同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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交渉

 交渉日当日、15時少し前に那美恵と三千花は校舎を出て校門前で提督らを待っていた。ほどなくして那美恵たちの高校の校門を通る部外者の影が4人あった。その姿が見えた時、那美恵はそのメンツに少し驚きを示した。

 

「あれ?提督だけじゃないんだ。」

「あぁ。メンツは多いほうがいいと思ってね。3人連れてきた。」

 

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 そう言って提督が向けた視線の先には、工廠長の明石、重巡妙高、そして秘書艦五月雨の姿があった。

 

「今回は微力ながら皆さんの役に立てるよう振る舞いますね。光主さん、よろしくお願いいたします。」

 非常にゆったりした話し方で、物腰穏やかに自己紹介する妙高。

 那美恵は妙高とは面識がなかった。提督の談によると、年齢は提督より上で既婚者、実質的には影の秘書艦でその実見えないところで頼っている女性なので、同席してもらうことにしたという。今回は五月雨の代わりに秘書艦という名目での同席だ。

 

「那珂ちゃん…と、ここでは那美恵ちゃんね。よろしくね。技術的な説明ならお任せください!」

 明石は艦娘の装備や戦闘面でもし質問された場合の技術的な説明をするための要員としての同席である。なおかつ国が直接提携して艦娘制度にかかわっている製造業の有名な会社の社員ということで、ハクも期待してのことだ。

 

「那珂さん! 私も那珂さんの学校の役に立てるよう、精一杯頑張りますね!」

 五月雨は初期艦として、学校提携の前例の当事者として、それから純粋に艦娘の実務である深海凄艦との戦いに従事する担当者としての立場での同席だ。なお、この日のために五月雨の中学校へは提督が話をつけている。中学校側からは弊校の例が参考になって、他の学校との提携が進んで最終的にはお国のためになるなら喜んで早川皐月を貸し出します、という快い承諾を得ていた。もちろん同時間帯の授業は免除である。

 

 

--

 

 那美恵と三千花は4人を校長室にまで案内した。コンコンとノックをし校長から一言あった後、那美恵はドアを開けて提督らを中に入れた。

 

「校長先生、鎮守府Aの提督方をお連れ致しました。」

 普段とは違い、丁寧な言葉遣いで案内する。

 

「はい。ありがとうございます。」

 校長は那美恵の祖母とまではいかないが、綺麗に歳を取った初老の女性という雰囲気を醸し出している。那美恵に丁寧にねぎらいの言葉をかけると、校長は提督に近づいた。提督は軽く会釈をした後挨拶の言葉を発した。

 

「ご無沙汰しております。鎮守府Aの西脇です。」

「お久しぶりね、西脇さん。3ヶ月ぶりくらいかしら? どうぞおかけください。」

 提督らをソファーに座るよう促す。提督らはお辞儀をしてソファーの前に立つ。座る前、自己紹介する前に校長を気遣う話題を振る。

「だんだん気候が変わっていて暑くなりましたが、お身体にお変わりはありませんか?」

「えぇ、おかげさまで無事に過ごしております。西脇さんは?」

「はい。本業ともども健康に気をつけて過ごしております。あの、お話を始める前に私どもの担当者を紹介させていただいてもよろしいでしょうか?」

「えぇ、お願い致します。」

 

「……じゃあ妙高さんから。」

 提督が促すと妙高は半歩前に出てお辞儀をして自己紹介をし始めた。

「はい。私、鎮守府Aの秘書艦を務めております、重巡洋艦妙高担当、黒崎妙子と申します。本日はよろしくお願いいたします。」

 次に明石が同じような作法で自己紹介をする。

「私は工作艦明石担当、明石奈緒と申します。鎮守府Aの工廠長を担当させて頂いております。それから私、○○株式会社より派遣という形で鎮守府業務に携わっております。」

 そして最後に五月雨こと早川皐月が挨拶をした。

「私は駆逐艦五月雨を担当しています、○○中学校2年の早川皐月と申します。」

 

 最後の人物の紹介に疑問を持った校長は提督に尋ねた。

「そちらの女の子は……何か特別な担当されているのですか?」

「いえ。ただこの五月雨は初期艦という、国に認定された鎮守府Aの最初の艦娘です。以前お話しさせていただいたかと思いますが、鎮守府Aと初めて提携していただいた○○中学校様の生徒でして。ご参考までに同席させたいのですがよろしいでしょうか?」

「えぇ、かまいませんよ。」

 

 それぞれの自己紹介が済んだので、校長に促されたとおり提督らはソファーに座った。

 

 

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 2~3当り障りのない話題で会話してその場の雰囲気を潤した後、提督は本題を切り出し始めた。

「御校の生徒さん、あちらにいらっしゃる光主那美恵さんに艦娘になってもらって2ヶ月ほど経ちました。」

 提督に言及され、那美恵は校長に向かって会釈をする。

 

「その間いくつかの出撃任務に携わってもらいました。いずれも怪我なく無事に任務遂行し、優秀な戦績を上げてもらいました。我々としては彼女の参加で非常に助かっております。彼女の活躍は他の鎮守府や防衛省でも少しずつ話題にあがるようになっております。おかげさまで市や県からの依頼だけでなく、企業・団体からの依頼任務も徐々にではありますが増えてきました。」

 まずは那珂となった那美恵のこれまでのことを報告し褒める。そして一拍置き、提督は言葉を続ける。

 

「それでですね、我々としても引き続き光主さんには艦娘として働いてもらいたいのですが、何分私どもの鎮守府はまだ小さく、人が集まっていないために、任務を請け負ってもなかなか数少ない彼女たちでは捌き切れないのが現状でして。那珂を始めとして他の艦娘たちの功績のかいあって、おかげさまでだんだん我が鎮守府も知名度があがってきております。そのため懸念しているのは、今後任務が増えることによる、艦娘たちの普段の生活への支障なんです。これは今現在、とくに那珂として活躍してもらっております光主さんに強く当てはまることでして。もし、このままの人数で任務が増えますと、私どもだけでは艦娘たちの普段の生活の支援が行き届かなくなる恐れがあります。私個人としても、艦娘になる人たちの普段の生活が第一と考えております。そのために艦娘が普段の生活で所属している学校様や企業様に協力していただけるよう、提案させて頂いております。つきましてはバックアップに協力していただけないか、本日お願いに伺った次第であります。」

 

 交渉事に慣れていないために途中早口になりつつも必死に、慎重に提督は校長を説得しに言葉を選んで進める。一方の校長は提督から手渡された資料と、教頭経由で那美恵たちから受け取った鎮守府見学の報告書を数ページ読むために提督から資料へと静かに視線を動かした。

 沈黙が続く。さすがの那美恵も今回は口を挟むタイミングや雰囲気ではないために、黙って提督と校長の雰囲気を見守るしか出来ない。

 

 しばらくして校長が口を開いた。

「西脇さんのお気持ちや熱意は確かに伝わりました。……前回来ていただいたときよりも、言葉がしっかりなさっていますね。この2~3ヶ月で、きっとうちの生徒がお役に立てる何か出来事があったのかしら。」

「へ?あぁ、えぇ。光主さんはさすが生徒会長もされているだけあって、恥ずかしながら彼女から学ぶところは私にも多々ありまして。」

 提督は照れくさそうに、正直にありのままの今の気持ちを伝えた。すると直後、提督には校長の頬が少し緩んだように見えた。

 

「西脇さんのことはわかりました。あとは……。」

 提督の心境を確認した校長は言葉の最後のほうで言いかけて一旦止め、那美恵のほうを向いた。

「光主さん、ちょっとこっちへいらっしゃい。」

 校長は那美恵を呼び寄せた。那美恵と三千花は教頭とともに、校長・提督らのいるソファーとは離れたところに立っていた。そのため那美恵は返事をしたのち、校長のとなりまでしずしずと歩いて近寄った。

 

 

--

 

「はい。」一切のふざけはなしにあっさりとした返事をする那美恵。

 

 那美恵がとなりに来たのを確認し、校長はその少女にある質問をした。

「率直な気持ちを聞かせてね。光主那美恵さん、戦いは怖くない? ……それから、戦いは楽しい?」

 那美恵は途中までの質問なら聞いた瞬間に答えようと口から返事を出しかけたが、一拍置いて校長の口から発せられたさらなる質問のために、それを飲み込まざるをえなかった。言葉を脳が解析し終わって単語の意味を理解した瞬間に冷や汗が出る。校長の真意がわからなくなり、那美恵は急いで考えを巡らせる。

 

 戦いは怖くはない。艤装の影響もあるため、深海凄艦という化け物と対峙してもそれなりにやれる。しかし、楽しいかと言われると、正直のところわからない。どう答えるのが校長にとって正解なのか?校長が経験していないと思われる戦いの思い出に沿えるような、否定的な回答をすればいいのか、それとも真逆のことで、楽しい・世界のために戦えるというポジティヴな意思表示をすればいいのか。

 そもそも、今まで自分は深海凄艦との戦いに何を思ってきたのか。那美恵はそこから思い直す必要と感じた。艦娘の目的は、世界中の海に蔓延った深海棲艦を撃退する、それが仕事である。鎮守府に協力するとか運用を手伝うなどそういったことは、深海凄艦との戦いという仕事のための単なるお膳立ての一要素でしかないのかもしれない。艦娘の仕事は1にも10にも化け物との戦いなのだ。それが自分達の覚悟を決めた唯一の仕事のはず。

 そう心の中を見つめなおすと、那美恵は途端に深海棲艦や戦いについて恐怖心が湧き上がってきたのに気づいた。そして那美恵の口からは、当初頭にあったこととは逆の言葉が出て、自分の正直な思いを明らかにしていた。

 

「……怖いです。よく考えたら深海凄艦との戦いは怖くて仕方ありません。心から戦いが好きな人なんて、あたし含めて今の日本にいるはずがありませんし。」

 

 

 出始めた那美恵の言葉をゆっくりと何度も頷いて噛みしめるように聞く校長。

「そう。でもあなたは艦娘になって、この2ヶ月近く戦ってこられたのよね?怖いはずが、なぜかしら?」

 

「それは……。」

 つまった言葉、それをどう言おうか那美恵は考えた。その時、ある存在が頭に浮かんだ。尊敬する祖母、そして提督の顔だった。決して向かい側に提督がいるからとかそうわけではない。

 

 那美恵の祖母は92歳の大往生であった。祖母の大活躍は70~80年以上も前の出来事で、当時を詳しく知るものはもはやほとんどいない。それでも最近あったことのように熱く・目を輝かせて明るく語る祖母のことは、本人とその話両方ともに孫娘の那美恵は大好きで、それが自分自身のことであったかのように深く思い入れがあった。

 当時の大人たちが苦戦する中、子供であった那美恵の祖母たちは機転を効かせて大人を助け、戦いを勝利に導いた。問題児も多かった(彼女の祖母自身も勝ち気で目立ちたがり屋など問題も多かった)という当時のその小学生を、クラスメートたちを率先してひっぱって指揮していったのが彼女の祖母だった。

 那美恵の完璧を目指す信念、そして誰かを引っ張ったり、アイドルのように振る舞って世間を明るく賑やかにさせたいという思いの根源は、祖母にあった。

 

 そして提督。鎮守府を出れば普通の男性である。世が世なら那美恵は彼と絶対出会うことはなかったであろう。そんな人物西脇栄馬と触れ合った2ヶ月弱、基本的には頼れる大人だが、この人は自分がついていないとダメかもしれないと、思えるような面を那美恵は提督に少なからず見いだしていた。

 それなりに清潔感ある身なり・普通にアラサーのおじさん・やや挙動不審な点もあるがいいとこお兄ちゃんと言ってあげてもいい話しかけやすい雰囲気の男性である提督、西脇栄馬。IT業界に勤めてるそうだが、言葉の端々に文系の匂いがし、様相に似合わぬ熱い思いを語るときもある提督。自分と似たところがあるかも……と那美恵はなんとなく思っていた。フィーリングが合うなぁと感じるときもあった。自分に似てないけど似ている。

 そう思いを馳せられるゆえ、那美恵は提督自身にところどころ欠ける要素を、自分が補完してあげて彼の完璧を自分が演出したい・支えてあげたい・尽くてあげたい、引っ張っていってあげたいと思うようになっていた。

 その根底にあるのは理屈ではない、心の奥から沸き上がる感情。

 

 頭に浮かんだ二人に対する気持ちが那美恵が艦娘としてこれまでやってこられた原動力だったと、落ち着いて考えた彼女の頭で浮かんでまとまっていた。言葉に詰まって数分にも感じられた約1分弱の後、那美恵は校長に答えを告げた。

 

「……それは、恐怖よりも強い憧れと譲れない信念と、誰かのために尽くしたいという気持ちがあるからです。あたしは戦うために戦ってるわけじゃないですし。普段の生活を大切にしたいし、誰かのその生活をも大事にしたいから。心に強く思うからこそ、自分が信じるもののために心を熱く燃やせるから、だから怖くても平気なんです。あたしは戦えるんです。」

 

 

 そこまで言って、那美恵は突然提督のほうを向いて尋ねた。

「ねぇ提督。うちの鎮守府に配備される艤装ってちょっと特殊なんでしょ?」

 突然話を振られた提督は、あぁ、といつも那美恵に返す口ぶりで返事をし、艤装のことならと明石の方を向いて合図をする。

 

「光主さんが艤装について触れられたので、少しだけ補足させていただきます。艤装は、インプットされた膨大な量の情報により、一般的な機械よりも人間に対して高度で身近な存在となっています。いわばそれ自体が人を選ぶ生き物みたいになっています。ですので同調といいましてそれを扱える、簡単にいえば艤装とフィーリングの合う人を見つけないといけないんです。さらに鎮守府Aに配備される艤装は、新世代の艤装のテストも兼ねておりまして、それは人の思いによって、艤装の性能を変化させる機能を実装しているんです。未だテスト段階ですので他の鎮守府には知られていませんが、より装着者と一体化させて、その人の強い思いを実際の力として具現化とさせることができるんです。ですので、光主さんが持つ強い思いは、大げさかもしれませんがきっと技術の発展、しいては世界の平和へとつながると思います。」

 技術大好きな明石は自分の得意分野ならとペラペラ解説するが、その内容を理解できた学校側の人間はいなかった。明石の話を聞いて校長はそうですかとだけ言い、那美恵がこれから紡ぎだす言葉を聞くために彼女に視線を戻した。那美恵は校長が戻した視線を受け、せっかく解説してくれた明石の話を受けてうまく話をつなげなければと思案し、回答を再開する。

 

「校長先生、あたしは最初こそは単なる興味でしたけど、着任してからのこの2ヶ月、思いはきちんとしたものになってきてると実感しています。そしてその思いは、うちの鎮守府の艤装によって、実際に深海凄艦を倒す力として、あたしやここにいる五月雨ちゃ……さん、他の艦娘仲間たち、それから提督を助けてくれました。きちんと心に思えば、うちの鎮守府ではそれが力になる。だから怖くても戦えるんです。」

 

 那美恵は深呼吸をした。そして微笑みながら続ける。

 

「あたしはこうして艦娘として今日まで無事にやってこられたけど、それはあたし一人の力じゃない。あたしは一人でなんでも出来てきたと思っていましたが、それは周りの密かな支えがあったからこそなんだと気づきました。あたし一人ではどうしようもできない状況でも仲間がいれば解決できるかもしれない。これからも怖い思いはするかもしれないけど、仲間が集まればやりきれる。あたしには仲間が必要なんです。うちの学校からも艦娘として一緒に戦ってくれる仲間が欲しいんです!」

 

 那美恵はこれぞと思って用意してきた策を使う間がなかった。校長に対しては提督のほうが効果てきめんだったのだ。結局素直に自分の感じたまま思ったままのことを話すしかなかった。事前に那美恵は提督に話をすり合わせようと言い、マイナスになる部分は書かないから言わないでとお願いをしていたが、提督はバカ正直に、策を弄するのは嫌いだと言い結局那美恵のその願いだけは聞き入れなかった。この校長に対しては、提督のような誠実さでないと立ち向かえないと那美恵は気づいた。

 

 那美恵は口から自分に似合わぬセリフを吐き出し続けながら頭の片隅でこうも思っていた。

((結局あたしは提督を自分色に染めて影響を与えるつもりが、逆に提督の影響を受けてバカ正直になってきてる。こうして、学校は違うけど後輩の五月雨ちゃんのいる前でアホみたいにまじめに自分の思いの丈を吐き出しちゃってる。そりゃ真面目な会議の場ではあたしだって形だけはちゃんと振る舞うけど、こんな素直になっちゃうのは本来のあたしじゃない。真面目ちゃんはあたしのキャラじゃないんだよぉ。ちっくしょ~提督めぇ。いつか絶対、あなた……をあたし色に染めてやる。))

 

 

--

 

 那美恵からも思いや考えを聞いた校長は最後まで彼女の言葉を噛み締めてじっくり味わうように、頷いて聞き入っていた。その様子は最初から最後まで変わらぬ校長の態度である。そして校長は那美恵の言葉を評価した。

「そうですか。光主さんの気持ち、大変よくわかりました。あなたのお気持ちは本物のようですね。」

「え?」

 那美恵は聞き返す意図ではないが、一言だけ声に出していた。

 校長は数秒の間を作り、再び口を開いた。

「私の考えでは、正直申しましてあなた方を化物と戦わせることに反対です。そのための許可など学校として生徒に承認することはできません。」

「!!」

 ピシャリと校長は反対の意思を示した。那美恵と提督はビクッとするが、その後の校長の言葉によりこわばらせた態度をわずかに和らげる。

 

「……でもそれはお二人の言葉を聞くまでのことです。あなた方のお気持ちを聞けて、私は考えを改めようと思いました。」

「校長……!それじゃあ!?」

 那美恵が乗り出そうとすると、校長はその反応を気にせず言葉を再開する。

「えぇ。ですがその前に、私はみなさんに正直に言わなければいけないことがあります。あなた方の気持ちだけ聞いて私のことを話さないのは卑怯ですものね。それに今この時が、きっと話すべき時なのだと思ったのです。光主さん、私が時々みなさんの前で話すお話、覚えていますか?」

 校長が件の話に触れてきた。那美恵は考えていた対策をどうするか瞬時に思い出し始める。が、那美恵の行動を待つ気はない校長は話を続けた。

 

「あの話はね、実は私の体験談ではなくて、私の憧れの人たちのことなの。」

「憧れ……の人ですか?」

「えぇ。それはあなたもよくご存知で、尊敬している人よ。」

 校長のその言葉に那美恵は一瞬眉をひそめて自身が考えていたことの正解を確認しようと脳裏に思い浮かべる。校長がわずかに口元を緩ませて言及した人物は、那美恵の想像通りの人だった。

「それはね、あなたのお祖母様のことです。」

 校長の口からはっきりと実体験ではない、その体験の主のことを聞いた那美恵は唾を飲み込み、校長の話の続きを待った。

 

「あなたのお祖母様とその世代の方々の経験は、今の私たちにとってもおそらく大事なことだから、どうしてもどんな形であっても伝えたかったのです。」

「おばあちゃんの経験が……ですか?」

「えぇ。ようやくあなたたちに話すことができます。」

 

 校長はかつて起こった事件の当事者である那美恵の祖母たちから伝え聞いたことを語り始めた。

 


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