同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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正式な提携成る

 提督が高校に来て提携を正式に契約する日が来た。その日提督は14時頃高校に訪れることになっている。那美恵は提携の仲立ちをした生徒側の代表として一連の式に参加することになっているため、先日と同様に授業は別の時間帯へということで免除。そのため校門まで行って、そこを通ってくる提督を待っていた。

 

 数分後、その日来たのは提督と五月雨だった。

「あれ?五月雨ちゃん? 今日学校は大丈夫なの?」那美恵は二人に尋ねた。

「はい。提督が学校に話してくれたので。」

 そう言うと五月雨は隣にいる提督を見上げる。提督はその視線を受けて補足した。

「うちの正式な秘書艦は五月雨だからね。彼女の学校からまたOKをもらっているよ。」

 

 提督は五月雨の自分寄りの肩を軽く叩き、言葉を続ける。

「今までは対外的な面を気にしてしまって妙高さんに代理を頼んでたけど、これからは早川さんとしての都合がつくならば、こうした交渉事や公的な式の場になるべく出てもらおうと思ってね。もちろん秘書艦が違えばその時のその艦娘に出てもらうことになるけどね。」

 

 那美恵はふぅんと、相槌にも満たない一言を出す。その心のうちでは、提督は彼女の成長を期待しているのだなと察した。挨拶もほどほどに那美恵は提督たちを校舎に、そして校長室に案内した。

 提督と校長は数日ぶりの再会ということで軽く挨拶を交わす。次に教頭から提督に、一人の教師が紹介された。那美恵は先日会ったことのある、四ツ原阿賀奈だ。阿賀奈は先日那美恵らに挨拶したテンションそのままで提督に挨拶をし始める。

 

「はじめまして!四ツ原阿賀奈といいます。○○高校の1年生の国語の副担当をしています!このたびはぁ、艦娘部の顧問になりました!あなたが提督さんなのですね。これからうちの生徒をよろしくお願いします!」

「こ、こちらこそよろしくお願い致します。」

 弾んだテンションで自己紹介をし、最後に責任ある役を任された立派な教師であることを意識して伝えるために彼女は提督に一言言って締める。

 提督は先日の那美恵たちとほとんど同じリアクションをする。ただ違うのは、那美恵たちが自分らの反応をうまく隠せたのに対し、提督は隠しきれずに少し戸惑った反応を表現してしまったのだ。そんな提督の態度を阿賀奈は、自分の教師としての威厳がありすぎて相手が怖気づいて戸惑っているのだと勘違いしていた。

 怖気づいたというのはある意味間違ってはいなかった。

 

 戸惑いつつも提督は阿賀奈にお辞儀をして挨拶を締めることにした。

 

 

--

 

 そしていよいよ提携の締結をする段になった。校長と提督はソファーに腰掛け、教頭・阿賀奈は校長の、那美恵・五月雨は提督の背後に立ち、校長と提督が書面にサインを交わすのを見届ける。

 校長がサインをしたのち、書類を提督のほうに丁寧に、音を立てずに回して渡す。提督はそれを受けて自身もサインをし、国から発行してもらっていた鎮守府の印鑑を押した。その瞬間、その書面は日本国において那美恵の高校が、鎮守府こと深海棲艦対策局および艤装装着者管理署という、国がバックボーンの艦娘制度特有の末端機関を経由して、日本国と結んだ有効な契約の証となった。

 

「この書類を防衛省と総務省および厚労省に提出します。補助金の連絡は総務省の艤装装着者生活支援部から届く予定です。」

「はい。」

 提督は補助金の受渡に付いて簡単な説明をし、校長はそれに頷いた。その後艦娘制度に直接絡まない対外的な話をかわしたのち、提督と校長は改めて挨拶をしあう。

 

「これから、御校の生徒の皆様のお力をいただくことになるかと思います。よろしくお願いいたします。」

「こちらこそよろしくお願いいたします。お国の、しいては世界のために本校の生徒が力になれるよう、教育により一層励みます。」

 提督と校長は強く握手をし、ここに締結の式は締まった。

 

 

--

 

 緊張の空気がなくなった校長室では、軽く言葉をかわしあえる空気に戻っていた。

「ふぅ。これで光主さんもやっと楽になれるかな?」

 呼吸とともに緊張を吐き出して楽になった提督は斜め後ろをむいて那美恵に一声かけた。那美恵はソファーの背もたれにのしかかって提督の背中越しに顔を近づけて言う。

「まだまだ、これからだよ。これから忙しくなるし楽しくなるんだと思うな。……提督、本当にありがとーね。」

 満面の笑みで那美恵は提督に言い、そのあと視線を提督を挟んだ五月雨のほうに向けて続ける。

「五月雨ちゃんにもよろしく言わなくちゃね。これからうちの学校から人行くと思うから、秘書艦の五月雨ちゃんにはビシビシ突っ込んできてほしいし。」

「い、いえ。ビシビシなんてそんな。先輩方に。」

「何言ってるの!艦娘としては五月雨ちゃんは一番の先輩なんだよ?頑張っていこーぜ~!」

 那美恵は最後に軽く茶化しを入れて五月雨を鼓舞した。

 

 そののち、那美恵は阿賀奈に呼びかけた。

「四ツ原先生、ちょっとよろしいですか?」

「ん?なになに?先生に頼み事かなぁ?」

 阿賀奈は校長の座るソファーの背後、テーブルを回りこむように提督の席のほうに行こうとしたが校長からソファーに座るよう促され、校長に隣のソファーに座った。そして頼み事をされるという期待の眼差しで提督らに視線を集中させる。那美恵と五月雨も提督の両脇のソファーに座り、打合せする体勢に入る。

 

 その後の話は校長と教頭には直接関係なくなるが、教頭は孫娘が艦娘をやっていることもあり、また校長はこれから発足する艦娘部のことを少し知っておこうと提督らの話を静かに聞いておくことにした。

 これから那美恵が話そうとしていたことは、艦娘部に関することでさらに言えば阿賀奈に直接関わることであった。那美恵は提督に耳打ちして伝えると、そのことならと提督は那美恵の代わりに自分が阿賀奈に伝える役を買って出た。

 

「えぇと、四ツ原先生。」

「はい!」

「艦娘部の顧問になっていただけたということで、先生にはこれから、職業艦娘の資格か、艤装取り扱いの免許を取得して、技師として鎮守府に出向していただくことになります。その点はご理解いただけてるということでよろしいでしょうか?」

「……へっ?しょくぎょーかんむす?ぎそーとりあつかい?」

 阿賀奈は目を丸くして見るからに全くそれらの内容がわかっていない様子を見せる。事実、教師陣はおろか那美恵からもその辺りの説明をまだ受けていないので、なにそれおいしいの?という状態である。

 その様子を見た那美恵は焦り、教頭の方を向いて教頭に尋ねた。

 

「あのぉ。教頭先生。まさかとは思いますけど、このこと全く話されていません……か?」

「おぉ。すみません。忘れていました。」

 大事だが細かいことなので教頭らが忘れるのも仕方ないかと那美恵はしぶしぶ納得する。しかしこれを話さないことには下手をすると四ツ原先生の気が変わってしまうかもしれない、そう那美恵は危惧し始める。

 

「四ツ原先生。艦娘部って、普通の学校の部活動とは仕組みが違うんです。先生にももしかすると艦娘になって活動してもらわないといけないかもしれないんです。……ちなみに艦娘って何のことかご存知ですか?」

 そう那美恵が説明して尋ねると、阿賀奈はまん丸くなった目を戻して反応した。

 

「もー!光主さん。先生をなんだと思ってるんですか~。艦娘くらい先生知ってますよぉ~。アレでしょ?面白い格好して海を泳ぐ人たちのことでしょ?そういう競技なんでしょ?先生泳げないけど頑張りますよぉ~。」

 フフンどうだ!とばかりにドヤ顔して説明する。が、その内容は海しか共通点がない。ほぼ100%間違っている。

 提督と那美恵、そして五月雨はお互い顔を見合わせ、ダメだこりゃと目尻をおさえたり、こめかみを掻いたりして呆れてしまった。

 

 

--

 

 提督は阿賀奈にひと通り説明をした。ところどころで元気よくはい!・うんうん!と頷く彼女だったが、絶対理解できてないというのが誰の目にもはっきり見えた。提督もかなり噛み砕いて優しい言葉で説明するも、ここまで理解の悪い人への説明には手を焼いている様子を見せる。

 その様子を見た五月雨と那美恵は密やかに声をかける。なぜか五月雨は口をひくつかせて笑いを堪えている。

 

「提督、あの……フフッ……大丈夫ですか?もっと説明をどうですk……プフッ」

「うーん、説明下手なのかもしれないな。俺自信なくすわ。……ってなぜに君は笑いを堪えてるんだ?」

 

 誰かから少しでもツッコまれるとおもいっきり吹き出してしまいそうなので、五月雨はソファーの背もたれ側を向いて提督に寄りかかり、顔を自身の腕と提督の腕の間に隠す。笑いに耐えながら彼女が小声で弱々しくひねり出したセリフが、あの先生の反応がいちいち面白い、というものであった。つまるところ四ツ原阿賀奈の一挙一動は五月雨の笑いのツボに入ってしまったのである。

 そんなツボに入って過呼吸気味の五月雨を見て那美恵はまたしても妙な感覚を覚えて萌えかけたがここは校長もいる真面目な場、自分まで砕けてしまうのはダメだと思い、五月雨のことは無視して提督に真面目に助言する。

 

【挿絵表示】

 

 

「ねぇ提督。あたしから説明し直すよ?それでも無理そうだったら、艦娘部宣伝のために作った展示を見せに行くからさ。」

 提督は視線だけでOKを那美恵に送って彼女に後を任せることにした。なお、五月雨はまだツボに入っており、提督の腕に顔を隠してプルプルと肩を揺らしている。提督と那美恵は五月雨のことは放っておくことにした。

 

「先生、あのですね。少し誤解を招くかもしれませんけど、一言で言うとあたしたち、戦争に行くんです。戦争といっても戦うのは人じゃなくて、化け物相手ですけど。」

「え……戦争?誰と?なんで?」

「深海凄艦という、海の化け物です。」

「しんかいせーかん?」

 このまま何も見せずに説明してもダメだと那美恵はすぐに悟り、仕方なくその場での説明を途中で止めることにした。那美恵は提督に隣接している方の手の指で提督のふとももを軽くつつき、目をつぶって何も言わずに頭を横に振る。提督はそれを見て、さすがの那美恵も諦めたかと把握した。

 

「えーと、四ツ原先生。多分実際の映像や写真を見ていただいたほうがわかりやすいと思うので見てもらえますか? あたしたち、艦娘部の部員集めのために展示作ったんです。ぜひ顧問の四ツ原先生に目で見てわかってもらたらなと。」

「えぇ。わかったわぁ。じゃあ先生その展示しっかり見てあげる! 任せて!それ見てしょくぎょーかんむすになればいいんでしょ?」

「……はい。おねがいします。」

 

 そのまま展示のある視聴覚室へと行こうと思ったが、さすがに次の授業からは出ないとまずいと判断し、提督らと阿賀奈、そして校長たちにその旨話して、続きは1時間半後の放課後に行うことにした。

 

「提督、ゴメンね。四ツ原先生へはあたしやみっちゃんたちから説明してなんとか理解してもらうから。あと提督たちもぜひ展示見ていって!」

「あぁ。俺もその展示行って宣伝に手伝えばいいんだろ?」

「うん。お願い。」

「私もお手伝いします!」

「うん。五月雨ちゃんもよろしくね!あなたがいれば色々い~宣伝になるかもしれないし。」

 

 那美恵は不穏な含みを持たせてしゃべったが五月雨はそれに気づくべくもなく、コクリと頷いて那美恵に微笑んだ。自身が授業に出ている間、提督らをどうしようと気にかける那美恵だが、それについては教頭が解決策を提示した。

 

「光主さんが授業に行ってる間は……そうですね。四ツ原先生、西脇さんと早川さんお二人に校内を案内してあげてください。」

「はい!私本日は担当ありませんので、提督さんの案内、やらせていただきます!!」

 

 案内くらいなら問題ないだろうと那美恵は判断し、提督と五月雨を阿賀奈に任せ、授業へと戻っていった。

 


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