同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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着任~提携ならず

 着任が決定し、那美恵は提督から直々に合格の連絡を受けた。その日は学校で午前の授業が終わり、お昼を食べている最中だった。生徒会とは関係ない普段仲の良い友人たちとしゃべりながらお昼を食べていると、那美恵の携帯が鳴った。

 

「はぁい。」

「もしもし。私、鎮守府Aの提督の西脇と申します。こちら光主さんの携帯電話でしょうか?」

「あ、西脇さん?はいそうです光主那美恵です。」

 相手は鎮守府の総責任者ということと、電話越しということで普段のノリは控えめに提督に挨拶をする。

 

「光主さん?この前受けていただいた試験ですが、あなたは合格です。正式な案内は後ほど致します。あなたには軽巡洋艦の艦娘、那珂として着任してもらうことになるから。これからよろしく頼むよ。」

「ホントですか!?やったー!こちらこそ~!よろしく西脇さん!」

 

 その電話でのやりとりを聞いていた友人たちは興味津々で那美恵に尋ねてきた。

「ねぇねぇなみえちゃん。電話の人誰?彼氏?」

「えー、どうだろ~?将来そうなるかも~な人かな~」

 那美恵の普段のノリをわかっているのか、友人たちは冗談だと捉えて話を進める。

「なにそれw ね!ね!どんな人?何歳?」

「うーんとね。33とか言ってたかなぁ」

「うわっおじさんじゃん!で、どういう人なの?」

「うーん、ある意味、社長職な人かなぁ。あたしその人のところに挨拶しにいくの。」

「えー!玉の輿!?マジで?」

「挨拶に行くとか結婚かよ~」

 

 キャハハと、黄色い声を上げて那美恵の話を聞いて笑って楽しむ友人たち。

 あえて艦娘とか、鎮守府などとは言わずに話を進める那美恵。本当は話したかったのだがまだ着任しておらず、艦娘部を立ち上げるための準備もこれからというところだったので、状況をわきまえて伏せることにした。

 

 

--

 

 那美恵は連絡された日に鎮守府Aに赴いた。その日は正式な着任日ではないが、事前の準備で書類なり確認すべきことがあるため那美恵は呼び出された。

 

 その日は執務室ではなく、小さな会議室に西脇提督、五月雨、時雨、那美恵の4人が集まった。

「これから軽巡洋艦那珂の着任に向けた準備をします。必要書類はのちほど書いてもらうとして、那珂含めて川内型の艦娘には制服が支給されるから身体測定をしてもらうよ。」

「はぁ、制服ですか。……って身体測定?えー提督に測ってもらうの~?」

 もちろん冗談で言ったのだが、那美恵は両腕で自分を抱きしめるような仕草でイヤンイヤンと上半身を左右に振り、おちゃらけた。

 

 女子高生が苦手なのか、それとも若い子にそういう冗談を言われることが苦手なのか、提督は照れながら反論する。

「そ、そんなわけないだろ……。本当にやっていいなら、やってあげるけどいいのか~?」

 かなり精一杯の冗談で那美恵にノってきた感じがする提督。無理しちゃって……と那美恵は思った。そんな提督の様子を五月雨と時雨はジト目で無言で睨みつけている。

 それに気づいた提督はゴホンと咳払いをして続ける。

 

「君の身体測定は五月雨と時雨にやってもらうから。終わったら3人で執務室に来てくれ。」

 そう言って提督はそそくさと会議室から出て行った。

 

 

 女3人だけになった会議室で那美恵の身体測定が始まる。が、3人共気恥ずかしいのか、なかなか始める一声を出せないでいる。さすがに那美恵も恥ずかしく、普段のおちゃらけた雰囲気が急になくなった。

 

 最初に五月雨が口を開いた。

「それじゃあ、光主さんの測らせていただきます。ええと、改めて。五月雨っていいます。秘書艦やってます。」

「時雨といいます。さみ……五月雨とは同じ学校の同級生です。」

「私は光主那美恵といいます。これから那珂になります。よろしくね、二人とも!」

 

 年下の女の子に自分の体型を測られる妙な感覚を覚える那美恵、学校が違うとはいえ学年が上のいわゆる先輩の体をお触りして彼女の体型を測る五月雨と時雨、三人ともなんとなく無言で作業をした。

 

 身体測定が終わり、執務室に戻った3人。提督は那美恵に書類を書かせ着任に向けて準備を進めさせる。那美恵が書類を書き終わったら、提督は秘書艦の五月雨と一緒に大本営(防衛省艦娘統括部)まで行き那美恵の着任の届けを出しに行く。時雨は出かけている間の代理の秘書艦として鎮守府にいてもらうために、五月雨から引き継ぎを受けていた。

 

 

--

 

 その後3~4日ほどして、那美恵の体型にあった艦娘那珂の制服ができあがった。鎮守府Aに届けられ、鎮守府から那美恵へと連絡が行った。翌日に那美恵は鎮守府に行き、制服を受け取って試着する。

 那美恵が更衣室で着替え、会議室に行くと、そこには先日身体測定を手伝った五月雨と時雨の他、二人の同級生の顔もあった。プラス、提督や他の艦娘も顔を見せている。人が少ないので、みんながみんな新しい艦娘の事が気になっているのだ。

 

 誰ともなく声が漏れる。

「うわぁ~華やかな制服!」

「どぉーかな、みんな?」

 初めて着る学校以外の制服に戸惑いつつも、軽くポーズを決めたりスカートをたくしあげてクルッとまわったりとちょっとしたアイドルばりの仕草をする。着て数分後にはもう着こなしている様子だった。

 

「光主さん、すごく似あってます。ポーズもなんだかアイドルみたいに決まってます。」と艦娘の一人。

 五月雨たちとは制服が異なる中学生と思われる学生艦娘の子は、しゃべりこそしないがその艦娘の言葉に同意している様子で、コクコクと頷いている。

「そりゃあたし、もともとアイドル志望ですもの。こういう着こなしもしっかりやるよん。」

 那美恵の言葉に皆アハハとにこやかに笑って反応する。その笑いには納得の意味がこもっていた。

 

 

「私の五月雨も制服ありますけど、可愛さが全然違いますよ~いいなぁ~」

 と五月雨もちょっとうらやましげに感想を言う。

 

 那珂の制服にそれぞれの反応を見せる艦娘たちに提督は解説をし始める。

「元になった軍艦那珂とその姉妹艦はね、150年ちかく前の第二次世界大戦で、日本海軍の軍艦のうちでもかなり活躍した軽巡洋艦らしいんだ。それにちなんで那珂や姉妹艦の艤装装着者の制服は明るい色で華やかなデザインにしたんだそうだ。○○っていう有名デザイナーのデザインらしい。

 見た目の美しさもそうだけど、機能性にも優れていて、艤装の機能を補助する小型チップを入れる専用のポケットもたくさんついているんだ。」

 那珂の制服の説明書を読みながらその場にいる皆に説明する提督。

 

「艦娘専用の制服があるのってうらやましいっぽい~そういうかわいいの着たいよ~」

 悔しそうに不満を漏らす夕立。白露型は初期艦である五月雨以前の連番の姉妹艦は服装自由となっている。そのため夕立たちはとくに考える必要もない学校の制服で来ている。

 

「いいじゃない夕ちゃん。思い切って可愛い服で来ちゃえば。私なんか制服固定されちゃってるもん~」

 友達たちが学校の制服できてるのに自分だけが艦娘指定の制服なことに不満を持っている五月雨であったが、それは夕立からすると、学校以外の制服を着れるだけでも逆に羨ましい存在なのである。

 

--

 

 そして那珂の着任日、生徒会の仕事は副会長らに任せて早めに鎮守府に来た那美恵は更衣室で那珂の制服を着、ロビーに皆と一緒に集まった。まだ建物のところどころが建設途中の鎮守府Aでは、着任式などをするための講堂もないため、一番広いロビーで行うことになっていた。

 

 

「なんかドキドキするー」

「君は生徒会長やってるんだっけ。普段は今の俺みたいに前に立って何かする立場だから今日は逆だね。」

 那美恵は提督と軽い雑談をする。

 

 ロビーには五月雨たち他の艦娘もいる。各自プライベートの予定もあるため、何人かは不参加だ。

 

「ねぇ提督。なんでロビーなの?会議室でもいいんじゃない?あっちのほうがいいと思うんだけどなぁ。」

見学時に会議室があるのを知っていた那美恵はなぜ会議室ではなくロビーを着任式の場に選んだのか提督に尋ねた。

「本当はさ、執務室で着任証明書渡してハイ終わり、でもいいし、会議室でやってもいいんだけど、俺はこういう儀式を通じて雰囲気とか、気持ちを大切にしたいんだよね。それにロビーでやるのは、これからその人がこの鎮守府に通って艦娘として活動し始めるというスタート地点になるからさ。だから本人が嫌がらなかったら、こうして着任式を開いているのさ。光主さんみたいにノってくれる娘は大歓迎だよ。」

 提督は嬉しそうに言う。提督の言うことが示すように、鎮守府Aでは今までほぼ全員にこうして着任式をやって気持ち新たに艦娘の仕事を彼女らができるよう、計らっているのだった。初期艦である五月雨以外、時雨たちは全員こうして着任式を開いてもらっている。

 

 頃合いになり、本館のロビーにてささやかながらも、本人らの気持ち的には大規模な、艦娘那珂の着任式が執り行われた。

 

 

「光主那美恵殿、あなたを鎮守府Aの軽巡洋艦艦娘、那珂としてここに任命し、着任を許可致します。

 これからあなたには深海凄艦との戦いに参加していただくことになります。怪物との戦いはあなたにとってつらいものになるでしょう。ですがあなたは一人で戦うわけではありません。ここに、そしてここに今いない人もいますが、あなたには同じ艦娘の仲間がいます。うちは激戦区の鎮守府ではありませんが、ここにも深海凄艦の魔の手は迫っています。

 どうか日々精進し強くなり、仲間たちとともに、暁の水平線に勝利を刻みましょう。我が鎮守府に、そして俺の仲間たちにどうか力を貸してください。」

 

「はい。頑張ります。これからよろしくお願いいたします。」

 真面目な着任式、普段のおちゃらけは一切なしに真面目に取り組む那美恵。その雰囲気と表情を一番近い位置で目の当たりにした提督には、彼女から本気が伺えた。

 

 

 

--- 5 提携ならず

 

 一方で那美恵の高校では、なかなか艦娘部の発足と鎮守府との提携の話が進まないでいた。学校側がそれほど乗り気ではないのだ。原因の一つに、職業艦娘にさせられる、志願する女性教員がいないのと、技師免許を取得したいと願い出る教員もいないのだ。もう一つは、生徒を戦いに巻き込みたくないという校長の考えがあった。

 大昔、那美恵たちの学校の近くにあった小学校(20xx年現在ではすでに廃校になって久しい)では、ある集団との戦いに生徒が巻き込まれた。撃退はしたが、その小学校で苦い思い出をした経験者の一人とされるのが校長だった。

 そういう苦い体験を言われては提督も無理に学校側を誘い続けるわけにも行かず、提携の話は消えそうになっていた。那美恵と提督は、そういう反応を示す校長らを説得出来るだけの材料をまだ用意出来ていなかったということも、その現状を生み出す一要素になっていた。

 

 那美恵は納得がいかなかった。せっかく艦娘になれたのに、活躍して自分の学校の知名度をあげたり、補助金をもらって学校のために尽くしたいと思っていたのに、それがかなわない。

 本当のところは、戦うヒロインとかアイドルとかそんなことを想像していたが、今はそういう個人的な思いは優先させるべきではないとして那美恵は真面目に前者の気持ちでどうしようと考えあぐねていた。

 

 

 那美恵は生徒会長の立場を利用して、部発足のために署名を集めるようとも考えたが、まだなりたてで活躍していない以上はたんに署名を呼びかけても、心からの署名収集にはならない。学校内では自分に人気があることは自覚していたが、それを笠に着てやりたくはない。人気や職権濫用はダメだ。

 

 しばらくは普通の艦娘として、学校とは切り離して考えて艦娘の活動をすることにした。

 


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