同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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艦娘から日常の少女へ

 那珂と五十鈴が焦りを感じて率先して帰ろうと五月雨たちを引っ張って帰ろうとすると、海上自衛隊の基地の正門を通って、駐車場を突っ切って進んでくる一台のワンボックスカーを見かけた。その車は駐車場脇の歩道を歩いている那珂たちの近くで止まり、運転手と思われる人物が顔を出した。

 

 それは、6人全員が知っている人物だった。その人物は助手席の窓を開け、身体を伸ばしてその窓から外を見る姿勢で6人に声をかけた。

 

「よぉ!無事帰還してるな。遅れてすまない、迎えに来たぞ。」

 

「「「「「「提督!!」」」」」」

 

 

 眠気と疲れにまみれていた6人全員の顔が一斉にほころんだ。艤装を手に持っていたり、わざわざ同調して背負って歩道を歩いていた那珂たちは知っている顔を見つけたので取るものも取り敢えず、提督の車が留まった駐車場のところまで、歩道との間にある草地を駆け抜けて駆け寄った。

 

 同調して自身の艤装と、時雨の代わりに壊れた艤装を腕に抱えて持っていた五月雨も駆け寄っていた一人だが、草地を駆け抜ける最中に足を取られて転びかけた。

 

「きゃっ!」

 五月雨が片手に担いでいた時雨の艤装は五月雨の腕からすっぽ抜け、提督の車めがけて宙を舞った。

 

ドスン!!

 

「うわぉ! あぶねぇ!!」

「ぎゃーー!?」

「あっ、提督、ゆうちゃんゴメンなさい!!」

 

 時雨の艤装は提督の乗ってきた車スレスレの場所に落ちていた。あやうくぶつけそうになっていた状況に五月雨だけでなくその場にいた全員があっけにとられる。提督は車の中から冷や汗をかいていた。それから我先にと駆け寄っていた夕立も艤装が近くに吹っ飛んできたために、同じく人一倍冷や汗をかいて呆然としていた。

 夕立は五月雨に文句を言った。

 

「さみってば!同調しながら陸でコケないでよぉ!! こんなもの飛ばして危ないっぽい!!」

「ゆうちゃん~ゴメン~!」

 

 五月雨の必死の謝罪を聞いてもなおプリプリ怒っていた夕立だったが、すぐに興味が移り変わり、提督の乗ってきた車と提督の方を振り向いて提督に話しかけた。

 

「まぁいいや。それよりもてーとくさん、お迎えありがとー! その車行きとは違うっぽいけどてーとくさんの?」

 夕立は飛び跳ねて喜んで助手席の窓に顔を突っ込み、提督に顔を近づけた。

「いや、親の借りてきたんだ。俺小さいのしか持ってないし、今回はトラック借りられなかったからさ。でもまぁ、これくらいの車なら6人全員乗れるだろ?」

 

「私達はいいですけど……私や時雨、夕立の艤装は大きいから乗せられますか?」

 村雨が夕立の後ろから車を覗き込みながら、艤装のことを気にして尋ねた。

「詰めればなんとかなるだろ。まぁ少しの間だ。」

 軽く答える提督。それに対して夕立がゆったり乗られなくなるなどブチブチ文句を垂れるが、提督は夕立の扱いに慣れているのか軽く頭を撫でてサラリとスルーする。

 夕立は途端にエヘラエヘラと顔をにやけさせておとなしく下がった。

「狭くなるけどちょっと我慢してくれ。さ、俺積み込むからみんなは乗ってくれ。」

「「「「「「はーい。」」」」」」

 

 提督は車を降りて艦娘たちの艤装を車に積み始めた。村雨の心配したとおり、3者の艤装はかなりスペースを取ったがパズルのように詰め込み、座席は前から2・3・2人になることでなんとか全員・全部車に入った。

 艤装と同席になるという割を食ったのは、夕立と那珂だった。

 

「いやまぁ、じゃんけんで負けたからいいっちゃいいんだけどさ、花の女子高生が鉄の塊に頬ずりしながら座ってるってどういうことなのさ?」

 最後尾から静かに文句を垂れる那珂。それに助手席に座っていた五月雨が助け舟を出す。

「あの……、私代わりましょうか?」

「いいよいいよ!五月雨ちゃんに座らせるくらいならあたしは艤装に頬ずりしつづけるさぁ!!」

 おどけつつも五月雨を気遣って言葉を返した那珂。深夜~早朝のためかいつもよりテンションがおかしいことに他の6人はなんとなく気づいたが、皆あえて突っ込まずに苦笑いだけしてスルーした。

 

 同じく艤装に頬ずりしそうな形になっている夕立はすでにうとうとしかけている。

「ふわぁ~むにゃむにゃ……あたしは気に…しないから平気っぽぃ……。」

「うんうん。ゆうはもう寝ちゃっていいよ。」

 夕立の前の座席に座っていた時雨は夕立をあやしながら彼女を一足先に眠りに誘った。

 

 その後数分間はワイワイ雑多な事を話していた艦娘たちだったが、

「さ、行くぞ。みんな寝てていいぞ?鎮守府着いたら起こしてあげるから。」

の一言により、先に眠りについていた夕立に続いて残りの5人も、それぞれの席で思い思いの眠りにつくことにした。

 

 提督が車を動かして、海上自衛隊の基地の正門に戻る頃には、艦娘たち6人はスヤスヤと寝息を立てていた。

 少女たちの寝顔をミラー越しに見ていた提督は、6人を起こさないような小声で労いの言葉をかけ、車の運転に集中することにした。

 

「フフッ。よっぽど疲れてたんだな。安心しきった寝顔だわ。みんな、ご苦労様……。」

 

【挿絵表示】

 

 

--

 

 提督の運転する車が進むこと50~60分ほど。早朝の道路は空いていてスムーズだったが、それでも海上自衛隊の施設のある地から鎮守府Aのところまではそれなりに距離があるため、そのくらいはかかっていた。

 鎮守府Aに着く頃には午前5時を回りそうな時間帯になっていた。

 安心しきって爆睡していた6人を提督はそうっと起こし、車から降りるよう促す。6人は寝ぼけまなこで車を降り、しばらくその場で頭をふらふらさせながら棒立ちしていた。

 

 提督は艤装をのせたまま車を工廠まで動かし、そこで荷降ろしした。提督とともに夜勤をしていた整備士の数人は提督が来たことに気づくとすぐに近寄り、提督から艦娘たちの艤装を受け取って運びだした。

 

「時雨の艤装はほぼ大破か。夕立のと村雨の艤装は魚雷発射管がない。五月雨のは…なんだこれ?内部に少し浸水してる? みなさん、詳しいチェックお願いできますか?」

 見た目でざっと判断した提督は整備士にその後のメンテナンスを任せることにした。整備士たちは「はい。」と快く返事をしてそれぞれの艤装を運び入れて工廠内に戻っていった。

 なお、工廠長たる人物の姿は、まだなかった。

 

 

 

--

 

 先に鎮守府の本館の前まで戻ってきていた那珂たちは、やっと(物理的・精神的に)重荷がおりたことで安心している。

 

 が、のんびりしていられない二人がいる。那珂と五十鈴だ。提督が本館の前まで戻ってきたので二人は駆け寄って行って提督に話をした。

 

「提督。五月雨ちゃんたちは学校休めるって本当なの?」

「ん?あぁ、そうだよ。学生艦娘は出撃任務のあとは学校の授業半日免除か、泊まり込なら全休できるんだ。あ!お前たち……!」

 那珂たちに説明しながら、提督はハッと気づいた。

 

「そうよ。私達は普通の艦娘としているから休みなんてもらえないのよね?」と五十鈴も確認する。

「あちゃーそうか、そうだったわ。普通の艦娘にはそんな待遇ないんだよ。職業艦娘と学生艦娘はあるんだけどな。君たちも相当疲れているだろ? 休みたいよなぁ……」

 五十鈴の確認に提督は答えつつ、那珂と五十鈴の体調や気持ちを心配し始める。

 

 提督は那珂こと光主那美恵、五十鈴こと五十嵐凛花の着任の形態について簡単に説明した。

「普通の艦娘の人だと、職場や学校、親御さんに言う権利とか権限は俺にはないんだよ。だから本人が学校や職場に相談してやりくりしてもらうしかないんだ。」

 提督の権力ではどうにもならないことがわかると、五十鈴も那珂も休めるかもという一筋の希望はすぐに諦め、今日いかにして学校に行くかという思考に切り替える。

 

「まぁ、仕方ないです。私は普通に学校に行きます。一度家に帰りたいけど、電車が……」

「あたしは割と近いからいいけど、五十鈴ちゃんどうするの?」

「いやまぁ、普通に電車でしょ。」

 

 3人が思案してあれこれ話していると、その様子が気になったのか五月雨たちが話しかけてきた。

「あの……提督?もしかして那珂さんたちって。」

 五月雨が想像したことを口にすると、提督は正解とばかりに頷いた。五月雨は那珂と五十鈴のことを自分のことにように心配し始めた。

 

「お二人これからおうちに帰るにしても、まだ電車動いてないんじゃないですか?」

「そ~そ~。それが問題なんだよねぇ。」

 那珂は五月雨の心配に頷いて問題点をハッキリとさせた。

 

 

「とりあえずご両親にはそれぞれ連絡してくれ。始発がまだ始まっていないから途中まで俺が二人を運ぶよ。」

 提督は那珂と五十鈴にそう言うと、五月雨の方を向いて頼み事をした。

「五月雨たちは学校休みだから、まだ鎮守府にいられるだろ?」

「はい。」

「じゃあ俺二人を送ってくるから、その間4人で留守を頼む。」

「わかりました。お任せ下さい!」

 

 五月雨の元気な返事を聞いた提督は彼女らの喜ぶ補足をした。

「そうだ。待機室の冷蔵庫に全員分のジュースとお菓子とパンを買ってあるんだ。」

 

「えーー!?てーとくさん優しぃー!!大好き!!」

夕立は手をパタパタさせてはしゃいで喜びを全身で表した。隣にいた時雨は夕立をなだめて落ち着かせて提督に感謝の言葉を述べる。

「ありがとうございます提督。あとでいただきます。」

 

「喜んでもらえて何より。那珂と五十鈴の分のジュースを誰か取ってきてくれないか?二人はこれから帰るから、せめて飲み物だけでも、な?」

 時雨たち全員に向かってお願いをしつつ、手前にいた那珂と五十鈴に対しウィンクをした。

 

「あ、じゃあ私取ってきますぅ。」

 そう言って素早く本館に入って行ったのは村雨だ。

 

「提督は優しいね~。これから帰るあたしたちにもくれるなんて。ありがと。」

「ありがとうございます、感謝するわ提督。」

 那珂はわざとらしく腕を組んでおどけながら最後は素の声質で感謝の言葉を伝える。五十鈴は提督の仕草と優しさに照れまくったのち、横髪をクルクルいじくりながら冷静を装いながら感謝を伝えた。

 

「まぁ、ホントは全員鎮守府で休憩して各自適当な時間に解散するものだとばかり思っていたんだけどな。那珂たちの事情まできちんと考慮できていなかった俺が悪いといえば悪いんだ。次このような出撃任務があるときはきちんと考えてあげるよ。」

 

「いやぁ、あたしたちも着任時の注意事項とか制度のことちゃんと見てなかったのが悪いんだし、提督のせいだけじゃないよ。もうあたしたちも気にしてないから、提督もあまり考えすぎないでね?」

「あぁ、そう言ってくれると助かるよ。」

 

 しばらくして那珂と五十鈴の分のジュースの缶を持って村雨が戻ってきた。村雨は那珂たち二人に缶を手渡し、別れの挨拶を交わした。

 

「気をつけて行ってきてくださいね。」

「うん、ありがとね村雨ちゃん。」

 

 そして提督と那珂、五十鈴は本館の玄関口から離れ、正門に向かって歩き出した。数m離れたところで提督は大きめの声で再び五月雨たち4人に念押しした。

 

「それじゃあ、留守を頼んだぞー!」

 

「はーい!いってら~」

「わかりました。」

「お疲れ様でしたぁ。」

「3人ともお気をつけてー!」

 夕立、時雨、村雨、五月雨はそれぞれ返事をして見送った。

 


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