同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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艤装を試す

 工廠についた4人は、先に戻っていた明石が出してきた軽巡洋艦川内の艤装を目の前にしていた。

「これが川内の艤装です。まぁ那珂とは姉妹艦なので、細かな違いはあれどほとんど同じです。ちなみにネームシップです。」

 そう説明して川内の艤装の各部位をキュッキュと撫でる明石。新品なので丁寧に扱っている様子。

 

「あたしは川内の同調に合格しているから、いまさら試験みたいなのしないよね?」

 那美恵は提督の方を向いて尋ねる。提督はそれに対して頷いた。本当にただの動作チェックをするだけと那美恵たちに説明をした。

「じゃあつけまーす。」

 那美恵は明石に艤装の装着を手伝ってもらい、数分後装着し終わる。ちなみに高校の制服のままである。

 

「じゃあ那美恵ちゃん。同調始めて。」

「はい。」

 那美恵は目をつむり呼吸を整える。頭の中に那珂のときとは違う何かの情報・記憶の情景が浮かび上がっては消える。さながら走馬灯のように。ほどなくして体中の関節がズキッとしたあと、全身の感覚が人間光主那美恵のものとは違うものに変化した。

 その瞬間、那美恵は軽巡洋艦艦娘、川内へと切り替わった。

 

「……なみえ、同調終わったの?」

「うん。今のあたしは川内だよ。」

 

 川内となった那美恵をまじまじと眺める三千花。一般人から見て、違いなぞ全くわからない。しかし装着している本人とて、明確な違いはわからない。

「ふぅん。わからないわ。私じゃ全然違いがわからない。なみえはなにか違うってわかるの?」

「ぜーんぜん。同調したときに那珂のときとは違うイメージっていうのかな? 頭のなかに流れ込んでくる感じがしたけど、それ以外は特に変わらないなぁ。あ、でも……那珂の時よりなんとなく艤装が重い感じがする。那珂のときの身軽さっていうのがないよ。なんでだろこれ?」

 

「それは同調率の違いですね。」明石がサラリと述べた。

「同調率の違い?」

 三千花が聞き返した。

「はい。艤装の元になった技術Aを使った機器はみんなそうなんですけど、同調率が高ければ高いほどより体に馴染んで、何もつけていないかのように身軽に感じられながらも、本来の人体の限界を超えた動きができるようになるんです。その逆で、同調率が低いと、馴染んでないということになるので、その分機器本来の重量の一部が感じられてしまうんです。那美恵ちゃんがちょっと重いと感じるのは、那美恵ちゃんにとって那珂の艤装がものすごく軽く感じるくらいに体に馴染んでいるからですね。だから那珂より同調率の低い川内だと重く感じてしまうんですよ。」

 

 そう明石が解説をする脇で、そのことを意に介さないでその場でクルッとまわったり、パンチやキックをする那美恵。それを三千花や提督らは2m程彼女から離れて眺めている。

「そうなんだー。まーでも艦娘としての仕事に支障はなさそうかな~」

 那美恵のパンチやキックではその筋のプロさながらにシュバッ!という風を切る音がハッキリ聞こえる。三千花はそれを耳にした瞬間に2mからもう少し後ずさりながら言う。

「なみえ……あんたどんだけ恵まれてるのよ。それにしても、艦娘の制服じゃなくて学校の制服で動いてるのっておかしく見えるわね。」

 言っておいてハッと時雨たちのことを思い出した三千花だったが、幸いにもその場に居るのは彼女らの友人五月雨だけだったので、彼女をちらっと見てホッとする。五月雨はなんで三千花に見られたのかよくわかってない様子で、その視線に気づくと三千花に会釈して微笑みかえした。

 

「ちなみに……今の那美恵ちゃんと川内の同調率は、91.25%です。もうふつーーーに合格してて当たり前の数値ですね。那美恵ちゃんすごいですね~」

 明石は艤装のチェック端末で確認しながらウンウンと感心している。

 もう十分だとして那美恵は艤装を外す旨明石に伝え、同調を切断して艤装を外した。外し終わった後、彼女の頭にふと考えが浮かんだ。

 

 

--

 

「ねぇみっちゃん。みっちゃんもどーお?川内つけてみない?」

「へっ!?私が!!?」

 突然の親友からの提案に完全に声が裏返る三千花。

「ねぇ提督、明石さん。いいかな?ちょっと試すだけ。ちょっと入れるだけだから!」

 

「……女の子がそういう言い方するもんじゃありません。……まぁせっかくだからいいじゃないかな。明石さん、中村さんにもやってあげて。本人がよければだけど。」

 提督の前半の言い方に女性陣は?な顔を一瞬浮かべその意味をまったくわかっていない様子を示したが、気にしないことにしすぐに普通の表情に戻る。

 そして三千花はわずかにまごついた態度を取りながらも承諾した。

「うーーん。まぁ、少し試すだけなら。私も少し興味ありますし。」

 側で目をキラキラさせて期待の眼差しで見ている親友の視線に耐えられそうになかったのだ。

 そして明石の手伝いで三千花は川内の艤装をつけ始めた。しかし三千花は同調の仕方が全然わからない。おそらくわからないだろうと思っていた那美恵は三千花に近づき、顔を近づけて耳打ちしてコツを教えた。

 

「そういえば中村さんは同調するの初めてでしたね。ではこちらで遠隔でスイッチ入れるので、あとは……あ、那美恵ちゃんが教えてあげたんですね?ではそのとおりにしてください。」

 明石はチェック用の端末でササッとタッチしていじり、川内の艤装の電源を入れた。あとは装着者が精神を落ち着けて同調をするだけとなる。装着者の三千花は深呼吸をし、無心になって落ち着く。その後、三千花は那美恵から教えてもらった方法でなんと同調できてしまった。

 

 

「あ、なんか。感覚が変わりました。え……?な、なにこれ?あ、あ、あぁっ……!」

「ヤバ。肝心なこと教えるの忘れてた。」

 那美恵は万が一同調出来てしまった場合、初めての同調時に催す恥ずかしい感覚のことを伝えるのを忘れていた。三千花の様子を見るに、同調出来てしまったがゆえにその恥ずかしい感覚に襲われてしまっている様子が伺えた。

 時すでに遅しということで苦笑いを浮かべる那美恵。

 三千花はビクビクッとした直後すぐにへたり込み、顔真っ赤にして立ち上がろうとしなくなってしまった。

 その様子に提督以外のその場の人間は那美恵と同様にハッと気づいて三千花に駆け寄った。提督は装着して初同調した人しかわからぬ感覚のことをフィルターがかかった又聞きでしか知らない。なぜ三千花がへたり込んだのかわからず、思わず尋ねてしまった。

 

「ん?どうした中村さん?具合でも悪i

「わあああぁぁ!!!提督はちょっと黙ってて下さいーー!!」

「提督はあっち向いてて!!」

 それを五月雨と那美恵が大声で遮る。五月雨は駆けて行って提督の体を方向転換させようと押し出した。

 

【挿絵表示】

 

--

 

「うっうっ……ううぅ。」

「ゴメン……みっちゃん。その、それのこと言うの忘れてた。テヘ!」

 ポリポリと眉間を掻いたのちに後頭部に手を当てて軽い謝り方をする那美恵をキッと睨みつける三千花。頬は赤らみ、その目には怒りと恥ずかしさがないまぜになったような色を見せている。異性が見たら思わず興奮して様々なモノが沸き立つような表情になっていたため、これはまずいと感じた那美恵や明石が好奇の眼差しから三千花を守るために提督を必死にガードする直線上に立ちふさがる。

 一方の五月雨は盾になっている那美恵と明石の背後で三千花の側に座って語りかけた。

「初めての時は……あの、みんなそうなりますから。私なんか初めての同調でその……思わずゴニョゴニョして思いっきり泣いちゃいましたから。大丈夫ですというのもなんですけどとにかく大丈夫です!」

 自身の体験を思い出したためやや頬を赤らめる五月雨は優しく言葉を三千花にかけた。年下の女の子に慰められる形になった三千花は涙目になって思わず五月雨に抱きついてしまった。

「五月雨ちゃん、ありがと……。」

 

「あの……俺もうそっち向いていいんですかね?」

 那美恵たちとは逆向きの提督が背中から問いかけた。

「提督はあとでお仕置きね。」

「そうですねー。少々無神経ですね~」

「なんでだよ!?」

 那美恵と明石が提督に無実の罪を着せてツッコミを入れた。

 

 

--

 

 三千花が川内の艤装と同調できてしまったので、明石は同調率を確認する。

 

「中村さんの川内の艤装との同調率は81.17%です。ギリギリですが合格範囲内です。どうします?このまま川内ちゃんとしてやってみませんか? ねぇ提督?」

「そうだな。俺としても勧めたいな。光主さんと仲の良いあなたが那珂の姉妹艦をやってくれるといろいろ助かるシーンもあると思うんだ。中村さん、どうかな?」

 

 三千花はしばらくの沈黙ののち、口を開いた。

「なみえがやってるって知ってから、艦娘に興味はあるといえばあるんですけど、私がやるのはなにか違うなーと思うんです。それに私はなみえと違ってはっきりした意欲を持つことはできなさそうですし。多分なみえも私が艦娘やるのを求めてないと思うんです。そうでしょ、なみえ?」

 

 同意を求められた那美恵が答える。

「うん。そうだねぇ。まさかみっちゃんが同調クリアできるとは思わなかったから驚いたけど。」

 提督はそれに食い下がる。

「もしかして二人とも、中村さんの同調率が低いこと気にしてたりするのか? だったらそれは……」

 

 提督の言葉を遮って那美恵は首を横に振って答える。

「ううん。別にそういうことを言っているんじゃないの。同調率はひとまずの結果でしょ?あとは本人の訓練とやる気次第で今後どうにでもなんとでもなるって思うし。あたしはね、全く知らない新しい人を探して艦娘部の仲間に入れて広げてみたいんだ。知り合いだけで固めるんじゃなくてぇ、色んな人を仲間に入れるの!そのほうが絶対うちの鎮守府面白くなるって思うから。そしてみっちゃんにはね、うちの学校からそういう面白くなる人を探したり陰でサポートしてくれる立場にいて欲しいの。」

 

 那美恵が話している間、提督と明石は顔を見合わせたり頷いたりするも言葉を挟まずに那美恵の想いを聞き続けている。三千花はその言葉を聞いて、親友が同じ思いであったことに安堵して目を閉じつつ口元を緩ませた。三千花自身まったくやる気がないわけではなかったし実のところ艦娘には少なからず興味があったが、親友のやることを叶えてあげるにはいつも一歩引いてきた。今回もそうすべきだと判断していた。

 那美恵の考えと三千花の意思の向く先が固まった。そのことを理解した提督と明石は少々もったいないと思っていたがそれを表には出さず、本人たちの意思を尊重し三千花を艦娘に誘うのをやめた。

 最後に三千花は提督と明石をフォローするために言った。

 

「でもまぁ、こうして艦娘になる一歩手前を経験出来たのはよかったと思いますよ。学校で艦娘部設立を手伝うのに役に立つかもしれません。」

「そーそー。もしかしたら学校でみっちゃんには川内の艤装つけて何かやってもらうかもしれないしね~」

 三千花が綺麗に締めて終わらせようとしていたところに、那美恵は茶化しを入れてその場を和ませた。

 結局三千花の艤装の試験はなかったことなり、純粋に彼女の経験のためだけの数分となった。そして川内の艤装は正式に、ただし一時的に那美恵のものとなった。後日川内の艤装は那美恵らの高校に輸送され、艦娘部設立までは生徒会管理のもと、校内での同調のチェック用の機材として高校内で使用されることになる。

 


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