つ那美恵達。外はじんわり暑く、そして暇なので機械室の入り口付近の日陰になっているところでボーっと待つ3人。

「そういやさ、三戸くん友人呼びに行くって言ってたけどさ、この時間残ってる生徒なんているのかなぁ?」

「まー、普通に考えていないでしょうね。」

「部活やってる人は残ってますけど、みんな部活動で忙しいですよね。」

 那美恵の素朴な疑問に、三千花と和子は現実的な反応で答える。

「ね!ね!今のうちに着替えておかない?」

「そうね。だけど……ホントに水着着るの?てか水泳の授業なんてまだないから持ってきてないわよ?」

「私もです。普通に体操着でやればいいのでは?」

 那美恵が提案すると三千花と和子に冷静に突っ込む。

「やだなぁ~二人とも。さすがのあたしもマジで水着着るとかないよ~。あの場はああ言わないと三戸くんノッてこないでしょ?あと彼地味に人脈広いから、友達連れてくればいいなぁ~っていう期待も込めてだよ。」

 あっけらかんと言う那美恵。実質、三戸を騙しているが大した問題ではないだろう、三千花はそう思い納得の表情を見せて頷いた。

 

 そして3人はプール備え付けの更衣室に行き、それぞれ着替え始める。

「あ、そだ。あたしはせっかくだから那珂の制服着てやろっかな?これなら濡れても汚しても問題な~し。ね?みっちゃんも制服着てやらない?」

「やらない。」

 即答する三千花。

「はえーみっちゃん即答かい。いいじゃん別に恥ずかしい思いしないし、ただ服着替えるだけだよ?」

「い、や!」

 チラチラっと制服のスカートを掲げて見せるが、一言ずつ強調して着用すら拒否する三千花の反応に、仕方なしに那美恵は着せるのを諦めた。

「それそもそもあんたの那珂の制服じゃないの!?あたしとサイズ合わないでしょ?」

「ぶー。そんなにサイズ違わないでしょ!」

「少なくとも上はきっつくなると思う。」

「ぐっ、ぬぬぬ。いいよわかったよ。一人で着るよ……。」

 持ってきたバッグに入っていた那珂の替えの制服をそっとしまう那美恵。三千花はやや寂しそうな親友の横顔を見て、服くらいなら付き合ってあげればよかったかなと思ったが、うっかり気を緩めるとしつこい場合があるのでこの場はあえて拒否の態度を貫くことにした。

 結局那美恵は那珂の制服、三千花と和子は体操着という格好でプールサイドに再び姿を表した。

 

 

--

 

 プールサイドに出て半分くらい減ったプールの水を眺めていると、プール施設の入り口から三戸が数人連れて入ってきた。女子1人、男子3人という構成だ。

「おまたせしましたっす、会長。4人集まったっす。」

 そう言って三戸が紹介したのは、同じ1年生の比較的よくつるむ4人だった。那美恵と三千花はよろしくーと挨拶するも、和子だけは違う反応を見せている。

 

「あ……内田さん。」

 彼女がそう呼んだのは、三戸が連れてきた友人の紅一点だ。そう呼ばれた少女は内田流留(ながる)といい、きりっとした目つきにミディアムな髪、中性的な印象を残しつつもいかにも気が強そうな美少女という雰囲気を醸し出している。

 そんな少女は男子たちの先頭に立って姿を現す。

 

【挿絵表示】

 

「こんちはー。ってうお!生徒会長いるじゃん!」

 流留は三戸に詰め寄って軽口で抗議し始める。

「おーい三戸くん。2年生いるならいるって教えてよ。しかも生徒会長だし。」

「ゴメンゴメン。別に言わなくても大丈夫かと思ってたよ。」

 軽いノリで三戸が言うと、さほど気にしていないのか、流留や他のメンツもすぐに直前のノリに戻る。

「ま、いいや。来ちゃった以上は手伝うけどさ。さっさと終わらせて皆で遊びに行くよ?」

 

 流留たちが近寄ってきたので那美恵と三千花は挨拶をかわす。しかし和子だけは反応が違う。少しおっかなびっくりな態度で那美恵と三千花の間に移動する。その様子に気づいた那美恵はどうしたのか尋ねた。

「およ?わこちゃん。どしたの?」

「……!あ、その。いいえ。なんでもないです。」

 那美恵は和子の様子をそれ以上気に留めないが、三千花は和子の様子が気になっていた。

 

 

--

 

 プール掃除のために計8人がプールサイドに思い思いのポーズで立つ。那珂の制服を着た那美恵が7人の前に立ち、音頭を取り始める。

「もーすぐ水が引くから、そしたらとりかかるよ。みっちゃんと三戸くんは外の水道の蛇口にホースつけて、水を流す係ね。で、内田さんたちは三戸くんに従ってその側をデッキブラシでおもいっきりゴシゴシと。もーガンガンやっちゃって。三戸くんの持つホースは長いからどんどんプールの先まで進んでいっちゃっていいからね。」

「はい。わかりましたー。」

 やや気だるそうに流留が、続けて他男子生徒たちが真面目に返事をする。そして那美恵は三千花と和子のほうを向いた。

「そんで、あたしとわこちゃんはみっちゃんが水をかけるところひたすらゴシゴシやるよ。みっちゃんのホースのほうが短いから、あたしたちのほうがプールの前のほうを重点的にやります。」

「「はい。」」

 那美恵は三千花から、和子の様子が気になる。どうも内田さんたちと混ぜるな危険ということを聞いており、その意を汲んで三千花・和子・那美恵の3人組になるように構成を指示した。

 まもなくプールの水が完全に引く。各自デッキブラシを持ったり、蛇口にホースを取り付けるなどして準備をする。各自の配置に付く最中、生徒会長である那美恵の格好が気にかける人物がいた。内田流留その人だ。

 

「ねぇ生徒会長。その格好なんですか?」

「ん?これ? これね、艦娘の制服なんだよ。あたし艦娘やってるから。さっきまでここでデモンストレーションしてたんだ。」

「へぇ~艦娘やってるんですか。」

 やや興味ありげな様子を見せる流留に、なんとなくクるものがあった那美恵はこそっと勧誘してみる。

「ね!ね!内田さん。内田さんは艦娘興味ある?」

「え?艦娘? うーん。よくわかんないし、別にいいや。」

「そっか。」

 那美恵に似た感じで、あっけらかんと答える流留。那美恵はその答え方を気にしつつもその場ではすぐに口を閉じて話題を終わらせた。

 その様子を見ていた三千花は、那美恵を引き寄せて彼女に問いただす。

「なみえ。あの内田って子艦娘に誘わないの?」

「えー。うん。今はね。」

 那美恵の頭は今はプール掃除を済ませることが占めており、今本気の勧誘なぞする気はさらさらない。三千花は親友の考えが何か別にあるのかとなんとなく察し、それ以上気に留めることはしなかった。

 

 

--

 

 プールの水が引いたので、8人はプール内に降り立って掃除をし始めた。三千花が水をまくところに那美恵と和子が、三戸が水をまくところに流留たち4人が集まって作業をする。その2つのグループは端と端にいるので距離がある。

 プール掃除を進めながら、三千花と那美恵は和子に、さきほどの態度の理由を聞き出し始める。

「ねぇ毛内さん。さっき内田さんが来た時にあなたビクついてたけど、何かあったの?」

「そーだ。そーそー。どうしたの?」

 三千花と那美恵が尋ねると、和子はやや俯きになり下唇を上唇でグッと抑えて口を真一文字につぐんだ後、口をモゴモゴさせ、チラチラっと流留の方を遠めで見て確認してからゆっくりと口を開いた。

「実は、あの内田さん。1年の女子の間ではあまり評判よくないんです。」

「「評判?」」

 那美恵と三千花がハモって聞き返す。

 

「はい。私は違うクラスなのであくまで噂程度でしか知らないんですけど、よく男子と一緒にいるそうなんです。それだけなら別にいいとは思うんですけど、彼女と同じクラスの女子の話だと、いろんな男子とよくつるんで、周りに男子がいない時間はないってくらいだそうです。どうも色目使ってるからだの、男遊びするその……不良だからだの思われてるそうで、本当のところはわからないですけど、とにかく私達他の女子からすると、印象悪い子、怖い子、評判最悪な子なんです。」

 

 つまりは色恋沙汰で素行が悪い子なのか、と那美恵と三千花は和子の話を聞いて真っ先に思った。さらに和子から話を聞く。

「評判悪くしてる例の一つで、ある女子が密かに思いを寄せてる男子がいるんですが、その男子も例に漏れず内田さんと結構仲良くしちゃう人で、内田さんも見せつけるようにその女子の前でイチャイチャするんです。それを見てたその女子の友達が激怒しちゃって……。」

 まだ恋愛経験のない那美恵も三千花も恋愛が絡む話となると年頃の女の子らしく、和子の話に興味津々で聞き入る。

「え~、内田さんってその男子と付き合ってるの?」

 那美恵が尋ねると、和子は頭を横に振る。

「いえ。付き合ってるとかそういうわけではないみたいです。ただその子の友達からの話だと、その子の気持ちをどこかで知って、それでもてあそぶようにその男子と仲良くして見せつけてるんだって。内田さんの取り巻きの男子の中にその男子が入るようになったのって、その子が友達に気持ちを打ち明けて相談した後くらいから急になんだそうです。あまりにもタイミングがよすぎるって、勘ぐってるみたいなんだそうです。」

 

 和子でさえ、又聞きでしかない内田流留の恋愛与太話。那美恵は色々妄想しているようでふんふんと聞いているが、三千花は仔細を聞いて一蹴する。

「なにそれ。噂が噂を呼ぶじゃないけど、どこにも確かな要素ないじゃない。くっだらない。」

「でも直接内田さんと関わりがない私みたいな違うクラスの女子は、聞こえてくるそういう話だけでも近寄りたくない、関わりたくない、そういう印象の人なんです。」

 和子に対してではなく、その話自体に対して嫌悪感を三千花は湧き上がらせる。彼女の握るホースの先からは、勢いを増した水流が2~3m先のプールの底面にビシャビシャと当たっている。

「どういうつもりで男子とつるんでるのか知らないけどさ、誤解を招くことようなことしてる内田さんが悪い。けど、きちんと確認せずに陰で噂するのもどうかと思うわ。それに毛内さんもそんな噂なんかでビクついてたらダメよ?」

「は、はい。それはわかってるんですけど……。」

「まーまー。みっちゃんそーいううわさ話や不真面目な関係やごちゃごちゃしたこと嫌いだもんねぇ。」

 

 那美恵の問いかけに言葉を出さずに三千花は微妙な頷きをし、親友に対して口を開いた。

「なみえだっておんなじようなもんでしょ。純愛至上主義なお調子者さん」

「ぶー!みっちゃんいじわる~」

 デッキブラシで三千花を突こうとする那美恵にすかさずホースの水で反撃する三千花。

「きゃ!やったなぁ~」

 

 

--

 

 和子から話を聞いてあれやこれや雑談しつつふざけつつも掃除を続ける3人。もちろん離れたところにいる三戸と流留たちには聞こえないように声のボリュームを下げる配慮をしている。

 

「ねぇなみえ。私さっき内田さんを艦娘に誘わないのって聞いたけど、やっぱ前言撤回。あの子はやめなさい。」

「およ?なんで?」

 那美恵と和子に対し背中を向け、二人とは違う方向にホースで水を巻き始める。二人に顔を見せずにいる三千花の眉間には皺が寄っている。そしてその理由を口にした。

「真意がどうであれ、ああいう良くない噂が立つ子は側にいさせるべきじゃないよ。」

「みっちゃん……。」

「私はなみえがああいう子とつるむのは……よくないと思う。なみえのためにならない。」

 

 三千花の背後でデッキブラシを持った那美恵と和子が黙って立っている。手の動きは止まっていて、掃除という行為をなしていない。

「みっちゃんさ、今自分が矛盾してるのわかってる?」

 那美恵の一言にくるりと体の向きを変えて振り向いた三千花。那美恵は口だけを笑いを含んだ、見透かしたような表情だ。

「今のみっちゃんはさ、みっちゃんが嫌ううわさ話で判断する人、そのものだよ。それになんであたしが内田さんを誘う前提なの?」

「!! いや……私は、あなたからそういう素振りを感じられたから……。」

「だから、なぁに?」

 

 那美恵から心を突くような一言。三千花は親友のその見透かしたような問いかけに怯んだ。その影響で右手に持ったホースの水はゆるやかな水流になっている。しばらくの沈黙のあと、三千花は照れ混じりに口を開いて白状した。

 

「確かに、そうね。私もあの子のうわさ話だけで判断しちゃってる。けどそれを承知で白状するわ。もし内田さんが艦娘部に入ったら、きっと取り巻きの男子も入ろうとするかもしれないし、そうなるとなみえ、あなたの目的が……」

 うつむき加減で言葉が途中で途切れる三千花。口を挟まずに三千花の次の言葉を待つ那美恵と和子。

「その……さ。あんたは孤立して、目的を果たせなくなって、内田さんと大勢の男子のためだけの部活になって、その……万が一にでもなみえが危ない目にあったらどうしようって……思ったのよ。」

 言い終わった三千花の視線は那美恵に向かいまっすぐ差している。2~3秒の沈黙のあと、それを那美恵の笑い声が打ち破った。

 

「プッ!アハハ~!みっちゃん!考えすぎぃ! いくらなんでも妄想広げ過ぎだよ~。フフッ」

 その瞬間三千花は顔を赤らめて怒りながら那美恵に詰め寄る。

「ちょ!笑うことないじゃない!私は万が一のことも考えて心配してあげるのに!!」

「会長、さすがに笑うのはどうかと……」

 せっかく心配してくれた三千花のことを笑う那美恵に対しさすがに気まずく感じた和子は三千花の方を心配げにしてフォローに回った。

 

「はーいはい。みっちゃんは優しいね~そーいう心配してくれるところ、あたし好きだなぁ~」

「勝手に言ってれば?ふん。」

 真面目に心配していた思いを笑われて三千花はプイッとソッポを向く。

「ゴメンねみっちゃん。心配してくれてありがと。この感謝はホントだよ?」

「会長も副会長も、与太話に影響されて喧嘩しないでください。」

「うん。わかってるよわこちゃん。みっちゃんが本気で怒ってたらあたしも手つけられないくらいだから。ま、でもみっちゃんには悪いけど、わこちゃんから話聞いて、内田さんのことちょっと興味湧いてきたなぁ。」

 

 そう那美恵が言うと、三千花は那美恵をキッと睨みつけた。

「だから怒んないでってば、みっちゃん。あたしもみっちゃんと同じくさ、内田さんをうわさ話だけであれこれ判断したくないんだって。もーちょっと彼女の情報手に入れてから艦娘部に勧誘するかどうかは決めるよ。」

「……なんで内田さんなの?うちら2年だし、ほとんど全く接点ないでしょ?なんでいきなり気になり始めてるのよ?」

 那美恵は腕を組んで冗談半分本気半分で悩む仕草をしてう~んと唸ってから答えた。

「なんかね、さっき話しかけられたとき、ビビッと来たっていうのかな? 不思議な感じ。……とかなんとかかっこいいこと言っちゃうけど本音はね、せっかく今日会った新しい人だから一人でも多く艦娘のこと見てもらいたいってだけなんだけどね。全然深い意味ないよ。」

 

 三千花は那美恵の言い方に含みがあるのに気づいた。ただ那美恵が良く含ませて語るのをよく知る三千花はそれを頭の片隅に置いておくことにし、一言言うに留める。

「もーいいわ。なみえが誰勧誘しようが私がとやかく言う権利ないし。怒ってるわけじゃないけど、なみえの好きにやってみればいいよ。私はそれを見守るから。」

 事実、三千花の怒りはすでに収まっていた。親友が望んで作った部だから勧誘の方針に口出しはしない、本人の好きなようにやらせてみる、それを陰ながら支えていくことが自分の役目だと再認識している。

 

「わこちゃん、あとで内田さんのお話、知ってる限りでいいから教えてね。とりあえずうわさ話であってもあたしは知っておきたいんだ。お願いね。」

「はぁ。私が知ってることであれば。でもだったら三戸くんから聞いたほうがいいのでは?あの様子見ると、三戸くんも内田さんの取り巻きになってるっぽいですし。」

「まーそれはあるかも。じゃあ、あとで聞いてみよっと。」

 和子の返しを聞いた那美恵はグッとガッツポーズを作って相槌を打った。

「それはいいけどさ、掃除再開しましょうよ。私たちほとんど手止まってるし。」

 三千花の指摘に那美恵と和子はギクリと体をこわばらせる。掃除のカタチをすでになしていないこの現状はさすがにまずい。ブラシを動かし始めた三人あふと三戸たちの方を見ると、水を掛け合ったりデッキブラシでカチャカチャ遊んでいる光景がそこにあった。つまり、8人ともプール掃除なぞすでに放棄状態である。

 

 

--

 

 その後掃除のスピードアップを図った那美恵はプールの前方を終わらせ、長いホースを持つ三戸をプール中央に徐々に進ませてその周りをブラシがけする。

 中央、後方と一通りブラシがけし終わり、プールの汚れ・ゴミは左右の端に集められた。それらを後方から前方に向けて一気に掻いて前方の一箇所にかき集める。

 そこまでするのに30~40分かかっていた。

 

「ふぃ~。汚れとれたしゴミ完了~。さ、三戸くん。このゴミ上げて。」

「えぇ~俺がするんっすか~」

「頑張れ男子!」

 那美恵が発破をかけると、流留もそのノリにノッて三戸や他の男子に指図する。

「あたしたちにドロッとした汚いの触らせるつもり~? さ、○○君たちもはよ!」

 

 促された三戸以外の男子生徒もしぶしぶながらもゴミまとめとプールサイドへ揚げるのに取り掛かり始める。

 その間に那美恵たちはプールサイドへ上がり、ゴミ捨て用のビニール袋を持ってきて、三千花と和子に持たせてそこに男子がまとめあげたゴミを入れさせた。

 

「みんな、お疲れ様~。内田さんたちもわざわざありがとうね!あなたたち学校にまだ残ってたんだ?」

「○○君の部活終わるの待ってたんです。って言っても一度学校出てお昼みんなで食べてた時に三戸君から連絡もらったもんで。○○君の部活もまだかかりそうだったらちょうどいいねってことで。だからぜーんぜん問題ないですよ。」

 カラッとした素直なしゃべり方の流留の言に那美恵はなるほど、と頷く。

 

「何かお礼したいな。何かごきぼーはある?」

「いいですってそんなの。欲言えばこれから遊ぶお金ほしいな~とか。もちろん冗談ですけど。」

 流留たちは早く遊びに行きたいのか、那美恵のお礼の提案を本当に断り、足を洗い流したあと早々にプールから出ていった。なお、三戸もついていこうとしたが、展示の片付けもほどほどにプール掃除に来てしまっていたため、 那美恵たちに首根っこを掴まれるかのごとく止められた。

 視聴覚室に戻った4人は展示の片付けの残りを進めた。20分くらいかかった後、展示もようやく片付いていつもどおりの視聴覚室が眼前に広がる。4人は荷物を置いてある生徒会室に行きやっと一息ついた。

 

「さて、じゃあ俺みんな待たせてるんで、帰るっす。じゃあお先に失礼しま~す。」

 と言って素早く出ていこうとする三戸を那美恵は再び呼び止めた。

「ちょっと待って三戸くん!聞きたいことあるの。内田さんのことなんだけど、来週でいいから彼女のこと三戸くんたち男子の視点からいろいろ教えて欲しいの。いいかな?」

 那美恵の突然のお願いに戸惑う三戸だが、特に断る理由もなかった彼は一言で了承し、生徒会室から出て帰っていった。

 

「これで下準備おっけーかな。」

「ねぇなみえ。ホントに内田さん誘うの……?」

 那美恵の言葉に反応した三千花はさきほどの心配を思い出して確認した。

「心配しないでって。とりあえず情報収集だよ。あとはまぁ、流れ次第かな。」

 那美恵は三千花の気遣いを十分わかっていたが、ピンとキたもの・人に対してはどうしても興味を持ちたくなる性分なのだ。だが今はまだ、親友への配慮の気持ちのほうが優る。

 三千花は親友の物言いにため息をつくしかなかった。

 

「さーて、そろそろ帰ろ? 今日はわこちゃんも一緒に帰れる?」

 気持ちを切り替えて那美恵は帰り支度と帰り道の提案をする。三千花も親友に合わせて気持ちを切り替えて頷いた。

「はい。今日はご一緒できます。」

「よーし。じゃあ三人で帰り甘いもの食べてこー!」

 和子も那美恵の提案を承諾し、すべての用事を済ませた3人は15時に近くなった時間にようやく学校を出ることが出来た。3人ともが持った共通の思いは、長い土曜日だったという感想であった。


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