同調率99%の少女 - 鎮守府Aの物語   作:lumis

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合同任務から帰還した那珂たち。しかし帰還と同時に新たな問題が発生。
那珂の新たな戦い?が始まる。



学校の日々1
早朝の帰還


 護衛艦が日本本土の港に到着したのは午前3時過ぎだった。乗り込んでいた鎮守府Aの艦娘6人と隣の鎮守府の6人は退艦し、海上自衛隊の港湾施設の一角に降ろされて集まり、荷物をまとめて帰りの身支度を整えた。

 

 人には言えない理由で頭痛がする那珂、五十鈴、天龍の3人、そして他の面々はそれぞれの鎮守府に帰るため6人ごとに集まっている。

 ほぼ全員眠い目をこすりながら、帰宅するまでが遠足(or 旅行 or 仕事)であるというどこかで誰かが言っていたような文言を必死に思い返して、睡魔と戦っている。

 

 鎮守府Aの面々が集まっている場所では……。

「みんな~……これから帰りますよ~。眠いけどあと少し頑張りましょ~。」

 すさまじいまでの眠気により、普段に輪をかけておっとりしたしゃべり方と空気になっている旗艦五月雨が必死に号令をかける。彼女が5人を見回すと、普段はしゃきっと真面目な五十鈴や、友人の時雨までもぽけ~っとしている。そして那珂に至っては目をつむっている。本気で寝ているわけではないことだけはその様子から読み取ることができた。

 

「那珂さん、五十鈴さん。どうされたんですか?普段ならこういうときでもその……しっかりなさっている気がするんですが。」

 普通に心配して声をかける五月雨。

 

「え?あぁ~気にしない気にしない。さすがのあたしでも朝は弱いんだよぉ~」

「同じく。ちょっと頭痛いからそっとしておいてくれると助かるわ……」

 目をつむったまま手を目の前で振り、問題ないことをアピールする那珂と、片手で頭というより額を抑えている五十鈴。

 そんな二人を見て五月雨は?がたくさん浮かんだ顔になっていた。

 

「はぁ……。ところでどうやって帰ります?同調して海渡って帰ります?それとも歩いて鎮守府までか、タクシーに来てもらうか……」

 

 出撃回数が一番多い五月雨は出撃後の振る舞いに少々慣れているのか、皆に提案をする。

 

「さみ〜、さすがにここから歩いてはありえないっぽい!」

「あはは…そっか、そうだよね。」

 夕立が適切なツッコミをいれる。それに続いてしっかり者の時雨がその提案に反応した。

 

「さみ、僕は艤装が壊れてて調子悪いから、できればタクシーか何か別の方法がいいかな。」

 艤装が中破~大破している時雨は艦娘として当然の移動方法を拒否する。それは艤装が大して壊れていない他の面々も、疲れと眠気で賛成だった。

「でも、この時間って公共機関まだやってないんじゃないの?」時間的に当然の指摘をする村雨。

「うへぇ~、あたしもうクタクタで歩けないっぽい~ それに同調してない艤装持っていくの重くて嫌~」

 夕立は目をこすりながら愚痴る。

 

 

 中学生組のやりとりを惚けながら見ていた那珂は頭をふらふらさせながらふと隣の鎮守府の面々の方を見てみた。するとなんと、天龍達6人の前に自衛隊の車両らしき車が停車し、それに乗り込もうとしていた。

 隣で同じ光景を見ていた五十鈴が一言口にした。

 

「隣の鎮守府ってああいうコネだかなんだかがあるのね。大所帯な鎮守府のところの艦娘たちはいいわねぇ……」

「自衛隊の送迎付きですか~。うちじゃありえないねw」

 羨ましさが迸る五十鈴の一言に激しく同意した那珂。那珂は五十鈴の一言に頷いて失笑した。

 そして気を取り直すかのように五月雨らの方を振り向いて音頭をとる。

 

 

「ま、いつまでもここにいたら怒られちゃうし、みんなで分担して艤装運ぼ?今日も学校だし早く鎮守府帰ろう~」

「ホントよ。泊まり込みの出撃は学校ないときにしてほしいわね。」

 文句を言いつつも高校生という年長者らしく、思考の切り替えはしっかりさせる那珂と五十鈴。頭が冴えてきたのか表情からは眠気は消えている。

 一方の中学生組の五月雨たちは、那珂と五十鈴が何気なく言った最後の一言に、疑問を顔に浮かべた。

 五月雨が質問した。

 

「あれ?那珂さんたち今日学校なんですか?私達は今日お休みなのでゆっくりできるんですよ。」

「え?マジ!?創立記念日かなにか?」

「いえ。学生艦娘には認められてるお休みだそうです。泊まりを伴う出撃や遠征任務の次の日は代休がもらえるんです。だから私達みんな、ね?」

 

 五月雨が時雨たちに同意を求めると、時雨たちは3人共、ウン、と頷いた。

 那珂は五月雨たちの説明を聞き目を点にして呆けた。五十鈴も知らなかった様子を見せ、口をパクパクさせて声が出せないほど驚いた様子を見せている。その様子を見た時雨は確認する。

 

「もしかして……那珂さんたち知らなかったんですか?」

 時雨の一言に那珂と五十鈴は言葉なくコクリと頷いた。

 

 そしてトドメは村雨が刺した。

「那珂さんと五十鈴さんって……普通に採用された艦娘なんでしたっけぇ?」

 

 その一言で五十鈴は声を荒げて言った。

「……そうよ!私達二人とも、普通に採用された艦娘よ!悪い!?」

 なぜか逆切れをする五十鈴に村雨たちはハッと驚いた後苦笑いするしかなかった。

 

「あたしたちそのあたりのこと、提督から教えてもらってないよ~」と那珂は半泣きになる。

 

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 時雨と村雨たちが告げたその事実に、那珂と五十鈴は唖然としたり半泣きになったり激昂したりと忙しい反応をあたりそこらに示して喚き散らす。そして普通の艦娘にはそんなデメリットがあるのかと、声にこそ出さなかったが、悔やむことしかできなかった。

 

「とにかくぅ!あたしと五十鈴ちゃんはマジで帰らないとまずいから急いで帰ろ!?」

 那珂は艤装を装備し始め、同調するのも忘れて駆け足になる。五十鈴も似たような状態になりつつあった。

「そうね。……そうね。ええと。この時間ここからだとどうすれば……!?」

 

 つまり、二人とも混乱していた。

 普段は冷静だったり、着任時からすごい判断力と発想力で鎮守府Aの面々を驚かせた那珂と、最初の軽巡担当である五十鈴の慌てようを見た五月雨たち中学生組は、普段とは立場が逆になっていることになんとなく優越感を持った。

 

「あたしたちはの~んびりかえろ、さみ、時雨、ますみん。」

 無邪気に発言する夕立だが、急いで帰る必要がある高校生二人組の話は別としても、夜明け前の深夜に、年若い少女たちが関東の南西の端にある海上自衛隊の基地から帰る足に困っている事実は変わらないのだった。

 


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