同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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見学(本館)

 まずは本館の見学ということで、提督は今全員がいるロビーから開始してすぐに2階へ三千花たちを案内した。各部屋を案内してその役割を解説する。いくつか部屋が紹介される間、書記の二人は解説をメモしたりデジカメで撮影している。副会長の三千花は那珂と会話をはさんで各部屋を熱心に見ている。

 

 一般的に雑誌等で紹介される、艦娘と彼女らの勤務する華やかな鎮守府と称される基地はかなり目立つ大きなところである。それに比べて鎮守府Aはぱっと見それなりの広さなのだが、全国・全世界の鎮守府(基地)としてみると小規模だ。人数に見合ったといえば聞こえはいいが、それでも不釣り合いな感じは否めない。三千花らの第一印象は意外と"しょぼい"だった。本館自体は工事中の部分が多く、使える部屋が少ない。が、それでも使える部屋の中でも空き部屋が多いことに気づいた三千花は提督に尋ねてみた。

 

「あの、ずいぶん空き部屋がありますね。」

「そうですね。まだ人も少ないから使い切れていないのが現状なんです。用途は考えているので、もっと艦娘や職員が増えたら活用できるんだけどね。」

 提督は三千花からの質問に現状を自ら笑ってけなすような口調で説明し、展望を述べた。

 

 

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 2階を案内したら次は3階へ。3階は提督が執務をする執務室と、隣接する部屋、そしていくつかの部屋がある。そのうち一つは艦娘たちの待機部屋、座席のある部屋だ。そこにはさきほど別れた時雨と夕立が出撃前に一息ついていた。提督と那珂の一行に気づく時雨と夕立は座りながら手を振ったりお辞儀をした。

 提督が入り口付近でその部屋の紹介をしていると、夕立がスクっと立ち上がり、提督の側に駆け寄ってきて補足説明をした。

 

「あたし達の学校は艦娘部の部室がないから、実質ここが部室みたいなもんなんだよ!広々~っと使えるっぽいし、お気に入り~!」

「こら、夕。僕らの学校以外の子も一応いるんだから恥ずかしくないようにしてよね。」

 はしゃぐ夕立を時雨が注意する。その様子を見て提督はハハッと笑い、三千花らに冗談めかして一言付け足した。

「まあ、このように自由に使ってもらっています。学校の延長線上と捉えてもらっていいかもしれません。」

 

【挿絵表示】

 

「学生以外の艦娘はいらっしゃるんですか?」

 三千花が質問をした。

「あぁ。あとで紹介するけど工廠というところに一人、それから今日は来てないけどもう一人。その人は近所に住むご婦人でね、俺や五月雨・時雨たちが不在の時によく代わってもらっているんです。」

 来てない人のことを細かく言う気はない提督はそれ以上の紹介はせず、艦娘の待機室の案内を終えて次へと促した。

 

 

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 ある部屋の前を通る一行。三千花がここは何の部屋か提督に尋ねた。その部屋は那珂は覚えがあった。

「あぁ、ここは会議し

「あー!ここって、着任前にあたしが身体検査されたところだよね~。……提督に!」

 ふざけてとんでもないことを知り合いの前で言い放つ那珂。彼女が言った瞬間、書記の2人は頭に!?を付けたような表情で提督の方を見る。

 提督は慌てて弁解、というよりも那珂を叱りつけるように声を荒らげた。

 

「コラコラ!そういう冗談はやめないか!誤解されたらどうするんだ!?」

 驚いた表情になっている書記の二人とは異なり、三千花は落ち着いているが半笑いになっている。

「あの、西脇提督。私はわかってますから。なみえはこーいうこと平然と言ってのけることたまにあるんで。なみえのお守り、大変でしょ?」

 提督は那美恵のことをよくわかっている生徒がいることに安堵し、少しオーバーなリアクションでホッと胸をなでおろした。

 

「えぇと、中村さんだっけ?あなたは那珂……光主さんとはお友達かな?」

「はい、昔からなみえのこと知ってるんで大抵のことはわかりますよ。私がいるんで何かおかしなこと言われても安心して下さい。ちゃんとツッコミますんで。」

 それは頼もしいな、と微笑しながら提督は口にした。三千花もそれに釣られてニコッと笑う。その提督と友人の掛け合いを見た那珂は、二人が少しだけ仲良さそうにしている様子に少しだけイラッと感じるものがあったが、それがどちらに対してかまでは意識していなかった。

 

 

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「ここが艦娘たちの更衣室です。仮で使ってもらっているだけだけど、電気も水回りも来てるのでね。人が増えたら壁ぶちぬいて広くすることも考えています。」

「ね、提督。中も紹介しよーよ?」

「いや、俺は入れないぞ? というかもし人がいたら俺捕まるぞ。」

「人少ないんだからいないって。さ、はいろ?」

「……あとでお前が案内しなさい、那珂。」

 

 さすがの提督も那珂の冗談・小悪魔の囁きを未然に防ぐことができた。三千花が提督に向かって小声で呼びかけて同情の意味を込めてグーサインをすると、提督は三千花に苦笑で返した。

 

 もちろん那珂も本気ではなかったので、提督が言い終わったあとはえへへと笑うだけで反論やさらなる茶化しはしなかった。

 

 

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 ひと通り提督による案内が終わり、本館のロビーに戻ってきた一行。

「……と、ここまでが鎮守府の本館の紹介です。隣には現在拡張工事中の区画もあるので、最終的には約3倍の広さになる予定です。」

「その頃までには艦娘もせめて3倍に増えるといいね~」

 那珂は期待を込めて提督の言葉にツッコミをした。

 

「おいおい他人ごとじゃないぞ。人増やすためにも、光主さんの学校と提携結んで一人でも多く採用したいんだから。君のがんばりにもよるんだぞ?」

「は~いがんばりま~す。」

 気の抜けた返事を提督に返す那珂。

 

「さて、退屈な本館の紹介はここまで。ここからがきっと学生のきみたちも見て楽しい、参考になる場所が多いと思うから、期待してください!」

 口には出さなかったが、三千花も書記の二人も本館の内部はそれほど興味が持てなかった。あまりにも空き部屋がありすぎる。活用しきれてないというのがよく分かる状態なのだ。書記の和子がメモした文章でも、本当に当たり障りのない紹介に対する文章やフレーズが羅列されるだけだったのだ。三人とも提督の言葉にグッと期待を持ち始めた。

 


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