本館へと戻ってきた6人。那珂・五月雨・村雨は提督のところに行く前に着替えることにした。
「じゃあ私達着替えてきます。」
五月雨と村雨は三千花らに会釈をして更衣室に向かっていった。
「そんなに急がないからのんびり着替えてきていいよ。」
三千花がそう言うと、ふと那珂が言い出した。
「そーだみっちゃん。更衣室一緒に来ない?中を案内するよ?」
「いや、見てもいいけど、更衣室なんてどこも変わらないでしょ?」
「気分の問題だよ!それに新しい建物だから更衣室綺麗で使いやすいんだよ~。あ、和子ちゃんもどう?」
「いえ私は遠慮しておきます。私はメモや写真を整理しておきますので。」
「そ。」
和子と那珂のやりとりを見た三戸はポツリと呟いた。
「会長、俺には聞いてくれないんすか?」
その瞬間三戸以外の3人はジト目になって三戸を睨みつける。
「捕まってもいいならどーぞ~。」
いつものちゃらけたノリで那珂は三戸に促すが、その言葉が軽いなんてもんじゃない鋭く突き刺さる刃物のように三戸には感じられたため、ブルブルッと頭を左右に振った。冗談でもそういうことをいうものじゃないと思い知った彼だった。
那珂は三千花を連れて、更衣室へと本館の廊下を進んでいった。
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更衣室は2階の端にある。2階のフロアに上がると少し離れたところに五月雨と村雨がいたので、早足で進んで那珂と三千花は彼女らに合流した。
「あ、中村さん。どうされたんですか?」
「うん。なみえがどうしてもっていうし、せっかくだから代表で見学しにきたの。」
ほどなくして更衣室についたので五月雨が開け、他の3人を先に入らせて最後に自らが入ってドアを締める。
更衣室は12畳ほどの広さで、左右合わせて10人分のロッカーがまばらに並べられている。広さとロッカーの数は合っておらず、余白のほうが目立っている。入り口近くの一角にはリビングで使うようなテーブルと椅子がいくつか設置されている。メイクなど身の回りのことするための鏡もある。内装はおとなしめだが女性受けしそうなデザインである。
「ささ、みっちゃん、じっくり見学していってね。」
「って言われてもねぇ。とりあえずあんたたちが着替えるまで座って待ってるよ。」
そう言って端にある椅子に三千花は座った。那珂・五月雨・村雨は三千花から離れて自分たちのそれぞれのロッカーのところに行き、制服を脱ぎ始める。
「じゃああたしも着替えちゃいますかね~」と那珂。
三千花は更衣室全体をサッと眺めて、誰に聞くわけでもなく質問をした。
「この更衣室ってさ、廊下や他の部屋とは壁紙とか違うけど、誰が作ったの?」
那珂は知らないので黙っていると、五月雨が口を開いてそれに答えた。
「私です。」
「五月雨ちゃんが?」
「はい。あ、でも私が作ったんじゃなくて考えてお願いしただけなんですけど。まだ提督と私しかいない頃、いくつかの部屋の内装のレイアウトを任されたんです。でも私だけじゃセンスとか物の配置とかわからなかったので、時雨ちゃんや真純ちゃんたちに相談してですけど。その頃からそれとなく鎮守府のことを教えてました。」
「中学生に部屋のレイアウト任せるなんて、提督も太っ腹というか思い切ったことするね~。」
感心する那珂。
「ここって中高生にとっては学校以上に良い経験の場になるんじゃないの?もっと人ややること増えたら結構良いと思う。」
三千花は五月雨らの経験を聞いて、鎮守府が興味深いところであることを再認識して感心する。
そののち2~3言葉を交わしあうと話が途切れたので、三千花は那珂の着替えをジーっと見ることにした。那珂はベルトを外し、橙色の服を脱いだ。それはその下のスカートをところどころカバーするように長く、ワンピースに近い形状になっている。その下は学校の制服のものとはデザインの異なるシャツと厚手のインナー、そして茶色のスカートだ。さらにその下は那美恵私物の下着である。たまに(偶然)みかける薄い黄色地のものが那美恵のものだったなと印象に残っている三千花だが、今日は白なんだなとボケ~っと眺めつつ思った。
その視線に気づいた那珂は少し恥ずかしげに振り向く。
「みっちゃ~ん。ずっと見られてると、さすがのあたしもはずいよ~。」
私物の下着だけになった那珂が文句を言う。
「あぁゴメン。どういう構造の服になってるのかな~と思ってさ。なるほどそうなってるのね。」
「あたしよりも五月雨ちゃんの制服のほうがみて楽しいと思うけどな。不思議な構造してるよ~。」
「へぇ~」
と、三千花の視線の矛先を五月雨に向けさせる。標的になりかけている五月雨はビクッとして思わず那珂と三千花のほうを振り向いた。さっきまで那珂をジーっと見ていた三千花の視線となぜか那珂の視線までが自分に向いているのに気づいてしまった。
「うぅ~なんで私に振るんですか~見ないでください~」
そういう五月雨は上着はすでに脱ぎ、胸当てを脱ぎ終わるころであった。あとはその下のノースリーブワンピースを脱げばその下は……という状態である。
「いいじゃない~、まだワンピース着てるんだし。それよりも五月雨ちゃんの服の構造説明してよ。初めて会った時からそれ気になってたの~。」
おいでおいでをしながら那珂は、気になってしょうがない五月雨の制服をどうにかしていじくろうという魂胆で顔をにやけさせていた。
この約2ヶ月、頼れる先輩那珂と仲良くなって安心しきっていた五月雨だが、普段の調子づく様+たまに悪乗りするところがある人なのだと、改めて思い知ったのだった。
「中村さ~ん。黙って見てないでこの人どうにかしてくださいよぉ~。」
ゆっくりと近づいてきている那珂に対して身構えつつ、那珂の友人である三千花に助けを求める五月雨。さすがの三千花も他校の中学生相手に友人が暴走するのを黙ってみているつもりはなく、よっこらしょっと席を立って那珂に近づき、彼女のおでこをペシリとはたいて注意を促した。
「あいたぁ!」
「ホラホラ。五月雨ちゃん嫌がってるでしょ。それに早く着替えなさいよ。毛内さんたち待たせてるんだからね。二人も今のうちにさっさと着替えちゃってね。」
「はい。ありがとうございます。」
「私はもう着替え終わりましたー。」村雨はバンザイして着替え完了を3人に知らせた。
そんな村雨は五月雨が那珂と着替えの攻防をしている間にせっせと着替えを進めていたのだ。
「あえ!? もう終わったの?」
「さみが那珂さんとふざけてのんびりしてるからよ。」
五月雨にツッコミを入れる村雨の格好は、中学校の指定のジャージ姿だった。彼女は学校の制服で演習したため、今まで着ていた服がまだ乾ききっていないので仕方なくジャージを着たのだ。
「私、工廠行って制服もっと乾かしてもらってくるから。」
「うん。わかった。またあとでねー。」
「えぇ。時雨たち戻ってきたらみんなでスーパー銭湯寄って帰りましょ~。」
五月雨と簡単に約束を交わし、村雨はそう言って更衣室からいち早く出て行った。
「……そんじゃまあ、私達も着替え、早く済ませちゃいますか。」
「そうですね……。」
那珂は高校の制服に、五月雨は中学校の制服にそれぞれ着替えて更衣室を後にし、和子たちの待つロビーへと戻った。