同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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校長の語りと祖母の記憶

「第二次大戦から70年あまり、日本において世界で初めて人ではない外的要因との本物の戦いがあったそうです。」

 

 その言葉を皮切りに校長が語った内容は、那美恵の知らぬ祖母の姿が垣間見える内容だった。

 

「あなたのお祖母様方は、その戦いに関わった大事な経験と記憶を持つ人達でした。当時は愛称もつけられるほどの伝説の小学六年生集団として人々から注目されるほどだったのに、全てに片がついた後、何故かある時期を境にパタリと人々の間から存在の記憶は途絶えてしまったのです。何があったのか、何があったがためにあなたのお祖母様たち彼女ら経験した事件が封殺されてしまったのか。そして彼女らがその後どういう人生を送ったかは、光主さん。少なくともあなたのお祖母様のことはあなた自身がよく知っているわね。」

 

「はい。」那美恵はすぐに返事をした。

 

「私が光主さんのお祖母様を知ったのは、昔の教師の先輩がその当時の事件を知って、調べた中で紹介されたときでした。その時は私もまだ教師として若かりし頃だったので、その事件のことはまったく知らずとても新鮮なもので熱心に聞き入りました。ただその時私はお祖母様やご学友の話を、ご老人たちの語るあやふやな体験談として捉えていました。」

 説明の最中、自身の思いを正直に白状する校長。

 

「そのまま時は流れ、私も教師としていくつかの学校で経験を積み、気がつけば40代になっていました。今からおよそ20年前のことです。あなたのお祖母様の話は普段の仕事の忙しさで記憶の片隅に行っていました。今にして思えば、このまま思い出すことなんてきっとないだろう。そう思っていた矢先、あることがきっかけでふと思い出しました。いえ、思い出さざるを得ませんでした。」

 那美恵は静かにコクリと唾を飲み込んで聞き入る。那美恵がチラリとソファーの向かいに視線を移すと提督たちも真剣に耳を傾けて聞く姿勢を崩さないでいる。

 

「そのきっかけは、今から30年前に初めて姿を現した、深海棲艦と呼ばれることになる突然変異の海の怪物です。」

 自身らが知っている単語が出てきたので那美恵はもちろん、提督や明石たちも目を見張った。

「深海棲艦……」

 那美恵が言葉を漏らすと校長は言葉なくコクリと頷いた。

 

「実はわたしは、深海棲艦と戦うことになる艤装装着者と名乗る人たちを遠目で見たことがあるのです。」

「あの!それってまさか初期の艦娘ですか!?」

 居ても立ってもいられなくなった明石が身を乗り出して勢い良く尋ねた。

「えぇおそらく。」

「……でもあの当時……まだ一般には……」

 自身の知識と照らしあわせてブツブツとひとりごとを言う明石。校長は明石のことを気にせず言葉を続けた。

 

「深海棲艦が初めて確認された30年前から時代は経てその10年後、私は教職者研修の一環で、海上自衛隊のある基地の敷地内で行われた、米軍後援、防衛省と総務省・厚生労働省の共同プロジェクトとされるある活動の開幕式に出席しました。私達教職者の他にも別の職種の代表と思われる集団もその開幕式に参加していたようでした。私達の前、式の舞台の中央には男女、歳もバラバラでゴテゴテと機械の塊や銃と思われる物を身につけて立っていました。中にはどう見ても小学生にしかみえない年端もいかない少女・少年も混じっているように見えました。 あの当時私たちは何が何やらまったく理解が追いつかずただ参加していただけでしたので何が起こるのだろうと式を最後まで見ていたところ、私たちはとんでもない発言を政府の人間から聞きました。そんな武装した少年少女たちが、海に現れた怪物を退治にしに行くというのです。私たちは唖然としました。非難の声すら上げられないほど驚いた我々でしたが、その瞬間私の頭には昔聞いた、封殺された事件と関わった小学生集団の話が頭に蘇りました。」

 

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 その話に那美恵や提督は驚きを隠せないでいる。明石はさきほどの独り言をまだ続けて、校長の口にする話に何か思いを巡らせている様子をしていた。

「それが……最初の艦娘だったんですか?」と那美恵。

「えぇ。当時説明を聞いたときは、"艤装装着者"と聞きました。まだ艦娘という表現はない頃ですね。そんな彼ら彼女らが海に身を乗り出して海の上を滑っていく姿も私たちは目にしました。不思議な光景でした。きっとその場に居た誰もがこれから起こることを何から何まで不思議に思ったことでしょう。昔ゲームや漫画で見たような怪物が本当に現れる事自体理解の範疇を超えていましたので、参加していた面々には正しい理解をできた人間などいなかったことでしょう。そんな中、私の頭の中では違う思いが大部分を占めようとしていました。なぜ国は、あんな若い少年少女を怪物との戦場に送り込むのだろうと。第二次大戦以降争いらしい争いを一切経験してこなかった日本で育った私達一般市民には、到底納得いく想像や回答を見出すことは出来ませんでした。ただ一つの手がかりといいますか、何かこの状況に一石投じるにはあの事件の話を再び聞くしかないと思い浮かべました。」

 

「また……おばあちゃんに話を聞きに行ったんですか?」

「えぇ。今度は最初は私一人で光主さんのお祖母様にお話を伺いに行きました。何度か足繁く通いやっと私は彼女たちと話をさせていただけるようになりました。私はまず深海棲艦のこと、艤装装着者の事を話しました。光主さんのお祖母様方は深海棲艦のことをご存知だったようで、話はスムーズにつながりました。どうやらお祖母様を始め封殺された事件の関係者の一部には深海棲艦と艤装装着者の話は伝えられていたようなのです。どういう意図で事件の関係者に話したのかはわかりかねますが……あなたのお祖母様やその後聞きに行った元ご学友の方々は、揃って一つだけ心境を吐露してもらえました。」

 

「それって……」那美恵はそうっと尋ねる。

「昔(の自分たち)を思い出すようだと。そして彼ら彼女らが活躍した未来、自分たちと同じ運命を辿りはしないかと心配なさっていました。きっと自分たちの頃と当時の艦娘となった少年少女たちを重ねたのでしょうね。」

 祖母が艦娘(艤装装着者)と深海棲艦のことを自分が生まれる前から実は知っていた。そのことに驚きを隠せない那美恵。

 

「そして少しずつお祖母様方から当時の話を聞き出すことが出来ました。大変な事態になっているにもかかわらず感慨深く思い出に浸った様子を見せるあなたのお祖母様は、気が強そうでハツラツとしたご様子で、その表情は非常に勝ち気でエネルギッシュでした。お年を召したとは思えないものでしたよ。昔を思い出してそのようなご様子で語った時のお姿が、お祖母様が小学生だった頃の戦いの中でみせていた姿の一片だったのかもと思いました。その後語っていただけた話によると、お祖母様はもともとクラスメートの数名が事件に巻き込まれたのを聞いて、自ら進んで関わったそうです。身を隠しながら紛争をすり抜ける毎日、ただの小学生である自分たちに何ができるかわからなかった。決意したはいいけれど、もどかしかったそうです。当時大人たちは統率に欠け敵の目をかいくぐって勝手に他地方に逃げたりバラバラに立ち向かって死傷者を出したりと、子供ながらに不甲斐ない様を見て感じていたそうです。その時、どこからか謎の機械を持った男性……いえ、性別すら不詳の人物が現れて不思議な機械を託していったといいます。誰も思い当たるフシがない人物だったそうで、大人たちは不審がったそうですが、お祖母様たち子どもたちは藁にもすがる思いでその人を信じてその機械の使い方を実戦で学び続け、大人たちの危機を救って少しずつ認められていったそうです。危険だとわかっていたけれども壊された自分たちの日常生活を取り戻すために、周りの人々を救うために耐え忍んだといいます。ただまぁ子供だったのでカッコつけて目立ちたいとか、そういった子供らしい欲もあったとか。」

「アハハ……なんだか他人事とは思えないです。さすが私のおばあちゃんといいますか。そっくりですね。」

 校長の最後のセリフに那美恵は注目して軽い口ぶりになって反応した。シリアスな話ではあったが、那美恵の反応に釣られて校長もにこやかな表情をして那美恵に返した。

「フフッ、そうね。でもどちらかというと、あなたがおばあちゃんに似てるというべきかしら。」

「うっ……そ、そうですよね~!」おどける那美恵。

 

「その後、お祖母様たち小学生から拡大して中学生・高校生と協力者は広まっていき、全員が一丸となって奮闘したおかげで、人外を撃退し、被害はその地域だけで済んでそれ以上は広がらずに事件はかたがついたそうです。と、ここまで話しましたが、光主さんは大体はご存知ですよね?」

「ええと、はい。でも知らないところも結構ありました。というかあたしがおばあちゃんから聞いた時は小さい頃だったので……多分忘れてたこともあったかと。」

「そうですか。それではこれから続けることも光主さんにとってはご存知のこと半分、初めて知ること半分かもしれませんね。」

 そう那美恵に対して言葉をかける校長。そして続けた。

 

「ようやくすべて撃退して事件が片付きました。その地域だけとはいえ、大勢の人が怪我をし死んでいき、その爪あとは多大なものであったそうです。その後国や県から表彰されると思っていたところ、真逆の対応をされたそうです。その地域の学生全員に精神分析の検査がなされ、人外の敵が残していったものなど事件の痕跡あるものはすべて政府やアメリカが没収していきました。アメリカの手回しで国際的なニュースにこそなりませんでしたが、国連の安全保安局まで通じて持ちこまれて、秘密裏に議論が設けられ事件が起きた日本のその地域には徹底した言論統制、そして不必要に話題に触れた者に対しては弾圧に近い処罰がくだされたそうです。そのせいでその事件から1年ほど立つ頃には、人々の記憶からなくなり、完全に闇に葬られた形の事件となりました。」

「そんなことが……まったく知らなかったです。おばあちゃんはそんなことまで語ってくれませんでした。」

 苦虫を噛みつぶしたような険しい顔になっていた那美恵の吐露に校長は頷いたのち述べた。

「おそらくですが、孫娘のあなたには戦いの辛い面までは聞かせたくなかったのだと思いますよ。」

 校長の言葉は、那美恵自身も今にして思えばそうだったのだろうと想像できるところであった。祖母の密やかな気遣いを想像して今は亡き祖母に心の中で感謝する那美恵だった。

 

「お祖母様やご学友の方々は悔しかったそうです。単に活躍をひけらかしたいわけではない。自分たちの存在を通して初めての人外との接触や辛い事件を知って欲しかった。私に語る時もその声色の変化でわかりました。トラウマにも近い感情を抱かせてしまったことに私は申し訳なく思いましたが、それでもお祖母様方は話してくださったのです。関係者の大半の人が精神的に病んだり弾圧に耐えかねて密かに引っ越して行方をくらます中、唯一のちのちに残る形で夢を叶えて精力的に活躍をなさったのが、光主さん、あなたのお祖母様なのです。」

「……はい。知ってます。」

「封じられた栄光を蒸し返すのは一旦諦め、自身の夢だったアイドルを目指して奮起して数年かけてアイドルの下積みからのし上がったそうです。一世を風靡したとは言えない、それなりの人気でもって活躍した普通のアイドルだったそうですが、それでも光主さんのお祖母様は念願叶って掴み取った夢を徹底的にやりぬいたそうです。そして彼女も年を取り、アイドルから舞台女優に転身し、50代で引退したそうです。それなりの地位と名声を手にしたことで、非常に充実した引退後の生活を送ったそうです。」

 校長の語る祖母像を那美恵は半分ほどは本当に知らなかった。祖母があえて語らなかった点もあるのかと、校長の言葉を聞いて初めて気づいたのだった。

 

「彼女が50代になる頃には政府もだいぶ人が入れ替わり、封殺された事件を知る者・関係者への弾圧をする者はもはやなくなっていました。お祖母様は様子を見て事件の真相を語ろうとしたそうですが、誰がどこで見聞きしているかわからない、平和一色なその時代、あえて語っていらぬ遺恨や災いを呼び覚ます必要もないだろうとして事件のことは胸にしまったそうです。しかしその事件のことを連想してしまう出来事が今から30年前に発生したのです。」

 そこまで校長が語って触れた話を聞いて、那美恵や提督の頭の中で話の糸がつながったと感じた。

「それが……深海棲艦の出現と初めての艦娘なんですね。」

 那美恵が発言する前に提督が口にして正解を求めた。校長は頷いて続ける。

 

「えぇ。すでに70代の高齢になっていた彼女のもとにどこからか話を聞きつけた記者や元政府の高官と名乗る人物が度々訪れたそうです。私と同じように考えた人がいたということなのでしょうね。なんらかの参考にしようとした、しかし彼らは心のどこかで彼女らの関わった事件を不審に思い、信じていなかったのでしょう。聞きに来る人達の中の態度に現れるそういう気持ちに気づいたあなたのお祖母様や、催促されて仕方なしにお祖母様が紹介した元ご学友とその世代の方々は、語ろうとしていた口を再び閉ざしてしまったそうです。」

「そんなことが……。」

 那美恵は校長の語る祖母と祖母のまわりの出来事に驚きを隠せないでいる。校長は那美恵の相槌を受けて語りを再開する。

 

「あなたなんか生まれてない頃ですよ。西脇さんだってまだ学生の頃の話でしょうし。」

「あ……はい。恥ずかしながらそんな昔にはまったく興味がなかったですし存じ上げませんでした。」

 提督が自身の当時の境遇を白状すると、近い世代の妙高や明石も頷く。フォローとばかりに明石は補足した。

「一般に艦娘……艤装装着者のことが知られるようになったのはその20年前の開幕式からもっと後の時期だったはずです。ですから提督や妙高さんらがご存じないのも無理はないかと思いますよ。」

 

 明石の解説に相槌を打って校長は再び口を開いた。

「そういう態度の悪い前例があったために、最初私はお祖母様たちに断られていたんです。でも熱意を持ってあなたのお祖母様や当時のご学友の方々に頭を下げてお願いして回りました。これからの世代の子供達に教えるべき、伝え継いでいくべき世の中の真実、その好例だと説得してね。私達の思いが通じたのか、重い口を開いて丁寧に語ってくれました。その戦いであなたのお祖母様をはじめ、多くの人の心に深い悲しみや怒りといった遺恨、そして被害者を残したこと、封殺されて語ることすら許されなかった思いを語っていただけました。彼女らの中には心に溜め込みすぎたために心身を病む方もおり、心の中では辛い記憶であっても吐き出して誰かに知っておいてもらいたいという本音があったそうです。ですから私はそういう気持ちを汲んで、我々教師が実名は伏せてこの事件の真相と、ここから見い出せる命や絆、日常生活の大切さを、深海棲艦と戦うことになるかもしれないこれからの子どもたちに説くことの決意を表しました。同じ境遇にはさせない・あなた方に辛い思い出を蒸し返させない、未来は必ず私たちが守りますと。私がそう言ったときのお祖母様方は今でも忘れられないくらいの満面の笑みでした。すごく安心したという表情を浮かべていらっしゃいました。」

 

 那美恵は、祖母が決して語らなかったいくつかの事実を校長から聞くことができた。校長は那美恵の祖母らの体験を自分の手柄かのように捉えていたのではなかった。むしろ那美恵の祖母らを守りながら後世にまでその話を伝えるために、陰ながら支えていたのだ。祖母がその体験を話すときは明るく楽しそうに話していたが、実のところ話すのも辛いこともあったのかと、那美恵は気軽に考えて憧れて話をせがんでいた自分を恥じた。

 

 

「ですが私にとっては実感のない借り物の体験談であり、本当の記憶ではありません。ですから当事者がどういう思いで戦いに携わったのか、推し量ることはできても正しい理解はきっとできていないでしょう。多分、今回も同じです。」

 那美恵はなんとか言葉を紡ぎ出そうとするが、それが出てこない。那美恵たちがリアクションできないその様子は校長の語りをさらに続けさせる要素になっていた。

「その当時のことを聞いた時ですら、私たちにとっては理解の範疇を超えたとんでもない出来事でした。ですからその当時の教師は貴重な記憶をとにかく語り継いで事件を風化させないことで守ってきました。それと同時に深海棲艦と戦おうとする艤装装着者になろうと安易に考える子どもたちに命の大切さを説いてきました。私達の役目は今後も変わらないでしょう。ですが私達が語り継ぐのにはいずれ限界が来ます。だから30年前からの深海棲艦の出現、20年前から始まった艤装装着者と深海棲艦との戦い。艤装装着者……艦娘たちの戦いの記録・記憶も、次の世代の誰かが同じように語り継いで守っていかなければならないと思うのです。もしかしたら深海棲艦根絶後に、光主さんのお祖母様方が経験したような弾圧めいたことが繰り返されるかもしれない。次世代にまた戦いがありその時また子どもたちが安易に危険に身を乗り出すかもしれない。そう考えると怖いとは思いませんか?」

 那美恵たちはもはや言葉なく頷いて同意を示すのみになっている。

 

「お祖母様や私の世代ではやりきれなかったことを、光主さん、あなただけではなく西脇さん、そしてそちらのお三方、あなた方の世代が担うべきなのだと思います。光主さん。私はね、ただむやみに反対していたのではないのですよ。あなたは生徒会長として、あの方のお孫さんとして評判負けすることなく、学内外で評判良いのは知っています。あなたは大変出来る方です。いつかあなたもお祖母様のように何らかの大事に巻き込まれるか憧れるかして、関わる未来が待ち受けているかもしれない。あなたがあの方のお孫さんだということを知った時、なんとなく感じていました。でもそれがまさか私の任期中、あなたの高校在学中になるとは思いもよりませんでした。あの人のお孫さんが、軽い気持ちで艦娘と深海凄艦の戦いに関わっているのだとしたら、傷ついたり下手をすればあなたが戦死してしまった時に、あの人やご両親に申し訳が立たないと思っていたからです。」

 

 一呼吸置いて、校長は続けた。

「ですから私は語り継いだ記憶と私の信念に従って一度は拒みました。でも……先ほどのあなたと西脇さんのお気持ちを聞いて、私はあなた方を信じて託してもいいかもしれないと思いました。ですから私が過去にあなたのお祖母様から伝え聞いたこと、そして深海棲艦と艦娘のことを話しました。」

「校長先生……。」

「光主さん、あなたはきちんと意識し、周りに良い影響を与えて過ごしてきたんですね。3ヶ月前に西脇さんと一緒に私を説得しに来たときのあなたとは、まるで違うとひと目でわかりました。」

 

 珍しく照れまくり、恥ずかしそうに那美恵はつぶやいた。

「そ、そうなんですか……?」

「えぇ。私はこれでも何百人・何千人の生徒をこれまで送り出してきたんですよ。生徒の些細な違いくらいわかります。この2~3ヶ月の間の艦娘の経験は、あなたにとって本物になれるよい経験だったのですね。」

 

「エヘヘ。ちょっと恥ずかしいです……。」

 那美恵は照れ隠しになにか言おうとしたが言葉が出てこない。校長はゆっくり目を閉じつつ語り、そして開いてまっすぐ那美恵を見る。

「憧れた人のお孫さんが、彼女と同じように戦いに加わり、記憶を紡いでいく……。運命と言ったらかっこよすぎかしら? 光主さんのお祖母様が打ち明け私たちが語り継いできた記憶はもう本物の歴史に乗ることのない失われた記録になってしまうでしょうが、あなたたちのは違います。世間に艦娘のことがある程度知られている現在、ありえないと思えてしまう戦いを本当に経験している当事者なんです。歴史に残り得る戦いだから、あなたたち自身でしっかり決着をつけてそして語り継いでいって下さい。世界中の海が荒らされているのですからね。」

 

「はい。あたしは西脇提督のもとで、やりきってみせます。」

「校長先生、俺…いや私も、彼女たちが安心して安全に戦い、そして無事に帰ってこられて心休める場所にできるよう努めます。あと、語り継ぐのもお任せ下さい。ですので……」

 提督が校長の返事を急くと、その前に校長が一言を発した。

 


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