同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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見学に向けて

 

 次の日、学校は時間割が少ない日のため早く学校を出ることができた。前日に提督にメールをしたところによると、その日は夕方までは鎮守府におりそれ以降は会社に戻るという。那美恵は授業が終わると生徒会室への顔出しは適当に済ませ、都合に間に合うようにすぐに鎮守府へと向かった。

 

 那美恵が鎮守府に到着すると五月雨たちがすでに来ていた。彼女たちは本館の玄関の付近の掃除をしていた。学校の体操着やジャージを着て掃除に取り組んでいる。

 那美恵に気づいた五月雨と時雨が離れたところから会釈をした。

 

「あ、五月雨ちゃん。提督はまだいる?」

那美恵が尋ねると五月雨はすぐに軽やかに返事をした。

「はい。いますよ。でももうすぐ会社に戻られるそうです。何かご用事ですか?」

「うん、ちょっとね。ありがと~」

 

 玄関付近の掃除をしている五月雨たちの間を通り過ぎ、那美恵は本館に入って脇目もふらずに提督のいる執務室へと向かった。執務室に入ると、提督はすでに出る準備をしていた。

「あ、提督!もう出ちゃうの!?」

「あぁ、ゴメンな。話あるんだっけ?」

「うん。あのね。今度学校の生徒会の人を鎮守府に招待したいんだけどいいかな?見学させたいの。」

 

 提督は会社へ戻る身支度を整えながら那美恵の相談に答える。

「あぁ、いいよ。一般人の見学とかそのあたりは五月雨に任せてるから彼女に話をつけておいてくれ。日にちは……工事の打ち合わせとかもあってバッティングするとまずいから、こっちで候補日を決めてあとで知らせるけどそれでいいか?」

「うん。そのあたりは適当にお願い。あ、あとね?」

「すまん!もう出ないと本当に会社に間に合わないんだ。続きはまた今度な!」

 

 那美恵はさらにお願いをしようとしたが、提督は会社へ戻る時間がかなり差し迫っている様子で、那美恵の言葉を遮って急ぎ足で執務室から出て行った。

 

「会社との兼務って大変そ~。ま、あたしたち学生もそーだけど……」

 那美恵は提督が閉め忘れた執務室のドアをぼんやりと眺めつつ、ぽつりとつぶやいた。

 

 

 

--

 

 玄関先に戻ると五月雨たちは掃除をまだしていた。まだ小さく狭い施設や敷地とはいえ一般的に見ればそれなりに広い。五月雨たち中学生4人ではそう早く終わるものではない。その様子を見た那美恵は五月雨に見学の話を話す前に、彼女らの仕事を手伝うことにした。

 

「みんな!あたしもお掃除手伝うよ?」

「那珂さん!那珂さんが手伝ってくれるなら鬼に金棒っぽい!」

 まっさきに夕立が振り向き反応したので、那美恵は逆に言葉を返した。

「それを言うなら夕立ちゃんに魚雷ってところでしょ~?」

「那珂さんお上手ですぅ~!」と村雨がヨイショする。

夕立は

「那珂さん魚雷っぽい?むしろあたしが魚雷になって突撃したいっぽい!」

などとよくわからないノリ方をしてその場の笑いを誘った。

 

 

 その後那美恵は制服の上着を脱ぎ、セーターとYシャツ、そしてスカートだけになった状態で五月雨たちから掃除用具を借りて掃除に加わった。

 

「じゃあ那珂さんはますみちゃんとお願いします。」

 掃除の音頭は時雨が取っていた。

「村雨ちゃんだね。おっけ~。」

 

那美恵は村雨とともに、時雨から任された範囲の掃除を始めた。しばらくして那美恵は何気なく感じた疑問を投げかけてみた。

「ところでさ、いつもこういう活動のときは4人の中では時雨ちゃんが仕切ってるの?」

 

【挿絵表示】

 

「学校では、ホントは白浜さんっていうもう一人友人が僕達を仕切ってることが多いです。」少し離れたところにいる時雨が答えた。

「あ~確かそっちの中学校の艦娘部で一人だけまだ着任できてない娘だね?」

 那美恵は以前聞いたことを口に出して確認すると、五月雨・夕立・村雨たちは苦笑いをしながらもコクリと頷いた。

 

「別に着任してなくたって来たっていいんじゃない?どーせ人少ないんだしあの提督なら怒らないでしょ?」

「提督というよりも彼女に問題がある気がします……。一応誘ってはいるんですけど、彼女意地っ張りなところがあるから何度誘っても来ないんです。だから僕達早く彼女に会う艤装が配備されないかなぁ~って待ってるんですよ。」

 那美恵は何気なく思ったことを述べ、時雨がそれに答える。五月雨たちはというと、白浜という子のことをよく知っているのか、彼女のことをワイワイと語りはじめた。

 

 雑談が多くなり始めたことに少し危機感を覚えた那美恵は掃除が終わらなくなるといけないと思い、適当に盛り下がってきたところで一声号令をかけ、自身らは先程の時雨の指示通りの分担で掃除をしながら、件の同級生のことを引き続き聞いた。

 五月雨たちが評価するその白浜という娘の人となりも気になった那美恵だが、それよりも彼女らの中学校の艦娘部の有り方や、白浜という娘の置かれた状況のほうが気になっていた。これから艦娘部を設立するために調査し、活動するにあたって参考になるかもしれないと考えていた。

 

 那美恵が加わって数分後、玄関まわりとロビーの掃除を終えた5人は掃除用具を片付けてロビーの一角で休憩をすることにした。

 提督という男性はいるがその場には女しかいなかったため、五月雨たちはロビーの端っこで堂々とジャージや上着を脱ぎ、学校の制服に着替えた後のんびりし始めた。

 那美恵は4人からは1テーブル隣のソファーに座って髪を整えたり携帯をいじっていた。タイミングを見計らい、五月雨に声をかけた。

 

「そーだ五月雨ちゃん。ちょっとお願いがあるんだけどいい?」

「はい?なんですか?」

 

【挿絵表示】

 

 コクリと飲みかけていたお茶のペットボトルを置いて時雨たちのほうから那美恵のほうに振り向いた。

「あのね。うちの学校の人達に鎮守府を見学させてあげたいんだけど、いいかな?」

「えぇ、いいと思いますけど、提督はなんて?」

「提督は五月雨ちゃんに任せるって。」

 

 提督から任されてるという信頼感に五月雨は顔を少しだけほころばせたがすぐに真面目な顔になり、那美恵からの見学の相談を快く承諾した。

「わかりました。一応誰が来るか来たかメモしてますので、あとで一緒に執務室に来てください。」

「りょーかい!」

 

 休憩を終えた5人は時雨・夕立・村雨は艦娘の待機室へ、那珂と五月雨は執務室へとそれぞれ向かった。那美恵は見学の人数、見学メンバーの名前や学校名などを書類を書こうとしている五月雨に伝える。

 

「……っと。はい。OKです。日にちは?」

「日にちは提督が都合の日を伝えるから待てって言われたの。」

「そうですか。じゃあ私からはここまでです。提督から連絡もらったら、お伝えしますね。」

「うん。お願いね~。」

 

 その場でできることを済ませた那美恵はその日はそれで終わった。翌日提督は鎮守府へ出勤してきたときに五月雨と話し合い、自身と五月雨の都合が良い日を決め、それを那美恵に伝えた。

 

 

 

--

 

 翌日、日中にメールで日どりの連絡を受けていた那美恵は放課後に生徒会室に行き、見学の日取りの候補日を早速三千花ら生徒会のメンバーに伝えることにした。

 

 生徒会としての本来の作業があったため、それらをひと通り片付けてから話を持ち出すことにした。那美恵は全員の作業の手が落ち着いたのを見計らって大きめの声で注意をひくように口を開いた。

 

「みんな、作業は落ち着いたかな?」

「はい。俺は大丈夫っす。」

「私も…この書類を確認し終えたら大丈夫です。……はい。」

 三戸と和子が返事をした。

 三千花は少し離れたところで生徒会顧問の先生と話しているため那美恵はすぐには声をかけられなかった。しばらく3人で三千花のほうを見ていると、ようやく話が終わったのか三千花は会釈をして先生から離れて那美恵たちの方に近づいてきた。顧問の先生は三千花との別れ際に、職員室に戻っているからとそれだけ伝えてサッと生徒会室から出て行った。

 

「おまたせ。」

「うん。鎮守府見学の件なんだけど、○日と○日、それから○日がOKなんだって。何日がいい?」

副会長の三千花、書記の三戸と和子は特にバラバラに異なる日にちをいうことなく、3人共同じ日にちで都合が付くことを那美恵に伝えた。

 

「日にちは問題なしだね~。じゃあ提督にメールしちゃおう。」

 自身らの都合がよい見学希望日を早速提督と五月雨に伝えることにした。その場で自身の携帯電話で提督と五月雨にメールをする。

 

 その30秒後には提督からxx日了解、という5文字だけのメールが届いた。

「提督返信はやっ!」

「もうOK来たの?」三千花が尋ねる。

 

「うん、○日で行けることになったよ。じゃあみんな、その日土曜日だから午前の授業終わったら生徒会室に一旦集まって、それから行こう~!途中でお昼食べたりもしよっか?」

「あー、まあそれは適当にしましょう。」

 那美恵のついでの提案をさらっと受け流す三千花。

 

 

 一応生徒会の公的な課外の交流活動の一環としての参加にするため、那美恵は書記の二人に指示を与える。

 

「そうそう。三戸くん、和子ちゃん。課外活動の報告書の作成、お願いね。ガッツリしっかりと!それを先生方への説得材料にするんだからね。」

「わかりました。」

「了解っす。」

 

 那美恵の指示を受けた三戸と和子は承諾した。気を利かせた三戸は那美恵に報告書についての提案をする。

「そうだ会長。どうせ報告書作るなら、写真はもちろんだけど、動画録ってそれも資料に含めましょうよ。そのほうが説得力増すんじゃないですかね?」

 

 三戸の提案を聞いた那美恵はなるほどと感心した。ただし自身では判断つかないことは付け足しておいた。

「うん、そうだね。艦娘の訓練の様子とか、あとは提督から説明受けてる様子とか録ればいいかも。ただ一応国の組織に関するところだから、録っちゃダメってところもあるだろうし、そこは確認しておくよ。」

 

 見学時の学校側としての役割を決めた那美恵は、その日は艦娘関連の話題は終わりとして、各自自由に話したり友人を待たせているからとサッと帰ったりした。

 

 

 こうして数日後、見学日を迎えることとなった。

 




世界観・要素の設定は下記にて整理中です。
https://docs.google.com/document/d/1t1XwCFn2ZtX866QEkNf8pnGUv3mikq3lZUEuursWya8/edit?usp=sharing

人物・関係設定はこちらです。
https://docs.google.com/document/d/1xKAM1XekY5DYSROdNw8yD9n45aUuvTgFZ2x-hV_n4bo/edit?usp=sharing

挿絵原画。
http://www.pixiv.net/member_illust.php?mode=medium&illust_id=52481149

ここまでのGoogleドキュメント版はこちら。
https://docs.google.com/document/d/1ALBsWahuMrxJfcVWA-nisXWJsZMtlvw8iNgfhCYhMCk/edit?usp=sharing
好きな形式でダウンロードしていただけます。(すべての挿絵付きです。)

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