同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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見学(最終)

 着替えが終わった那美恵たちはロビーに戻ってきた。五月雨は更衣室を出たところで那美恵たちと一旦別れて、提督を呼びに執務室へと向かっていた。

 ロビーでは、メモや写真の整理が終わって退屈そうにしている和子と三戸の姿があった。二人ともロビーのおしゃれなソファーで少しだらけて座っていたが、那美恵と三千花が来たのに気づいて和子は立ち上がる。

 

「あ、会長、副会長。」

「わこちゃんおまたせー」那美恵は右手を上げて和子に返事をした。

 四人揃い、ソファーのあたりに集まった。

 

「副会長、更衣室はいかがでした?」

 和子は三千花に尋ねてみた。

「よかったわ。内装のデザインは五月雨ちゃんに任されていたみたいで、カワイイデザインになってた。ちょっと興味深い話も聞けたから、あとでメモ書いておくから整理しておいてくれる?」

「はい、わかりました。」

 

「あー、更衣室見学したかったな~」

「三戸くん、ほんっとにいいかげんにしましょうか。」

 目を細めて冷たい視線をぶつけて静かに怒りを伝える和子。冷ややかなツッコミすぎて三戸はビクッと引いてしまった。

 和子の怒りをなんとかやりすごすべく、三戸は話題を振る。

「そ、そういえばあの五月雨って娘はどっか行ったんですか?」

「うん。提督呼びに行ったよ。」さくっと那美恵は答える。

 

「しっかしあの西脇提督も羨ましいっすよね~。身近に時雨ちゃんや夕音ちゃんみたいな可愛い中学生を4人もはべらせて。男なら夢の職業っしょ!?」

 煩悩丸出しで三戸はこの鎮守府の、総責任者である西脇提督を引き合いに出してうらやましがる。話題を変えてやり過ごしたつもりが、かえって火に油を注いでしまった。今度は那美恵も和子に加わる。

 

「あーのね……提督と一緒に仕事したからわかるけど、あれだけ歳の差ある人間を仕事で使うのって相当大変なんだと思うよ。提督の思いなんて聞いたことないしわかんないけどさ、提督はやましいこと考えないってあたし信じてるし、そんな暇ないと思う。あたしは提督のそういう誠実っぽいところ、s……」

頭をブルブルっと振ってその続きを発した。

「信頼してるんだからね。」

 

 那美恵が普段のおちゃらけなしで真剣に三戸に反論する。親友が珍しく怒気をまとっていることに少々驚いた三千花は那美恵をなだめつつ、三戸に釘をさした。

「まぁまぁなみえ落ち着いてよ。三戸くんはここ来てから舞い上がってるだけよね? なみえも毛内さんもそこ分かってリアクションしないと、疲れるだけよ。あと三戸くんはホントに反省なさい。」

「は、はい……。」

 

 3人を注意しつつ、三千花はさきほど親友が那珂として出撃デモしていたときに、提督から聞いた胸の内の言葉を思い出していた。

 

 人を使うのが苦手だと弱音を吐いた西脇提督。艦娘を娘や姉妹、友人のように接したいと言っていた提督。三戸が言い含めたように、提督も男なのだから少しはそういうことを考えることもあるだろう。けれどそこは大人なのだから、三戸とは違い言動にすら分をわきまえているはず。

 三千花はそう捉えていた。そして彼女は素の那美恵と違い、男は少しは下心もないと信頼できないと考えている。適度な、分をわきまえた付き合い。あまりに過ぎるのは三千花とて嫌いだ。

 さて素のところは純情な親友が果たしてこの先提督とどう関係進展するのか、三千花はなんとなく気になっていた。

 

 

--

 

 4人で話していると、提督と五月雨がさきほど那美恵たちが降りてきた階段とは別の階段から降りてきた。階段のふもとで五月雨と何か話し、そのまま反対方向へ行きある部屋に入っていった。一方の五月雨は那美恵達のいる場所に近づいてきて、4人を案内し始めた。

 案内されて那美恵たちが入ったのはロビーにほど近い会議室である。提督は入ってロビーに近い方の横のテーブル側に立ち、三千花を反対側に座るよう促す。那珂はあえて提督の横、五月雨の隣に座ることにした。

 全員座ったところで見学最後の工程を始めた。

 

「さて、ひと通り見ていただきましたが、いかがでしょうか?」

 感想を求められて三千花がそれに答えた。

「はい。今回は大変参考になりました。貴重なお時間を割いて頂いてありがとうございました。」

「それでは最後の内容として、これまで歩きながら話した鎮守府や艦娘制度の内容についてまとめてお話します。」

 そうして提督から、見学中に話された内容のまとめや、艦娘制度の具体的な内容と実情が語られた。三千花や書記の二人はそれを熱心に聞き、メモにまとめる。

 

「そうそう。これは最初に話しておくべきことなんでしょうが、鎮守府というのは正式名称ではないんですよ。」

「えっ?」

 提督が思い出したように言ったその一言に、三千花だけでなく三戸と和子も似たような一声をあげた。

「正式名称はもっと長いものなんです。"深海凄艦対策局および艤装装着者管理署"と言います。国の公式文書でもっぱら使われる正式な略称は、深海棲艦対策局○○支部というものです。」

 

「そうなんっすか!?それじゃあ鎮守府っていうのは?」

と三戸は何か感じるところがあるのかすぐに質問する。

「あぁ。国や公式文書ではそれらを使わないといけないのだけど、行政と実際の現場によくある齟齬みたいなものでね、それが本制度にもあるっていうことなんだ。もうすでに御存知の通り、現場である私や艦娘たち担当者は"鎮守府"という150年前にあった旧帝国海軍の基地の名称を使ったりします。」

「はは……正式名称言ってたら長いですしねぇ~。でもその鎮守府っていう言い方で国とかで通じるんすか?」

「あぁ。普通に通じるよ。もうお役人さんも慣れてるみたいだしね。」

 

 三戸に続いて和子が質問をする。

「あの……それでは艦娘というのは?」

「はい。それも現場での略称です。正式な略称は艤装装着者。もっとちゃんとした名称もあるのですが、我々現場の管理者には艤装装着者という名称でよいと教えられてます。で、もっと略して艦娘。これもまぁその、国の人に対して使っても普通に通じます。艦娘という言い方の由来は俺は知らないけれど、他の鎮守府の管理者も皆そういう言い方をしていたので、俺も倣っているんです。」

 

「それじゃあ提督というのも……?」三千花が恐る恐る尋ねる。

「そうです。管理者である俺は、正式には深海棲艦対策局支局長、あるいは管理署○○支部の支部長という肩書です。これも現場では鎮守府という言葉のつながりに倣って提督、とか司令官などと自由に呼ばれているらしいから、これも俺は他の鎮守府に倣っています。」

 

 提督の説明が終わると、なぜか那美恵がドヤ顔で三千花らに言った。

「艦娘の世界の言い方おっもしろいでしょ~?国の正式名称センスないんだなぁって思うよね。だって使ってないんだもん。鎮守府と艦娘って言い方最初に編み出した人に拍手だよ~。」

 言い終わるやいなや空打ちで拍手をする。

 向かい側でおどけている親友(先輩)を見て苦笑いする三千花ら3人。代表して三千花がツッコんだ。

「なんでなみえがそんなに得意げなのよ。」

 親友のツッコミに那美恵はエヘヘと笑うのみだった。

 

 提督自身、制度にかかわる組織や役職の呼び方は教わったことだけでありこの時説明した以上のことは知らないのだった。深く突っ込まれても困るため学生たちが深く突っ込んでこないか心の中で身構えていたが、当の本人たちは関係ない方面で話を展開させていた。

 手を軽くパンパンと叩いて注目を引き、話を再開した。

「本当なら見学の最初にお話するべきことなんでしょうけど、まず皆さんには鎮守府の実際の設備や様子を見てもらいたかったのでね。見てもらいつつ、その都度その場に合った内容をお話したほうが記憶に残してもらいやすいかと思ったのです。」

 

 提督は自身も学生の頃は大人の長々とした話を黙って聞かされるのが嫌で、そういった思いを今の子供たちにしてほしくないという思いからそうしたのだと、三千花らは聞かされた。

「さて、他に質問等あればお答えします。何かありますか?」

 いくつか気になることがあったので三千花たちは質問し、提督から回答をもらった。

 

 

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 そこでふと、那美恵は聞きたかったことを思い出した。

「そうだ!提督。聞きたいことあったんだ。あたしからもいーい?」

「あぁいいよ。」

 提督は横にいる那珂のほうを向いて返事をした。

 那美恵が尋ねたのは、自身の学校で同調のチェックをさせてもらえないかいう内容であった。発案者は三戸だったので那美恵は彼にまずは言わせ、それに補足する形で口を挟んだ。

 

「なるほど。学校に機材を運んで、学校で同調のチェックをさせたいと。」

「そうなの。あたし含めて、艦娘になりたいって人は、普通は工廠で艤装を試着して同調をチェックするでしょ?でもそれだと、多くの人に鎮守府に足を運んでもらわないといけないし、フィーリングが合うのはその中でも一握りだとするとさ、学生艦娘を目指すんだったらかなり無駄が多いと思うの。もし艤装を鎮守府外に運び出せて、試験の時と同じように外でも同調チェックができるなら、学校にいながらより多くの人に適性がある・フィーリングが合うかどうかを手軽に試してもらえるでしょ?」

 

 那美恵の説明を聞いたのち、腕を組んで考えこむ提督。

「うーん。そのあたりの規程は大本営から特に言われてない点だなぁ。普通に考えたら艤装はモロに軍事機密に触れそうな物だろうし、持ち出しは出来ない気がするが……。すまん。今それに回答することはできないな。あとで大本営に聞いてから回答するよ。那珂に連絡すればいいかな?」

「あたしとみっちゃんに教えて。」

 

 提督から艤装持ち出しについて大本営に聞いてもらうことにした。那珂は三千花に目配せし、連絡先を提督と秘書艦の五月雨に伝えた。

 

 

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 そして見学は全工程が終わり、提督から締めの言葉が出された。

「それでは○○高校のみなさん、お疲れ様でした。これで見学会を終わりたいと思います。小さい敷地とはいえ、設備もそれなりにあるのでお疲れでしょう。これは俺からの気持ちです。飲み物を買っておいたので、よろしければ持って行って下さい。」

 そう言って提督は数本の缶やペットボトルの飲み物を袋から出して見せた。那美恵たち4人分には多すぎる本数だ。

 

「あの、提督。多くありませんか?」

 五月雨がそう尋ねると提督は答えた。

「五月雨、君たちの分もだよ。あとは……時雨と夕立が帰ってくれば渡せるんだけど、まだ護衛任務はかかりそうだし、あとで渡しておいてくれるかな?」

「提督……!ありがとうございます!わかりました。」

 

「提督ぅ~良い人だなぁ~惚れてまうやろー!」

「今頃気づいたか!?もっと褒めてくれてもいいぞ~」

 普段のノリで那美恵が冗談めかして提督を立てつつ言うと、提督もそのノリにノッて返してきた。その掛け合いをみて隣にいた五月雨はクスッと笑う。三千花らも釣られて微笑んで反応し、その場は和やかな雰囲気に包まれ、見学会の最後を彩った。

 

 

--

 

 時間にして午後4時すぎ。三千花らは帰ることにした。ロビーまで全員で歩きつつ会話をしあう。

「なみえ、あなた今日は艦娘の仕事はないの?」

「んー?出撃もないはずだし、みんなといっしょに帰れるよ。」

 

 那美恵のごく簡単な説明に、提督が付け足す。

「那珂には出撃も頼みたいことも特にないから、本当に帰ってもいいぞ。せっかく学校のみんなと来てるんだからね。もし頼みたいことあってもここにいる五月雨にガツンと頼んじゃうから、どのみち安心して帰ってもらえるよ。」

 提督は言葉の途中で五月雨の肩に手を置いて彼女に少しだけ意地悪なことを言った。

「提督~それじゃ私がもっと忙しくなるんですけど~!?」

 またしても不意に標的になった五月雨は少し半泣きになりつつ、提督の腕を押して愚痴もぶつけた。

 

 結局那美恵も三千花らと一緒に帰ることにした。その日その時間、鎮守府には提督と五月雨、村雨が残り、時雨と夕立の帰還を待つことになった。那美恵は艦娘の制服をきちんと洗うために一旦更衣室に戻って制服を取り出し、再び三千花らと合流して鎮守府を後にした。

 


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