同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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展示開始

 那美恵が提督らと一旦別れて1時間半後、チャイムが鳴り放課後が訪れた。阿賀奈に校内を案内された提督と五月雨はほぼ問題なく一連の見学を終えて、一旦来客用の部屋に案内されて一息ついていた。

 那美恵と三千花は教室を出て廊下の途中で話しだす。那美恵は三千花に提携の締結の時の様子を話して情報共有する。大体の内容は問題無いとふむ三千花だったが、厄介そうな問題に頭を今から抱えた。もちろん、艦娘部顧問の四ツ原先生である。

 

 二人は職員室へ向かって歩きながら会話する。

「なるほどね、多分というかほぼ確実に理解してもらえなかったと。そういうこと?」

「うん。そーそー。まさかあそこまでとはあたしも思わなくてさー。五月雨ちゃんなんかどうもツボに入ったのか、笑いこらえるのに必死で見てるこっちまで辛かったもん。……めっちゃ可愛かったけど。」

 五月雨が可愛いのは当然と納得し、思考はすぐに当面の問題に切り替わる。この後の展示の開始と、艦娘部顧問の阿賀奈へ理解させることだ。

 

「今日は初日だし、ともかく展示を好スタートさせるのを優先しない?あの先生に教えるのも大事だけどさぁ。」

 三千花は那美恵に提案する。

「そうだねー。けどあまり先送りにもできない問題だと思うんだよねぇ。四ツ原先生のことも。だからあたし考えたの。先生には、他の生徒と同じ立場で展示をひとまず見学してもらうの。」

「全く同じ立場?」

「うん。だから先生が川内の艤装で同調試したいっていえばやらせてあげるし。多分あの先生さ、口でどこまで説明しても理解してもらえないと思う。あの人自身の目や耳で実際に経験してもらわないと。ダメなんだろうって気がしてきた。実感が沸かないから、理解が及ばなくてポカーンとする確率が他の人より高いだろうなぁ。」

 

 さすが親友は観察力がある、と三千花は感心した。今すぐにではないだろうがそう時間かからずに、四ツ原先生を手懐けられるのではとも。

 

 

--

 

 那美恵たちが職員室へ行くと、提督らは来客用の部屋にいると言われたので次はその部屋に向かった。部屋に入ると、笑い声が。提督と五月雨のほか阿賀奈がいる。笑い声は主に五月雨のものだった。

 

「あ、光主さん、中村さん!聞いて聞いて!早川さんったらね、私のジョーク全てに笑ってくれるんだよ!も~この娘いい子すぎて可愛い~。うちの末の妹みたい!お持ち帰りしたいよぉ~!」

 

 一方の提督は疲れた、という表情を那美恵と三千花だけにチラリと見せた。それだけで那美恵はこの1時間半の提督の苦労がかいま見えた気がして提督に同情せざるを得なかった。黙ってその表情を見せてきた提督を、那美恵と三千花はちょっとだけ可愛いと密かに感じた。

 

「提督と五月雨ちゃんと打ち解けられたようで何よりですよ~先生! じゃあその調子で展示も見ていただけますか?」

「うん!任せて!」

 那美恵がうまく間を取りなしたことで、提督と五月雨は阿賀奈から解放された。一行は那美恵と三千花の案内で、視聴覚室に行くことにした。

 

 廊下にて。提督が那美恵の肩をつついて彼女を振り向かせる。

「光主さん、うまいこと空気変えてくれて助かったよ。あの先生、結構話すのが好きな方なんだね。まーよくしゃべるしゃべる。そして五月雨に絡む絡む。」

「アハハ。あたしもあの先生のことまだよくわかってないから、お互い色々とがんばろーね。」

 最後に肘で提督の横っ腹をつついて締めた。

 

 一方で二人の後ろでは、阿賀奈にまた捕まった五月雨が彼女の一言一句にキャッキャと笑い、それをとなりで三千花がヒヤヒヤしながら見ている光景があった。

「五月雨ちゃん、表情筋壊れたりしないかなぁ?」

 どうでもいいことを心配する那美恵であった。

 

 

--

 

 視聴覚室に着くと、すでに書記の二人がいて部屋を開けて待っていた。

「お、二人とももう来てるね。よしよし。」

「会長。と、西脇提督。こんにちはっす。五月雨ちゃんもこんにちは。」

「西脇さん、五月雨さん、ご無沙汰しています。」

 三戸と和子は二人に挨拶をした。それに提督たちも返事をする。

「はい。こんにちは。今日はよろしく頼むよ。」

「こんにちは!うわぁ、展示すごいですね~」

 

 

 提督ら二人に続いて最後に阿賀奈が視聴覚室に入ってきた。

「お~これが艦娘の展示?みんなよく調べたね~すごいすごい!先生感心しちゃう。」

 阿賀奈も展示に素直に驚いている。

 

 那美恵と三千花は書記の二人と集まり、展示の手順の最終確認をする。それから阿賀奈のことを話す。

「……ということだから、いい?二人とも。」

「了解っす。」

「わかりました。」

 

 そして那美恵は阿賀奈を呼んだ。阿賀奈は軽快な足取りで那美恵たちのほうに近づいていく。

「先生、ちょっとよいですか。」

「はい。なぁに?なんでも言ってごらんなさ~い。」

 

 那美恵の考えでは、阿賀奈には一般生徒と同じ立場で今日は展示を見てもらう。良くも悪くも阿賀奈には艦娘に関する知識がなさすぎた。知識ゼロから見てもらい自分で理解してもらうしかないとふんでのことだ。先生という立場を強く意識しすぎてる彼女を傷つけないよう、それをオブラートに包んで那美恵は伝えた。

 

「先生、さきほどもご説明しましたけど、先生にはあたしたちの作ったものを評価していただきたいんです。」

「作ったもの?あー、この展示だよね?」

「はいそうです。いきなり数分で艦娘の何たるか言われたってさすがの先生でも実感沸かないかなとあたしたち反省したんです。あたしも艦娘になる前に鎮守府で説明受けた時、ちんぷんかんぷんでしたから。先生のお気持ちわかるんです。いかがです?」

「う~~ん。そう言われると、そうかなぁ。先生としたことが、あなたたちのこと理解しようとして焦ってたから実はさっきの説明、よくわかんなかったの。でも安心して!あなた達の展示見て今度はしっかりお勉強するわ!」

 

「そう言っていただけると助かります~。まずは展示をご覧になって頂いてそれから後日先生にはお手すきのときにあたしか、もし都合がつけば鎮守府に案内しますので提督から改めて話をしてもらいますので、確認していただければと。」

「うん。わかったわ!じゃあ先生は何すればいいの?」

「はい。まずは展示をご覧になって頂くだけで結構です。部員が集まるまでか視聴覚室が借りられる間はこの展示し続けるので、いつ見に来て頂いても結構です。」

「それだけでいいのね!まっかせなさーい!」

 

 阿賀奈がだんだん那美恵に懐柔されてきた、その場にいた阿賀奈以外全員がそう感じ取るのは容易かった。その後阿賀奈は那美恵から、その日は自分の側にいて見守っているだけでいいと言われおとなしく那美恵に従っていた。

 これで那美恵たちは、展示の紹介・案内に際して自分たちのペースを守れる確証を得た。

 

 

--

 

 放課後30分過ぎた。視聴覚室の外に出て出入口のところでは書記の二人が呼び込みをしている。視聴覚室の中では那美恵と三千花、それから阿賀奈が所定の位置に立ち、提督と五月雨が手持ち無沙汰に展示を眺めている。

 しばらくすると、数人の女子生徒が視聴覚室の前に来た。廊下にいた書記の二人と会話をし、入るよう勧められて入ってきた。初日初めての入場者である。ちなみに那美恵たちと同じ2年生だ。

 那美恵たちは案内係に完全に気持ちを切り替えて彼女たちに展示を紹介し始めた。

 

【挿絵表示】

 

 

 三千花による説明、実際艦娘になった那美恵からの実体験の話、各種パネルと映像資料。それらを女子生徒らに見聞きしてもらう。

 

「でね、今日は特別ゲストで、その鎮守府というところのトップの人と、あたしの同僚の艦娘の子にも来てもらってるの。」

 那美恵が触れてきたので提督と五月雨は女子生徒らに自己紹介をする。

「初めまして。ただいま紹介にあずかりました。俺が鎮守府Aの総責任者、西脇と申します。今日は光主さんたちの展示を見に来てくれてありがとう。」

「初めまして!私、五月雨っていう艦娘を担当しています、○○中学校2年の早川皐月といいます。先輩方に私達のこと、少しでも知ってもらえたらと思ってます!先輩、よろしくお願いします!」

 

 女子生徒らは明らかに学校の生徒ではない、かなり年上の少しカッコいい男性と、妙に母性本能をくすぐられる年下の可愛らしい女の子に色めき立つ。

 彼女たちの興味はその二人に移り、那美恵たちの作った艦娘の展示はすでに興味なしという状態だ。提督と五月雨は女子生徒らに詰め寄られ、戸惑いつつ彼女らから質問攻めを受けている。

 

 その様子を見た那美恵と三千花は表面上はにこやかにしているが、内心頭を抱えていた。

 

 結局その女子生徒らは提督と五月雨から艦娘の話を聞くも、興味を継続させる気ほとんどなしという感じで視聴覚室を出て行った。

 

「いやぁ、まいったね。あまり興味持ってもらえなかったか。」

 提督は後頭部を掻いて一言呟いた。隣にいた五月雨はマスコット人形のようにいいように扱われ、顔は笑顔だったがその表情には苦笑と気恥ずかしさと疲れが入り交じっていた。

 そんな二人の様子を見た那美恵は……。

 

「とりあえず提督はあとでお仕置きね~。」

「なんでだよ!? 中村さん、光主さんに何か言ってやってくれよ……」

 那美恵の冗談を受けて三千花に助けを求める提督。だが彼女の反応は提督が期待したものとは少々違った。

「すみません、西脇さん。鼻の下伸びてるように見えたので……私からしても弁護の余地なしです。」

 三千花の助け、得られずであった。

 

 

--

 

 その数分後、何人か立て続けに見学者が来た。女子生徒一人、男女生徒数人、別の女子生徒数人……というように、初日としては見学者の入りはよかったものの、思うような進展はなかった。展示は興味深そうに見る生徒がほとんどだったが、川内の艤装を試すというところまで興味を発展させる生徒はいなかった。

 

 人足が途絶え、時間も5時過ぎになった。校内の活動および部屋の使用は終わる頃である。那美恵たちは立ちっぱなしだったのでひとまず座り、一息つくことにした。

「ま、初日でこんだけ人が入ればいいほうかなぁ。興味は持ってもらえなかったようだけど。」

「皆やっぱり他人ごとってことなんでしょうね。」

 那美恵と三千花は素直な感想を吐き出す。そして那美恵は提督の方を向き、申し訳なさそうに謝罪の言葉を述べた。

 

「ゴメンね提督。せっかくこんな時間まで居てもらったのに、あまり良い活躍させてあげられなかったよ。」

「いや、気にしなくていいよ。ここでの主役はあくまでも君たちだからね。」

「でも普段のお仕事よろしかったんですか……?」

 三千花が心配を口に出し、那美恵もそれに頷いて二人で提督を見上げる。

「あぁー。まぁ、俺の本業のことは気にしないでいいって。今日は鎮守府業務に集中するために時間取ってるからさ。それに十数年ぶりに他校とはいえ高校入って色々見られて感謝したいくらいだよ。」

 

「わたしが案内してあげたんだよ!提督さんに喜んでもらえてなによりで~す!」

 自分の存在をアピールすべく、阿賀奈が提督と那美恵の間に割りこむように顔を出してきて言った。それに関して提督は普通に感謝を述べて阿賀奈を喜ばせ彼女の自尊心を満足させた。

 

 那美恵の想定では、もう少し人が継続的に集まったところで提督に言葉を述べてもらい、その流れで川内の艤装を試したい人の挙手を確認し、体験会に切り替えて皆でワイワイ楽しみながら艦娘という存在に触れてもらいたかったのである。

 部員勧誘といっても、川内の艤装で同調のチェックをしてもらうところまでいかないと意味が無い。だが自身もつぶやいたとおり、あくまでも初日だ。那美恵たちは教師陣を通してパンフレットを配り展示の案内をしただけで、さすがに全校生徒にいきなり気づいてもらえると思うほど彼女は楽観視していない。

 

 

--

 

 これ以上見学者が来るのを望めないとふんだ那美恵は、全員に号令をかけた。

「よし、みんな。今日は展示終了しよ。おーい三戸くーん!わこちゃーん戻ってきていいよ~」

 

 那美恵は廊下にいた三戸と和子を視聴覚室の中に呼び戻し、言葉を続けた。

「今日はお疲れ様。初日は**人でした。まーこんなもんでしょ。」

 続けて三千花が音頭を取る。

「明日からまた張り切っていきましょう!」

「「はい。」」

 三戸・和子は威勢よく返事をした。

 

「うんうん。青春だね~先生も張り切っちゃうよ~」

 よい雰囲気で終わりたかったが、阿賀奈の意気込みを聞いた瞬間、全員が先延ばしにしたかった問題を思い出す羽目になった。顔を見合わせる那美恵と三千花。三戸と和子は四ツ原先生と関わりたくないのか、すでにすべてを我らが生徒会長に一任したい気持ちになって那美恵を見つめる。

 3人の視線を受けて、那美恵は阿賀奈に告げる。

 

「四ツ原先生、この後少しお時間よろしいですか?」

「うん?なぁに?」

「今日の展示は一旦終わりで、あたしも帰るまで時間あるので、先生に艦娘のことについてもう少しだけご教授させていだたければな~っと。いかがですか?」

 阿賀奈は巨乳の前でやや苦しそうに腕をくんで少し考えた後ハッ!とした顔になり、那美恵に返事をした。

 

「ゴメンね~。せっかくの光主さんのお願いなのに、先生この後国語担当の先生と打合せあるのすっかり忘れてて。だから今日は無理。ほんっとゴメンねぇ。」

 性格に難ありでも、そういえばれっきとした教師だったんだと、那美恵や三千花らはそういう感想を持った。甚だ失礼な感想ではあるのだが、口に出していうわけでもないのでオッケィだろうという前置きも含めて。

 

「それじゃあ先生。この資料と前に作った報告書のコピーお渡しします。お時間のあるときでよいのでそれを読んでおいていただけると助かります。それからこれは、前に鎮守府で撮影した動画ファイルのURLです。○○ Driveっていうオンラインストレージサービスにあるので、これも目にしておいていただけますか?」

「うん!わかったわ!これってアレね?先生への宿題ってことよね?」

「え?あーえぇ~まぁ。そんな感じですけど、気軽に捉えてもらえればOKです~」

「いいのいいの!生徒から宿題出されるのも、きっと先生を頼ってのことなんだから、先生頑張っちゃうわ!」

「宜しくお願いします。」

 

 顧問の阿賀奈への教育は、ひとまず自習という形で収めることになった。そういうことならばと提督は職業艦娘についての案内資料を阿賀奈に手渡し、これも目を通しておいてくれとお願いをした。

 那美恵と提督から課題を渡された阿賀奈は、歳の近い(7~8歳上だが)男性にも、生徒にも頼り(という名の調教)にされていることに、心の中で一人沸き立っていた。その様子はもろに表面に表れていたが、那美恵たちは先生の名誉のためにも無視しておいた。

 

 時間も時間なのでそれで7人はお開きとした。阿賀奈は職員室へ戻っていき、提督と五月雨は帰ろうとする。

「そぉだ!提督!せっかくだし、一緒に帰ろ?みっちゃんたちもさ。どぉ?」

「俺は構わないよ。五月雨は?」

「はい。電車も途中まで同じでしょうし。」

提督と五月雨は快く承諾する。

 

「お二人が良いというんでしたら私も。というか私は那美恵と帰り道ほとんど一緒だしね。」

 という三千花とは逆に、書記の二人は申し訳なさそうに那美恵に断りの意を伝える。

「すんません。俺、別の友だちと帰る約束してるんで。展示片付けたらすぐに出ちまいます。」

「私は図書館寄りたいので、今日は失礼させていただきます。」

「そっか。うん。おっけーおっけー。」

 

 そして視聴覚室の片付けを始める6人。展示を生徒会室に戻すためだ。

「よし。俺も手伝うよ。どれ運べばいいかな?」

「私も、頑張っちゃいますから!」

「そんな!西脇さんたちはお客様なんですからいいですよ!」

 三千花が当たり前の対応をするが、那美恵の二人に対する扱いは違う。

「よ~っし。じゃー提督にはガンガン働いてもらおっかな?五月雨ちゃんはいいんだよ~。あたしの側にいてくれるだけで癒されるから~」

 真逆の対応を見せ、どのみち働かせる気マンマンな那美恵であった。

 


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